製品企画研究会 報告
Project/町工場の面白い!|KRPへのご報告
井上 貢一
概要
本件は、福岡県久留米市で半導体製造装置や人工衛星などの部品加工を行っているアイアント工業様の新規自社製品企画に関わる連携プロジェクトで、久留米リサーチ・パーク(KRP)様の「製品企画研究会」として、2024年度前期の期間中に実施された。
プロジェクトメンバー構成
- 株式会社 久留米リサーチパーク
- アイアント工業
- 九州産業大学 産学共創・研究推進本部
- 九州産業大学 芸術学部、同大学院 芸術研究科
経緯
- 学生メンバー募集
- 2024年5月15日 〜 5月31日
- Web上で告知するとともに、関係する授業において募集
- 事前説明会
- 日時:6月12日(水)13:40 - 14:30
- 会場:15号館4F 芸術学部 第会議室
- プロジェクトの概要説明とチーム分け。全体で30名の学生を5名ずつの6チームに編成し、Web上にチームごとのプロジェクトページを作成した。なお編成にあたっては、学生の提案により、はじめに2〜3名の近しい友人小グループをつくり、これをランダムに2組を合体させることで、チーム全員が初対面となることを避けた。
- 第1回 製品企画研究会
- 日時:2024年6月26日(水)13:00 - 16:00
- 会場:15号館4F 芸術学部大会議室
- 趣旨説明・質疑・ディスカッション
本件の趣旨説明とアイアント工業様からの技術仕様等の説明をいただくとともに、質疑応答を行なって、提案要件等の確認を行った。
- 中間報告;プロトタイプ検証
- 日時:2024年7月10日(水) 13:40 - 14:40(1時間程度)
- 会場:15号館4F 大会議室
- チームごとにプロトタイプを提示して、問題点等を確認するとともに、本提案に向けたブラッシュアップの方向性を検討した。
- 第2回 製品企画研究会
- 日時:2024年7月24日(水)13:00 - 16:00
- 会場:15号館4F 芸術学部大会議室
- アイデアソン(アイデアマラソン)
チームごとのプレゼンテーションと質疑応答を行うとともに、参加学生全員の相互評価により最優秀賞・優秀賞・アイデア賞の3件を選出。最後に講評が行われた(詳細は以下)。
アイデアソンの結果
2024年7月24日に開催されたアイデアソンでは、参加学生全員による相互評価が行われた。評価項目は「共感度」・「問題定義と課題設定」・「アイデア創出」・「プロトタイピングとテスト」・「成果の実装」・「チーム力」・「プレゼン力」の7項目で、それぞれを4段階評価したものを集計して総合得点とし、上位2件を最優秀賞と優秀賞として選出。また、アイアント工業様が重視するキーワードへの言及という観点からアイデア賞が選出された。各賞の受賞チームは以下のとおりである。
- 最優秀賞:make you "CHIC"|Team Koks
- 優秀賞: 思い出を持ち歩く__ r e n k . |Team アルミニウム研究会
- アイデア賞:お部屋のアクセントになるオブジェ|Team Teammates
総評
今回の製品企画研究会は、実質1ヶ月という短期間の提案プロジェクトで、プロトタイプ案の検証も1回のみであったが、全体として7つの評価項目いずれについても一定の配慮が行き届いた提案が行われたと感じる。一般的なアイデアマラソンでは、プレゼンテーション以前にアイデアをオープンに共有することは稀であるが、今回のプロジェクトでは、全体の提案の質向上を目的に中間段階で問題点の洗い出しを行ったことで、最終段階での提案も洗練されたものになったと思われる。以下、チームごとにコメントを加える。
アイスキューブ|Team コネクト
金属を冷却材として利用する「麻雀・将棋型のアイスキューブ」の提案。若年層のトレンドに注目して、コレクションとしての購買意欲も狙った提案であった。実際にどの程度の冷却能力があるのか、その検証が不足していたが、製品のカタチとは異なる「冷却」という機能に金属材料の可能性を求めた点で、他のチームにはないユニークな提案であった。
お部屋のアクセントになるオブジェ|Team Teammates
一定の機能を持ちつつ「おしゃれな空間演出」という付加価値を持ったオブジェの提案。製造コストや構造的安定性に関する配慮は不十分であったが、インバウンド需要を想定した日本文化を象徴する形や、企業のPRポイントである「人工衛星」に関わる形の提案で、遊び感覚に溢れるオブジェは、外国人の集まる場でのお土産物として、またプラネタリウム・科学館等のミュージアムグッズとして、購買意欲をそそる提案であると感じた。
思い出を持ち歩く__ r e n k . |Team アルミニウム研究会
「思い出」を「リンク情報」として持ち歩く、QRコードを刻印したキーホルダーとクラウドシステムの総合的提案。一般に製品企画では「モノ(ハードウエア)」としての形と機能にフォーカスしがちであるが、本提案はQRコードの刻印というアイデアで「情報(ソフトウエア)」をモノ化して持ち歩く可能性を見出していた。すでにいくつかの企業が行っているようなデータそのもののコード化ではなく、データが置かれた場所(URL)へのリンクというかたちであれば、つながる「思い出」の量は無限大となる。様々な個人データへのアクセスキーとしても利用できる点で、可能性が広がる提案であった。
特別感な贈り物_自分で作る楽しさを|Team おむらいす
プラネタリウムの平板ブロックと人工衛星のプラモデルの提案。事例としては、左記の2点であったが、この提案の要点は「自分で作るためのパーツのデザイン」である。「生産完成品」としての商品が溢れる中、多くの人が忘れかけている「自分で作る楽しさ」に注目した点、またそれをワークショップなどの場で「みんなで楽しむ」という点に注目した点で高く評価できる。平板から3次元的な形へと組み上げるためには、形状の設計・加工で難易度が上がるが、強度的にプラスチックでは実現できないパーツを作ることもできる点で、様々な展開可能性のある提案であると感じた。
make you "CHIC"|Team Koks
ファクトリーブランドの構築とプロダクトラインナップの提案。単純加工による低い原価率とアート的な付加価値の掛け算による複数製品の提案がなされただけでなく、ロゴのデザインやコンセプトモデルをベースとした総合的なブランド構築が提案された点で高く評価される。3Dプリンタによるモックアップ制作でプロトタイプの検証が行われていたこと、また、提案資料のビジュアルデザイン、プロモーション動画、Webサイトなど、そのプレゼンテーションも非常に充実したものになっており、モノづくりにかけるメンバーの情熱を感じた。
社長の家にありそうなオブジェ|Team 13
ハニカム構造をベースとした連結可能なプロダクトの提案。テーブルや椅子として室内に置けば高級感のある家具として機能し、屋外に持ち出せば、アウトドア用品として様々な用途に展開できる可能性を持つ。受注生産を念頭に、平面・凹形状・穴あきの3種の要素を自由に構成できるという発想は、注文の段階からユーザ自身に考える楽しみを与えるものであり、自分だけの唯一無二のパターンを持つツールは、購入後の利活用においても様々な楽しみを見出せる製品として高く評価できる。
このプロジェクトは、入学して間もない学部1年生から大学院生まで、学年・経験値の幅が大きなチーム編成で行われました。一般に、経験年数が上がると、設計上のテクニックやプレゼン資料のビジュアルに意識が傾くことも多いのですが、今回は6チームとも、クライアントの特性と志向、ユーザが求めているモノ・コト、そして、現代社会に欠けているもの・・と、幅広い視野で俯瞰的な提案がなされていたように思います。デザインを学ぶ学生にとって、貴重な体験の機会を与えていただいたことに、この場をお借りして感謝申し上げます。