薬剤師が在宅患者への服薬指導を円滑に進める為のデザイン研究
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- 加治幸樹 / 九州大学大学院芸術工学府 デザインストラテジー専攻修士2年
- Koki Kaji / Kyushu University
Keywords: communication, pharmacy ← キーワード(斜体)
- Abstract
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1.背景と目的
近年では、薬剤師の業務は拡大している。2016年4月に始まった「かかりつけ薬剤師」制度をはじめ、薬剤師協会は、投薬時の患者とのコミュニケーションにより力を注ぐ方針である。したがって、業務内容が薬の管理などの「対物業務」だけでなく患者への服薬指導などの「対人業務」も必要とされるように変化してきており、かかりつけ薬剤師・薬局を軸とした薬局機能の再構築が大きな課題とされている。しかし、現実的には変化の歩みは遅々として進まず、目に見える形には至っていないのが現状である。[1]そこで、本研究では現在業務の変化が進む薬局業界で薬剤師が抱える問題を整理し、分析することでより円滑で正確に業務を遂行するための課題や要件を明らかにすることを目的とする。
2.研究の方法
研究を行うにあたり薬剤師、個人薬局経営者の方々にヒアリング調査を実施し、リアルな薬局業界の現状を把握した。次にヒアリング調査を経て注目した業務範囲に関する既往研究を調査し、本研究の視点を明らかにした。そして、因果関係図を用いて問題の整理と全体構造の把握を行い、仮説の課題を設定した。今後は薬剤師の方々にご協力をお願いし、ヒアリング調査、カスタマージャーニーマップ等の多角的な視点より課題を明らかにしていく。
3.結果
3.1ヒアリング調査
3.1.1ヒアリング調査目的
薬局業界の現状を把握し、本研究において注目すべき業務範囲を明らかにすることを目的とする。
3.1.2ヒアリング調査概要
【実施日時】6月6日 21:30~23:00
【実施方法】ZOOM
【参加者】薬剤師4名、秋田先生、加治
【薬剤師】個人薬局薬剤師2名(男性)
病院薬局薬剤師1名(女性)
クリニック院内薬剤師1名(女性)
3.1.3ヒアリング調査結果
コロナ禍をきっかけにして、薬局に来てもらう業務に加えて、患者のもとへ薬剤師自らが伺う業務が増えつつあることが分かった。また、個人薬局の経営している薬剤師の方は、調剤や処方箋作成などの機械化が進むことで本来の薬剤師の仕事が失われてしまうこと危惧していた。これらの要因も相まって現在個人薬局では在宅での対応に力を入れようとしていることが分かった。 そこで、本研究では薬剤師業務の中でも新規性が高く未開拓な領域である可能性の高い在宅業務に注目をする。
3.2既往研究について
薬剤師の在宅業務に関する既往研究では在宅業務における薬剤師の役割に言及した論文、在宅業務に対する薬剤師の意識や意見に言及した論文、医師や介護士など在宅医療に取り組む多職種との連携に言及した論文などが多い。しかしながら、在宅業務における患者とのコミュニケーションに言及した論文は少ない。よって、患者とのコミュニケーションに力を入れていく方針にもかかわらず、在宅業務における薬剤師と患者のコミュニケーションにどのような問題や課題が存在するのかが明らかになっていないと考えられる。これを受けて、本研究では在宅業務における薬剤師と患者のコミュニケーションに注目する。
3.3問題の整理と全体構造の可視化
3.3.1目的
薬剤師、医師、介護士、患者や様々な業務内容が複雑に関わりあう在宅業務の状態を俯瞰する。そして、その中で患者、薬剤師間のコミュニケーションがどのように関係しているのかを明らかにすることを目的とする。
3.3.2方法
次の手順で「1.在宅医療における薬剤師が抱える問題や現状」と「2.薬剤師による在宅対応が患者に及ぼす影響」について可視化した。そして1.2.より「3.在宅医療における薬剤師と患者間のコミュニケーションが両者に与える影響」を可視化した。まず、中村[2]の著書や荒木ら[3]の論文から要素と要素の因果関係を示す文を抽出する。そして、それらの各要素の間に因果関係がある場合は要素と要素を矢印で結んでいくことで因果関係図を作成した。具体的には、一方の要素の度合いが上昇すると他方の度合いも上昇する場合はその関係を「+」の記号で表した。逆に、2つの要素の度合いが逆方向に変化する場合は「-」の記号で表した。[4]そしてその図を図1「在宅医療における薬剤師が抱える問題や現状の因果関係図」、図2「薬剤師による在宅対応が患者に及ぼす影響の因果関係図」、図3「在宅医療における薬剤師と患者間のコミュニケーションが両者に与える影響」として示す。
3.3.3在宅医療における薬剤師が抱える問題や現状の因果関係に関する考察
図1は「1.在宅医療における薬剤師が抱える問題や現状」についての問題構造を可視化したものである。以下にその構造を説明する。(概要では一部のみ説明) ここでは薬剤師の在宅業務クオリティ(在宅業務におけるミスの少なさを示す正確性と作業にかかる余分な時間の少なさを示す円滑性の2つを基準とする)に影響する要素が大きく分けて1.多職種とのコミュニケーションと2.患者とのコミュニケーションの2つあることが分かった。 在宅業務クオリティの改善方法の一つに多職種とシームレスな関係を築くことが考えられる。具体的には①多職種との顔を合わせる機会が増えると⑤患者に関する事前情報量が増えて診療時間の短縮に繋がること[5]や⑩医師に対して処方提案をしやすい環境が整うことで患者の服薬数削減に繋がる。[6] 次にもう一つの改善方法として患者との間に信頼関係を築くことが考えられる。具体的には㉒㉔患者とのコミュニケーションが円滑に進むことで患者から服薬状況についての正確な情報が得られるようになる。また、⑱⑮⑰⑳患者の表情が豊かになることで服薬状況に関する新たな発見が増え医師への処方提案が増えること(仮説)、それらが薬剤師側のモチベーションに繋がっていると考えられる。
3.3.4薬剤師による在宅対応が患者に及ぼす影響の因果関係に関する考察
図2は「2.薬剤師による在宅対応が患者に及ぼす影響」についての問題構造を可視化したものである。以下にその構造を説明する。(概要では一部のみ説明) ここでは薬剤師の服薬指導やその他コミュニケーションが患者の健康やQOLに影響を与えていることが分かった。具体的には⑳服用薬数が増えるとお薬カレンダーや一包化の利用頻度が増える。[7]これらは㉓残薬リスクを軽減させ、健康、QOLの充実化に繋がる。また、独居老人など普段人と話す機会が少ない患者にとって、④㉔①薬剤師との間の緊張が緩和され笑い話等のコミュニケーションが取れるようになることは認知症発症リスクの軽減にも繋がってると考えられる。[8]
3.3.5薬剤師と患者間のコミュニケーションが両者に与える影響の因果関係に関する考察
図3は「3.在宅医療における薬剤師と患者間のコミュニケーションが両者に与える影響」についての問題構造を可視化したものである。以下にその構造を説明する。(概要では一部のみ説明) ⑧⑩(⑧は仮説)患者の表情が豊かでコミュニケーションが円滑に進み、服薬指導や管理の質が向上することは、患者にとっての⑲病状の悪化リスクを軽減させ健康・QOLの充実化に繋がる。また、①患者の表情が豊かになることは認知症発症リスクの軽減に繋がる。[9]これは患者にとって②⑥⑳健康、QOL、社会性の向上しそれが服薬のモチベーションに繋がると考えられる。反対に薬剤師にとっては⑦患者の認知レベルが下がらないことでコミュニケーションを円滑に進めることができると考えられる。
まとめと今後の展望
図1、図2、図3の矢印のうち点線部分は筆者自身が仮説として示した箇所である。図3より⑨患者と薬剤師の表情の豊かさが服薬状況における新たな発見に繋がり、患者の健康やQOLを向上させ⑳㉑服薬を適切に継続するモチベーションとなれば、因果関係の循環が「患者と薬剤師の表情の豊かさ」を介して生じることが仮説として考えられる。今後は薬剤師や患者に対するヒアリング調査やカスタマージャーニーマップの作成を通して、その仮説を多角的な視点から検証していく。
脚注
- ↑ 1)藤田道男:ポストコロナ時代の薬局ニューノーマル,評言社,2021
- ↑ 2)中村哲生:薬剤師が知らない在宅医療の世界,薬事日報社,2022
- ↑ 3)荒木美輝 半谷眞七子 亀井浩行:他職種からみた薬剤師の在宅医療での多職種連携の現状に関する質的研究,2018
- ↑ 4)岩下基:システム方法論-システム的なものの見方・考え方,コロナ社,2014
- ↑ 5)鈴木彩夏 半谷眞七子 亀井浩行:薬剤師の在宅医療でのかかわり方および 多職種連携の現状と課題に関する質的研究,2019
- ↑ 5)鈴木彩夏 半谷眞七子 亀井浩行:薬剤師の在宅医療でのかかわり方および 多職種連携の現状と課題に関する質的研究,2019
- ↑ 6)藤永智也:在宅医療において医薬品の適正使用に取り組む薬剤師,2016
- ↑ 7)山越達矢:笑いによるストレス応答抑制と認知機能改善効果,2021
- ↑ 7)山越達矢:笑いによるストレス応答抑制と認知機能改善効果,2021