メッセージアプリケーションにおける表現方法に関する研究
- 野村 竜成 / 九州大学 大学院芸術工学府
- Nomura Ryusei / Graduate School of Design, Kyushu University
- 田村 良一 / 九州大学 大学院芸術工学研究院
- Tamura Ryoichi / Faculty of Design, Kyushu University
Keywords: Messaging Application, Feelings, Expression Methods
- Abstract
- In this study, we examined the relationship between "expression means" and "expression techniques" associated with the texts in the screen designs of the messaging applications and Communicating Feelings. First, we extracted the five types of feelings and scenes to be communicated, the four expression means, and the expression techniques for each expression means. After that, for each feeling and scene, eight different screen design samples were created, and a questionnaire survey was conducted with 18 university students as subjects regarding the degree of transmission of the feelings and scenes. As a result of the analysis, it was found that although the specific expression means and the expression techniques differed in each feeling and scene, they were generally effective in the expression means such as "the movement of the speech balloon and text".
目次
背景と目的
2022年(令和4年)現在、日本においてSNS(Social networking service)の利用者数は年々増加している。また、多様化するSNSの中でも、LINEをはじめとするメッセージアプリケーション(以下、メッセージアプリと記す)といったメッセージを送る機能をもつSNSが高い利用率となっている[1]。メッセージアプリの気持ちなどの表現においては、スタンプや絵文字などの表情を特定のイラストで表現するエモーティコンをメッセージに付加することで行なわれており、動きのあるエモーティコンなどその種類も多様となっている。一方、文字やそれに付随する吹き出しにおける表現の工夫についてはみられない。自身の先行研究[2]では、気持ちの定義にある感情に着目し、メッセージアプリ上の文字に付随する表現と感情伝達との関係を明らかにした。
そこで本研究では、既存のメッセージアプリにおける文字に付随する表現方法を抽出、整理するとともに、それらの表現方法とメッセージアプリ上の「感情以外の気持ち」や「シーン」の伝達との関係を明らかにすることを目的とする。
気持ち・シーンの選定
気持ち・シーンについて調査を行い、本研究で対象とするメッセージアプリ上で表現する気持ち・シーンについて選定した。
本研究における気持ちとは、「物事に接したときに心にいだく感情や考え方」を定義として用いる[3]。本研究では感情以外の気持ちとメッセージアプリ上のシーンとして高橋ら(2021)[4]の評価実験の内容を参考に「感謝」、「依頼」、「謝罪」の3種類の気持ちと、「挨拶」、「連絡」のメッセージアプリでの2つのシーンを本研究で対象とする気持ち・シーンとして選定した。
文字に付随する表現手段の選定
メッセージアプリの概要や、既存のメッセージアプリについて現状の把握を行い、本研究で対象とする文字に付随する表現手段の選定を行った。
本研究におけるメッセージアプリとは、「モバイル端末向けのインスタントメッセンジャーの総称。リアルタイムで、テキストの送受信を1対1またはグループで行えるほか、VoIP技術を用いた音声通話機能をもつものもある。」を定義として用いる[5]。
世界や日本での利用者が多い表1に示すメッセージアプリ計12個を対象に表現手段の整理を行った。各メッセージアプリにおいては、表現手段に若干の違いはあるものの大きな差はみられなかった。自身の気持ちなどを表現する際には、エモーティコンが用いられており、文字に付随する表現方法での工夫はみられなかった。本研究では、メッセージアプリ上での気持ちやシーンの表現手段として「吹き出し」に着目することとした。また、動き方、形状、色の違いによって特定の感情を想起できることについて言及している複数の文献がみられたことから、メッセージアプリにおける気持ちやシーンを伝達するための文字に付随する表現手段として、「吹き出し・文字の動き」、「吹き出し・文字の動きの周期」、「吹き出しの形状」、「吹き出しの色」を選定することにした。
メッセージアプリ上の気持ち・シーンの表現手法の抽出
先行研究や漫画における吹き出しの調査を行い、3種類の気持ちごとに、選定した4種類の表現手段における具体的な表現手法の抽出を行った。また、2種類のメッセージアプリ上のシーンについては、既存のメッセージアプリで見慣れた表現(吹き出し・文字の動きの有無の表現)との比較を行うために「吹き出し・文字の動きの周期」を除いた3種類の表現手段において具体的な表現手法の抽出を行った。
サンプル作成
5種類の気持ち・シーンにおける効果的な表現手段と表現手法との関係を把握するため、実験計画法を用いてサンプルを作成した。L₈(2⁷)の直行表を用い、「吹き出し・文字の動き」、「吹き出し・文字の動きの周期」、「吹き出しの形状」、「吹き出しの色」の4種類の表現手段を因子(2種類のメッセージアプリのシーンについては「吹き出し・文字の動きの周期」を除く3種類の因子)として割り付け、それらの因子に対する具体的な表現手法を抽出した候補から2つずつ選定して水準として割り付けた(表2)。
サンプルの背景は既存のメッセージアプリに似せたものを作成し、画面サイズはスマートフォンの主要なサイズとして考えられる16:9にした。また、調査に際して8つのサンプルを比較してもらう間、吹き出しや文字の動きを提示する必要があるため、約3分間、特定の吹き出しや文字が動きを繰り返す動画をサンプルとして作成した(図1)。
評価実験の実施と考察
評価実験の実施と分析
大学生18名(21歳~25歳,男性9名女性9名)を実験対象者として、 各気持ち・シーンで、スマートフォン8台を用いて8サンプルを提示し、各気持ちやシーンの表現として適切だと感じる順番に1位から8位まで順位づけを行う評価実験を実施した。
評価実験の回答結果は,「1位=8点~8位=1点」のように、それぞれの順位をもとに得点換算し、各気持ち・シーンにおいて、8サンプルのそれぞれに対する18人の得点の平均値を各サンプルの評価得点として、主効果の算出や分散分析を行なった。
結果
評価実験の分析の結果を表3、表4に示す。
評価実験の結果から、気持ちの「感謝」、「依頼」の2種類において、有意水準1%で「吹き出し・文字の動き」に有意な差がみられ、気持ちの「謝罪」においてはどの因子でも有意差がみられなかった。また、「吹き出し・文字の動きの周期」、「吹き出しの色」においてはどの気持ちにおいても有意差はみられなかった。
シーンの「挨拶」においてもどの因子でも有意な差がみられなかった。シーンの「連絡」においては3つの因子すべてで既存のメッセージアプリの見慣れた表現で有意な差がみられた。
考察
このことから、気持ちの「感謝」、「依頼」の表現においては動きに関する表現手段がメッセージアプリの気持ちを伝える表現手段として重要であると考えられる。「謝罪」の表現においては有意差がみられなかったが、実験中に対象者数人からメッセージアプリの相手との関係性などの状況について確認があったことを踏まえるとメッセージアプリの状況が大きく影響するため、それらについて言及していなかった本研究では「謝罪」において有意な差がみられなかったと考えられる。
シーンの「挨拶」においても同様に相手との関係性や状況等が大きく影響するため、有意な差がみられなかったと考える。「連絡」においてはどの状況においても形式的な状況が想定されたため、既存のメッセージアプリの見慣れた表現において有意な差がみられたと考えられる。
まとめ
メッセージアプリ上において吹き出し・文字の動きを工夫することはメッセージアプリでの「感謝」、「依頼」の気持ちの表現において有効的な手段であることがわかった。また、形式的なメッセージのやりとりにおいては既存のメッセージアプリの見慣れた表現が適切であることがわかった。しかし、相手との関係性などの状況やメッセージアプリ利用者の違いによって表現の解釈が異なることがあるため、今後はメッセージアプリ上の幅広いシチュエーションや年齢層を想定したうえで条件を設定し、研究を進める必要があると考える。
脚注
- ↑ ICT総研: 2022年度SNS利用動向に関する調査, https://ictr.co.jp/report/20220517-2.html/, 2022年9月19日閲覧
- ↑ 野村竜成, 田村良一:メッセージングアプリケーションにおける感情伝達のための表現方法に関する研究,日本感性工学会論文誌,Vol.21,No.3,pp.309-316,2022
- ↑ デジタル大辞泉, https://www.weblio.jp/content/%E6%B0%97%E6%8C%81%E3%81%A1?dictCode=SGKDJ, 2022年9月19日閲覧
- ↑ 高橋直己ら:絵文字を用いた文章における感情伝達効果に関する研究,日本感性工学会論文誌,Vol.21,No.1,pp.135-142,2022
- ↑ デジタル大辞泉, https://www.weblio.jp/content/%E3%83%A1%E3%83%83%E3%82%BB%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A3%E3%83%BC%E3%82%A2%E3%83%97%E3%83%AA, 2022年9月19日閲覧
参考文献・参考サイト
- 富川道彦,尾田政臣:単純な動きを示す対象図形の感情選定,映像情報メディア学会技術報告,Vol.33,No.17,2009
- 瀬戸就一ら:聴覚障害学生に授業の臨場感を伝える感情フォントの提案,第73回全国大会講演論文集,Vol.1,2011
- 堂坂浩二ら:コミュニケーション活性化を目的とした絵からの感情判断理由の生成,秋田県立大学ウェブジャーナルB(研究成果部門),Vol.5,2018