「アクティブシニアの運動プログラムのデザイン研究」の版間の差分

提供: JSSD5th2022
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しかしながら本研究では、グランチアの55~65歳で、【人格的成長】【自己受容】、また 【環境制御力】も向上していた。 指導者アンケートでも、他種目より「人格的成長」「人生の目的」「自己受容」を意図していた。
 
しかしながら本研究では、グランチアの55~65歳で、【人格的成長】【自己受容】、また 【環境制御力】も向上していた。 指導者アンケートでも、他種目より「人格的成長」「人生の目的」「自己受容」を意図していた。
  
これは、被験者がほぼ全員が初めてのゼロからの挑戦で、自己受容や成長を体感しやすかったと考えられる。非日常のステージウエアや軽快な音楽で自己が解放され、また大勢の前で披露する発表会を契機に「一体感」「達成感」「チーム内での役割」を感じ、家族・友人・若い世代からも賞賛や声援も加わり、さらなる成長を目標と定め、社会との繋がりをより強く実感していったのではと考える。
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これは、被験者がほぼ全員が初めてのゼロからの挑戦で、自己受容や成長を体感しやすかったと考えられる。非日常のステージウエアや軽快な音楽で自己が解放され、また大勢の前で披露する発表会を契機に「一体感」「達成感」「チーム内での役割」を感じ、家族・友人・若い世代からも賞賛や声援も加わり、さらなる成長を目標と定め、周りとのコミュニケーションや社会との繋がりをより強く実感していったのではと考える。
  
 
こうしたことでグランチアは、【人格的成長】【自己受容】【環境制御力】など、心理的well-beingを高めている要因と推察される。
 
こうしたことでグランチアは、【人格的成長】【自己受容】【環境制御力】など、心理的well-beingを高めている要因と推察される。
  
 
==まとめ==
 
==まとめ==
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高齢者の運動種目において、介護予防・筋力トレーニング・ヨガは、心理面より【身体的フレイル予防】をより重視。 ズンバ、フラダンス、グランチアなどのダンス系種目は、身体面の意図が少なく、心理的ウェルビーイングの重視の点が類似していた。ダンス系プログラムの中でもグランチアはより心理的ウェルビーイング6項目全般が高く、特に【人格的成長】【自己受容】【環境制御力】が高く、身体的側面のアプローチ不足が課題である。
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他の種目との相違点は、非日常と自己の解放、チームで発表の場も定期的に設けることとで、目標が定まり、新たなコミュニティが生まれていることであると推察される。
  
心理的ウエルビーイングでは、介護予防や筋トレは全体的に低く、ズンバ、フラダンス、グランチアは全項目意図していた。グランチアは全体的に高め、特に【人格的成長】【人生の目的】【自己受容】が高い
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人生100年時代のフレイル予防とウエルビーイングのためには、老年期前の早期から、身体的、精神・心理的、社会的の多面的なアプローチが必要である。このことから、グランチアの可能性は今後ますます広がる。
 
 
高齢者を対象とした運動プログラムの種目において、ズンバ、フラダンス、グランチアは、心理的ウェルビーイングを意図したプログラムで、その中でもグランチアは他の種目より【人格的成長】【自己受容】【環境制御力】などの心理的ウェルビーイングにおいて、より有意なプログラムになっている。しかし介護予防や筋力トレーニングと比べ、【身体的フレイル予防】の観点が不足していることが課題だと推察できた。
 
相違点としては、チームで発表の場も定期的に設けることとで、目標が定まり、新たなコミュニティが生まれている。
 
 
 
人生100年時代のウエルビーイングやフレイル予防のためには、老年期前の早期から、身体的、精神・心理的、社会的を含む多面的なアプローチが必要である。このことから、グランチアの可能性は今後ますます広がる。
 
  
 
今後も、心理的な促進要因をさらに具体的に特定していく。その要素を最大化し、本研究の成果を活かし、高齢者が未来に向けて、再び社会に関与し、生きていこうとする力を引き出すアプローチをプログラムに組み入れていく。
 
今後も、心理的な促進要因をさらに具体的に特定していく。その要素を最大化し、本研究の成果を活かし、高齢者が未来に向けて、再び社会に関与し、生きていこうとする力を引き出すアプローチをプログラムに組み入れていく。

2022年10月21日 (金) 22:58時点における版

- 50代からのチアダンス「グランチア」 -

太刀山  美樹 / 九州大学大学院 新統合領域学府 ユーザー感性学
Miki Tachiyama / The Graduate School of Integrated Frontier Sciences Kyushu University 

Keywords: senior, frailty, Psychological well-being, Grand-cheer, 

Abstract
For well-being in the age of 100 years of life, a multifaceted physical, psycho-psychological, and social approach is necessary from the early stage before old age. The results of this study infer that "Grand-cheer," which incorporates the inclusive design perspective, is a program that improves psychological wellbeing, such as [personal growth] and [self-acceptance], compared to other disciplines such as care prevention and yoga.


背景と目的

老年期における高齢者の健康や介護は、取り巻く環境への対策に比べ、子育ての終了と退職、老化や介護、配偶者の死離別などによる不安やこころのケアについては十分とは言えない現状がある。

そこで本研究は、高齢者の健康増進のための各種運動プログラムを対象に、老化による虚弱(フレイル)の予防と心理的ウェルビーイングの視点から、それぞれのプログラムを調査し、課題を抽出する。さらに複数のプログラムの中から、インクルーシブデザインの特徴を持つと考えらえる50代からのチアダンス「グランチア」について、他の運動プログラムとの類似点・相違点を明らかにし、老化による虚弱(フレイル)の予防と心理的ウェルビーイングを向上させる要件を導き出すことを目的とする。

※「グランチア」とは、身体的な運動はもちろん、成長の自覚と自己受容などの心理的ウェルビーイングを重視し、同世代や次世代まで応援(チア)して、同心円的に互いに影響を与えるチアダンスである。

※※フレイルとは、高齢期に生理的予備能が低下することでストレスに対する脆弱性が亢進し、不健康を引き起こしやすい状態。転倒や日常生活の障害、要介護の発生、死亡のリスクを増大させる要因となる。 

※※※心理的ウェルビーイングとは、成長を自覚し人生に目的を持ち、自己決定により、他者と良好な関係を築いている状態を指す。


研究の方法

図1.種目間比較 心理的well-being
図2.会員 心理的well-being

本研究は、改訂日本版フレイル基準(J-CHS基準)、岩野らの心理的ウェルビーイング日本語尺度短縮版(2015年)から指標を抽出し、アンケート調査をおこなった。

1 プログラム指導者 107人 (20代〜60代)にアンケート  介護予防・筋トレ・ヨガ・ズンバ・フラダンス・クラッシックバレエ・グランチア の指導者に、 フレイル予防と心理的ウエルビーイングを意図して指導しているか調査。判定は「意図していない」から「とても意図している」の4段階で判定した。 「とても意図している」に着目、25~50%%を△、50〜75%を◯、75%〜を◎とした。

2 グランチアメンバー 42人(52〜84歳 平均年齢64.4歳)にアンケート  入会時と現在感じる身体とこころの変化を調査。判定は「変化していない」から「とても変化している」の4段階で判定。「とても変化している」が、入会時から10%以上向上した項目に着目した。

結果

1指導者アンケート  ・フレイル予防では 、介護予防・筋トレ・ヨガは、筋力や疲労感、歩行速度など4項目、ズンバ・フラダンス・グランチア・バレエは2項目を意図していた。【身体的活動低下への予防】は指導者全員が意図。  ・心理的ウエルビーイングでは、介護予防や筋トレは全体的に低く、ズンバ、フラダンス、グランチアは全項目意図していた。グランチアは全体的に高め、特に【人格的成長】【人生の目的】【自己受容】が高い

2 メンバーアンケート   入会時と現在の変化は、フレイル予防は変化をあまり感じられず、心理的ウェルビーイングの3項目が向上した。【人格的成長】 「新しいことに挑戦した新たな自分を発見するのは楽しい」は、約30%上昇した。「成長し続けたい」「新たな挑戦することは重要だ」「新たな経験が楽しみ」が向上した。 【自己受容】  「自分自身が好き」「ありのままの自分を受け入れる」「自分に肯定的」が伸びた。 【環境制御力】 「周囲に順応して自分を生かす」「柔軟に対応できる」が20%向上した。


考察

 西田(2000)の先行研究では、成人女性の心理的ウェルビーイング に関する研究にて、【人格的成長】は、25~34歳まででは強いが55~65歳は下がり、【自己受容】は55〜65歳 緩やかに下がっている。」としている。

しかしながら本研究では、グランチアの55~65歳で、【人格的成長】【自己受容】、また 【環境制御力】も向上していた。 指導者アンケートでも、他種目より「人格的成長」「人生の目的」「自己受容」を意図していた。

これは、被験者がほぼ全員が初めてのゼロからの挑戦で、自己受容や成長を体感しやすかったと考えられる。非日常のステージウエアや軽快な音楽で自己が解放され、また大勢の前で披露する発表会を契機に「一体感」「達成感」「チーム内での役割」を感じ、家族・友人・若い世代からも賞賛や声援も加わり、さらなる成長を目標と定め、周りとのコミュニケーションや社会との繋がりをより強く実感していったのではと考える。

こうしたことでグランチアは、【人格的成長】【自己受容】【環境制御力】など、心理的well-beingを高めている要因と推察される。

まとめ

高齢者の運動種目において、介護予防・筋力トレーニング・ヨガは、心理面より【身体的フレイル予防】をより重視。 ズンバ、フラダンス、グランチアなどのダンス系種目は、身体面の意図が少なく、心理的ウェルビーイングの重視の点が類似していた。ダンス系プログラムの中でもグランチアはより心理的ウェルビーイング6項目全般が高く、特に【人格的成長】【自己受容】【環境制御力】が高く、身体的側面のアプローチ不足が課題である。 他の種目との相違点は、非日常と自己の解放、チームで発表の場も定期的に設けることとで、目標が定まり、新たなコミュニティが生まれていることであると推察される。

人生100年時代のフレイル予防とウエルビーイングのためには、老年期前の早期から、身体的、精神・心理的、社会的の多面的なアプローチが必要である。このことから、グランチアの可能性は今後ますます広がる。

今後も、心理的な促進要因をさらに具体的に特定していく。その要素を最大化し、本研究の成果を活かし、高齢者が未来に向けて、再び社会に関与し、生きていこうとする力を引き出すアプローチをプログラムに組み入れていく。


グランチア紹介 動画

脚注


==参考文献・参考サイト== 

  • 西尾悠佑 (2016) 心理臨床科学 学会誌, Vol. 6, No. 1, Pp. 43-52
  • 西田 裕紀子 (2000) 教育心理学研究, 48, 433-443 433
  • 岩野卓(2015) 行動科学,54(1),9-21.
  • 健康長寿ネット https://www.tyojyu.or.jp/net/byouki/frailty/about.html (2022年10月10日閲覧)