高齢者のためのウェアラブルデバイスのあり方

提供: JSSD5th2023
2023年10月18日 (水) 20:49時点における近藤綾音 (トーク | 投稿記録)による版
Jump to navigation Jump to search
近藤 綾音 / 九州大学 大学院芸術工学府
Ayane Kondo / Graduate School of Design, Kyushu University
近藤 朗  / 鹿児島女子短期大学 教養学科
Akira Kondo / Department of Liberal Arts, Kagoshima Women’s College
田村 良一 / 九州大学 大学院芸術工学研究院
Ryoichi Tamura / Faculty of Design, Kyushu University

Keywords: Wearable Device, Technology Acceptance Model 

Abstract
In this study, I paid attention about the healthy life expectancy of the elderly person who increased in aging Japan which advanced. About the reception of the wearable device, which was suitable for health care, I carried out an investigation with the online. It was used in the precedent study of the technical reception model frequently and performed a multiple regression analysis for the cause by the result using validity and a reliable question item. From the viewpoint of perceived usefulness, it was revealed that it was a factor of the first for it to raise positive feelings to want to use a wearable terminal to feel that other convenient devices and a terminal wearable than means were more convenient regardless of man and woman. In addition, from the viewpoint of perceived convenience, it was revealed that it was a factor of the first for to take it to an elderly person while many functions that the thing that was easily available without taking effort and the wearable terminal were provided with for the use of the wearable terminal lived a life, and to play an active part as far as it was wide, and the thing that life was more convenient, and became rich to raise positive feelings to want to use a wearable terminal.

はじめに

 近年、高齢者による健康意識は高まっており、寝たきりや要介護高齢者の割合も年々低下し、健康寿命が伸びている。今後の取り組みによっては、更なる健康な高齢者を増やすことが可能になる。しかし、既存の健康管理を支援する仕組みでは、今後増加する高齢化率(特に単身赴任の高齢者)に対応できない恐れがある。健康管理を自分で行うものとしてウェアラブルデバイスがニューデバイスとして導入されている。しかし、ウェアラブル端末の保有率は圧倒的に少なく、その中でも70代の保有率が最も低いということが分かっている。

目的

 本研究では、高齢者の健康管理にふさわしいデバイスとなりうるウェアラブルデバイスの可能性に着目した。そして、元気な高齢者を対象に、違和感なく利用してもらうための条件を見つけることで高齢者が自ら健康管理を行えるようなウェアラブルデバイスのあり方を明らかにすることを目的とする。

研究の方法

 本研究では、ウェアラブルデバイス利用の現状について技術受容のモデルを元に、質問項目の調整を行う。それを基に、全ての高齢者が理解できるよう適用な質問票を作る。次に、Webアンケート調査を実行し、収集したデータをもとに、重回帰分析を行う。最後に、高齢者の健康管理に望ましく利用への態度が向上するようなウェアラブルデバイスのあり方について考察する。

ウェアラブルデバイスの調査

表1.各ウェアラブル端末の用途

 ウェアラブル=身につけるという意味のウェアラブルデバイスは、腕や頭部などの身体の一部に装着して使用するデバイスである。また、形状に基づき、リストバンド型、腕時計型、眼鏡・ゴーグル型、指輪型、首掛け型、ヘッドセット・帽子型の6種類のタイプに分類できる。タイプ別の主要な用途としては、日常生活における用途での利用シーンが多い。日常生活における用途で利用される機能には、健康管理、フィットネス/エクササイズ、通知機能(通話・メッセージ)、送信機能(通話・メッセージ)、電子マネー決済、AR機能の6種類に分類できる。前述した本研究の目的に照らし合わせると、健康管理やフィットネス・エクササイズの機能に特化しているリストバンド・腕時計型、指輪型に着目することが適当であるが、指輪型は日本では未だ主流ではない。そこで、本研究ではリストバンド型と腕時計型のウェアラブルデバイスを対象として、以降の研究を行うことにした。

文献調査

ウェアラブルデバイスの先行研究

 従来では、健康・医療の面での可能性に着目したもので、健康を測定するシステムの構築やウェアラブルデバイスのどの機能が健康に影響をもたらすのかのような提示をする研究が多い。しかしながら、ウェアラブルデバイスのような最先端なテクノロジーに対して不信感を抱いてしまう人に対してや今後の人々の生活に持続的に浸透させるという面では未だ不十分である。

技術受容モデルの先行研究

図1.技術受容モデル Davis (1989)

 ウェアラブルデバイスを高齢者に利用してもらう際に生じる心理的抵抗を取り除くために、受容される条件の検討をするために技術受容モデル(TAM)の先行研究の調査を行なった。これまでのTAMに関連のある先行研究でも最も有効だと結論づけ、最も汎用性が高いものとしてDavisが開発した技術受容モデルがある。こちらのモデルでは、新しいものが出てきたときにどんなユーザーに対しても適応できる一般性と、少ない要因で利用する際の行動を評価し説明できるという特徴がある。以上から、本研究では汎用性が高い技術受容モデルを用いて以降の研究を進めることとする。

調査と分析

調査の目的

 ユーザーの調査として、ウェアラブルデバイス、特にスマートウォッチやスマートバンドに対する意識や認識を明らかにするためにインタビュー及びアンケート調査を行った。

調査の方法

 TAMとそれに関連する先行研究にて頻繁に使用され、かつ妥当性や信頼性のある質問項目をウェアラブルデバイス(リストバンド型と腕時計型)の特徴に基づいて精査し、質問票を作成した。そして、作成した質問票が理解できるかを明らかにするため、任意の65歳以上の単身世帯の高齢者に対して、2箇所での調査を実施した。調査の後、アンケート調査で用いる質問項目を修正しながら確定し、Webアンケート調査を実行した。

調査の対象と内容

図2.修正した質問項目

 平成の大合併の前の政令指定都市の12都市に在住の65歳以上の元気な単身世帯の高齢者を対象に、確定した質問項目で2023(令和5)年9月、Webアンケートを実施した。修正した質問項目を示す。回答方法は、それぞれの要因に感じた程度、「あてはまらない=1、あまりあてはまらない=2、どちらでもない=3、ややあてはまる=4、あてはまる=5」の5段階評価とした。

調査の結果

図3.性別に見た内訳
ファイル:近藤綾音.ウェアラブル端末の利用経験に見た内訳.png
図4.ウェアラブル端末の利用経験に見た内訳
図5.性別に見たウェアラブル端末の内訳

 777名から回答が得られた。このうち、要介護認定を申請している1名と健康上の問題で日常生活に何か影響があると答えた148名を除く。ウェアラブル端末を利用したことがあるかどうかの質問に対し、「わからない」と回答した43名を除く、585名からの有効回答が得られた。性別、ウェアラブル端末の利用経験の有無にみた人数と割合を表に表す。

分析対象者の選定

 分析では、ウェアラブル端末の利用経験の有無が評価に影響すること、利用経験のある人数の母数が少ないことを考慮し、利用経験のある80名を除く残りの505名を分析の対象とすることにした。また、男性と女性でウェアラブル端末に対するモチベーションや受容度が異なると仮定し、男性251名と女性254名の2つのグループに分けて分析を行なった。

分析の方法

 設問1の「知覚された有用性」に関してQ4-1からQ4-10の計10問と、設問2の「知覚された利便性」に関してQ5-1からQ5-9の計9問を説明変数として、設問3「利用への態度」を目的変数として、SPSSにより男女別で重回帰分析を行った。

結果

知覚された有用性

表2.重回帰分析の結果 設問1「知覚された有用性」

 利用経験のない男性では、設問1のQ4-1「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末は、私の生活に重要な役割を果たすと思う」、Q4-6「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末を利用すると、生活の効率が上がると思う」、Q4-7「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末は、代わりになる手段と比較して便利だと思う」、Q4-10「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末を使うことは、経済的な利点につながると思う」が利用への態度に大きい影響を与えていることが分かった。一方で、利用経験のない女性では、設問1のQ4-5「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末を利用すると、自分で出来ることの幅が広がると思う」、Q4-7「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末は、代わりになる手段と比較して便利だと思う」が利用への態度に大きい影響を与えていることが分かった。特に、Q4-7「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末は、代わりになる手段と比較して便利だと思う」が男女に共通して、利用への態度に強く影響を及ぼしていると考えられる。有用性の観点から、高齢者が利用への強い態度を示す要因には、男女に関わらず、他の便利なデバイスや手段よりもウェアラブル端末の方が便利だと感じることがある。

知覚された利便性

表3.重回帰分析の結果 設問2「知覚された利便性」

 利用経験のない男性では、設問2のQ5-8「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末を使うことは、面倒に感じると思う」、Q5-9「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末は、通話やインターネットを利用する他にも利用範囲が広く、便利であると思う」が利用への態度に大きい影響を与えていることが分かった。一方で、利用経験のない女性では、設問2のQ5-3「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末を利用するときに、常に取扱説明書を参照する必要があると思う」、Q5-6「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末は、他のスマート家電と簡単に接続することができると思う」、Q5-8「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末を使うことは、面倒に感じると思う」、Q5-9「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末」は、通話やインターネットを利用する他にも利用範囲が広く、便利であると思うが利用への態度に大きい影響を与えていることが分かった。特に、Q5-8「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末を使うことは、面倒に感じると思う」、Q5-9「私は、リストバンド・腕時計型のウェアラブル端末は、通話やインターネットを利用する他にも利用範囲が広く、便利であると思う」が男女に共通して、利用への態度に強く影響を及ぼしていると考えられる。利便性の観点から、高齢者が利用への強い態度を示す要因には男女に関わらず、2点あることが分かった。1点目は、ウェアラブル端末の利用に手間がかからず簡単に利用できるものであることだ。2点目は、ウェアラブル端末に多くの機能が備わっており、それが生活する中で広い範囲で活躍し生活がより便利で豊かになることである。

終わりに

 高齢者のウェアラブルデバイスの受容について、有用性と利便性の要因、利用への態度に結びつく関係を明らかにできた。

 有用性の観点からでは、他の便利なデバイスや手段よりもウェアラブル端末の方が便利だと感じることが、ユーザーのウェアラブル端末に対する利用したいというポジティブな感情を高めるための1番の要因であることが分かった。これは、ウェアラブル端末の他、スマートフォンやPCのように便利な機械があることから、ウェアラブル端末にしかない便利な機能が求められていると考えた。

 利便性の観点からでは、
① ウェアラブル端末の利用に手間がかからず簡単に利用できること
② ウェアラブル端末に多くの機能が備わっており、それが生活する中で広い範囲で活躍し生活がより便利で豊かになること
上記の2点がユーザーのウェアラブル端末に対する利用したいというポジティブな感情を高めるための要因であることが分かった。①に関して、高齢者の中には電子機器を使いこなすことが困難でありウェアラブル端末の操作が難しいと感じていることが考えられる。②に関しては、ウェアラブル端末に備わる多様な機能が、高齢者自身の生活にとって大いに活躍することを期待していると考えた。
 本研究は、JSPS科研費 22K12222 の助成を受けたものです。

参考文献

1. 厚生労働省 : 令和4年版高齢社会白書(全体版)内閣府. 第2章 高齢者と健康
2. デジタル庁 : 日本のデジタル度. 2021
3. 総務省 : 社会課題解決のための新たなICTサービス・技術への人々の意識に関する調査研究. 2015