次代のファブ施設のあり方について

提供: JSSD5th2022
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ーSTEAM型学習におけるファブ施設の活用についてー

張 端壮 / 九州大学大学院 芸術工学府 デザインストラテジー専攻
CHO Tanso / Department of Design Strategy, Graduate School of Design, Kyushu University
杉本美貴 / 九州大学大学院 芸術工学研究院
SUGIMOTO Yoshitaka / Faculty of Design, Kyushu University


Keywords: Social Design, Future Design, Fabrication Laboratory, STEAM  


Abstract
In this study, I investigate the problems in the management of current fabrication laboratories, the business models of them, and the role that society expects of them. I design the service and business model based on the investigations and propose the way of the future fabrication laboratory.


背景と目的

 近年3Dプリンタやレーザーカッターをはじめとしたデジタルファブリケーション機器の高性能化、低価格化、小型化により、一般市民の個人によるものづくりが可能になった。そのような個人によるものづくりを支援する場として、デジタルファブリケーション機器が設置されたファブ施設がある。ファブ施設は誰もがアイデアを形にできる場として社会的意義のある施設である一方、利用者の伸び悩みや採算性における課題からその存続が危ぶまれている。そのような中でSTEAM型学習における「創造」が行える場所として地域のファブ施設を活用する動きが高まっている。本研究はファブ施設の現状の課題や事例調査を行い、地域のSTEAM学習センターとして持続可能な未来のファブ施設のあり方を考察する。

研究の方法

  • 調査①:STEAM型学習におけるファブ施設の活用についての先行研究を調査する。
  • 調査②:現在ファブ施設がどのようなビジネスモデルで運営されているのかを明らかにするために、事例調査を行った。
  • 調査③:現在ファブ施設が抱えている課題と今後の展望について明らかにするためにファブ施設運営者に向けてアンケート調査を行なった。
  • 調査④:STEAM教育においてファブ施設及びデジタルファブリケーションが現在どのように活用されているのかを明らかにするために文献調査、事例調査を行った。

結果

  • 結果①:論文検索サイトサイニーにてデジタルファブリケーション、STEAMについて検索したところ、学校へのファブ施設の導入を前提とした授業カリキュラムや学習環境の構築とその検証を行う研究はあるが、STEAM型学習を実践する場所として既存のファブ施設を活用することについては述べられていない。そこで本研究ではSTEAM型学習への活用を前提とした既存のファブ施設の在り方について考察し、デザインして検証を行う。
  • 結果②:現在のファブ施設は行政が行なっているものと民間が行なっているものがある。ファブ施設は「インキュベーション型」「公共複合施設型」「工作工房型」「工作工房型」「ホームセンター型」「デザイン・設計事務所型」「製造業型」「コンサルティング・機材販売型」「学習塾型」「大学型」「スペース型」の11のビジネスモデルに分類することができた。民間のファブ施設でユーザーの利用料のみで運営している施設は非常に少ない。
  • 結果③:現在のファブ施設が抱える課題として「新規ユーザーの獲得」「ユーザーの定着度」「初学者のものづくりに対する認識の違い」「機材の陳腐化」「安全性」「継続的な運営のための資金確保及び収益向上」が挙げられた。また今後のファブ施設のあり方については「社会課題に対してものづくりで貢献するユーザーが増えることを期待する」「アートや芸術との結びつきを強化したい」「教育、ビジネス両面でデジタルファブリケーションエンジニアリングの教育を充実させる」「デジタルファブリケーションを生涯教育として学べる場」「新しいものづくりを発信し、社会実証する場」が挙げられた一方で、「ファブ施設それぞれの考え方があるため、一概には言えない」という意見が挙げられた。
  • 結果④:「GIGAスクール構想」(文部科学省)の実現を想定した「未来の教室」(経済産業省)では、AI型教材や講習動画、個別学習計画・記録などのデジタル技術を活用し、生徒個人が知識を効率的に学習する「学びの自律化・個別最適化」と現実の社会課題や生活課題、科学技術などに当事者として向き合い、思考・判断・表現を行う「学びの探求化・STEAM化」の二つを教育における基本コンセプトとしている。STEAM型学習を行う上で、実際に手を動かして創造できる場が身近にあることが望ましい。そのため圃場や機械を有する高校の農業科や工業科等の専門学科の施設や民間のファブ施設を「地域のSTEAM学習センター」として活用する動きが高まっている。

考察

現在デジタルファブリケーションを活用したSTEAM教育の事例は機材によるものづくりを主軸とし、機材の周知や操作方法を指導するものだが、今後は機材が一般化し、学習の表現ツールの一つとして活用されるようになると思われる。その際生徒が取り組むテーマ及びものづくりは多岐に渡り、先生が研修によって得られる知識では対応が困難になるため、幅広い専門知識を有する人材が必要になる。新たに機材や人材を学校に設置するよりも、既に機材や人材が揃うファブ施設を利用するべきである。

まとめ

 今後の展望として、STEAM型学習を実践する場として、ファブ施設が活用される際の課題や考慮すべき点について追調査を行い、次代のファブ施設の提案を行う。

脚注


参考文献・参考サイト

  • 浅野大介(2021) 教育DXで「未来の教室」をつくろう 学陽書房
  • マッシモ・メニキネッリ (2020) ファブラボの全て ビー・エヌ・エヌ新社
  • 総務省 (2015) ファブ社会の基盤設計に関する検討会報告書
  • 未来の教室実証事業 https://www.learning-innovation.go.jp/ (2022年10月19日 閲覧)