バイオフィリック要素に着目したインクルーシブな遊具広場の整備計画の研究

提供: JSSD5th2022
2022年10月20日 (木) 15:02時点におけるウー・ヤーファン (トーク | 投稿記録)による版
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ウー・ヤーファン / 九州大学 大学院芸術工学府
Yafang WU / Kyushu University 
平井 康之 / 九州大学 大学院芸術工学研究院
Yasuyuki HIRAI / Kyushu University 

Keywords: Inclusive playground, Biophilic design


Abstract
The design concept of inclusive playground has spread in Japan. According to the survey, children with disabilities have a high demand for contacting with nature, but due to their own barriers and low accessibility in natural environments, they have very few opportunities to contact nature. From the perspective of biophilic design, this study explores ways to use natural elements in inclusive playground.



背景と目的

 福岡市では、みんなにやさしい都市の実現に向けて、2021年に「インクルーシブな遊具広場整備計画」を立て、整備指針の制定に取り組んでいる。

 現在、全国の先進事例を見ると、遊具自体に関するデザイン研究が多く見られるが、広場における多彩な自然要素の活かし方に関する研究は数少ない。

 本研究では、インクルーシブな遊具広場整備計画を対象に、自然を重視するバイオフィリックデザインの視点から、遊具広場の現状と課題を調査し、遊具広場に包含されるバイオフィリック要素と具体的な整備について、ユーザーの困る点と要望を考察する。考察をもとに、今後のインクルーシブな遊具広場の整備指針に活かせるバイオフィリックデザイン要件とデザイン提案を示すことを目的とする。



研究対象

 本研究は、福岡市のインクルーシブな遊具広場整備計画を対象に行う。ユーザーを3~12歳の障がいのある子供たちとその家族とする。



研究の方法

図1 研究の流れ

 本研究では、文献調査とフィールド調査を行う(図1)。まず、文献調査では、インクルーシブな遊具広場の現状と、バイオフィリックデザインの考え方を調査し、遊具広場におけるバイオフィリック要素を抽出する。次に、フィールド調査の現場観察では、障がいのある子供たちが遊ぶ時に発生した自然遊びとその課題について調査する。アンケート調査では、障がい児の保護者にバイオフィリック要素と具体的な整備項目に対する困る点や要望について調査する。



文献調査の結果

インクルーシブな遊具広場における自然要素の課題

表1 バイオフィリックデザインの指標(Kellert, 2015)

 先行研究より、障がいのある子供は、豊かな自然環境に親しみ遊び体験に対するニーズが高いことが分かった。[1]

 しかし、その子供たちは、自然に触れ合い機会が極めて少ない。その原因は、自然環境へのアクセスを阻む物理的なバリアやコントロールしづらい安全面の問題などである。[2]そのため、インクルーシブな遊具広場に触れ合いやすい自然遊び環境の保障が重要である。遊具以外、表情豊かな自然要素を提供し、さまざまな自然遊び体験を創出するのが大切である。

バイオフィリックデザインの考え方

 バイオフィリックデザインとは、人間は生まれながら自然を好むことを尊重し、人間の生活環境に自然要素を積極的に取り組むためのデザインの考え方である。バイオフィリックデザインの専門家S.R.Kellertが提出したバイオフィリック指標[3]を表1に示す。

インクルーシブな遊具広場におけるバイオフィリック要素の捉え方

表2 遊具広場のバイオフィリック要素と整備項目

 先行研究と整備委員会が行ったアンケートの結果[注]を全体的に理解してから、インクルーシブな遊具広場における必要なバイオフィリック要素と具体的な整備項目を抽出する(表2)。本来の意味が変わらない前提で、遊具広場のシーンに当てはめるために、指標に対して適宜の添削と言い換えを行った。



フィールド調査

現場観察の結果

表3 現場観察から得た課題の抜粋

 2022年10月16日、障がいのある子供とその家族に向けのワークショップが舞鶴公園の実証実験会場に開催し、参加者が6家族である。

 観察では、子供たちとその家族が「遊具・遊び」、「アクセス面」、「安全面」という三つの方面には、バイオフィリック要素のある整備項目に感じた困る点といい体験が見られる(表3)。特に知的障がいのある1人の子供が自然要素に対して大きな興味を表現した。観察から得た要点は以下に示す。

 1、肢体不自由の子供は、車椅子での移動が多い。そこで、子供の力と能力に合う遊び方のデザインや車椅子の移動性の保障、車椅子の置き場のデザインが必要だと考えられる。バイオフィリック要素を考えると以下の注意すべき点がある。

①車椅子が芝生での走行性が低い

②地面に落ちた木の棒、別所からの砂がバリアになる

③車いすで見晴らしのよい丘に登れて、普段と違う見渡し方をすれば気分転換になる


 2、発達障がい・知的障がいの子供が自然要素と隠れ家的空間に親しむ傾向が他の子より比較的に強いことを気づいた。そこで、変化富みの緑と花や自由自在に走り回れる広さ、子供の秘密空間を提供するのが必要だと考えられる。バイオフィリック要素を考えると以下の注意すべき点がある。

①季節性の植栽、低く手で届ける木などを植える同時、刺さる部分を整える必要がある

②ちょっと狭くすっぽりと入る、落ち着ける空間のデザイン

③適切な広さを保障する


 3、視覚障害の子供が視覚以外の感覚が発達している。そこで、五感を刺激できる遊び方や素材の変化が必要だと考えられる。バイオフィリック要素を考えると以下の注意すべき点がある。

①季節性の植栽を植える、匂いや手触りなどを感じられる空間のデザイン 

②弱視の子供にとって、広場内の十分な明るさが大事で、光との遊び方も楽しい

障がい児保護者向けのアンケート調査の結果

 障がい別の子供がバイオフィリック要素とそれぞれの整備項目に対する困る点や要望を調査するため、障がい児の保護者向けのアンケートを作った。アンケートの事項を表4に示す。その結果、現時点で1名の保護者から回答が得られた。

表4 アンケート質問の大綱



考察

 今回の現場観察やフィールド調査により、まず、インクルーシブな遊具広場において、子供たちは自然遊びに好みを持っていることが検証した。次に、障がいの特性ごとに、子供たちがイオフィリック整備にそれぞれ違う課題と要望を有していることが明らかになった。「遊具・遊び」、「アクセス面」、「安全面」、「情報面」という四つの方面からバイオフィリック整備のあり方を捉えられる。

 子供がそれぞれ障がいの特性や個性が持っているので、あらゆる子供のニーズを一つのデザインで満たすことは適用できない。例えば、芝生広場は転倒落下のような危険を防げるが、車椅子の子供にとって芝生での走行が難しい。その物事の両面性から考えるデザインが重要である。




まとめと今後の展望

 本研究では、文献調査やフィールド調査で、インクルーシブな遊具広場におけるバイオフィリック要素と整備項目を導出し、障がい別の親子ユーザー目線からその整備項目に対するデザイン課題を発見した。

 今後の展望として、引き続き障がい児の保護者によるアンケート調査を行う上で、ユーザーの困る点と要望に答えるデザイン解決策を提供し、評価を行う予定である。



脚注

  1. 「第2回インクルーシブな遊具広場整備指針検討委員会」アンケート中間報告(参照日:2022.10.20)
  2. みーんなの公園プロジェクトhttps://www.minnanokoen.net(参照日:2022.10.20)
  3. Stephen R. Kellert, Elizabeth F. Calabrese, The Practice of Biophilic Design. 2015(参照日:2022.10.20)


参考文献・参考サイト