伝統工芸産地における継続的意識調査と経年分析の意義
- 大淵和憲 / 九州産業大学 伝統みらい研究センター
Keywords: Traditional Craft, Production Associations and Producers, Questionnaire Survey
はじめに
わが国の伝統工芸産業においては、コロナ禍以前から長期的な売上高及び生産量がそれぞれ減少傾向にあったことが、経済産業省ほか(2017)等の調査で示されてきた。
これらの調査を踏まえて、発表者は2019年度から、九州に所在する工芸品生産や販売に従事している産地組合や産地事業者を対象とした意識・実態調査を行っている。経済産業大臣指定伝統的工芸品の製造事業者は、産地組合に所属しており、「伝統的工芸品産業の振興に関する法律(略称:伝産法)」に則った公的補助金は、この産地組合を通じて産地事業者に交付される流れとなっている。このため、産地組合は産地を代表する組織であり、その役割は重要である。
本研究はこの産地組合や産地事業者に対する4年間にわたる質問紙調査を概観し、経年比較分析の方向性の確認とその意義について検討を行うことを目的とする。
各年度の調査概要
2019年度は、九州7県における35産地組合と、福岡・佐賀における370事業者(福岡198、佐賀172)を対象とした。主な質問項目は、「産地組合の事業活動の実施状況と今後の方針」のほか、「伝統的工芸品への支援策」や「産地組合の運営方針や体制の現況」及び「キャッシュレス決済やふるさと納税の対応状況」等であった。
2020年度は、九州7県における33産地組合と、九州7県における600事業者を対象とした。主な質問項目は、「コロナ禍の影響」のほか、「ウェブサイト運営の現状・問題点」や「社会課題解決に向けた取組み状況」等であった。
2021年度は、九州7県における34産地組合と、九州7県における808事業者を対象とした。主な質問項目は、主な質問項目は、「コロナ禍による経営への影響」のほか、「ウェブサイト運営の現状・問題点」や「経営理念の内容や事業活動への反映状況」及び「クラウドファンディングの利用状況」等であった。
2022年度は、九州7県における40産地組合と、九州7県における888事業者を対象とした。主な質問項目は、「コロナ禍による経営への影響」のほか、「社会課題に向けた取組み状況」「伝統的工芸品への支援策」や「産地組合の運営方針や体制の現況」、「ECサイトやSNSアカウントの運用状況」及び「事業継承のあり方や課題」等であった。
経年分析に向けての着目点
調査は、各年度で回答事業者の内訳も異なるため、年度毎の結果をそのまま単純比較することは難しい状況にある。
以下、これまでの調査結果の考察を踏まえた、経年比較分析において重視すべき点を列挙する。
- 1) 4か年度全てに回答している事業者の属性や意識の有様を確認すること
- 2) コロナ禍という外部要因の前後での回答傾向の差を注視すること
- 3) 工芸品の種類・品目間での回答傾向の差に着目すること
- 4) 産地事業者の経営者・生産者の世代差を把握すること
調査結果を再度見直す重要性
九州7県においては、生産地が多く存在する陶磁器の生産者の声が調査結果により反映される傾向にある。
同時に、伝統工芸産地の存続には、地域内に複数の品目が存在し生産されていることが、消費者の多様な需要に応じる上で不可欠な条件である。
調査結果は各年度とも有効回答回収率が高くない状況にあり、品目毎に細分化した分析を行うことは、統計分析上限界があるという課題がある。
その課題解決に向けては、年度毎のデータクリーニングを再度丁寧に行うことこそが、経年比較分析の何よりも重要な作業であると考えている。
参考文献
- 経済産業省・三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2017)「平成28年度伝統的工芸品産業支援事業(伝統的工芸品関連事業者の自立化に向けた調査)報告書」 https://warp.da.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/11157160/www.meti.go.jp/meti_lib/report/H28FY/000074.zip(2022年10月20日閲覧)
- 大淵和憲(2020)「九州の伝統工芸産地組合・事業者を対象とした意識調査分析」『九州産業大学伝統みらい研究センター論集』3号、pp.43-66
- 大淵和憲(2021)「九州地方における伝統工芸産地組合・事業者の実態調査分析~社会課題解決・コロナ禍・ウェブサイト運営を中心に~」『九州産業大学伝統みらい研究センター論集』4号、pp.31-48
- 大淵和憲(2022)「伝統工芸産業における経営環境変化を巡る意識・実態調査分析~九州地方の伝統工芸産地組合・事業者を対象とした質問紙調査より~」『九州産業大学伝統みらい研究センター論集』5号、pp.1-42