「ポータブルヘルスクリニックサービスのための道具運搬用容器のデザイン評価」の版間の差分
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PHCは、アタッシュケースに医療機器や通信機材などをパッケージ化し、農村部や企業事業所へ看護師などの健診スタッフを派遣するサービスである。この機材により収集された対象者の生体情報や病歴情報は、携帯電話網を活用して、首都ダッカにあるコールセンターに集約される。この健診で生活習慣病発症者や予備軍を抽出し、リスクに応じて現地での保健指導やコールセンターの医師からの遠隔診療を行うことも想定されている。 | PHCは、アタッシュケースに医療機器や通信機材などをパッケージ化し、農村部や企業事業所へ看護師などの健診スタッフを派遣するサービスである。この機材により収集された対象者の生体情報や病歴情報は、携帯電話網を活用して、首都ダッカにあるコールセンターに集約される。この健診で生活習慣病発症者や予備軍を抽出し、リスクに応じて現地での保健指導やコールセンターの医師からの遠隔診療を行うことも想定されている。 | ||
− | + | 九州大学側では、九州大学病院システム情報科学研究院のアハメッド・アシル准教授とラフィクル・イスラム・マルーフ特任准教授が中心とする研究チームがPHCサービスの実験運用を行なっている。アタッシュケースに医療器具を入れ、二人のスタッフがバイクに乗り農村部を走り回っている厳しい現状(図1)を改善すべく、上記の研究チームからアタッシュケースの改良及びリデザインの要望をして頂いたことが、本研究のきっかけである。 | |
− | + | そこで、本研究では、現存のアタッシュケースに変わる新しい運搬用容器をデザインし、評価を行い、医療器具の運搬用容器のデザイン指針を明らかにすることを目的とする。 | |
==研究の方法== | ==研究の方法== | ||
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− | 図2に示したように、本研究はPHCの運搬用容器の使用状況や現在の課題、サービス利用者側に求められている条件を明らかにするためのヒアリング調査から始まり、ヒアリングの結果と既存のバッグやケースなどの製品を参考し、アイディア展開およびプロトタイピングを行う。次に利用者側とサービス提供者側によるプロトタイプの評価を行う。利用者による評価に関しては、今回は改めて評価項目を作成し、学生被験者にPHCの使用シーンの再現してもらい、シーンごとに課題を抽出し、評価を行い、使用者の満足度と重要度の視点から既存のアタッシュケースと比較しながら、評価の構造を探すことを目的とする。同時に、サービス提供者であるアシル先生とマルーフ先生が率いるPHC研究チームによる数理的評価も行い、両方の評価結果の差を比較し、最終的にPHCの運搬用容器のデザイン指針と評価方法を明らかにする。 | + | |
+ | 図2に示したように、本研究はPHCの運搬用容器の使用状況や現在の課題、サービス利用者側に求められている条件を明らかにするためのヒアリング調査から始まり、ヒアリングの結果と既存のバッグやケースなどの製品を参考し、アイディア展開およびプロトタイピングを行う。次に利用者側とサービス提供者側によるプロトタイプの評価を行う。利用者による評価に関しては、今回は改めて評価項目を作成し、学生被験者にPHCの使用シーンの再現してもらい、シーンごとに課題を抽出し、評価を行い、使用者の満足度と重要度の視点から既存のアタッシュケースと比較しながら、評価の構造を探すことを目的とする。同時に、サービス提供者であるアシル先生とマルーフ先生が率いるPHC研究チームによる数理的評価も行い、両方の評価結果の差を比較し、最終的にPHCの運搬用容器のデザイン指針と評価方法を明らかにする。<br> | ||
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===考察=== | ===考察=== | ||
+ | バングラデシュの農村部にインフラが整えていないなどの問題により、現状としてバイクがPHCサービスの主な移動手段となっており、現在使用されているアタッシュケースはバイク移動に適してなく、非常に持ち運びにくいことがわかった。また、PHCサービスは基本的にスタッフ二人によって行われており、その中の一人が女性スタッフである場合が多く、現在使用されているアタッシュケースの自重が重く、女性としては非常に扱いにくいこともわかった。それらに加えて、バングラデシュの気候は熱帯性に属し、一年中通し降水量が多く、運搬用ケースに防水性能が強く求められていることが明らかになった。 | ||
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+ | バングラデシュの農村部にインフラが整えていないなどの問題により、現状としてバイクがPHCサービスの主な移動手段となっており、現在使用されているアタッシュケースはバイク移動に適してなく、非常に持ち運びにくいことがわかった。また、PHCサービスは基本的にスタッフ二人によって行われており、その中の一人が女性スタッフである場合が多く、現在使用されているアタッシュケースの自重が重く、女性としては非常に扱いにくいこともわかった。それらに加えて、バングラデシュの気候は熱帯性に属し、一年中通し降水量が多く、運搬用ケースに防水性能が強く求められていることが明らかになった。 | ||
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− | + | 利用者によるデザイン評価を行うため、今後は評価項目を改めて作成する予定である。具体的には、その評価の専門性と高さから、デザイン賞表彰制度の一つであるグッドデザイン賞を取り上げ、受賞した「運搬用器具」に関する講評文から製品の価値に関するセンテンスを抽出し、評価項目として整理する。また、箱やケースのメーカーのような専門家の視点を参考し、既存商品を評価する際に重要だと思われる内容を抽出する。そして、抽出された評価項目をKJ法により整理し、本研究の評価項目を作成する。 | |
+ | ===実験によるデザイン評価=== | ||
+ | 評価項目を作成した後、学生被験者により実験評価を行う予定である。具体的な方法として、学生被験者にPHCの使用シーンの再現してもらい、シーンごとに課題を抽出し、使用者の満足度と重要度の視点から顧客満足(CS)評価を行う。同時に、サービス提供者であるアシル先生とマルーフ先生が率いるPHC研究チームによる数理的評価も行い、両方の評価結果の差を比較し、最終的にPHCの運搬用容器のデザイン指針と評価方法を明らかにする。 | ||
==参考文献・参考サイト== | ==参考文献・参考サイト== | ||
− | * | + | *アハメッド・アシル、中島直樹、大杉卓三:「PHC(ホポータブル・ヘルス・クリニック)システムの地域適応性検証のための調査研究」 (公財)電気通信普及財団 研究調査助成報告書 No.32 2017 |
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2022年10月27日 (木) 17:37時点における最新版
- 蔣愷文 / 九州大学 芸術工学府 デザインストラテジー専攻
- KAIWEN Jiang / Kyushu University
Keywords: Product Design, Design Evaluation
- Abstract
- The Portable Health Clinic (PHC) is a tele-preventive health care service system jointly developed by Kyushu University and the Bangladesh Gramming Group. The purpose of this study is to design and evaluate a new transport container to replace the existing case, and to identify design guidelines for a transport container for medical equipment in order to improve the current harsh situation in which two staff members ride around rural areas on a motorcycle with medical equipment in an attache case.
背景と目的
ポータブル・ヘルスクリニック(以下PHC)とは九州大学とバングラディッシュ・グラミングループが共同開発した遠隔予防医療サービスシステムである。
バングラデシュは、代表的な発展途上国の一つであり、公的医療保険制度や医療インフラ、医師・看護師の人的資源など、保健医療の社会整備が未成熟である。また、不足する医療インフラや人的資源が、大都市に集中しているため農村部では医療を受ける環境に特に乏しく、住民が病気になった場合でも、適切な治療を受けることができる都市の病院に行くことがほとんどない。 一方、近年急激に携帯電話網が発達しており全土の98%がカバーされている。複数の電話会社が独自の医療コールセンターを運営しており、全国の携帯電話からの医療相談にコールセンター所属の医師が応じている。
PHCは、アタッシュケースに医療機器や通信機材などをパッケージ化し、農村部や企業事業所へ看護師などの健診スタッフを派遣するサービスである。この機材により収集された対象者の生体情報や病歴情報は、携帯電話網を活用して、首都ダッカにあるコールセンターに集約される。この健診で生活習慣病発症者や予備軍を抽出し、リスクに応じて現地での保健指導やコールセンターの医師からの遠隔診療を行うことも想定されている。
九州大学側では、九州大学病院システム情報科学研究院のアハメッド・アシル准教授とラフィクル・イスラム・マルーフ特任准教授が中心とする研究チームがPHCサービスの実験運用を行なっている。アタッシュケースに医療器具を入れ、二人のスタッフがバイクに乗り農村部を走り回っている厳しい現状(図1)を改善すべく、上記の研究チームからアタッシュケースの改良及びリデザインの要望をして頂いたことが、本研究のきっかけである。
そこで、本研究では、現存のアタッシュケースに変わる新しい運搬用容器をデザインし、評価を行い、医療器具の運搬用容器のデザイン指針を明らかにすることを目的とする。
研究の方法
図2に示したように、本研究はPHCの運搬用容器の使用状況や現在の課題、サービス利用者側に求められている条件を明らかにするためのヒアリング調査から始まり、ヒアリングの結果と既存のバッグやケースなどの製品を参考し、アイディア展開およびプロトタイピングを行う。次に利用者側とサービス提供者側によるプロトタイプの評価を行う。利用者による評価に関しては、今回は改めて評価項目を作成し、学生被験者にPHCの使用シーンの再現してもらい、シーンごとに課題を抽出し、評価を行い、使用者の満足度と重要度の視点から既存のアタッシュケースと比較しながら、評価の構造を探すことを目的とする。同時に、サービス提供者であるアシル先生とマルーフ先生が率いるPHC研究チームによる数理的評価も行い、両方の評価結果の差を比較し、最終的にPHCの運搬用容器のデザイン指針と評価方法を明らかにする。
ヒアリング調査
PHCの運搬用容器の使用現状や現在の課題と、サービス提供側に求められている条件を知るために、PHC研究チームのマルーフ先生にヒアリング調査を行なった。既存のアタッシュケースに関して、持ち運びにくいや防水性に欠けているなどの問題点を抱えていることがわかった上、サービス利用者として求められていることが下記(図3)の18点ほどを述べていただきました。また、PHCの内容物(図4)およびサイズの測定も行なった。
考察
バングラデシュの農村部にインフラが整えていないなどの問題により、現状としてバイクがPHCサービスの主な移動手段となっており、現在使用されているアタッシュケースはバイク移動に適してなく、非常に持ち運びにくいことがわかった。また、PHCサービスは基本的にスタッフ二人によって行われており、その中の一人が女性スタッフである場合が多く、現在使用されているアタッシュケースの自重が重く、女性としては非常に扱いにくいこともわかった。それらに加えて、バングラデシュの気候は熱帯性に属し、一年中通し降水量が多く、運搬用ケースに防水性能が強く求められていることが明らかになった。
考察
バングラデシュの農村部にインフラが整えていないなどの問題により、現状としてバイクがPHCサービスの主な移動手段となっており、現在使用されているアタッシュケースはバイク移動に適してなく、非常に持ち運びにくいことがわかった。また、PHCサービスは基本的にスタッフ二人によって行われており、その中の一人が女性スタッフである場合が多く、現在使用されているアタッシュケースの自重が重く、女性としては非常に扱いにくいこともわかった。それらに加えて、バングラデシュの気候は熱帯性に属し、一年中通し降水量が多く、運搬用ケースに防水性能が強く求められていることが明らかになった。
アイディア展開
ヒアリング調査の結果に基づき、最重要課題である防水性能、持ち運びやすさ、女性でも扱いやすいこと、バイク移動に適していることの4点を解決すべく、研究室メンバー5人が既存の箱やケース、特に防水機能が備えてものの構造を調査し、アイディア展開を行なった(図4)。
今後の展望
評価項目の作成
利用者によるデザイン評価を行うため、今後は評価項目を改めて作成する予定である。具体的には、その評価の専門性と高さから、デザイン賞表彰制度の一つであるグッドデザイン賞を取り上げ、受賞した「運搬用器具」に関する講評文から製品の価値に関するセンテンスを抽出し、評価項目として整理する。また、箱やケースのメーカーのような専門家の視点を参考し、既存商品を評価する際に重要だと思われる内容を抽出する。そして、抽出された評価項目をKJ法により整理し、本研究の評価項目を作成する。
実験によるデザイン評価
評価項目を作成した後、学生被験者により実験評価を行う予定である。具体的な方法として、学生被験者にPHCの使用シーンの再現してもらい、シーンごとに課題を抽出し、使用者の満足度と重要度の視点から顧客満足(CS)評価を行う。同時に、サービス提供者であるアシル先生とマルーフ先生が率いるPHC研究チームによる数理的評価も行い、両方の評価結果の差を比較し、最終的にPHCの運搬用容器のデザイン指針と評価方法を明らかにする。
参考文献・参考サイト
- アハメッド・アシル、中島直樹、大杉卓三:「PHC(ホポータブル・ヘルス・クリニック)システムの地域適応性検証のための調査研究」 (公財)電気通信普及財団 研究調査助成報告書 No.32 2017