「視覚障がいのある有権者に対する投票所の環境改善に関する研究」の版間の差分
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上記の調査結果を踏まえ、本研究ではデザイン対象物として「投票準備ガイド」を作成する。ガイドはアプリケーションを想定し、自治体や投票所ごとに選挙管理委員会が掲載内容を改変できるものとする。掲載内容は、①投票全体フローの表示機能を主軸とし、②自らの投票所情報の検索機能、③投票補助具の表示機能を予定している(図5)。 | 上記の調査結果を踏まえ、本研究ではデザイン対象物として「投票準備ガイド」を作成する。ガイドはアプリケーションを想定し、自治体や投票所ごとに選挙管理委員会が掲載内容を改変できるものとする。掲載内容は、①投票全体フローの表示機能を主軸とし、②自らの投票所情報の検索機能、③投票補助具の表示機能を予定している(図5)。 | ||
− | 最終的には、プロトタイプに対する視覚障がい有権者および選挙管理委員会による評価を得る。 | + | 最終的には、プロトタイプに対する視覚障がい有権者および選挙管理委員会による評価を得る。{{clear}} |
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2022年10月24日 (月) 17:32時点における版
- 村岡詩織 / 九州大学大学院 新統合領域学府
- Shiori MURAOKA / Kyushu University Graduate School of Integrated Frontier Sciences
Keywords: Inclusive Design, Visual Impairment, Voter-Centered, Polling Place
- Abstract
- Japan's voting system, designed based on a self-written ballot system at polling places, creates barriers for the visually impaired. This study tries to clarify voting issues faced by the visually impaired from the perspective of inclusive design and to examine and propose solutions......................
研究の背景
近年、選挙の投票率の低下が社会問題となっており、地方選挙においても同様の傾向がある。公職選挙法44条は「投票所自書投票主義」を規定おり、全国に最低でも30万人[1]と推計されている視覚障がいのある有権者にとっては、選挙権が行使しづらい状況にある。一方で、2011年に改正された障害者基本法28条では、「選挙における配慮」が規定され、全国的にも選挙・投票における合理的配慮の事例が報告されている。
研究の目的
本研究は、インクルーシブデザインの視点から視覚障がい者が抱える投票[2]の課題を抽出し、解決策を提示・検証することを目的とする。具体的には視覚障がいに配慮した投票準備ガイドを作成し、その有用性を当事者および選挙管理委員会の視点から検証する。なお、研究対象を選挙期間が短い地方選挙[3]にすることで、国政選挙にも応用可能な、より基礎的な課題抽出を行うこととする。
研究の方法
文献調査として、(1)既往研究調査、(2)投票制度調査、(3)先行事例調査、(4)当事者団体要望書分析を行い、視覚障がい有権者が抱える投票における課題を抽出する。
次に、フィールド調査として、(5)投票所同行調査、(6)模擬投票観察調査、(7)当事者聞き取り調査、(8)選挙管理委員会聞き取り調査、(9)福祉用具専門員聞き取り調査を通じて、文献調査結果の検証を行う。
以上を踏まえ、(10)視覚障がいに配慮した投票準備ガイドを作成し、(11)当事者による評価、(12)選挙管理委員会による評価を得る。
既往研究と本研究の位置付け
清原は、東京都選挙管理委員会への聞き取り調査から、視覚障がい者の投票アクセシビリティの課題を投票所・投票方法・情報の3点から整理している。大倉は、国政選挙の情報保障として、選挙公報の点訳化や音訳化の法的根拠がないこと、拡大文字版など弱視の種類に応じた情報提供がなされていないことを指摘している。いずれも、一連の投票プロセスのいずれかのステップにのみ着目した課題の特定であり、有権者視点によるプロセス全体の分析はない。一方で、Center for Civic Design(CCD)は、有権者の投票体験をVoter Journeyとして分析することで、総合的な対策の基礎資料としている。
そこで本研究は、有権者視点の分析方法としてCCDの手法を取り入れ、かつ、現行法下では第三者の同行が限定される投票所内での課題も含む、投票体験全体の課題を取り扱う。
文献調査結果
- 投票のジャーニーは20段階から構成される
文献調査により、視覚障がい有権者の投票プロセスは20の段階から構成されていることが導出された。総務省が想定している有権者の投票体験が5段階であったのに対して、4倍もの判断・行動を最長7日間の期間内で行う必要がある(図1)。
- 「投票用紙に記入」段階に改善ニーズが集中
現状の投票に関する改善ニーズが62項目抽出され、「投票用紙に自書」段階に多くの意見が寄せられていた(図2)。背景として、家族や同行者の付き添いが投票所内では一部限定的になることがある。
フィールド調査結果
- 新たに18の改善ニーズを抽出
フィールド調査においても文献調査と同様に、視覚障がい有権者の投票プロセスが20段階で構成されることが確認できた。さらに、新たに23の投票遂行上の障壁が生じていることが観察され、文献調査結果と合わせると、80の改善ニーズが抽出された(図3)。 具体的な内容としては、文献調査結果と同様に「候補者名簿の最終確認」および「投票用紙への記入」段階に、「書き損じによる無効票化への懸念」が生じていることが確認された。特に、残存視力のある弱視有権者にとっては、適切な補助用具があれば自書を完結できるにも関わらず、その提供が未実施であったり、補助用具の持ち込みの可否に関する情報が共有されていない実態も明らかとなった。
- 改善ニーズは7種類に分類され、対応策の裁量の7割選挙管理委員会にある
以上の現状の投票に関する改善ニーズは7カテゴリに分類され、中でも「情報」と「ツール」に関するニーズが高い(図4・表1)。 他方、選挙管理委員会の聞き取り調査より、80の投票改善ニーズのうち、60(全体の75%)は、選挙管理委員会の裁量により対応できるものであることを確認した(表2)。対応が進まない理由としては、予算措置や視覚障がい及び視覚補助具について、学ぶ機会を持ちづらいこと、選挙対応は概ね1〜2ヶ月間という期間限定的に対応されることであり、個別の有権者ニーズについて知り、対応する機会を持ちにくい側面があるとことが明らかとなった。
結論
調査により、投票所における自書を前提とする現行の投票制度において、視覚障がい有権者は投票用紙への自書を中心とした投票プロセス全体に課題を有していることが明らかとなった。
視覚障がい有権者の投票のしやすさの実現に向けては、投票を「投票箱への投票用紙を入れる」という局所的な捉え方をするのではなく、「住民票を置く」ところから「選挙結果を確認する」ところまでを投票プロセスとして扱い、横断的な改善をしていく必要性が明らかとなった。
投票制度は全国共通のものであるため、有権者の転居に関わらず、全国的に同じ投票サービスが提供されることが望ましい。そのためには、あらかじめ想定される投票の障がいに備える、事前的改善措置の仕組みが必要である。
今後の流れ
上記の調査結果を踏まえ、本研究ではデザイン対象物として「投票準備ガイド」を作成する。ガイドはアプリケーションを想定し、自治体や投票所ごとに選挙管理委員会が掲載内容を改変できるものとする。掲載内容は、①投票全体フローの表示機能を主軸とし、②自らの投票所情報の検索機能、③投票補助具の表示機能を予定している(図5)。
最終的には、プロトタイプに対する視覚障がい有権者および選挙管理委員会による評価を得る。
参考文献・参考サイト
- 清原慶子, 1994, 高齢社会における高齢者•障害者の投票をめぐるアクセシビリティ, 選挙研究14号, pp.75-88,178
- 大倉沙江, 2018, 障害がある有権者に対する選挙情報の保障をめぐる政策の現状と課題:政見放送への手話通訳・字幕の付与、選挙公報の点訳・音訳を中心に, 情報通信学会誌36巻1号, pp.23-30
- Center for Civic Design https://civicdesign.org/the-epic-journey-of-american-voters/ (2021年9月22日 閲覧)