「少年マンガにおける日本らしい表現に関する研究」の版間の差分
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− | : | + | : Japanese manga is becoming increasingly popular worldwide and is a representative of Japanese pop culture. Although there have been studies on the linguistic characteristics of onomatopoeia in manga studies, few have compared its expression with that of foreign manga.In this study, with the aim of clarifying "Japanese-ness" in manga expression, we conducted a comparative study of North American and French=Belgian manga, focusing on onomatopoeia, a form of manga expression.Comparison of onomatopoeic expressions with North American manga revealed that Japanese manga is characterized by "changes in form in accordance with the style" and "changes in size in accordance with the degree of sound and style. |
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==背景と目的== | ==背景と目的== | ||
− | + | 日本では、世界に向けて日本のブランド力を向上させ日本ファンを増やすことを目的として、2010年から内閣府が「クールジャパン戦略」を行っている。その中で「漫画」は日本を代表するポップカルチャーになっており、世界的に広まっている。特に、独自のマンガ文化がある北米やフランス=ベルギー圏において、日本の漫画は「manga」として認識されており、2014年以降、漫画の売り上げが大きく伸び続けている。そして2019年のクールジャパン戦略では過去10年を振り返り、コンテンツの奥にある「日本らしい何か」を追求することが必要だと述べられている。<br> 一方、マンガ研究の中で、表現について海外との具体的な違いについて分析しているものは多くない。その中で音喩(オノマトペ)は海外と日本のマンガにおける言語的特徴が研究されているが、視覚的な表現についてはまだ明らかになっていない。<br> | |
+ | そこで本研究では日本のマンガ表現の特徴を明らかにする研究の一つとして、マンガ表現の一つである音喩について表現の視点から海外と比較し、そして表現の奥にある日本らしさから日本マンガの新しい表現を導出することを目的とする。 | ||
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==研究の方法== | ==研究の方法== | ||
− | + | ===研究の対象=== | |
− | + | 本研究ではマンガを、夏目房之介をはじめ多くの研究で使用されている「ストーリーマンガ(複数コマを用いて物語を表現した作品)」と定義する。<br> | |
+ | また対象地域は、独自のマンガ形態と大規模な市場を保有する北米とフランス=ベルギーの2つの地域を選定する。<br> | ||
+ | 北米においてマンガは「manga」と訳されるが。同様にフランス=ベルギー圏では、自国のマンガ作品は「bande dessinée(以下、BD)」と呼称される。また、マンガは各国に共通する媒体の総称とし、日本のマンガを指す場合は「漫画」と表記し、以下、「3地域」とは日本・北米・フランス=ベルギーを指す。<br> | ||
+ | よって本研究では、日本の「漫画」と北米の「グラフィックノベル」、フランス=ベルギーの「BD」の表現特徴を比較する。 | ||
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+ | ===研究の流れ=== | ||
+ | 本研究の流れは以下の通りである。<br> | ||
+ | ①3地域のマンガにおいて歴史的発展、制作方法や形式などのメディア特性の観点から違いを調べる。<br> | ||
+ | ②音喩についての文献調査を行う。<br> | ||
+ | ③3地域の代表作品を複数選定し、音喩表現の違いについて詳細に比較検討をする。<br> | ||
+ | ④調査で明らかになったことから、日本らしい表現について考察し、新たな表現を提案する。<br> | ||
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+ | ==調査1 3地域のメディア歴史・メディア特性の文献調査 == | ||
+ | ===歴史的変遷=== | ||
+ | 近代マンガの元となったコマ割りを含む連続した絵の表現が生まれたのは、ヨーロッパにおけるロドルフ・テプフェール『ヴィユ・ボワ氏物語』であり、その後、北米や日本へ広まっていった。北米ではコミックストリップとして普及していく中で不況の影響からスーパーヒーローの作品が主となりアクションが多く、多色刷りによるカラフルな絵柄のイメージが定着していった。現在でもスーパーヒーロー作品が人気を博している。日本では、風刺画(ポンチ絵)として普及していったマンガは戦前までに欧米を模倣したストーリー漫画へと進化し、戦後は手塚治虫の功績によりキャラクターの記号化や映画的表現手法が漫画として確立されていった<ref>大塚英志, 2017, 『まんがでわかるまんがの歴史』KADOKAWA </ref>。期限は欧米であったが、現在では漫画は「manga」として世界で認知されるように独自の発展をしていったことがわかる。 | ||
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+ | ===メディア特性=== | ||
+ | 3地域の、版型・頁数・装丁・出版社・発売頻度・現地価格・制作手法・客層・その他特徴について調査し結果を表にまとめている。<br> | ||
+ | 掲載形式、出版形式の違いから、制作にかけられる労力に大きな差があり、表現もそれに応じた対応が求められているだろうと考えられる。 | ||
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+ | ==調査2 音喩についての文献調査 == | ||
+ | まず音喩とは、夏目ら(1995)が言語学的なオノマトペと比較して作られた造語である。<br> | ||
+ | 日本マンガにおいて音喩が注目されたのは、1960年代後半だと言われている。草森(1968)が音喩について注目したマンガ言説では音喩を「児童まんがに乱用されている」言語とし、物語のわかりやすさから子どもに好まれることから頻繁につかわれるようになったとしている。その後ストーリー漫画の複雑化で心理的な内面描写のある作品が現れるとともに、音喩も心情を表すために用いられた。 | ||
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+ | 夏目(2013)は、言語学者のスコウラップ(1993)と筧・田守(1993)の言葉をそれぞれ引用して、日本語のオノマトペが緩やかな規範性を持ち、自在に転用され、創造的な語を日々生産するとすれば、マンガは間違いなくその重要な生産現場の一つであるとまとめている<ref>篠原和子・宇野良子編(2013)「オノマトペ研究の射程 近づく音と意味」 ひつじ書房</ref>。 | ||
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+ | ===音喩の使用率=== | ||
+ | まず、各作品における音喩の使用率を音喩のあるコマ/総コマ数の形で調査した。(図1)<br> | ||
+ | 平均は、日本32.24%、北米9.44%であり、日本マンガは3コマに一回音喩が使用されてることがわかった。また北米では、売上上位の作品でも一度も音喩が現れない作品があり、音喩を使用することが日本のように定着していないことが分かった。<br> | ||
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+ | [[ファイル:Mishimatakeshi 03.png|right|300px|サムネイル|音喩表現パターンの分類]] | ||
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+ | ===音喩表現の統計的分析=== | ||
+ | マンガ表現の一つである音喩について、表現パターンを統計的に分類し比較する。<br> | ||
+ | まずは対象作品として、海外受容の観点から海外で人気なマンガ作品を漫画の人気が高まった2014年〜2021年までの各年の売上上位作品を中心に各地域10作品を選定した。<br> | ||
+ | 本要項では調査が終了している北米作品との比較結果のみ掲載する。<br> | ||
+ | 次に、各作品の第1巻を対象に音喩の表現パターンを分類し、それをさらに表現による効果で分類した。(図2)<br> | ||
+ | その分類に基づいて各作品に現れる音喩の表現を分類し(重複含む)統計データとしてまとめ、それぞれの分類において検定を行い地域ごとの表現特徴を差を確認した。 | ||
− | + | 各表現パターンにおいて日本と北米の分布をマンホイットニーのU検定で差の統計解析を行なった。統計解析はR 4 . 1.3を用い、意図的なレベルは5%とした。<br> | |
+ | 有意差が確認でき、日本マンガの特徴として分かったのは「様態に合わせて形が変化している」「音や様態の大きさによって大きさが変化している」の2項目だった。<br> | ||
+ | また、「様態に合わせて動作線が入っている」「次のコマへ続くよう配置」「名詞の音喩可」は北米にほとんど見られず検定ができなかったが、日本マンガの特徴として考察の対象とする。 | ||
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==考察== | ==考察== | ||
− | + | 効果の分類として設定した「様態の補強」については、同カテゴリの「様態に合わせて並べられている」表現は日本と北米で差はなかったため、様態を補強する目的は北米もあると考えられる。そうした中で、漫画では形を大きく変えてでも様態に合わせる表現が見られ、音喩を絵の一部と捉えていることが窺える。<br> | |
− | + | 二つ目の特徴の「音や様態の大きさによって大きさが変化している」について、グラフィックノベルが音の位置に合わせて音喩を配置する傾向が強いのに対して日本は画面全体で音が鳴っているように感じるほど大きく、コマいっぱいに音喩を配置する表現が多く見られた。特にアクションシーンではテンポを重視し音で読ませる傾向があった。もともとオノマトペにおいて副詞用法が多い日本<ref>田守育啓,ローレンス・スコウラップ(2017), 「オノマトペー形態と意味ー」,pp92,くろしお出版 </ref>では音で様態を想像することに慣れているため、特殊な読みが可能であるのではと考える。 | |
+ | 日本固有の特徴である、「視線誘導」は週刊誌での連載で競争社会であることからより読者の興味を引くことが考えられた結果であると考える。また、「名詞の音喩化」による「属性の説明」は夏目(2013)によると少女漫画を中心に発達して木tあことが伺える点と言語学的な視点がより必要であるため今後より深く考察する。 | ||
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+ | ==今後の展望== | ||
+ | フランス=ベルギーのバンド・デシネについても北米マンガと同様に日本との比較を行う。また、考察は、日本美や日本文化と照らして、日本らしさを追求していきたい。<br> | ||
+ | ただし、マンガ表現は音喩だけでなく「絵」「コマ」など様々な要素が存在する<ref>, 夏目房之介(1997)『マンガの読み方』宝島社 </ref>ため、マンガ表現における包括的な日本らしさを示すには、その他の要素の調査とそれを含めたの考察が必要である。 | ||
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==脚注== | ==脚注== | ||
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==参考文献・参考サイト== | ==参考文献・参考サイト== | ||
− | * | + | * 内閣府「クールジャパン戦略 令和元年」https://www.cao.go.jp/cool_japan/about/pdf/190903_cjstrategy.pdf (参照2022-10-10) |
− | * | + | * 笠間直穂子(2014)「フランス=ベルギー系漫画小史 黎明期から今日まで(創刊一二〇周年記念特集 外国語・外国文化の現在)」『國學院雑誌』115 (11), 151-174 |
− | * | + | *川又啓子(2009)「フランスにおけるマンガ事情」『京都マネジメント・レビュー』15,pp79-100 |
+ | *篠原和子・宇野良子編(2013)「オノマトペ研究の射程 近づく音と意味」 ひつじ書房 | ||
+ | *夏目房之介(1997)『マンガの読み方』宝島社 | ||
+ | *原正人(監修)(2013)『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』玄光社 | ||
− | * | + | *内閣府「クールジャパン戦略 令和元年」https://www.cao.go.jp/cool_japan/about/pdf/190903_cjstrategy.pdf (参照2022-10-10) |
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2022年10月27日 (木) 17:48時点における最新版
- 音喩表現を中心に -
- 三島 健志 / 九州大学院 芸術工学府
- Mishima Takeshi / Kyushu University Graduate school of Design
Keywords: Manga, Graphic Design
- Abstract
- Japanese manga is becoming increasingly popular worldwide and is a representative of Japanese pop culture. Although there have been studies on the linguistic characteristics of onomatopoeia in manga studies, few have compared its expression with that of foreign manga.In this study, with the aim of clarifying "Japanese-ness" in manga expression, we conducted a comparative study of North American and French=Belgian manga, focusing on onomatopoeia, a form of manga expression.Comparison of onomatopoeic expressions with North American manga revealed that Japanese manga is characterized by "changes in form in accordance with the style" and "changes in size in accordance with the degree of sound and style.
目次
背景と目的
日本では、世界に向けて日本のブランド力を向上させ日本ファンを増やすことを目的として、2010年から内閣府が「クールジャパン戦略」を行っている。その中で「漫画」は日本を代表するポップカルチャーになっており、世界的に広まっている。特に、独自のマンガ文化がある北米やフランス=ベルギー圏において、日本の漫画は「manga」として認識されており、2014年以降、漫画の売り上げが大きく伸び続けている。そして2019年のクールジャパン戦略では過去10年を振り返り、コンテンツの奥にある「日本らしい何か」を追求することが必要だと述べられている。
一方、マンガ研究の中で、表現について海外との具体的な違いについて分析しているものは多くない。その中で音喩(オノマトペ)は海外と日本のマンガにおける言語的特徴が研究されているが、視覚的な表現についてはまだ明らかになっていない。
そこで本研究では日本のマンガ表現の特徴を明らかにする研究の一つとして、マンガ表現の一つである音喩について表現の視点から海外と比較し、そして表現の奥にある日本らしさから日本マンガの新しい表現を導出することを目的とする。
研究の方法
研究の対象
本研究ではマンガを、夏目房之介をはじめ多くの研究で使用されている「ストーリーマンガ(複数コマを用いて物語を表現した作品)」と定義する。
また対象地域は、独自のマンガ形態と大規模な市場を保有する北米とフランス=ベルギーの2つの地域を選定する。
北米においてマンガは「manga」と訳されるが。同様にフランス=ベルギー圏では、自国のマンガ作品は「bande dessinée(以下、BD)」と呼称される。また、マンガは各国に共通する媒体の総称とし、日本のマンガを指す場合は「漫画」と表記し、以下、「3地域」とは日本・北米・フランス=ベルギーを指す。
よって本研究では、日本の「漫画」と北米の「グラフィックノベル」、フランス=ベルギーの「BD」の表現特徴を比較する。
研究の流れ
本研究の流れは以下の通りである。
①3地域のマンガにおいて歴史的発展、制作方法や形式などのメディア特性の観点から違いを調べる。
②音喩についての文献調査を行う。
③3地域の代表作品を複数選定し、音喩表現の違いについて詳細に比較検討をする。
④調査で明らかになったことから、日本らしい表現について考察し、新たな表現を提案する。
調査1 3地域のメディア歴史・メディア特性の文献調査
歴史的変遷
近代マンガの元となったコマ割りを含む連続した絵の表現が生まれたのは、ヨーロッパにおけるロドルフ・テプフェール『ヴィユ・ボワ氏物語』であり、その後、北米や日本へ広まっていった。北米ではコミックストリップとして普及していく中で不況の影響からスーパーヒーローの作品が主となりアクションが多く、多色刷りによるカラフルな絵柄のイメージが定着していった。現在でもスーパーヒーロー作品が人気を博している。日本では、風刺画(ポンチ絵)として普及していったマンガは戦前までに欧米を模倣したストーリー漫画へと進化し、戦後は手塚治虫の功績によりキャラクターの記号化や映画的表現手法が漫画として確立されていった[1]。期限は欧米であったが、現在では漫画は「manga」として世界で認知されるように独自の発展をしていったことがわかる。
メディア特性
3地域の、版型・頁数・装丁・出版社・発売頻度・現地価格・制作手法・客層・その他特徴について調査し結果を表にまとめている。
掲載形式、出版形式の違いから、制作にかけられる労力に大きな差があり、表現もそれに応じた対応が求められているだろうと考えられる。
調査2 音喩についての文献調査
まず音喩とは、夏目ら(1995)が言語学的なオノマトペと比較して作られた造語である。
日本マンガにおいて音喩が注目されたのは、1960年代後半だと言われている。草森(1968)が音喩について注目したマンガ言説では音喩を「児童まんがに乱用されている」言語とし、物語のわかりやすさから子どもに好まれることから頻繁につかわれるようになったとしている。その後ストーリー漫画の複雑化で心理的な内面描写のある作品が現れるとともに、音喩も心情を表すために用いられた。
夏目(2013)は、言語学者のスコウラップ(1993)と筧・田守(1993)の言葉をそれぞれ引用して、日本語のオノマトペが緩やかな規範性を持ち、自在に転用され、創造的な語を日々生産するとすれば、マンガは間違いなくその重要な生産現場の一つであるとまとめている[2]。
調査3 音喩表現についての比較調査
音喩の使用率
まず、各作品における音喩の使用率を音喩のあるコマ/総コマ数の形で調査した。(図1)
平均は、日本32.24%、北米9.44%であり、日本マンガは3コマに一回音喩が使用されてることがわかった。また北米では、売上上位の作品でも一度も音喩が現れない作品があり、音喩を使用することが日本のように定着していないことが分かった。
音喩表現の統計的分析
マンガ表現の一つである音喩について、表現パターンを統計的に分類し比較する。
まずは対象作品として、海外受容の観点から海外で人気なマンガ作品を漫画の人気が高まった2014年〜2021年までの各年の売上上位作品を中心に各地域10作品を選定した。
本要項では調査が終了している北米作品との比較結果のみ掲載する。
次に、各作品の第1巻を対象に音喩の表現パターンを分類し、それをさらに表現による効果で分類した。(図2)
その分類に基づいて各作品に現れる音喩の表現を分類し(重複含む)統計データとしてまとめ、それぞれの分類において検定を行い地域ごとの表現特徴を差を確認した。
各表現パターンにおいて日本と北米の分布をマンホイットニーのU検定で差の統計解析を行なった。統計解析はR 4 . 1.3を用い、意図的なレベルは5%とした。
有意差が確認でき、日本マンガの特徴として分かったのは「様態に合わせて形が変化している」「音や様態の大きさによって大きさが変化している」の2項目だった。
また、「様態に合わせて動作線が入っている」「次のコマへ続くよう配置」「名詞の音喩可」は北米にほとんど見られず検定ができなかったが、日本マンガの特徴として考察の対象とする。
考察
効果の分類として設定した「様態の補強」については、同カテゴリの「様態に合わせて並べられている」表現は日本と北米で差はなかったため、様態を補強する目的は北米もあると考えられる。そうした中で、漫画では形を大きく変えてでも様態に合わせる表現が見られ、音喩を絵の一部と捉えていることが窺える。
二つ目の特徴の「音や様態の大きさによって大きさが変化している」について、グラフィックノベルが音の位置に合わせて音喩を配置する傾向が強いのに対して日本は画面全体で音が鳴っているように感じるほど大きく、コマいっぱいに音喩を配置する表現が多く見られた。特にアクションシーンではテンポを重視し音で読ませる傾向があった。もともとオノマトペにおいて副詞用法が多い日本[3]では音で様態を想像することに慣れているため、特殊な読みが可能であるのではと考える。
日本固有の特徴である、「視線誘導」は週刊誌での連載で競争社会であることからより読者の興味を引くことが考えられた結果であると考える。また、「名詞の音喩化」による「属性の説明」は夏目(2013)によると少女漫画を中心に発達して木tあことが伺える点と言語学的な視点がより必要であるため今後より深く考察する。
今後の展望
フランス=ベルギーのバンド・デシネについても北米マンガと同様に日本との比較を行う。また、考察は、日本美や日本文化と照らして、日本らしさを追求していきたい。
ただし、マンガ表現は音喩だけでなく「絵」「コマ」など様々な要素が存在する[4]ため、マンガ表現における包括的な日本らしさを示すには、その他の要素の調査とそれを含めたの考察が必要である。
脚注
参考文献・参考サイト
- 内閣府「クールジャパン戦略 令和元年」https://www.cao.go.jp/cool_japan/about/pdf/190903_cjstrategy.pdf (参照2022-10-10)
- 笠間直穂子(2014)「フランス=ベルギー系漫画小史 黎明期から今日まで(創刊一二〇周年記念特集 外国語・外国文化の現在)」『國學院雑誌』115 (11), 151-174
- 川又啓子(2009)「フランスにおけるマンガ事情」『京都マネジメント・レビュー』15,pp79-100
- 篠原和子・宇野良子編(2013)「オノマトペ研究の射程 近づく音と意味」 ひつじ書房
- 夏目房之介(1997)『マンガの読み方』宝島社
- 原正人(監修)(2013)『はじめての人のためのバンド・デシネ徹底ガイド』玄光社
- 内閣府「クールジャパン戦略 令和元年」https://www.cao.go.jp/cool_japan/about/pdf/190903_cjstrategy.pdf (参照2022-10-10)