デザイン表現におけるリアリティの創出手法の研究

提供: JSSD5th2023
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李効典 / 九州大学 統合新領域学府
Li Xiaodian / Kyushu University Graduate School of Integrated Frontier Sciences


Keywords: Product Design, Visual Design, デザインの表現


Abstract
In recent years, the advancement of 3D computer graphics (3DCG) technology has made it possible to achieve almost the same level of realism in rendering as photographs. In design fields that heavily rely on rendering, many designers are striving for realism. The reason for this is that designers often have to convey their designs to others or present them when the actual physical objects may not yet exist, which necessitates the use of realism to enhance the quality of communication and approach closer to the real thing. Realism encompasses two attributes: authenticity and presence. Therefore, it is not just about the similarity in appearance but also the psychological realism that is important. The pursuit of expression that makes the viewer believe that the object is real is meaningful.


背景と目的

プロダクトデザインやインテリアデザインのような立体デザインの分野において,レンダリングやスケッチはまだ存在しないアイデアや造形をシミュレーションしたり,第三者にイメージさせたりするために活用されてきた。そのためには,デザイン表現における「真実」を写すリアリティの手法の研究が必要である。通常,人々が理解しているリアリティは外観上の類似性である。すなわち,リアリティがあればあるほど,虚構の制作物の外観が実物の外観と似ていることになる。しかし,外観上の類似性だけで,リアリティという概念をうまく説明することはできない。ゆえに,外観の類似性以外,心理上のリアリティも欠かせないと考えられる。心理的なリアリティを実現するには,多角的な側面からリアリティを探ることが必要であると考えられる。

以上の研究背景により,本研究はデザインに活用されているレンダリングを見る時の観者の感性面に焦点を当て,リアリティを感じさせる要素を明らかにし,プロトタイプに取り込むことを本研究の目的とする。

研究の方法

1.まずはリアリティの定義を調査し,その定義から調査対象を選択する。

2.CGは絵画が持つイマジネーションと写真が持つ写実性の両方の属性を含むと考えられる。絵画と写真に関する先行研究を踏まえ,芸術作品におけるリアリティのあり方及び仕組みを調査する

3.そこからリアリティの源となる理論や要素を抽出する。

4.理論や要素をベースにし,パラメータを設定する。

5.パラメータにより,プロトタイプを作成する。

調査の結果

リアリティの定義

まずはリアリティの定義を明確にしておく必要がある。日本語国語大辞典によると,「リアリティ」は①現実,実在②現実性,真実らしさとある。①の意味は,本当に存在していることである。この場合,リアリティは真実と意味が近い。②の意味は,実在するか否かに限らず,心理的に感じるリアリティである。つまり,虚構,真実を問わず,人にそれが真実であると思わせることができればよい。あるいは,それが真実ではないと分かっても,説得力があれば,リアリティがあると言える。この①と②は同じくリアリティの意味であるが,芸術作品の表現対象には,実在しないものが多いので,本稿が主に②の意味を取り上げ,議論を行う。

芸術作品中のリアリティ

文学理論において,二つリアリティと関わるコンセプト”生活におけるリアリティ”と”芸術におけるリアリティ”がある。まず,生活におけるリアリティは客観的な角度から,描写対象に着目する。論述した。見えるもの,感じられるもの,触れるものしか描かない。特に,庶民の生活に身の回りの物やことを描写する。この意味で,芸術作品は,社会内の人々,出来事,および環境をできるだけ忠実に描写し,読者や観客がその作品が彼らの生活経験に関連していると感じることを意味する。

芸術のリアリティとは画家の個人の内面の感情と客観的な現実の間には,辯証的かつ統一的な産物である。画家は現実社会を前提とした素材から出発し,その「芸術における真実」は「生活における真実」から派生する。それから,芸術家個人の美学的理想が作用し,生活の真実を抽出し,再加工し,最終的に芸術的なイメージを創造する。そして,この芸術家個人の適切と考える芸術的なイメージを通じて現実生活を反映しようとする。したがって,”芸術におけるリアリティ”は”生活におけるリアリティ”を超え,特定の歴史的な時代の社会生活の本質と法則をより集中的かつ深遠に反映することができる。

調査対象

ここで,西洋絵画史の近代絵画を主な対象にし,生活におけるリアリティを表現できる印象派,写実主義および,芸術におけるリアリティを表現可能なキュビスムと東洋絵画の水墨画,日本画を選択し,調査対象とする。

考察

西洋画と東洋画に関する調査から,リアリティという概念は単一の定義で正確に要約することが難しいことが明らかになった。たとえば,キュビスムの部分での論述では,リアリティが物体を全面的に表現できることと考えられている。一方,後の写実主義や印象派では,リアリティは身の回りの事物や見える,触れることができるものと定義されている。また,水墨画では,リアリティが生物の気韻を正確に表現する中に存在すると考えられている。絵画の画派によって,リアリティの在り方が異なることが分かった。 

今後について

以上の調査を通じて,抽出した要素を利用し,パラメータを調整し,複数の画像を作成したが,これらの要素が画像にどう影響を与えるか,今は未だ不明である。次の段階で,調査により,影響を解明する予定である。

参考文献・参考サイト

  • 佐々木和彦(1998)『映像のリアリティに関する理論的考察』,年報社会学論集1998,pp47-58
  • 木村美奈子(2015)『描画におけるリアリティとは何か』,心理科学Vol.36 No.1,pp29-39
  • 清水恭平(2015),『実在性の喚起と不在:絵画におけるリアリティ』,金沢美術工芸大学大学院
  • 宮田一乗,笠尾敦司(2001),『CG表現と絵画表現:写実,印象,抽象』,人工知能学会誌Vol.16 No.4,pp567-572
  • 大石和久(2013),『疾走する馬のイマージュ論再考』,The Japanese Society for Aesthetics,p82
  • PENG Liying(2015), The "Real" Concept of Courbet's Realistic Painting under Discussion
  • 並木誠士(2009),画像のリアリティー-絵画史から,VISION Vol.21,No.4,pp227-231
  • 松永拓己(2012),「画の六法」と写実についての一考察,熊本大学教育紀要人文科学No.61,pp193-203