伴侶動物の振る舞いを倣うことで人間の生活様式を再考する提案
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- 中橋侑里 / 東京大学 学際情報学府
- Yuri Nakahashi / Tokyo University
Keywords: Companion Animal, Life Style ← キーワード(斜体)
- Abstract
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背景と目的
日常生活の中で繰り返される行動パターンは生活習慣とされ、普段は省みることがない。他方、芸術鑑賞や非日常的な体験を通じて自らの当たり前を見直すことは,生活を豊かにするものとして多くの人に実践されている。本研究では、異なる環世界を持ちながらも伴侶動物として同じ空間で過ごす猫に着目して、猫のパースペクティブを人の行動パターンを浮き彫りにする補助線として活用することで、私たちの生活習慣を再考する。
研究の方法
環世界とは、それぞれの動物を主体としてみえている世界の像である。[1] 人と猫は同じ空間に対して、各々の環世界をもとに行動している。例えば、椅子は一般的に人が座るものであるが、猫は背もたれの縁に座り、座面の下を隠れ家に利用することがある。そこで、猫の行動に追随する。人と生活環境に意図しないインタラクションを引き起こすことで、見慣れた生活に対して新たな発見をする。3つのケースで実践を行った。
3つの実践と結果
(1)猫が立てる音を模倣する
猫は周囲の音に注意を向け敏感に反応する中で、私は猫の気配に気づかないことが多い。猫が立てる音を模倣することで、猫のいる”静かな音の世界”に入ることを試みた。具体的には、猫が歩行する音を人の手先で表現したり、猫の毛繕いの音を櫛や埃クリーナーを使って模倣した。(図1)小さな音に注力することで、慣れていた家電や交通の騒音が気になるようになった。また、猫の行為の”エネルギー感”のようなものを感じた(ex. 猫の歩行を人の手先を感じる)。いつもと異なる感覚で周囲の状況を知ることができた。人の騒音によって、都市にいる生物の種類が減っているという。[2]人と猫の音を相対化して、騒音問題を身をもって感じた。
(2)猫が寝ている場所で就寝する
私は毎晩寝室のベッドで寝ているが、猫は時と場合によって寝床を選んでいる。猫の感覚で選ばれた寝床が人の睡眠体験に与える影響を調べるために、猫の寝ている場所で毎晩寝てみる。具体的には、私の寝る時間に猫のそばに寝袋を敷いて就寝した。(図2)FitBitによる睡眠のスコア(身体的な睡眠の質)は、ベッドだけで寝る睡眠生活とあまり変化はなかった。他方で、静かな階段や、狭く暗い机の下など私にとっても心地よい寝床を多く見つけた。私の寝床を再定義するきっかけとなった。(参照[3])
(3)水分補給のリズムを猫に合わせる
私は水分補給を忘れがちであるが、猫は私と比較すると定期的に水を飲んでいた。水分補給のリズムを猫に合わせることにした。具体的には、猫の水皿と既存の首輪型センサーで水飲み行為をセンシングして、猫の飲んだ水の量を人の必要な量に換算してコップに注ぎ飲んでいく。(図3)猫が水を飲んだことを知ることで、自分の喉が渇いていることを自覚することが多かった。自分の感覚を過信しなくなった。また猫の水飲み頻度は、季節や水飲み場の環境(ex. 水皿の場所、水の新鮮さ)に大きく影響すると言われている。猫の水場を見直すきっかけにもなった。
考察
猫の行動に追随することで、(1)聞こえる音に対する身体感覚が変容して、騒音問題を身近に感じた(2)寝ることを目的にして各場所の特徴を捉え直し、自分にとっての寝床を再定義した(3)猫の水飲み行為から自分と猫の渇きを自覚して、自分の身体や猫の水飲み環境を気遣ったなど、見慣れた日常生活への新たな発見を得て、これまでの習慣を内省した。
まとめ
本研究では、私たちの生活習慣を再考するために、異なる環世界を持ちながらも同じ空間で過ごす猫の行動に着目をする。同じものに対して異なる解釈を持つ性質から猫の行動に追随することで、普段の行動パターンから抜け出す。著者によって3つのケースで実践を行い、日常への新たな発見し生活習慣を再考した。
脚注
参考文献・参考サイト
- catlog https://rabo.cat/catlog/pendant/ (令和5年10月12日 閲覧)