「熊本県人吉市にだけ伝わる「うんすんカルタ」の調査とその特徴を活かしたリデザイン」の版間の差分

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==テーマの着想に至った背景と目的==
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 ⼤学進学に伴い⼤分県に引っ越してきて4 年間という年月を過ごしたことで、九州の地域性を活かした制作がしたいと考えるようになった。そこで⼤分県の⽂化や歴史について調べたところ、⼤分市が「南蛮⽂化発祥都市宣⾔」を掲げていることを知る。九州各地に⾊濃く残る「南蛮⽂化」について探っていく中で、熊本県人吉市鍛冶屋町にだけ伝わる「うんすんカルタ」の存在にたどり着いた。
  
  
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 本テーマは「うんすんカルタ」の文化や歴史を次世代へ受け継いでいくため、そして先人たちの想いを風化させないためのリデザインを行う試みである。
  
==概要==
 
  
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(図1:兵庫県芦屋市 滴翆美術館 所蔵「金地うんすんかるた」)
  
=== '''テーマの着想に至った背景と目的''' ===
 
  
 ⼤学進学に伴い⼤分県に引っ越してきて4 年間という年月を過ごしたことで、九州の地域性を活かした制作がしたいと考えるようになった。そこで⼤分県の⽂化や歴史について調べたところ、⼤分市が「南蛮⽂化発祥都市宣⾔」を掲げていることを知る。九州各地に⾊濃く残る「南蛮⽂化」について探っていく中で、熊本県人吉市鍛冶屋町にだけ伝わる「うんすんカルタ」の存在にたどり着いた。
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==「うんすんカルタ」について==
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 本テーマは「うんすんカルタ」の文化や歴史を次世代へ受け継いでいくため、そして先人たちの想いを風化させないためのリデザインを行う試みである。
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=== '''歴史''' ===
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 「うんすんカルタ」は、南蛮文化の伝来と共にポルトガルの船員たちから伝わったトランプを日本風に作りかえたカルタである。元々は戦国時代に南蛮文化が伝わるとともに「南蛮カルタ」が日本に輸入され、それを国産化した48枚の「天正カルタ」として日本に広まった。(図2参照) その「天正カルタ」をより大人数で遊べるように拡張したものが「うんすんカルタ」である。江戸時代中期には民衆から人気を博したが、賭博を規制する法令が施行されたことや娯楽の多様化といった要因によって表舞台から姿を消していくことになる。
  
=== '''「うんすんカルタ」について''' ===
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=== '''現在''' ===
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 時代の流れに伴う娯楽の多様化によって遊ぶ人口が減少し消滅の危機に瀕したが、昭和 40 年に熊本県が「うんすんカルタ」を重要無形⺠俗文化財に指定。その後の昭和 54 年頃に有志が札を復刻し、消滅を阻止した。現在、市場にて入手可能な「うんすんカルタ」は熊本県人吉市鍛冶屋町にある立山商店にて販売されている札のみである。(図3参照)
  
 「うんすんカルタ」は、南蛮文化の伝来と共にポルトガルの船員たちから伝わったトランプを日本風に作りかえたカルタである。パオ、イス、コツ、オウル、グルからなる 5 種類の札が各 15 枚ずつ有り、全 75 枚で構成されている。
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=== '''構成''' ===
 娯楽の多様化に伴い遊ぶ人口が減少し消滅の危機に瀕したが、昭和 40 年に熊本県が「うんすんカルタ」を重要無形⺠俗文化財に指定。その後の昭和 54 年頃に有志が札を復刻し、消滅を阻止した。
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 「うんすんカルタ」はパオ、イス、コツ、オウル、グルからなる 5 種類の札が各 15 枚ずつ有り、全 75 枚で構成されている。(図4参照)
  
  
 
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==制作の構想==
 
==制作の構想==
 熊本県人吉市で販売されている札と過去の文献に残る図版を元に、これらを若い世代の人々に受け入れてもらえるよう現代風のデザインに調整し、札や化粧箱を制作する。また、やや複雑かつ専門的な言葉で書かれたルールを分かりやすいようまとめ直した新たな説明書も作成する。
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 熊本県人吉市で販売されている札と過去の文献に残る図版を元に、これらを若い世代の人々に受け入れてもらえるよう現代風のデザインに調整し、札や化粧箱を制作する。また、やや複雑かつ専門的な言葉で書かれたルールを分かりやすいようまとめ直した新たな説明書も作成する。(図5参照)
  
 
=== '''手法・手段''' ===
 
=== '''手法・手段''' ===
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=== '''過程・計画''' ===
 
=== '''過程・計画''' ===
 制作前期では「うんすんカルタ」についての文化や歴史について情報収集を行った。図書館や美術館に赴き、資料や図版の使用許可を貰うなどして情報を整理。その情報を元に「うんすんカルタ」が伝わる熊本県人吉市へと赴きフィールドワークを行ったほか、現在人吉市で販売されている「うんすんカルタ」を制作した鶴上寛治氏へのヒアリングなどを行った。
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 制作前期では「うんすんカルタ」についての文化や歴史について情報収集を行った。図書館や美術館に赴き、資料や図版の使用許可を貰うなどして情報を整理。その情報を元に「うんすんカルタ」が伝わる熊本県人吉市へと赴きフィールドワークを行ったほか、現在鍛冶屋町の立山商店で販売されている「うんすんカルタ」を制作した鶴上寛治氏へのヒアリングなどを行った。
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 制作後期では、これまでに得た情報を元に「うんすんカルタ」をリデザインするためのプロトタイプの制作を行う。今後、本制作として「うんすんカルタ」のデザインをブラッシュアップしていく予定である。(図6参照)
  
 制作後期では、これまでに得た情報を元に「うんすんカルタ」をリデザインするためのプロトタイプの制作を行う。今後、本制作として「うんすんカルタ」のデザインをブラッシュアップしていく予定である。
 
  
 
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==予想される成果==
 
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 「うんすんカルタ」は遊戯として価値がないために歴史に残らなかったのではなく、政治や情勢に淘汰されて衰退したという背景がある。この問題は現代にも通じるところがあり、少子高齢化・デジタル化・コロナ禍などの影響によって、人から人へと受け継いでいく娯楽や伝統文化は失われつつある。しかし、文化や技術の発展には過去の資料の存在が欠かせない。
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 「うんすんカルタ」は遊戯として価値がないために歴史に残らなかったのではなく、政治や情勢に淘汰されて衰退したという背景がある。この問題は現代にも通じるところがあり、少子高齢化・デジタル化・コロナ禍などの影響によって、人から人へと受け継ぐ娯楽や伝統文化が失われつつある。しかし、文化や技術の発展には過去の資料の存在は欠かせない。
 
 この取り組みは『今』だけに焦点を当てた話ではなく『未来のための働き』でもある。カルタという⼿遊びによる⼈の繋がりによって身近に存在する文化に目を向けるきっかけが生まれ、伝統文化を次世代へと伝えていく効果が見込まれる。
 
 この取り組みは『今』だけに焦点を当てた話ではなく『未来のための働き』でもある。カルタという⼿遊びによる⼈の繋がりによって身近に存在する文化に目を向けるきっかけが生まれ、伝統文化を次世代へと伝えていく効果が見込まれる。
  
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==参考文献==
 
==参考文献==

2022年10月20日 (木) 03:07時点における版

酒井美玲 / 大分県立芸術文化短期大学 専攻科 造形専攻

Keywords: Graphic Design, Visual Design, Japanese culture


テーマの着想に至った背景と目的

図1.金地うんすんかるた(滴翆美術館)

 ⼤学進学に伴い⼤分県に引っ越してきて4 年間という年月を過ごしたことで、九州の地域性を活かした制作がしたいと考えるようになった。そこで⼤分県の⽂化や歴史について調べたところ、⼤分市が「南蛮⽂化発祥都市宣⾔」を掲げていることを知る。九州各地に⾊濃く残る「南蛮⽂化」について探っていく中で、熊本県人吉市鍛冶屋町にだけ伝わる「うんすんカルタ」の存在にたどり着いた。


 本テーマは「うんすんカルタ」の文化や歴史を次世代へ受け継いでいくため、そして先人たちの想いを風化させないためのリデザインを行う試みである。


(図1:兵庫県芦屋市 滴翆美術館 所蔵「金地うんすんかるた」)





「うんすんカルタ」について

図2.天正かるた(滴翆美術館)
図3.うんすんカルタ(鍛冶屋町)
図4.うんすんカルタの札

歴史

 「うんすんカルタ」は、南蛮文化の伝来と共にポルトガルの船員たちから伝わったトランプを日本風に作りかえたカルタである。元々は戦国時代に南蛮文化が伝わるとともに「南蛮カルタ」が日本に輸入され、それを国産化した48枚の「天正カルタ」として日本に広まった。(図2参照) その「天正カルタ」をより大人数で遊べるように拡張したものが「うんすんカルタ」である。江戸時代中期には民衆から人気を博したが、賭博を規制する法令が施行されたことや娯楽の多様化といった要因によって表舞台から姿を消していくことになる。

現在

 時代の流れに伴う娯楽の多様化によって遊ぶ人口が減少し消滅の危機に瀕したが、昭和 40 年に熊本県が「うんすんカルタ」を重要無形⺠俗文化財に指定。その後の昭和 54 年頃に有志が札を復刻し、消滅を阻止した。現在、市場にて入手可能な「うんすんカルタ」は熊本県人吉市鍛冶屋町にある立山商店にて販売されている札のみである。(図3参照)

構成

 「うんすんカルタ」はパオ、イス、コツ、オウル、グルからなる 5 種類の札が各 15 枚ずつ有り、全 75 枚で構成されている。(図4参照)





制作の構想

図5.制作物
図6.制作計画

 熊本県人吉市で販売されている札と過去の文献に残る図版を元に、これらを若い世代の人々に受け入れてもらえるよう現代風のデザインに調整し、札や化粧箱を制作する。また、やや複雑かつ専門的な言葉で書かれたルールを分かりやすいようまとめ直した新たな説明書も作成する。(図5参照)

手法・手段

 「うんすんカルタ」を普及させるという観点から、データの保存・管理が行いやすいようデジタルで制作する。印刷はリソグラフと呼ばれる「デジタル孔版印刷」を予定。色ムラやズレ、色落ちが発生するが版画で刷ったような味わいのある雰囲気に仕上がる印刷方法である。

過程・計画

 制作前期では「うんすんカルタ」についての文化や歴史について情報収集を行った。図書館や美術館に赴き、資料や図版の使用許可を貰うなどして情報を整理。その情報を元に「うんすんカルタ」が伝わる熊本県人吉市へと赴きフィールドワークを行ったほか、現在鍛冶屋町の立山商店で販売されている「うんすんカルタ」を制作した鶴上寛治氏へのヒアリングなどを行った。

 制作後期では、これまでに得た情報を元に「うんすんカルタ」をリデザインするためのプロトタイプの制作を行う。今後、本制作として「うんすんカルタ」のデザインをブラッシュアップしていく予定である。(図6参照)





予想される成果

 「うんすんカルタ」は遊戯として価値がないために歴史に残らなかったのではなく、政治や情勢に淘汰されて衰退したという背景がある。この問題は現代にも通じるところがあり、少子高齢化・デジタル化・コロナ禍などの影響によって、人から人へと受け継ぐ娯楽や伝統文化が失われつつある。しかし、文化や技術の発展には過去の資料の存在は欠かせない。  この取り組みは『今』だけに焦点を当てた話ではなく『未来のための働き』でもある。カルタという⼿遊びによる⼈の繋がりによって身近に存在する文化に目を向けるきっかけが生まれ、伝統文化を次世代へと伝えていく効果が見込まれる。





参考文献

  • ものと人間の文化史 173・かるた (2015年11月10日初版第1刷発行/著者:©︎江橋崇/発行所:一般財団法人 法政大学出版局)
  • 三池住貞次と日本のカルタ ふるさと再発見シリーズ1 (平成元年3月29日発行/著者:野口晋一郎/発行者:大牟田市教育委員会/印刷:精巧印刷株式会社)
  • 昔いろはかるた全 (昭和45年11月30日発行/著者:森田誠吾/発行者:石原龍一/印刷製本:株式会社精美堂/発行所:株式会社龍求堂)
  • 最後の読みカルタ (平成10年10月10日発行/著述・編者:山口泰彦/発行者:田邊一浩/制作・印刷:有限会社ワープロセンターHOPE 柏谷 敏晴)
  • 伝統ゲーム大事典 ─子供から大人まであそべる世界の遊戯─ (2020年2月1日初版第1刷/著者:高橋浩徳/発行者:朝倉誠造/発行所:株式会社朝倉書店)
  • NHK 美の壺 かるた (2008年11月30日第1刷発行/編者:NHK「美の壺/制作班:©︎2008 NHK/発行者:遠藤絢一/発行所:日本放送出版協会(NHK出版))
  • きゅーはくの絵本⑦建物 おおきな博物館 (2008年3月30日初版第1刷発行/絵:つだかつみ/企画・原案 九州国立博物館/発行者:北林衛/発行所:株式会社フレーベル館)
  • サントリー芸術財団50周年 遊びの流儀 遊楽図の系譜 (2019年6月26日発行/企画・構成:サントリー美術館/編集:石田佳也、佐々木康之、久保佐知恵/発行:サントリー美術館/制作・印刷:NISSHA株式会社)