地域の魅力を伝えるブックカバー
- 産学連携プロジェクトによる商品開発から販売までの取組み -
- 宮地英和 / 広島経済大学 メディアビジネス学部
- Hidekazu Miyaji / Hiroshima University of Economics
Keywords: Product Design, Visual Design, Industry-Academia collaboration
- Abstract
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背景と目的
少子高齢化によって労働人口が減少している今日において、地方の若者層の首都圏への流動は地域経済における課題の一つである。そこで地元企業の株式会社ポップジャパンと筆者のゼミナールの協働で学生がものづくりを通して地域の魅力を学ぶ場を設け、地域創生の課題も見据えた産学連携のプロジェクトを企画した。
近年、のぼり旗メーカーの株式会社ポップジャパンでは縫製工場を新設しており、当該企業の技術・サービスを活かした若者の感性で布の可能性と魅力を追求した新たな商品開発を行う運びとなった。また新商品の流通についても、マーケティングの視点から販促計画を企画し、学生自ら店舗での実地販売を行うこととした。
本研究の目的は、地元企業と協働による商品開発と流通プロセスを通して、学生が地域の魅力について学ぶアクティブラーニング教育の実践を提供すること、並びに若者の参画によって企業のイノベーション創出を促すことである。
研究の方法
産学連携の取り組みとして、2020年10月から2022年3月にかけて、株式会社ポップジャパンと広島経済大学メディアビジネス学科の筆者のゼミナールに所属する学生34名(2〜4年生)が協働で新商品の企画開発から販促計画、販売まで行った。
商品開発のプロセスでは、学生は会社訪問と工場見学から当該企業の印刷と裁縫の技術やサービスについて学んだ後、身の回りの商品やサービスについて市場の調査・分析を試みた。そして、それらの知見から新商品の企画案を考案し、グループを編成した上で、企業に対してプレゼンテーションを行った。企業と筆者による審議の結果、採択された企画案については試作品を作り、学生が実際に使用した時の感想や意見を基に、材料や構造の課題や改善点について考察しながら実現化に向けてPDCAサイクルを実践して商品が完成した。商品の販売に先駆けてマーケティングに関する事前講習を行った後、SNSによる広告発信や店頭ブースのレイアウトなどの販促計画について企画を立案し、商業施設での店舗販売を行った。
結果
本研究では、地元企業と学生が協働して商品開発から販促計画、実地販売まで実践した。新商品の企画段階では、学生からは多くのアイデアが提案されたが、実現性を考慮して幾つかの案に絞って試作品を製作した。試作品については学生の意見や感想に加え、デザイン性だけでなく材料や構造の観点からも検証した。その結果、企業の技術を最大限に活用できる商品であるブックカバーに決定した。ブックカバーの素材には表面の凹凸によって手に持っても滑らない耐久性のある生地を採用し、イメージの印刷には企業がのぼり旗印刷で培った技術を使用した。
ブックカバーには、観光客やSNSを利用する若者を対象に広島の魅力を伝えることを目的とした「HIROSHIMAを読む」というコンセプトを設定し、広島の文化・歴史・観光などのイメージを描いた学生のアイデアから、「錦鯉」や「石垣」などの6つのデザインを採用した。そして、アイデアを考案した本人が自ら撮影した写真を使用し、生地へのテストプリントの段階を経てブックカバーが完成した。さらに商品に同封するリーフレットも合わせて制作した。
新商品の販促計画に沿って、大学と企業の同時プレスリリースやInstagramによる情報発信を行い、書店内の販売ブースについても学生がデザインした。ブックカバーは一つのデザインにつき各20個を準備したが、売上は全体的に好調で約1週間で売り切れたデザインもあった。こうした結果を踏まえ、企業と大学と共に継続してブックカバーを販売することになった(図1)。
考察
地方の大学と企業による産学連携では、地方創生を目的とした課題解決型のプロジェクトとして、地元企業との商品開発に取り組むケースが多い。本研究においても、ものづくりを通して学生が地域の魅力を学ぶ場を設け、地域のPRや経済活性化を目指す取り組みとした。企業の技術・サービスを活かした製品を開発し、マーケティングの視点から販促計画から実践まで協働で取り組むことによって、商品開発から販売までの一連の流通プロセスを体験するものであった。学生は商品開発の大変さや面白さを実感しながら、地域の魅力を再発見することで主体的に取り組み体験型学習を実践することができた。また企業にとっても学生の新しいアイデアは新鮮であり、社内の活性化に繋がるものであった。こうした事実からも教育的視点と経済的視点の双方において一定の成果が得られたといえる。
まとめ
産学連携による新商品の開発は筆者のゼミナールと当該企業にとって初めての試みであり、プロジェクトの開始から終了まで約1年半の期間を要した。契約書の作成から始まり全ての工程が手探りであったが、企業の担当者との日頃のコミュニケーションによる情報共有によって円滑に遂行することが出来た。産学連携において地域のものづくりを支援する取り組みでは、単に技術的な側面だけではなく、現場で働く方々の想いを共有することが重要であると再認識した。今回のケースでは、小ロット生産による材料費や人件費の問題から実現化には至らなかったアイデアも多くあったため、企画が採用されなかった学生の意欲を保つために、一人ひとりが何らかの役割を担うように配慮した結果、全員が一丸となって最後まで意欲的に取り組んだ。
本研究では、地元企業が学生に地域の魅力を学ぶ場を設け、地域創生の課題も見据えたプロジェクトとして、互いに商品開発から流通までのプロセスに深く関わることで、双方にとって新たな“気づき”を得たのでないか。また、実践共同体として商品開発から市場を開拓したことは、ひとつの成功体験として意義ある成果といえる。
脚注