「エンディングノートと自治体のノート配布サービスに関するデザイン研究」の版間の差分

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==研究の方法==
 
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[[File:HanakoKyusanFig01.jpg|thumb|right|200px|図1.◯◯◯◯]]
 
 
 先行研究および先行調査の分析、自治体へのインタビュー調査およびアンケート調査、単身者を中心に市民へのインタビュー調査を行った。<br>'''先行研究および先行調査の分析'''<br> エンディングノートやエンディングに関する心理学や社会学の観点からの先行研究・統計調査の調査<br>'''自治体へのインタビュー調査およびアンケート調査'''<br> 調査への協力が得られた福岡県内各自治体および、おひとり様政策課を設けている神奈川県大和市を対象とし、自治体がエンディングノートを作成・配布する目的や期待している役割、配布場所や配布後の実態、市の担当者が問題意識を感じていることについて尋ねた。<br> '''市民へのインタビュー調査'''<br> 55歳~83歳(平均:68.2歳)の男女5名を対象に、エンディングノートへのイメージや終活に関する不安などについて尋ねた。<br> すべてのインタビュー調査は半構造化面接の形式で行った。本研究参加者には、研究目的、方法、参加は自由意志で拒否による不利益はないこと、および個人情報の保護について説明を行い、同意を得た。市民へのインタビューによって得られたデータは、佐藤 (2008)を参考に、コーディングを用いて質的分析を行った。<ref>佐藤郁, 2008, 質的データ分析法 原理・方法・実践, 株式会社新曜社</ref>。
 
 先行研究および先行調査の分析、自治体へのインタビュー調査およびアンケート調査、単身者を中心に市民へのインタビュー調査を行った。<br>'''先行研究および先行調査の分析'''<br> エンディングノートやエンディングに関する心理学や社会学の観点からの先行研究・統計調査の調査<br>'''自治体へのインタビュー調査およびアンケート調査'''<br> 調査への協力が得られた福岡県内各自治体および、おひとり様政策課を設けている神奈川県大和市を対象とし、自治体がエンディングノートを作成・配布する目的や期待している役割、配布場所や配布後の実態、市の担当者が問題意識を感じていることについて尋ねた。<br> '''市民へのインタビュー調査'''<br> 55歳~83歳(平均:68.2歳)の男女5名を対象に、エンディングノートへのイメージや終活に関する不安などについて尋ねた。<br> すべてのインタビュー調査は半構造化面接の形式で行った。本研究参加者には、研究目的、方法、参加は自由意志で拒否による不利益はないこと、および個人情報の保護について説明を行い、同意を得た。市民へのインタビューによって得られたデータは、佐藤 (2008)を参考に、コーディングを用いて質的分析を行った。<ref>佐藤郁, 2008, 質的データ分析法 原理・方法・実践, 株式会社新曜社</ref>。
  
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==結果==
 
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  '''エンディングノートやエンディングに関する心理学や社会学の観点からの先行研究・統計調査の調査'''<br>
 
  '''エンディングノートやエンディングに関する心理学や社会学の観点からの先行研究・統計調査の調査'''<br>
 
 先行調査では、遺族へのアンケート調査から、遺族が心残りがあるとする理由として、主に亡くなった本人とエンディングに関する希望について話し合いを行っていればよかったと報告していた。人生の終わりまでをどのように過ごしたいか、特に医療やケアに関する希望について前もって考え、繰り返し話し合い、かかりつけ医や家族と共有しておく取り組みは、ACP(Advanced Care Program)とよばれ、日本でも政府が推進を図っている。エンディングノートはACPのきっかけとして期待されており、ACPは、家族等他者と共有すること、世代を問わず元気なうちから取り組むこと、決めたことを繰り返し修正できることが要件である。また、木村ら(2015)は、市民がエンディングノートになかなか取り組まない理由として、暗い将来の想像をしたくないことや感情にかかわる項目が書きにくいことを挙げていた。馬場ら(2022)の調査では、エンディングノート作成講座に参加した参加者がその後にエンディングノートをほぼ記入している人の割合が11.9%であり、そのうち家族等他者がノートの存在を知っているのは33.6%であった。<br>
 
 先行調査では、遺族へのアンケート調査から、遺族が心残りがあるとする理由として、主に亡くなった本人とエンディングに関する希望について話し合いを行っていればよかったと報告していた。人生の終わりまでをどのように過ごしたいか、特に医療やケアに関する希望について前もって考え、繰り返し話し合い、かかりつけ医や家族と共有しておく取り組みは、ACP(Advanced Care Program)とよばれ、日本でも政府が推進を図っている。エンディングノートはACPのきっかけとして期待されており、ACPは、家族等他者と共有すること、世代を問わず元気なうちから取り組むこと、決めたことを繰り返し修正できることが要件である。また、木村ら(2015)は、市民がエンディングノートになかなか取り組まない理由として、暗い将来の想像をしたくないことや感情にかかわる項目が書きにくいことを挙げていた。馬場ら(2022)の調査では、エンディングノート作成講座に参加した参加者がその後にエンディングノートをほぼ記入している人の割合が11.9%であり、そのうち家族等他者がノートの存在を知っているのは33.6%であった。<br>
 
 '''自治体へのインタビュー・アンケート調査'''<br>
 
 '''自治体へのインタビュー・アンケート調査'''<br>
 自治体の担当者は、自治体から配布しているエンディングノートについて、終活のきっかけとして機能することや家族等他者と話し合うきっかけとしての役割を期待していた。また、エンディングノートを市民が手にする機会は、終活サービスを利用している人や終活に関する講座および認知症カフェに参加する人に限られており、自治体が配布したエンディングノートをその後市民が利用しているかどうかについて追跡している自治体はなかった。エンディングノートを書くことと、自治体が提供するそのほかの終活関連サービスとのつながりがないため、ノートは配るだけで終わっていた。★サービス図(図1)<br>
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 自治体の担当者は、自治体から配布しているエンディングノートについて、終活のきっかけとして機能することや家族等他者と話し合うきっかけとしての役割を期待していた。また、エンディングノートを市民が手にする機会は、終活サービスを利用している人や終活に関する講座および認知症カフェに参加する人に限られており、自治体が配布したエンディングノートをその後市民が利用しているかどうかについて追跡している自治体はなかった。エンディングノートを書くことと、自治体が提供するそのほかの終活関連サービスとのつながりがないため、ノートは配るだけで終わっていた(図1)。<br>
 
 '''市民へのインタビュー調査'''<br>
 
 '''市民へのインタビュー調査'''<br>
 自治体がエンディングノートを配布していることを知っている市民はいなかった。市民はエンディングノートに対して、「エンディング」というネーミングによるイメージから、死ぬ直前に書くもの、死んだ後に家族が見るものという印象をいだいていた。エンディングノートノートに書く内容を他者と共有したいと思う人もいれば、他者とは共有せず自分一人ですべてを済ませたいと考える人もいた。市民の終活への姿勢はさまざまであるものの、多くの人が「モノの処分」について気にしていた。また、エンディングノートを自分の振り返りができる道具として利用したいという人や、何かを残したいと思っている人がいた。★サービス図(図2)
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 自治体がエンディングノートを配布していることを知っている市民はいなかった。市民はエンディングノートに対して、「エンディング」というネーミングによるイメージから、死ぬ直前に書くもの、死んだ後に家族が見るものという印象をいだいていた。エンディングノートノートに書く内容を他者と共有したいと思う人もいれば、他者とは共有せず自分一人ですべてを済ませたいと考える人もいた。市民の終活への姿勢はさまざまであるものの、多くの人が「モノの処分」について気にしていた。また、エンディングノートを自分の振り返りができる道具として利用したいという人や、何かを残したいと思っている人がいた(表1)。
 
 
 
 
  

2023年10月10日 (火) 14:40時点における版

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長谷川愛 / 九州大学大学院 芸術工学府 
Megumi Hasegawa / Kyushu University 

Keywords: Service Design, Ending Notes, Local Goverment 


Abstract
Currently, many municipalities distribute free ending notes, but the number of users is low. Through questionnaires and interviews with local governments and citizens, this study analyzes the problems with the ending notes themselves and municipal services related to them, and identifies the design requirements needed to increase the number of ending note users.



背景と目的

 エンディングノートとは、将来に備え、医療や介護、葬儀、遺産相続など、自分のエンディングへ向けての希望を1冊のノートにまとめたものである。来る病や死、医療や介護について具体的にイメージを高め、思考を整理し時間的展望を描くことができるツールとして、終活のきっかけになると期待されている。現在多くの自治体が無料で発行しているが、実際に利用している人は少ない。(また先行研究ではサービスに注目していないも書くかな)本研究では、エンディングノートに取り組む人が増えるために、エンディングノートやエンディングノートにかかわる自治体サービスに求められるデザイン要件を抽出することを目的とした。  

研究の方法

 先行研究および先行調査の分析、自治体へのインタビュー調査およびアンケート調査、単身者を中心に市民へのインタビュー調査を行った。
先行研究および先行調査の分析
 エンディングノートやエンディングに関する心理学や社会学の観点からの先行研究・統計調査の調査
自治体へのインタビュー調査およびアンケート調査
 調査への協力が得られた福岡県内各自治体および、おひとり様政策課を設けている神奈川県大和市を対象とし、自治体がエンディングノートを作成・配布する目的や期待している役割、配布場所や配布後の実態、市の担当者が問題意識を感じていることについて尋ねた。
市民へのインタビュー調査
 55歳~83歳(平均:68.2歳)の男女5名を対象に、エンディングノートへのイメージや終活に関する不安などについて尋ねた。
 すべてのインタビュー調査は半構造化面接の形式で行った。本研究参加者には、研究目的、方法、参加は自由意志で拒否による不利益はないこと、および個人情報の保護について説明を行い、同意を得た。市民へのインタビューによって得られたデータは、佐藤 (2008)を参考に、コーディングを用いて質的分析を行った。[1]




結果

図1.◯◯◯◯
表1.◯◯◯◯

  エンディングノートやエンディングに関する心理学や社会学の観点からの先行研究・統計調査の調査
 先行調査では、遺族へのアンケート調査から、遺族が心残りがあるとする理由として、主に亡くなった本人とエンディングに関する希望について話し合いを行っていればよかったと報告していた。人生の終わりまでをどのように過ごしたいか、特に医療やケアに関する希望について前もって考え、繰り返し話し合い、かかりつけ医や家族と共有しておく取り組みは、ACP(Advanced Care Program)とよばれ、日本でも政府が推進を図っている。エンディングノートはACPのきっかけとして期待されており、ACPは、家族等他者と共有すること、世代を問わず元気なうちから取り組むこと、決めたことを繰り返し修正できることが要件である。また、木村ら(2015)は、市民がエンディングノートになかなか取り組まない理由として、暗い将来の想像をしたくないことや感情にかかわる項目が書きにくいことを挙げていた。馬場ら(2022)の調査では、エンディングノート作成講座に参加した参加者がその後にエンディングノートをほぼ記入している人の割合が11.9%であり、そのうち家族等他者がノートの存在を知っているのは33.6%であった。
 自治体へのインタビュー・アンケート調査
 自治体の担当者は、自治体から配布しているエンディングノートについて、終活のきっかけとして機能することや家族等他者と話し合うきっかけとしての役割を期待していた。また、エンディングノートを市民が手にする機会は、終活サービスを利用している人や終活に関する講座および認知症カフェに参加する人に限られており、自治体が配布したエンディングノートをその後市民が利用しているかどうかについて追跡している自治体はなかった。エンディングノートを書くことと、自治体が提供するそのほかの終活関連サービスとのつながりがないため、ノートは配るだけで終わっていた(図1)。
 市民へのインタビュー調査
 自治体がエンディングノートを配布していることを知っている市民はいなかった。市民はエンディングノートに対して、「エンディング」というネーミングによるイメージから、死ぬ直前に書くもの、死んだ後に家族が見るものという印象をいだいていた。エンディングノートノートに書く内容を他者と共有したいと思う人もいれば、他者とは共有せず自分一人ですべてを済ませたいと考える人もいた。市民の終活への姿勢はさまざまであるものの、多くの人が「モノの処分」について気にしていた。また、エンディングノートを自分の振り返りができる道具として利用したいという人や、何かを残したいと思っている人がいた(表1)。  

考察

 先行研究・調査の分析、自治体と市民双方へインタビューやアンケート調査の結果から、自治体が配布するエンディングノートが市民に取り組まれていない要因として以下の項目が挙げられる。(1)暗い将来の想像をしたくない、感情にかかわる項目が書きにくい。(2)そもそも自治体が発行していることを知らない。(3)ノート配布後の市民の行動と結びつくサービスがないため、ノートを書くことによる市民のメリットが明確でない。(4)市民が抱くエンディングノートのイメージと自治体や先行研究から求められるエンディングノートの機能に乖離がある。以上の要因を克服するために、エンディングノートと、関連する自治体サービスの改善のために以下のデザイン要件を抽出した。①「エンディング」という言葉を使わないネーミング②元気なうちから市民がエンディングノートに取り組むためのタッチポイントの創出③エンディングノートに自治体と市民双方が求める機能を取り入れた中身。具体的にはノートの中身のうち、感情にかかわる項目に関して、大切なモノを振り返ることで、自分自身について振り返ったり、他者との関係について振り返り、自分が取るべき具体的行動(モノの他者への譲渡や寄付、他者との会話など)へつなげる内容に変更する。④市民がエンディングノートに記述する内容やエンディングノートを書いていて気になったことを自治体にフィードバックできる機能の付加。


今後の展望

 今後は、単身者にかかわる市民である民生委員や成年後見人にもインタビューを行い、終活を行う市民をとりまくサービスエコシステムをより詳細に明らかにする 。サービスエコシステムの分析からデザイン要件をさらに増やし、それをもとにプロトタイプの作成と市民への検証を行う。


脚注

  1. 佐藤郁, 2008, 質的データ分析法 原理・方法・実践, 株式会社新曜社


参考文献・参考サイト

  • 木村由香, 安藤孝敏.(2015). エンディングノート作成に見る高齢者の「死の準備行動」, 応用老年学, 9(1),

43-54

  • 下島裕実 (2015). 終末期における思考整理ツールとしてのエンディングノートについて, 杏林大学研究報告, 32,1-7
  • 辰巳有紀子, 森,理圭 (2019). 看護師・介護士におけるエンディングノートの認識, 大阪大学看護学雑誌, 25(1), 46-53
  • 谷口聡 (2019). 「事前指示書」の普及に対する自治体の取り組み-宮崎市の“エンディングノート”を素材として-, 地域政策研究, 21(3), 19- 39
  • 馬場保子, 他 (2022). A市における人生ノート書き方講習会に参加した高齢者の終活の現状と「人生ノート」の記載状況, 活水論文集看護学部編, 8, 18-26
  • 本田桂子 (2013). マイ・エンディングノート, 内科,112(6),1394-1397
  • Sudore RL, Lum HD, You JJ, et al (2017). Defining advance care planning for adults: a consensus definition from a multidisciplinary Delphi panel. J Pain Symptom Manage. 53(5):821―32.e1.
  • 厚労省と経産省