既存の電気ケトル評価の因子分析に基づくデザイン開発

提供: JSSD5th2021
2021年10月28日 (木) 02:02時点における川崎大雅 (トーク | 投稿記録)による版
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- 既存の電気ケトルにおける「好ましい」因子の導出とデザイン展開への活用 -

川崎大雅 / 九州大学 芸術工学部
迫坪知広 / 九州大学 大学院芸術工学研究院
田村良一 / 九州大学 大学院芸術工学研究院

Keywords: Product Design, Analysis of evaluation structure, Electric kettle


背景と目的


電気ケトルは、1人暮らしをする人にとって便利であり大学生にも人気の高い家電製品である。 安全に速くお湯を沸かすという機能を果たす機構は長年変化がなく、現在の市場の電気ケトルは、筒や取手、注ぎ口などのデザインが与える印象によって差別化されている。これを踏まえて本発表では、大学生にとって好ましい電気ケトルのデザインの評価構造を把握し、現行の市場を分析することで設定するコンセプトに従い形体を検討することで、新しい電気ケトルのデザインを創出した。
なお、本内容は、九州大学・芸術工学部・工業設計学科・3年後期授業科目「デザインシステム論・演習」での成果をもとに展開したものである。

調査と分析

図❶ 評価用語の抽出

ステップ①:評価用語の抽出

(図❶を参照)
評価グリッド法を用いて大学生6名に好ましい電気ケトルの要素を抽出した。16個の既製品の画像をカードで掲示し、好ましいかそうでないかについて判別してもらい、同時になぜそう思うかの理由を聞き出し、評価用語としてまとめ、これらを階層として整理した。(例:好ましい電気ケトル>かわいい>丸い>つるっとしている ※下の階層に行くほど評価項目が多くなる)次に、6名分の結果を全体の結果としてまとめ、結果から好ましい電気ケトルの評価用語を13個に抽出した。(例:ナチュラルな、カジュアルな、無骨な、など)







図❷ 評価因子の抽出

ステップ②:評価用語に基づく因子の抽出

(図❷を参照)
30個の既製品サンプルを用意し、それらに対する13個の評価用語項目ごとの評価について、Google formを利用して大学生11名にアンケート調査を行った。次に、調査結果について因子分析を行い因子数の整理、厳選を行った。整列作業を行い、12個の評価用語項目を4グループに分け、ファッション性因子、キャラクター性因子、シンプル造形因子、手軽さ因子と命名した。現行市場の電気ケトルは、これら4つの組み合わせ(各因子得点の正負・大小の違い)でカテゴリ分けできる。















図❸ 市場の分析

ステップ③:市場の分析

(図❸を参照)
手法②の因子分析で用いた既製品サンプルについてクラスター分析を行い、5つのグループに分け、4因子の組み合わせを確認した。4因子が現行市場にないような構成となる属性となる電気ケトルを考案することで新しいデザインの創出が可能になると考え、本研究では、手軽さ因子以外の3つの因子を重視しつつキャラクター性因子に特化したデザインとすることで新しいデザインの創出を図った。










ステップ④:コンセプトの決定

今までの電気ケトルを観察し、観察による気づきから、キャラクター性因子に特化させるため新しく設定する特徴を創出した。ほぼすべての電気ケトルは安定的な形をしているが、使用せず机上に置いているときも浮いている印象を創出できれば、使われていないときも水を注ぐようなイメージを創出できると考え、「浮遊感」をデザインコンセプトとして形体を検討した。

アイデア展開と提案

図❹ 初期案

初期案

(図❹を参照)
浮遊感の創出においては、底面に空間ができるような形状とし、踏ん張り感や重量感ができない形を目指した。


図❺ 案の展開

案の展開

(図❺を参照)
3Dプリントでモックアップを制作し、想定するユーザーである大学生からフィードバックを得た。フィードバックを基に方向性を広げたのち再検討し、一つに絞った。



図❻ 使い心地の検証とフィードバックの様子

(図❻を参照)
厚紙による簡易モックを作り、取手の握りやすさの検証やシルエットの細かい調整を行った。











図❼ 最終デザイン

最終提案

(図❼を参照)
製品となる際の安定性の考慮を行いつつ注ぎ口の再構成を行い、最終デザインを決定した。






考察

本発表では、4つのステップを踏みデザインの方向性を定めたことで、好ましさを求めて比較的真っ直ぐにデザインプロセスを進めることができた。キャラクター因子としての「浮遊感」をデザインコンセプトとして決定した以降は結局デザイナーである私自身の気づきや感性による部分で造形を決定したところもあったが、他のプロダクトを企画する際も、このようなプロセスを用いることで説得力を持つデザインを創出できると考える。