「バイオフィリック要素に着目したインクルーシブな遊具広場の整備計画の研究」の版間の差分

提供: JSSD5th2022
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 2022年10月16日に開催された障がいのある子供たちとその家族に向けのワークショップの観察調査を行った。調査は、舞鶴公園の実証実験会場で行われ、参加家族は、6家族であった。
 
 2022年10月16日に開催された障がいのある子供たちとその家族に向けのワークショップの観察調査を行った。調査は、舞鶴公園の実証実験会場で行われ、参加家族は、6家族であった。
  
 
 観察の結果は表3に示す。整備項目内に、観察から得られたバイオフィリック要素に関連する課題を対応させたマトリックスを作成した。特に知的障がいのある1人の子供は、自然要素に対して大きな興味を示した。観察から得た要点は以下に示す。
 
 観察の結果は表3に示す。整備項目内に、観察から得られたバイオフィリック要素に関連する課題を対応させたマトリックスを作成した。特に知的障がいのある1人の子供は、自然要素に対して大きな興味を示した。観察から得た要点は以下に示す。
 
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 1、肢体不自由の子供は、車椅子での移動が多い。そこで、子供の力と能力に合う遊び方のデザインや車椅子の移動性の保障、車椅子の置き場のデザインが必要だと考えられる。
 
 1、肢体不自由の子供は、車椅子での移動が多い。そこで、子供の力と能力に合う遊び方のデザインや車椅子の移動性の保障、車椅子の置き場のデザインが必要だと考えられる。
  
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①(価値)季節性の植栽を植える、匂いや手触りなどを感じられる空間のデザイン②(課題)弱視の子供にとって、広場内で十分な照度と明度差が大事
 
①(価値)季節性の植栽を植える、匂いや手触りなどを感じられる空間のデザイン②(課題)弱視の子供にとって、広場内で十分な照度と明度差が大事
 
  
 
===障がいのある子供たちの保護者向けのアンケート調査の結果===
 
===障がいのある子供たちの保護者向けのアンケート調査の結果===

2022年10月26日 (水) 15:36時点における版


ウー・ヤーファン / 九州大学 大学院芸術工学府
Yafang WU / Kyushu University 
平井 康之 / 九州大学 大学院芸術工学研究院
Yasuyuki HIRAI / Kyushu University 

Keywords: Inclusive playground, Biophilic design


Abstract
The design concept of inclusive playground has spread in Japan. According to the survey, children with disabilities have a high demand for contacting with nature, but due to their own barriers and low accessibility in natural environments, they have very few opportunities to contact nature. From the perspective of biophilic design, this study explores ways to use natural elements in inclusive playground.



背景と目的

 福岡市では、みんなにやさしい都市の実現に向けて、2021年に「インクルーシブな遊具広場整備計画」を立て、整備指針の制定に取り組んでいる。

 現在、全国の先進事例を見ると、遊具自体に関するデザイン研究が多く見られるが、広場における多彩な自然要素のあり方に関する研究は数少ない。

 本研究では、インクルーシブな遊具広場整備計画を対象に、自然を重視するバイオフィリックデザインの視点から、遊具広場の現状と課題を調査し、遊具広場に包含されるバイオフィリック要素と、その具体的な整備について、ユーザーの課題と要望を考察する。考察をもとに今後のインクルーシブな遊具広場の整備指針に活かせるバイオフィリックデザイン要件とデザイン提案を示すことを目的とする。



研究対象

 本研究は、福岡市のインクルーシブな遊具広場整備計画を対象に行う。ユーザーを3~12歳の障がいのある子供たちとその家族とする。



研究の方法

図1 研究の流れ

 本研究では、文献調査とフィールド調査を行う(図1)。まず、文献調査では、インクルーシブな遊具広場の現状と、バイオフィリックデザインを調査し、遊具広場におけるバイオフィリック要素を抽出する。次に、フィールド調査の現場観察では、障がいのある子供たちが遊ぶ時に発生した自然遊びとその課題について調査する。アンケート調査では、障がいのある子供たちの保護者にバイオフィリック要素と具体的な整備項目に対する課題や要望について調査する。



文献調査の結果

インクルーシブな遊具広場における自然要素の課題

表1 バイオフィリックデザインの指標(Kellert, 2015)

 先行研究より、障がいのある子供たちは、豊かな自然環境に親しみ遊び体験に対するニーズが高いことが分かった。[1]

 しかし、その子供たちは、自然に触れ合い機会が極めて少ない。その原因は、自然環境へのアクセスを阻む物理的なバリアやコントロールしづらい安全面の問題などである。[2] そのためインクルーシブな遊具広場には、自然要素を提供し、さまざまな自然遊び体験を創出するなど、触れ合いやすい遊び環境が重要であると考えられる。

バイオフィリックデザインの考え方

 バイオフィリックデザインとは、人間は生まれながら自然を好むことを尊重し、人間の生活環境に自然要素を積極的に取り組むためのデザインの考え方である。バイオフィリックデザインの専門家S.R.Kellertが提出したバイオフィリック指標[3]を表1に示す。

インクルーシブな遊具広場におけるバイオフィリック要素の捉え方

表2 遊具広場のバイオフィリック要素と整備項目

本研究では、バイオフィリックデザインの包括的な方法論が、自然要素の体系化に応用でき、今回のインクルーシブな遊具広場のデザインプロセスに応用できると考えた。バイオフィリックデザイン調査と整備委員会が行ったアンケートの結果[4]を全体的に考察し、インクルーシブな遊具広場における必要なバイオフィリック要素と具体的な整備項目を抽出する(表2)。遊具広場の要素との関連性を検討した。



フィールド調査

現場観察の結果

 2022年10月16日に開催された障がいのある子供たちとその家族に向けのワークショップの観察調査を行った。調査は、舞鶴公園の実証実験会場で行われ、参加家族は、6家族であった。

 観察の結果は表3に示す。整備項目内に、観察から得られたバイオフィリック要素に関連する課題を対応させたマトリックスを作成した。特に知的障がいのある1人の子供は、自然要素に対して大きな興味を示した。観察から得た要点は以下に示す。

表3 観察の結果

 1、肢体不自由の子供は、車椅子での移動が多い。そこで、子供の力と能力に合う遊び方のデザインや車椅子の移動性の保障、車椅子の置き場のデザインが必要だと考えられる。

バイオフィリック要素を考えると以下の注意すべき点がある。①(課題)車椅子が芝生での走行性が低い②(課題)地面に落ちた木の棒、別所からの砂がバリアになる


 2、発達障がい・知的障がいのある子供は、自然要素と隠れ家的空間に親しむ傾向が他の子より強い。そこで変化に富んだ緑と花や、子供の秘密空間を提供するのが必要だと考えられる。バイオフィリック要素を考えると以下の注意すべき点がある。

①(課題)季節性の植栽、低く手で届ける木など、尖った部分を整える必要がある②(価値)ちょっと狭く居心地の良い落ち着ける空間のデザイン③(課題)ひとり遊びが中心で混雑を苦手とする


 3、視覚障がいのある子供は、視覚以外の感覚が発達している。そこで、五感を刺激できる遊び方や素材の変化が必要だと考えられる。バイオフィリック要素を考えると以下の注意すべき点がある。

①(価値)季節性の植栽を植える、匂いや手触りなどを感じられる空間のデザイン②(課題)弱視の子供にとって、広場内で十分な照度と明度差が大事

障がいのある子供たちの保護者向けのアンケート調査の結果

 バイオフィリック要素と具体的な整備項目に対する困る点や要望について調査するため、障がいのある子供たちの保護者向けのアンケート調査を行った。アンケートの事項を表4に示す。その結果、3名の保護者から回答とアドバイスが得られた。

表4 アンケート質問項目

 アンケートの結果は表5に示す。 全体的に見ると、「樹木」や「芝生広場」、「音を楽しめる遊具」に関して、保護者からは積極的な回答が多かった。「屋根付きベンチ」や「手触りや足の感覚を楽しめる遊具」、「視界の良さ」に関して、保護者から困る点が多かった。具体的な課題と改善アイデアは以下に示す。

表5 アンケートの結果


「屋根付きベンチ」について、「屋根付き休憩場が少ない」、「遊具とベンチが離れてる」という課題がある。「遊具をもっと離して、ベンチや雨宿り休憩場所を作る」という改善アイデアがある。

「手触りや足の感覚を楽しめる遊具」について、「通路に設置してあるのであぶない気がする」、「他の子の通行の邪魔になりやすい」、「すぐに飽きる。落ち着いて遊べない。」という課題がある。「複合遊具でなく、数カ所に独立させたほうがいい」という改善アイデアいがある。

「視界の良さ」について、「遊具のレイアウトによる見通しが悪い」、「後ろの遊具の見通しが悪い」、「自閉症や発達障がい児の中にはそういう視界の良い場所を好まない子も結構いる」という課題がある。 「遊具が複合しなくて、単独の方が子供たちもぶつかることなく安全に遊べるし、座って見守っていても見通しよく確認しやすい」という改善アイデアがある。

 他的に、現在の遊具広場にまだ実現していない「昆虫・野生動物」や「生物に似た人工物」、「通り抜けるスポット」、「地形の起伏」に関しては、あまり必要ではないとの回答が多かった。


 アンケート改善は以下の5点がある。①選択肢を5段階評価にする。②設問文を分かりやすくする、必要な註釈を加える。③回答時の天気や照度、温度を記録するための設問を加える。④障がいのある子供たちの目線からの質問を考える。例えば、「広場内視界の良さ」を聞く質問について、保護者にとって視界の良い場所が安心であるが、発達障害の子供の中に隅っこで一人落ち着くことが好きな子も多くいる。



考察

 今回の現場観察やフィールド調査により、まず、インクルーシブな遊具広場において、子供たちは自然遊びに好みを持っていることが示唆された。次に、障がいの特性ごとに、子供たちがバイオフィリック要素の整備に違う課題と要望を有していることが示唆された。

 子供は、それぞれの障がいの特性や個性が持っているので、あらゆる子供のニーズを一つのデザインで満たすことはできない。そのようなバリアフリーコンフリクトを意識しながら、物事の両面性から考えるデザインが重要である。



まとめと今後の展望

 本研究では、文献調査やフィールド調査で、インクルーシブな遊具広場におけるバイオフィリック要素と整備項目を導出し、障がい別の親子ユーザー目線からその整備項目に対するデザイン課題を考察した。

 今後の展望として、引き続き障がいのある子供たちの保護者によるアンケート調査を行い、バイオフィリック要素に関連する課題を収集し、インクルーシブな遊具広場整備計画指針検討員会で検討されている評価項目と連動する。最後、デザイン解決策を提供し、評価を行う予定である。



脚注

  1. 「第2回インクルーシブな遊具広場整備指針検討委員会」アンケート中間報告(参照日:2022.10.20)
  2. みーんなの公園プロジェクトhttps://www.minnanokoen.net(参照日:2022.10.20)
  3. Stephen R. Kellert, Elizabeth F. Calabrese, The Practice of Biophilic Design. 2015(参照日:2022.10.20)
  4. 「第2回インクルーシブな遊具広場整備指針検討委員会」アンケート中間報告(参照日:2022.10.20)


参考文献・参考サイト