ARを用いた住所表現の研究
- 糸島市をフィールドとして -
- 峠谷佳紀 / 九州大学統合新領域学府ユーザー感性学感性価値クリエーションコース
- Yoshinori Touya / Kyushu University
Keywords: Home address
- Abstract
- There are two ways of expressing addresses in Japan: land numbering and residential indication, and the combination of both is making it increasingly difficult to locate addresses. In addition, the increase in modern architecture has reduced the number of places where street sign boards can be installed, making it increasingly difficult to understand geographic locations.In this study, we attempt to create an address representation media using augmented reality (AR) in the field of Itoshima City, Fukuoka Prefecture.
背景と目的
日本の住所表現には地番と住居表示の二種類ある。地番は一部の例外を除き全国に適応されているが、住居表示については適用されていない地域が数多くある。住居表示は地番と比較して規則性があり情報伝達が容易であることから、多くの地域で実施が進められてきた。しかし、地番から住居表示への移行には、ある地区内で住居表示が部分的に実施されることで隣接する未実施の地区との間に住居表記方法が異なってしまうことや、愛着のある地域の名称が変わってしまうなどの問題がある。 そこで問題解決のために、現実空間に情報が投影されて見える技術である拡張現実(以降ARと表記)に着目した。ARを活用して新旧の住所情報を表現することで現在の住所の仕組みや分布をわかりやすく伝えることができ、住居表示移行の問題を解決できると予想される。本研究は糸島市をフィールドとした共同研究の一環として実施する。糸島市は地番表示のわかりづらさや、住居表示のプレートの設置場所が少ないなどの問題を抱えており、それらの問題の解決を目指している。従って本研究では、糸島市の抱える上記の問題を定義しその解決に向けたARの可能性を考察することを目的とする。
研究の方法
地番と住居表示の特徴や課題を明確化するために文献調査を行った。具体的には、資料や法律・条例を参考にすることで、地番の始まりである壬申戸籍から現代に至るまでの地番の誕生経緯を探った。また、各都道府県ごとの地番制定の指針を記した「府県地租改正紀要」を参考に、全国的の地番の規則性を調査した。住居表示に関しては、「住居表示に関する法律」や、地域ごとのホームページなどを参考に番号の振り方や規則を調査した。さらに、住居表示への移行にかかる課題を把握するために、関連する審議会の議事録や事例などを分析した。 ARコンテンツについては、関連する表現の実例調査やユーザーへのヒアリング・アンケート調査を行い、ARが住所表現にどのように活用できるかを具体化した。ARの特性やメリットを明確にし、それらをARを用いた住所表現にどのように活用できるかを考察した。また、ステークホルダーに対するヒアリング・アンケート調査を通じて、住所表現を不便に感じる人々の属性や要求を把握し、ARを用いた住所表現コンテンツの方向性を決定した。
結果
地番は、明治から続く制度であり、番号の割り振りの方針が市町村によって異なるため分布に地域差が見られた。番号の流れは蛇行しながら番号を振る「千鳥式」が主流であるが、区域ごとに使える番号を限定する「一村通し」や、小字を用いて番号を減らす「字限り番」の差異がある。また、多くの年月が経つにつれて地番が錯綜した地域も多く、大字や小字の存在もあって複雑化している。住居表示は、1954年から始まり今もなお実施が進んでいる制度である。日本のほぼ全ての地域では「街区方式」と呼ばれる地域を道路や河川で区切り、周囲を一周するように番号をあてがう方式が採用される。また、実施に伴って旧地番が整理されるケースもある。 ARは情報表示、ナビゲーション、テレビ産業、広告、ゲームに区分でき、現実空間と仮想空間との間で情報を橋渡しできる点が特徴的であった。特に、地図との関係性の強いナビゲーション分野では、マーカーを用いたオブジェクトの提示や、2D地図とAR地図の切り替えなど、空間を拡張した表現によって利用者の場所の認識を補助できる可能性がある。また、ARはVRと違って利用者が多く、特に若年層の認知度が高いため、今後の普及に期待ができる。 ユーザー調査とアンケートでは、現在の住所制度を不便に思う人が少ない一方で、街中で位置情報にすぐアクセスできる仕組みと、GPSの座標のブレを改善して欲しいということが判明した。
考察
地番は、大字・小字を用いることで由緒ある名前を保存することができる一方で、千鳥式や番号の錯綜がわかりづらさに繋がると考えられる。また、住居表示は規則的であるが、街区ごとに地域を分割する方式であるために、地番区域やコミュニティを分断するリスクがある。更に、地番整理に伴って小字が使われなくなり、古くからの地名が消失するかもしれない。住居表示の実施はあれど地域の名称は以前のまま利用できることが望ましい。
ARには、現実世界を変えることなく情報を付与できる点が特徴であり、利用者との間に適切なインタラクションが発生することで実物の地図にはないアプローチができる。住居表示が行われても地番は存続するため、例えばコードを読み込むことで地番の名称と住居表示を共に表示するような仕組みが作れる可能性がある。
まとめ
現在の住所表現には、歴史があるものの複雑化した地番と、新しくも規則的な住居表示が混在することで、住所を理解することは難と化しつつある。しかし、一方的な住居表示の実施は、これまでの地域のあり方に大きく変えてしまう可能性があり、実施において最新の注意が必要である。また、住所の整理に伴い昔の地名が消失する恐れがあるため、地名の保護をすると共に、地域住民から旧地名へ愛着を持ってもらえるような取り組みが必要である。ARは空間性を拡張した表現ができるため、誰もが安易に住所や地名の情報にアクセスできる仕組みを構築できるかもしれない。今後は、AR表示のデザイン案を確定させ、実践的な制作を行うことを目標とする。
脚注
参考文献・参考サイト
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- 株式会社新潮社(2004)「住所と地名の大研究」今尾恵介,pp28-30,38
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- Dentsu 電通グループとプレティア・テクノロジーズが共同でAR浸透度調査を実施,https://www.group.dentsu.com/jp/news/release/000962.html(2023年10月10日最終閲覧)
- DBJ Research AR/VRを巡るプラットフォーム競争における日本企業の挑戦,https://www.dbj.jp/upload/investigate/docs/60840bdb5849eba5b249a0896ae07be0.pdf(2023年10月10日最終閲覧)