「独立系書店における価値共創プロセスに関する研究」の版間の差分
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*出版科学研究所『2022年度版 出版指標年報』,2022,pp.2-3 | *出版科学研究所『2022年度版 出版指標年報』,2022,pp.2-3 | ||
− | * | + | *浜本茂編集『本の雑誌5月号第46巻5号』本の雑誌社,2021,p.29 |
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+ | *株式会社文化通信社『アルメディア調査による書店数の推移』, https://www.bunkanews.jp/article/219153/(2023年9月16日閲覧) | ||
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2023年10月11日 (水) 21:58時点における版
- 福岡市東区香椎「テントセンブックスクラブ」参与観察を通して -
- 村上良太 / 九州大学統合新領域学府ユーザー感性学感性価値クリエーションコース
- Ryota Murakami / Kyushu University
Keywords:Independent Bookstores, Co-Creation
- Abstract
- The purpose of this study is to elucidate the intentions and awareness of individuals involved in the community of independent bookstores, as well as the value created through co-creation and the process of its construction. In this study, I believed that creating a community and co-creating value with customers is effective for the survival of independent bookstores facing numerous challenges. Therefore, I conducted research with a focus on value co-creation. As a result, I have clarified three values and the respective processes through which each value is created.
背景と目的
まちの書店の衰退が全国的に進む中、独立系書店と呼ばれる個人経営の中小規模書店が増えている。しかし、品揃えやサービスが豊富な、オンライン書店や大型書店へ顧客が流れ、誘客や新しいサービスの創出に課題を抱える独立系書店が多い現状がある。本を揃え来客を待つ従来型の経営では、継続が困難であり、強みや個性を創出し差別化を図るための方法が模索されている。その中でもコミュニティを作り顧客と共に価値を創出することが独立系書店の存続に効果があると考える。そこで本研究では、価値共創に焦点を当て調査を実施した。 本研究の目的は、独立系書店のコミュニティに関わる人々の意思や課題意識および共創によって生まれた価値とその構築プロセスを明らかにすることである。 本研究の成果を活用すれば、独立系書店の経営戦略の立案や運営の改善、独立系書店がもつ潜在的な価値や社会的役割の把握の一助になると考える。
研究の対象と方法
(1) 研究の対象
本研究では、福岡市東区香椎の独立系書店「テントセンブックス」において、2023年4月に設立されたコミュニティ「テントセンブックスクラブ」の関係者を主な調査の対象とする。テントセンブックスクラブは、顧客と店主が関わりながらイベントや交流活動が実施されているという点において対象として適切であり、独立系書店における価値共創のモデルケースとして注目に値すると考える。
(2) 研究の方法
研究は以下の方法で実施する。
①独立系書店の歴史や問題点などの実態を明らかにするために、文献調査と書店へのヒアリング調査を実施する。
②コミュニティ設立と運営のプロセスを明らかにするために、フィールド調査Ⅰ「テントセンブックスクラブへの参与観察」を実施し、設立からイベント実施までのプロセスとコミュニティ関係者の様相を記述する。
③フィールド調査Ⅱ「テントセンブッックス店主へのインタビュー」により、書店運営やコミュニティに関する店主の意思や意識の変化、コミュニティ設立によって生まれた価値を明らかにする。インタビューデータは修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチ(M-GTA)を用いて分析し、理論化する。
④文献調査及びフィールド調査Ⅰ・IIの結果から理論図を作成し、価値共創のプロセスや構造について考察する。
結果
(1)文献調査の結果、独立系書店が増加した背景や問題点が明らかになった。独自性をいかにして創出するかが独立系書店活性化と存続のための要点である。また、ヒアリング調査により、収益性のみに問題の所在を置くのではなく、店主の開業の目的や意思にも焦点を当てて検討する必要があることが明らかとなった。
(2)フィールド調査Ⅰ「テントセンブックスクラブへの参与観察」の結果、コミュニティが発生、拡張し運営されるプロセスやコミュニティの構成員や属性、参加動機や相互関係、交流の様子、書店とコミュニティ・構成員の関係性が明らかとなった。
(3)フィールド調査Ⅱ「テントセンブックス店主へのインタビュー」で得られたデータの質的分析の結果、以下3つの価値がコミュニティによって創出されたことが明らかとなった。
①独自性の強化と創出:元来備えていた独自性がコミュニティ活動により強化され、さらに新たな強みや個性が創出される価値。
②書店運営への貢献:収益性の向上や宣伝効果、対話による情報交換などが、書店運営の向上に貢献する価値。
③つながりのプラットフォーム:書店・本・人・地域がつながるプラットフォームとしての機能が充実する価値。
考察
(1)共創された価値について
共創によって生まれた3つの価値は、コミュニティ設立前の店主の書店運営の構想と強い結びつきがあると考える。店主は、自身の読書体験や書店員としての経験から得た書店運営の構想を練り上げた。この構想が表現された書店の顧客であるコミュニティ発起人の共感を呼び起こし、「応援」というコンセプトでコミュニティが設立された。店主とコミュニティとの対話や店頭に並ぶ本、顧客同士の交流、イベントなどが絡み合う多様なプロセスを通じて、店主の店づくりに対する考え方が広まり、これが新たな価値の創出へとつながっていったと考えられる。
(2)価値共創の有用性について
独立系書店が抱える多様な問題を緩和する上で、価値共創の有用性は高い。特に、独自性の創出において高い有用性があると考える。独りよがりで生み出された自己満足の独自性ではなく、店と顧客が共に創った独自性は、魅力ある書店運営に大きく寄与すると考えられる。
まとめ
本研究の課題として、収益性の問題の検証が挙げられる。独立系書店において収益性に関する問題は深刻であり、価値共創と収益の向上との関連性に焦点を当ててより詳細に検証する必要がある。 なお、本研究は修士論文の一部である。今後、クラブ会員へのインタビュー調査の分析結果を加えて、より多面的かつ詳細な分析と考察を実施し結論を導き出す。
脚注
参考文献・参考サイト
- 出版科学研究所『2022年度版 出版指標年報』,2022,pp.2-3
- 浜本茂編集『本の雑誌5月号第46巻5号』本の雑誌社,2021,p.29
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- 株式会社文化通信社『アルメディア調査による書店数の推移』, https://www.bunkanews.jp/article/219153/(2023年9月16日閲覧)