「光源環境にカラーマッピング画像をもちいた自動車ボディサイド曲面評価VRシステムの開発」の版間の差分

提供: JSSD5th2023
Jump to navigation Jump to search
(曲率プロファイルと映り込み遷移図の関係性についての推測)
(映り込み遷移図の概要と作成)
 
(同じ利用者による、間の17版が非表示)
9行目: 9行目:
  
 
; Abstract
 
; Abstract
: Industrial designers evaluate curved surfaces using the shape of images reflected from the surrounding lighting environment. Traditionally, they used identical fluorescent lamps, but assessing the impact of changes in viewpoint height on the reflections was subjective. In this study, a quantitative evaluation of changes in reflection positions due to variations in viewpoint was achieved by proposing a reflection transition diagram and developing an automotive body side surface evaluation VR system using color-mapped images. Additionally, an analysis of the relationship between curvature profiles and reflection positions was conducted using CG models of 50 car types.
+
: Industrial designers evaluate curved surfaces using the shape of images reflected from the surrounding lighting environment. Traditionally, they used identical fluorescent lamps, but assessing the impact of changes in viewpoint height on the reflections was subjective. In this study, a quantitative evaluation of changes in reflection positions due to variations in viewpoint was achieved by proposing a reflection transition diagram and developing an automotive body side surface evaluation VR system using color-mapped images.  
  
  
15行目: 15行目:
  
 
==はじめに==
 
==はじめに==
 工業デザイナは,周囲の光源環境が製品の曲面に映り込む複数の像の形状を手掛かりとして,曲率と捩率の変化・曲線面の折れの有無など曲面の性質評価を行う.曲面の性質について,ハイライト線<ref>Beier, K-P: Highlight-line Algorithm for Realtime Surface-qualityAssesment,Computer-AidedDesign,26,4,268-277,1994 </ref>を用いた曲面のフェアリングの研究が多くなされている.具体的には,東らによりハイライト線を用いた,歪みのない縮閉線による曲率変化が滑らかな曲面創成手法が提案されている<ref>東正毅,原田博仁:縮閉線に基づく曲率変化の滑らかな曲線,曲面の生成(第5報),精密工学会誌,Vol.66,No.4,p.556-561,2000 </ref>.しかし,曲面性質についてのみ着目しているため,視点位置の高さが変化することによる映り込み位置の変化は考慮されておらず,視点位置の高さの変化による映り込み位置の変化を定量的に模式図化した研究は未だない.そのため,デザイナは感覚的に視点位置の高さと映り込み位置を考慮し,曲面を少しずつ調整しながら探索的に意図する曲面を得ている.そこで,本研究では,視点位置の変化による映り込み位置の変化を直感的に,かつ定量的に理解可能とする表示方法の開発を目的として,映り込み遷移図の提案と光源環境にカラーマッピング画像をもちいた自動車ボディサイド曲面評価VRシステムの開発を行う.次に,曲率プロファイルと映り込み位置の関係性,また50車種のCGモデルを用いて視点位置の変化が映り込み位置に与える影響を明確にする.
+
 工業デザイナは,周囲の光源環境が製品の曲面に映り込む複数の像の形状を手掛かりとして,曲率と捩率の変化・曲線面の折れの有無など曲面の性質評価を行う.曲面の性質について,ハイライト線<ref>Beier, K-P: Highlight-line Algorithm for Realtime Surface-qualityAssesment,Computer-AidedDesign,26,4,268-277,1994 </ref>を用いた曲面のフェアリングの研究が多くなされている.具体的には,東らによりハイライト線を用いた,歪みのない縮閉線による曲率変化が滑らかな曲面創成手法が提案されている<ref>東正毅,原田博仁:縮閉線に基づく曲率変化の滑らかな曲線,曲面の生成(第5報),精密工学会誌,Vol.66,No.4,p.556-561,2000 </ref>.しかし,曲面性質についてのみ着目しているため,視点位置の高さが変化することによる映り込み位置の変化は考慮されておらず,視点位置の高さの変化による映り込み位置の変化を定量的に模式図化した研究は未だない.そのため,デザイナは感覚的に視点位置の高さと映り込み位置を考慮し,曲面を少しずつ調整しながら探索的に意図する曲面を得ている.そこで,本研究では,視点位置の変化による映り込み位置の変化を直感的に,かつ定量的に理解可能とする表示方法の開発を目的として,映り込み遷移図の提案と光源環境にカラーマッピング画像をもちいた自動車ボディサイド曲面評価VRシステムの開発を行った.
  
 
==映り込み遷移図と曲面評価VRシステムの開発==
 
==映り込み遷移図と曲面評価VRシステムの開発==
 
===視点位置ごとの映り込み位置取得のためのサンプル車抽出===
 
===視点位置ごとの映り込み位置取得のためのサンプル車抽出===
[[File:表1.jpg|thumb|right|表1.抽出されたサンプル車]]
+
 既存車におけるボディサイド曲面形状のデータを収集し抽出した.しかし,本研究はあくまで映り込み遷移図の開発を目的としてるため,実車を測定して利用するのではなく3Dモデルを使用した.
 既存車におけるボディサイド曲面形状のデータを収集し,50車種を抽出した(表1).また,本研究はあくまで映り込み遷移図の開発を目的としてるため,実車を測定して利用するのではなく3Dモデルを使用した.
 
  
 
===映り込み遷移図の概要と作成===
 
===映り込み遷移図の概要と作成===
 映り込み遷移図とは,映り込み位置を焦点位置が高い順に直線で結んで作成した模式図である(図1).
+
 視点位置の高さごとに得られた映り込み位置を用いて,映り込み遷移図を作成する手順について概説する.映り込み遷移図とは,取得した映り込み位置を焦点位置が高い順に直線で結んで作成した模式図である.なお,視点位置の高さごとの映り込み位置については,本研究で開発した自動車ボディサイド曲面評価VRシステムを用いて取得する.
具体的な作成手順を以下に示す(図2,図3).
+
具体的な作成手順を以下に示す(図1,図2).
# 視点位置を130cm~170cmのうちのいずれかの高さに設定
+
# 視点位置を130cm,140cm,150cm,160cm,170cmのうちのいずれかの高さに設定する.
# 視点位置と自動車ボディサイド曲面上の焦点位置を結ぶRayをVR空間上で放射
+
# 視点位置と自動車ボディサイド曲面上の焦点位置を結ぶRayをVR空間上で放射する.
# 焦点位置の間隔がおよそ1cmになるように設定し,ボディサイド上部から下部に向かってRayを曲面に衝突させる.
+
# 焦点位置の間隔がおよそ1cmになるように設定し,ボディサイド上部から下部に向かってRayを曲面に衝突させる.本研究では,映り込み遷移図を作成し分析を行うため,焦点位置の間隔をおよそ1cmとする.
 
# Rayが衝突した曲面の反射ベクトルとVR空間上に設定した地面,または天井との交点座標を映り込み位置としてCSV形式にエクスポートする.
 
# Rayが衝突した曲面の反射ベクトルとVR空間上に設定した地面,または天井との交点座標を映り込み位置としてCSV形式にエクスポートする.
# 視点位置ごとに色分けを行いマッピングする.ただし,各色に関しては,特に意味はない.映り込み位置を縦軸,地面もしくは天井のどちらが映りこんでいるのかを横軸で表わす.映り込み位置は常用対数に変換しているものを用いた.
+
# 1.~4.の手順を視点位置ごとに繰り返す.
 +
# 映り込み遷移図は,視点位置ごとに色分けを行いマッピングする.ただし,各色に関しては,特に意味はない.映り込み位置を縦軸,地面もしくは天井のどちらが映りこんでいるのかを横軸で表わす.映り込み位置は常用対数に変換しているものを用いる.
 
# マッピングした映り込み位置に対して,焦点位置がボディサイド上部から下部の順番になるように直線で結ぶ.
 
# マッピングした映り込み位置に対して,焦点位置がボディサイド上部から下部の順番になるように直線で結ぶ.
[[File:図1.jpg|thumb|left|図1.映り込み遷移図の例]]
+
 
[[File:図2.jpg|thumb|right|520px|図2.視点位置の高さを変化させた時の映り込み遷移図作成の模式図]]
+
 以上の手順によって実際に作成した映り込み遷移図を図3に示す.
[[File:図3.jpg|thumb|right|520px|図3.ある視点位置から焦点位置を変化させた時の映り込み遷移図作成の模式図]]
+
[[File:図2.jpg|thumb|left|520px|図1.視点位置の高さを変化させた時の映り込み遷移図作成の模式図]]
 +
[[File:図3.jpg|thumb|left|520px|図2.ある視点位置から焦点位置を変化させた時の映り込み遷移図作成の模式図]]
 +
[[File:図1.jpg|thumb|left|図3.映り込み遷移図の例]]
 +
 
 
  {{clear}}
 
  {{clear}}
  
 
===曲面評価VRシステムの概要===
 
===曲面評価VRシステムの概要===
 本研究で開発したシステムは,映り込み遷移図を実際に確認できるシステムである(図4).開発にあたりHMDにはアイトラッカーが内蔵されたViveProEye(HTC社製)を用いた(図5).開発環境として,VR空間の構築,システムの実装においてUnity(Unity Technologies社)を用いて行った.システムのフローを図6に示す.
+
 本研究で開発したシステムは,本研究で開発したシステムは,作成した映り込み遷移図だけでは想像しがたい映り込み位置の変化を,直感的に確認できるように表示するシステムである(図4).開発にあたりヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)にはアイトラッカーが内蔵されたViveProEye(HTC社製)を用いた.開発環境として,VR空間の構築,システムの実装においてUnity(Unity Technologies社)を用いて行った.システムのフローを図5に示す.
また,自動車に映り込ませるカラーマッピング画像は,地面と天井に配置する2種類を作成した.(図7).
 
  
[[ File:図7.jpg|thumb|left|500px|図4.システムによる映り込み例]][[File:図4.jpg|thumb|center|320px|図5.ViveProEye(HTC社製)]]
+
 本システムでは,自動車の3DデータをUnityの原点と車両座標系の原点が一致する位置に配置する.自動車の3Dデータは実際の自動車のスケールと同じになるように表示した.自動車に映り込ませるカラーマッピング画像は,地面と天井に配置する2種類を作成した.地面に配置するカラーマッピング画像
[[File:図5.jpg|thumb|left|500px|図6.自動車ボディサイド曲面評価VRシステムのフロー]][[File:図6.jpg|thumb|center|320px|図7.作成したカラーマッピング画像(左:天井用,右:地面用)]]
+
は暖色系,天井に配置するカラーマッピング画像は寒色系に着色した(図6).HMDにより検出した視線方向に,VR空間上でRayを放射し,それが3Dデータと衝突した場所にポインタを生成する.ユーザーはHMDを装着する前に,自らの視点位置の高さを設定することで視点位置の高さの違いによる自動車の映り込み位置の違いを体感することが可能である.映り込み位置は,Rayが衝突した曲面の反射ベクトルとVR空間上に設定した地面または,天井との交点座標をCSV形式のデータとしてエクスポートする.HMDにより検出した視線方向と,焦点位置における映り込み位置を取得することが可能である.
{{clear}}
 
  
===映り込み遷移図の分類結果とVRシステムでの見え方との比較===
 
[[File:図8.jpg|thumb|right|640px|図8.ショルダー部分の映り込み遷移図分類例とVRシステムとの比較]]
 
[[File:図9.jpg|thumb|right|640px|図9.ボディサイド部分の映り込み遷移図分類例とVRシステムとの比較]]
 
ショルダー部分,ボディサイド部分の2つの部分に分けて映り込み遷移図の分類を行った(図8,図9).
 
  
 +
[[ File:図7.jpg|thumb|left|500px|図4.システムによる映り込み例]]
 +
[[File:図5.jpg|thumb|left|500px|図5.自動車ボディサイド曲面評価VRシステムのフロー]][[File:図6.jpg|thumb|center|320px|図6.作成したカラーマッピング画像(左:天井用,右:地面用)]]
 +
{{clear}}
  
 以下に,ショルダー部分の各タイプを概説する.
+
===映り込み遷移図の分類結果の一例とVRシステムでの見え方との比較===
 
+
[[File:図14.jpg|thumb|right|640px|図7.映り込み遷移図の例とVRシステムとの比較]]
タイプ1A・1B)曲面に天井のみが映り込む.タイプ1Aは視点位置の高さによって映り込み位置が大きく変化するが,映り込み位置の範囲の大きさはあまり変化しない.タイプ1Bは視点位置が高くなるほど映り込み位置の範囲が次第に大きくなる.
+
以下に,抽出したサンプル車の映り込み位置をもとに映り込み遷移図を作成した.また,VRシステムでの視点位置ごとの映り込みの変化について比較した(図7).
 
 
タイプ2A・2B)曲面に地面のみが映り込む.タイプ2Aは視点位置の高さによって映り込み位置が大きく変化するが,映り込み位置の範囲の大きさはあまり変化しない.タイプ2Bは視点位置が高くなるほど映り込み位置の範囲が次第に小さくなる.
 
 
 
タイプ3C)全ての視点位置において曲面に天井と地面の両方が映り込む.
 
 
 
タイプ3D)視点位置の高さによって曲面に天井と地面の両方が映り込むか,天井のみが映り込むかが変わる.
 
 
 
タイプ3E)視点位置の高さによって曲面に天井と地面の両方が映り込むか,地面のみが映り込むかが変わる.
 
 
 
タイプ3F)以上のタイプに属さない特別な映り込み遷移図.
 
 
 
 
 
 また,ボディサイド部分の各タイプを概説する.
 
 
 
タイプ2a・2b・2c)曲面に地面のみが映り込む.タイプ2aは視点位置が高くなるほど映り込み位置の範囲は小さくなるが,ある視点位置によっては映り込み位置が大きく異なる.タイプ2bは視点位置が高くなるほど映り込み位置の範囲が次第に小さくなる.タイプ2cは視点位置が変化しても映り込み位置の範囲がほとんど変化しない.
 
 
 
タイプ3d)全ての視点位置において天井と地面の両方が映り込む.
 
 
 
タイプ3e)視点位置の高さによって曲面に天井と地面の両方が映り込むか,地面のみが映り込むかが変わる.
 
  
 +
図7の映り込み遷移図の特徴として,視点位置が130cmと140cmのときに天井と地面の映り込みが1回切り替わっており,視点位置が高くなるほど地面が映り込むようになる.また,視点位置が高くなるほど映り込み位置の範囲が次第に小さくなっていることがわかる.これは,VRシステムでの視点位置ごとの映り込みの変化を見ても確認することができる.130cmと170cmのときの映り込み位置の変化を比較すると,130cmのときには天井と地面の両方が映り込んでおり,映り込み位置の範囲が170cmのときよりも大きい.よって,視点位置が大きく異なる場合,曲面から受ける印象が変わる可能性があるということがわかった.
  
 
  {{clear}}
 
  {{clear}}
  
==ボディサイド曲面形状の分析==
 
===ボディサイド曲面における断面曲線を用いた特徴分析===
 
[[File:図10.jpg|thumb|right|320px|図10.断面画像を用いたボディサイド曲面形状の特徴分析手順]]
 
[[File:図11.jpg|thumb|right|320px|図11.曲率プロファイルに関する模式図]]
 
映り込み遷移図の特徴をもとに,ボディサイド曲面の特徴分析を行う.
 
ボディサイドの断面画像を用いたボディサイド曲面形状の特徴分析方法の流れを以下に示す(図10).分析においては,河野らによって開発された曲率プロファイルの分析システム<ref>河野正之,原田利宣:図面化への適用を考慮した視覚言語を用いたラフスケッチの清書化, デザイン学研究,Vol.55,No.1,2008 </ref>を用いる.本研究では,映り込み遷移図の特徴と照らし合わせた考察を行っていく.曲率プロファイルは,曲線上の各構成点において,その点から曲率円の中心を結ぶ直線分として,曲率円の半径を連続的に描画した図である(図11).
 
 
===曲率プロファイルと映り込み遷移図の関係性についての推測===
 
 視点位置が変化しても映り込み遷移図の変化が緩やかで曲面の映り込みの見え方も緩やかな場合,凹型や直線のような比較的単純な形に近い曲面形状になると考えられる.これは,曲面に対して平行に近い角度で光が当たる場合は1点に集まるように反射するためである.また、曲面により幅広い範囲が映り込む場合,凸型に近い曲面形状になると考えられる.これは,平行に近い角度で入射する光は発散するように反射するためと考えられる.以上についてを曲率プロファイルによる分析と分類を行うことで今後検証予定である.
 
  
 
==まとめ==
 
==まとめ==
 
本研究では以下に示す成果が得られた.
 
本研究では以下に示す成果が得られた.
 
* 映り込み位置の変化を直感的に,かつ定量的に理解可能とする表示方法の開発を目的として,映り込み遷移図の提案と,カラーマッピング画像をもちいた自動車ボディサイド曲面評価VRシステムの開発を行った.
 
* 映り込み位置の変化を直感的に,かつ定量的に理解可能とする表示方法の開発を目的として,映り込み遷移図の提案と,カラーマッピング画像をもちいた自動車ボディサイド曲面評価VRシステムの開発を行った.
* 50車種のCGモデルを用いて各視点位置ごとの映り込み位置の計測を行い,その性質分析を行った.
 
  
 
==脚注==
 
==脚注==

2023年10月12日 (木) 14:49時点における最新版

中本葉奈 / 和歌山大学大学院 システム工学研究科
NAKAMOTO,Hana / Graduate School of Wakayama University
原田利宣 / 和歌山大学 システム工学部
HARADA,Toshinobu / Wakayama University

Keywords: Virtual Reality, Specular Reflection Position, Viewpoint Position, Surface Evaluation, Curvature Profile  


Abstract
Industrial designers evaluate curved surfaces using the shape of images reflected from the surrounding lighting environment. Traditionally, they used identical fluorescent lamps, but assessing the impact of changes in viewpoint height on the reflections was subjective. In this study, a quantitative evaluation of changes in reflection positions due to variations in viewpoint was achieved by proposing a reflection transition diagram and developing an automotive body side surface evaluation VR system using color-mapped images.



はじめに

 工業デザイナは,周囲の光源環境が製品の曲面に映り込む複数の像の形状を手掛かりとして,曲率と捩率の変化・曲線面の折れの有無など曲面の性質評価を行う.曲面の性質について,ハイライト線[1]を用いた曲面のフェアリングの研究が多くなされている.具体的には,東らによりハイライト線を用いた,歪みのない縮閉線による曲率変化が滑らかな曲面創成手法が提案されている[2].しかし,曲面性質についてのみ着目しているため,視点位置の高さが変化することによる映り込み位置の変化は考慮されておらず,視点位置の高さの変化による映り込み位置の変化を定量的に模式図化した研究は未だない.そのため,デザイナは感覚的に視点位置の高さと映り込み位置を考慮し,曲面を少しずつ調整しながら探索的に意図する曲面を得ている.そこで,本研究では,視点位置の変化による映り込み位置の変化を直感的に,かつ定量的に理解可能とする表示方法の開発を目的として,映り込み遷移図の提案と光源環境にカラーマッピング画像をもちいた自動車ボディサイド曲面評価VRシステムの開発を行った.

映り込み遷移図と曲面評価VRシステムの開発

視点位置ごとの映り込み位置取得のためのサンプル車抽出

 既存車におけるボディサイド曲面形状のデータを収集し抽出した.しかし,本研究はあくまで映り込み遷移図の開発を目的としてるため,実車を測定して利用するのではなく3Dモデルを使用した.

映り込み遷移図の概要と作成

 視点位置の高さごとに得られた映り込み位置を用いて,映り込み遷移図を作成する手順について概説する.映り込み遷移図とは,取得した映り込み位置を焦点位置が高い順に直線で結んで作成した模式図である.なお,視点位置の高さごとの映り込み位置については,本研究で開発した自動車ボディサイド曲面評価VRシステムを用いて取得する. 具体的な作成手順を以下に示す(図1,図2).

  1. 視点位置を130cm,140cm,150cm,160cm,170cmのうちのいずれかの高さに設定する.
  2. 視点位置と自動車ボディサイド曲面上の焦点位置を結ぶRayをVR空間上で放射する.
  3. 焦点位置の間隔がおよそ1cmになるように設定し,ボディサイド上部から下部に向かってRayを曲面に衝突させる.本研究では,映り込み遷移図を作成し分析を行うため,焦点位置の間隔をおよそ1cmとする.
  4. Rayが衝突した曲面の反射ベクトルとVR空間上に設定した地面,または天井との交点座標を映り込み位置としてCSV形式にエクスポートする.
  5. 1.~4.の手順を視点位置ごとに繰り返す.
  6. 映り込み遷移図は,視点位置ごとに色分けを行いマッピングする.ただし,各色に関しては,特に意味はない.映り込み位置を縦軸,地面もしくは天井のどちらが映りこんでいるのかを横軸で表わす.映り込み位置は常用対数に変換しているものを用いる.
  7. マッピングした映り込み位置に対して,焦点位置がボディサイド上部から下部の順番になるように直線で結ぶ.

 以上の手順によって実際に作成した映り込み遷移図を図3に示す.

図1.視点位置の高さを変化させた時の映り込み遷移図作成の模式図
図2.ある視点位置から焦点位置を変化させた時の映り込み遷移図作成の模式図
図3.映り込み遷移図の例




曲面評価VRシステムの概要

 本研究で開発したシステムは,本研究で開発したシステムは,作成した映り込み遷移図だけでは想像しがたい映り込み位置の変化を,直感的に確認できるように表示するシステムである(図4).開発にあたりヘッドマウントディスプレイ(以下,HMD)にはアイトラッカーが内蔵されたViveProEye(HTC社製)を用いた.開発環境として,VR空間の構築,システムの実装においてUnity(Unity Technologies社)を用いて行った.システムのフローを図5に示す.

 本システムでは,自動車の3DデータをUnityの原点と車両座標系の原点が一致する位置に配置する.自動車の3Dデータは実際の自動車のスケールと同じになるように表示した.自動車に映り込ませるカラーマッピング画像は,地面と天井に配置する2種類を作成した.地面に配置するカラーマッピング画像 は暖色系,天井に配置するカラーマッピング画像は寒色系に着色した(図6).HMDにより検出した視線方向に,VR空間上でRayを放射し,それが3Dデータと衝突した場所にポインタを生成する.ユーザーはHMDを装着する前に,自らの視点位置の高さを設定することで視点位置の高さの違いによる自動車の映り込み位置の違いを体感することが可能である.映り込み位置は,Rayが衝突した曲面の反射ベクトルとVR空間上に設定した地面または,天井との交点座標をCSV形式のデータとしてエクスポートする.HMDにより検出した視線方向と,焦点位置における映り込み位置を取得することが可能である.


図4.システムによる映り込み例
図5.自動車ボディサイド曲面評価VRシステムのフロー
図6.作成したカラーマッピング画像(左:天井用,右:地面用)



映り込み遷移図の分類結果の一例とVRシステムでの見え方との比較

図7.映り込み遷移図の例とVRシステムとの比較

以下に,抽出したサンプル車の映り込み位置をもとに映り込み遷移図を作成した.また,VRシステムでの視点位置ごとの映り込みの変化について比較した(図7).

図7の映り込み遷移図の特徴として,視点位置が130cmと140cmのときに天井と地面の映り込みが1回切り替わっており,視点位置が高くなるほど地面が映り込むようになる.また,視点位置が高くなるほど映り込み位置の範囲が次第に小さくなっていることがわかる.これは,VRシステムでの視点位置ごとの映り込みの変化を見ても確認することができる.130cmと170cmのときの映り込み位置の変化を比較すると,130cmのときには天井と地面の両方が映り込んでおり,映り込み位置の範囲が170cmのときよりも大きい.よって,視点位置が大きく異なる場合,曲面から受ける印象が変わる可能性があるということがわかった.




まとめ

本研究では以下に示す成果が得られた.

  • 映り込み位置の変化を直感的に,かつ定量的に理解可能とする表示方法の開発を目的として,映り込み遷移図の提案と,カラーマッピング画像をもちいた自動車ボディサイド曲面評価VRシステムの開発を行った.

脚注

  1. Beier, K-P: Highlight-line Algorithm for Realtime Surface-qualityAssesment,Computer-AidedDesign,26,4,268-277,1994
  2. 東正毅,原田博仁:縮閉線に基づく曲率変化の滑らかな曲線,曲面の生成(第5報),精密工学会誌,Vol.66,No.4,p.556-561,2000


参考文献・参考サイト

  • Beier, K-P: Highlight-line Algorithm for Realtime Surface-qualityAssesment,Computer-AidedDesign,26,4,268-277,1994
  • 東正毅,原田博仁:縮閉線に基づく曲率変化の滑らかな曲線,曲面の生成(第5報),精密工学会誌,Vol.66,No.4,p.556-561,2000
  • 平野亮,原田利宣,井上治郎:映り込み曲線の分析に基づく不具合映り込み曲面の形成要因の解明, デザイン学研究, Vol.61, No.4, p.4_85-4_94, 2014
  • 外池竜大, 青山英樹:ハイライト曲線に基づく意匠曲面の高品位化, 精密工学会学術講演会講演論文集2015S(0), pp.461-462, 2015
  • 河野正之,原田利宣:図面化への適用を考慮した視覚言語を用いたラフスケッチの清書化, デザイン学研究,Vol.55,No.1,2008
  • 原田利宣,中嶋信幸,栗原祐介,吉本富士市:視覚言語を用いた曲線の自動フェアリング システム,デザイン学研究,Vol.47,No.5,2001
  • 原田利宣,佐藤瑛,山田朗:形成外科手術への適用を考慮した日本人の外鼻形状における 曲線の性質分析とテンプレート化,日本感性工学会論文誌,Vol.12,No.4,pp.471-480,2013