空間から読み解くオルタナティブ・スペースのあり方について

提供: JSSD5th2022
2022年10月27日 (木) 09:00時点における米娜 (トーク | 投稿記録)による版 (カフェ併設タイプオルタナティブ・スペースのケーススタディ)
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ー日本と中国の比較を通してー


米 娜 / 九州大学大学院 統合新領域学府 ユーザー感性学専攻
MI NA / Graduate School of Integrated Frontier Sciences, Kyushu University

Keywords: Alternative Space, Exhibition Space 

Abstract
This research is for the purpose of interpreting alternative space relationship between Japan and China from the perspective of space construction. Summarizes the characteristics of different type by Semi-structured Interview and participant observation, which analyze the influence of Alternative Space on behavior of visitors.


背景と目的

アジア地域における文化芸術の枠組みの拡がりを背景に、美術館やギャラリーなど芸術鑑賞の場以外に、欧米由来の個人や民間団体によって非営利で運営されるオルタナティブ・スペースが増えている。かつては大都市に限られる動きであったが、現在は地方各地に広がっており、その活動形態も多様化している。先行研究により、現在のオルタナティブ・スペースは初期の抵抗的な性格が薄くなると同時に、交流の場といった特徴が顕著になっている[1] 。筆者は、北京市と河北省における10カ所のオルタナティブ・スペースのフィールド調査を実施し、その特徴からいくつかのタイプに分類したが、調査のなかで、現在活動しているオルタナティブ・スペースには多様な空間配置や活動形態があることがわかった。しかし、その実態や特徴を全体的に把握することは困難な状況である。オルタナティブ・スペースの活動形態は、空間配置とその利用方法に影響を与えていると考えられるが、空間配置の視点から、オルタナティブ・スペースの特徴や役割を明らかにした研究は少ない。そこで本研究は、日本と中国におけるオルタナティブ・スペースの実態や特徴を把握し、それらの比較を通して、オルタナティブ・スペースの利用状況と空間の関係を明らかにすることを目的とする。
今回の発表では、先述した、中国のオルタナティブ・スペースの調査で分類した6つのタイプの一つである「カフェ併設タイプ」に絞って調査した結果を報告する。



調査対象と調査方法の概要

調査対象は、日中における複数のオルタナティブ・スペースとし、以下の調査から、現在活動している日中の「カフェ併設タイプ」のオルタナティブ・スペースとそれらの展示空間の特性を考察する。
1.文献調査:日中におけるオルタナティブ・スペースの先行研究を調査し、「カフェ併設タイプ」のオルタナティブ・スペースの現状と特徴を整理する。
2.フィールド調査:現在活動している「カフェ併設タイプ」のオルタナティブ・スペースの主宰者に対する半構造化インタビュー調査を行い、オルタナティブ・スペースの活動理念、空間配置との関係性についての情報を収集する。



文献調査の結果

先行研究により、中国では、一部のオルタナティブ・スペースはカフェを経営することで展示空間の資金を調達していることがわかった。そのため、アートマケットに左右されず、アート作品の展示に関する独立性と純粋さがある程度、担保される[2]。現代日本におけるマクロ・アート・スペース(オルタナティブ・スペースも含まれている)では、取り扱うコンテンツはアートに限らず、むしろ衣食住に関わりながら暮らしや生きかたを提案するものが半数を超える。また、ジャンルを超えて、さまざまな人にスペースを貸し出すケースや、業種の壁を越えて空間や時間を共有できるワークスペースを構える事例も多く見られる 。 多目的利用を促す傾向が増加するのに伴い、2000年から2009年にかけてカフェ運用型が増加し、さらにコニュニティ形成を意図した事例も増えている。カフェ、あるいはアートに特化した数自体が大きく減少しているわけではないが、地域に人を呼び込むことや、地元住民のたまり場となる傾向がある[3]




カフェ併設タイプオルタナティブ・スペースのケーススタディ

本発表では、日本におけるカフェ併設タイプのオールタナティブスペースのケーススタディ対象として、福岡市にある「月白喫茶室・展示室」を取り上げる。

場所選定

福岡市中央区にある30年の空き民家を改造し、建築から内装まで主宰者と共同運営者がともにデザインした空間である。商業エリアから少し離れた住宅エリアにあることにより、アクセスが少し難しい一方で、発見したときに驚きを与える。

空間配置

対象は、月白喫茶室と月白展示室から構成されている。展示空間である月白展示室は、個室形式となっている。カフェ空間である月白喫茶室はカウンター1台と5つの席が設置されている。主宰者の「おひとりで、あるいはおひとりであるかのようにお過ごしいただきたい」との思いを込めて作られた。また、既存の古い構造の建物から改造されたという点では、制限がある一方で、展示に活かされる構造、廊下、室外空間などもある。

展示空間と展示内容・作品の関係

展示企画は公募せず、主宰者が、アーティストとともに、展示企画やコンテンツを考えることが多い。主宰者の空間に対する直感によるところが多く、展示作品の配置についても、展示企画に合わせて、個室以外の空間に作品を置くこともある。物理空間だけではなく、展示するときの室内照明、空間内に流す音楽なども展示を企画する時の要素である。主宰者は、良い作品を来場者に伝えるために、毎回の展示は準備期間を長くとる価値があるという。

来場者の利用傾向

展示はほとんど予約制であり、予約は、喫茶室におけるワンオーダー付きことのため、鑑賞を目的とした来場者は、展示空間とカフェ空間の両方を利用することが多い。主宰者によると、カフェを利用する来場者は、カフェ空間のみ利用する傾向がある。

主宰者の思いについて

来場者、またはアーティストとの長く続くネットワークを作りたいわけではなく、「いま」「その場」にある関係を築き、感じたいという思いから空間を立ち上げたという。カフェ空間の利用者が増えている一方で、展示を観に行く来場者が多いとは言えない現状がある。カフェ空間としてだけではなく、展示の場としても認知してもらいたいという。



日中におけるカフェ併設タイプオルタナティブ・スペースの比較

月白喫茶室・展示室(日本・福岡市)、アートスペース貘(日本・福岡市)、 WATER HOUSE(中国・北京市)、POSTPOST SPACE(中国・北京)四つのオルタナティブ・スペースを対象とし、分析する。

空間配置から

日本の福岡市にある月白喫茶室・展示室は一つの展示空間とカウンターが設置される喫茶室空間から作られている。同じく福岡市にあるアートスペース貘はカフェ空間の屋根裏貘と併設されている。中国の北京市にあるWATER HOUSEは、2階のあるLOFT空間を展示空間として作られている。一階の入り口のところにはバーのカウンターが設置されている。同じく北京市にあるPOSTPOST SPACEは、一つの展示空間、ひとつのセレクトショップがカフェ空間を通して繋がる。

空間配置の略図

展示空間と展示内容・作品の関係から

月白展示室の展示空間は来場者一人づつ、40分ほどのゆっくり展示室に滞在し、作品に対峙できる場を作るため、個室の形で作られている。企画により、入り口からカフェまでの廊下空間も展示場として使われる場合もある。展示内容は主に美術作品や伝統工芸などを中心に企画された。また、展示のない時間に、本屋として使われることもある。
アートスペース貘では、絵画、彫刻、映像、写真、インスタレーションとあらゆる表現の作家と関わり、より多くの人々の橋渡しを試みてきた。福岡に限らず各地の作家の企画展も開催しカフェでは上映会、音楽ライブなども行い人と人が出会う場として活動している。展示空間は比較的に独立されているが、カフェは来場者と作家とのコミュニケーションの取れる場として併設されている。
WATER HOUSEでは、フィルム作品の展示・ジャズのライブ・映画の上映などを中心に活動している。多分野のイベントが行われ、空間自体がまだ実験的な段階。2階のあるLOFT空間を展示空間として利用されている。1階のバー空間は、美術作品の展示から音楽のライブ演出のスペースまで多数のモードに変換できる。2階に映像作品の鑑賞スペースが設置されている。
POSTPOSTSPACEでは、デザイン作品(書籍、家具、ファッションなど)やインスタレーション作品などを中心に展示活動を行なっている。展示活動以外、ほかのアート・スペースとの連携ワークショップなども不定期に行われている。展示空間での展示だけではなく、インスタレーションなど作品がカフェ空間やセレクトショップ空間にも点在している。

来場者の利用傾向から

月白展示室、アートスペース貘、POSTPOST SPACEでは、喫茶室として来場する人が多く、WATER HOUSEではイベントを参加するため来場者が多いと見られる。



まとめと今後の展開

カフェ併設タイプオルタナティブ・スペースの特徴は以下にまとめられる。
アートの表現形式が多様で、従来の美術の場よりインタラクティブ・アートやサイトスペシフィックなアート作品が多い、異分野組織とのワークショップなど連携活動も多い。物理的空間が個室の形もあり、狭いからこそ、没入体験が生まれる。カフェのみ利用する来場者においても、身近なところでアート作品を鑑賞できる場を提供できる。
また、カフェ空間の壁など利用し、展示されるアート作品がより、アートに関するコミュニケーションが生まれると見られるだが、空間配置により、それらの来場者が展示空間に入りにくいこともある。展示空間がカフェ空間に融合する場合は、展示空間が独立されている場合より、カフェ空間のみ利用する来場者が展示見にいく可能性が高いと見られる。そして、多ジャンルの演出が多い展示空間には、イベントを参加するを目的とした来場者が、カフェ空間を利用する来場者より多いと見られる。
今後は、各類型の空間へのインタビュー調査を続く上で、参与調査を行うことで、来場者の行為や動線を観察し、空間配置の視点で考察する。



脚注

  1. 井上真央 2014.現代日 本におけるオルタナティブ・スペースをめぐる諸問題.
  2. YAO Juichung, (2011). From 'Alternative Space' to 'Post-Alternative Space'. LU, Peiyi,(Eds.),Creating Spaces: Post Alternative Spaces in Asia. Taipei: Garden City Publishers
  3. 櫻井駿介(2019)「現代日本における小規模民間型アートスペース《micro art space》の流転 :2000 年以降設立の事例から、主宰者たちの眼差しを中心に」東京藝術大学芸術環境創造科


参考文献・参考サイト

  • YAO Juichung, (2011). From 'Alternative Space' to 'Post-Alternative Space'. LU, Peiyi,(Eds.),Creating Spaces: Post Alternative Spaces in Asia. Taipei: Garden City Publishers
  • 井上真央(2014)「現代日本におけるオルタナティブ・スペースをめぐる諸問題」大阪大学大学院文学研究科
  • 櫻井駿介(2019)「現代日本における小規模民間型アートスペース《micro art space》の流転 :2000 年以降設立の事例から、主宰者たちの眼差しを中心に」東京藝術大学芸術環境創造科
  • BankART1929(2009)『アートイニシアティブ リレーする構造』
  • 「月白-tsukishiro.ametsuchi-福岡市中央区六本松1丁目」https://tsukishiro-ametsuchi.com/