「次代のファブ施設のあり方について」の版間の差分
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2022年10月20日 (木) 16:25時点における版
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- 張 端壮 / 九州大学大学院 芸術工学府
- CHO Tanso / Department of Design Strategy, Graduate School of Design, Kyushu University
Keywords: Social Design, Future Design, Fabrication Laboratory, STEAM
- Abstract
- In this study,
背景と目的
近年3Dプリンタやレーザーカッターをはじめとしたデジタルファブリケーション機器の高性能化、低価格化、小型化により、一般市民の個人によるものづくりが可能になった。2015年に総務省情報通信政策研究所がまとめた「ファブ社会の基盤設計に関する検討会報告書」では、デジタルファブリケーション機器の普及により、「インターネット環境を前提とした、新たなものの企画・設計・生産・流通・販売・使用・再利用が前景化する社会」になると言われており、これまでものづくりに携わっていなかった人々が参画することが期待されている。そのような個人によるものづくりを支援する場として、デジタルファブリケーション機器が設置されたファブ施設がある。日本最初のファブ施設として、ファブラボが鎌倉市とつくば市に設立された2011年からファブ施設は全国的に増加し、2018年には191件になった。しかし利用者の伸び悩み、採算性の問題からその数は減少し、2021年には132件にまで減少した。そこで本研究では、現在のファブ施設の運営における課題と社会がファブ施設に求めている役割を調査し、次代のファブ施設のあり方を提案する。
研究の方法
- 調査①:現在ファブ施設が抱えている課題と今後の展望について明らかにするためにファブ施設運営者に向けてアンケート調査を行なった。
- 調査②:ファブ施設が抱える課題がどのようにして生まれたのかを明らかにするために開設から現在に至るまでの軌跡についてインタビュー調査を行った。
- 調査③:現在ファブ施設がどのようなビジネスモデルで運営されているのかを明らかにするために、事例調査を行った。
- 調査④:STEAM教育においてファブ施設及びデジタルファブリケーションが現在どのように活用されているのかを明らかにするために文献調査、事例調査を行った。
結果
- 結果①:現在のファブ施設が抱える課題として「新規ユーザーの獲得」「ユーザーの定着度」「初学者のものづくりに対する認識の違い」「機材の陳腐化」「安全性」「継続的な運営のための資金確保及び収益向上」が挙げられた。また今後のファブ施設のあり方については「社会課題に対してものづくりで貢献するユーザーが増えることを期待する」「アートや芸術との結びつきを強化したい」「教育、ビジネス両面でデジタルファブリケーションエンジニアリングの教育を充実させる」「デジタルファブリケーションを生涯教育として学べる場」「新しいものづくりを発信し、社会実証する場」が挙げられた一方で、「ファブ施設それぞれの考え方があるため、一概には言えない」という意見が挙げられた。
- 結果②:開設当初はデジタルファブリケーション機材が珍しく、機材を使用したい人や情報を求める人が訪れ、収益はユーザーの利用料と受託製作の報酬が半分ずつを占めていたが、現在はユーザー数が減少し、収益の大部分が受託製作になっている。ユーザー数が減少した原因は3つある。1つ目は機材が大学や企業など必要な場所に整備され、社会に浸透したこと。二つ目はユーザー自身作りたいものが思いつかないため定着しないこと。3つ目はものづくりをすることに意味を見いだせないことだ。
- 結果③:現在のファブ施設は行政が行なっているものと民間が行なっているものがある。ファブ施設は「インキュベーション型」「公共複合施設型」「工作工房型」「工作工房型」「ホームセンター型」「デザイン・設計事務所型」「製造業型」「コンサルティング・機材販売型」「学習塾型」「大学型」「スペース型」の11のビジネスモデルに分類することができた。民間のファブ施設でユーザーの利用料のみで運営している施設は非常に少ない。
- 結果④:「GIGAスクール構想」(文部科学省)の実現を想定した「未来の教室」(経済産業省)では、AI型教材や講習動画、個別学習計画・記録などのデジタル技術を活用し、生徒個人が知識を効率的に学習する「学びの自律化・個別最適化」と現実の社会課題や生活課題、科学技術などに当事者として向き合い、思考・判断・表現を行う「学びの探求化・STEAM化」の二つを教育における基本コンセプトとしている。STEAM型学習を行う上で、実際に手を動かして創造できる場が身近にあることが望ましい。そのため圃場や機械を有する高校の農業科や工業科等の専門学科の施設や民間のファブ施設を「地域のSTEAM学習センター」として活用する動きが高まっている。
考察
現在デジタルファブリケーションを活用したSTEAM教育の事例は機材によるものづくりを主軸とし、機材の周知や操作方法を指導するものだが、今後は機材が一般化し、学習の表現ツールの一つとして活用されるようになると思われる。その際生徒が取り組むテーマ及びものづくりは多岐に渡り、先生が研修によって得られる知識では対応が困難になるため、幅広い専門知識を有する人材が必要になる。新たに機材や人材を学校に設置するよりも、既に機材や人材が揃うファブ施設を利用するべきである。
まとめ
今後の展望として、STEAM型学習を実践する場として、ファブ施設が活用される際の課題や考慮すべき点について追調査を行い、次代のファブ施設の提案を行う。
脚注
参考文献・参考サイト
- 浅野大介(2021) 教育DXで「未来の教室」をつくろう 学陽書房
- マッシモ・メニキネッリ (2020) ファブラボの全て ビー・エヌ・エヌ新社
- 総務省 (2015) ファブ社会の基盤設計に関する検討会報告書
- 未来の教室実証事業 https://www.learning-innovation.go.jp/ (2022年10月19日 閲覧)