アニメ聖地巡礼の現状分析

提供: JSSD5th2019
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劉ショウショウ / 九州大学大学院統合新領域学府
LIU, Xiaoxiao/Kyushu University
池田美奈子 / 九州大学大学院芸術工学研究院
IKEDA, Minako/ Kyushu University

Keywords: ACG-themed tour, state, animations, local districts, events


Abstract
ACG-themed tour, which called ”Seichi-junrei” in Japanese, has been a big hit recently. There was much analysis of one of the successful episode. This research would like to summarize the bias of ACG-themed tour in Japan according to a database. The database is made of data from 3 aspects: the animations which fans are watching, the impressing of each ACG-themed tours, and the events hosted in the city which is the stage of the animation.


目的と背景

 近年、アニメ聖地巡礼という旅行形態が書籍やガイドブックで取り上げられている。JTB 編集製作本部 (2008)によると、アニメ聖地巡礼とは「アニメ作品のロケ地、またはその作品・作者に関連する土地で、且つファンによってその価値が認められている場所を訪ねること」を指す。
 岡本健(2010)は、聖地巡礼に参加する観光客が、作品の舞台となっている地域を発見してネットで発信し、そこに聖地巡礼者を集め、イベントを行うことで更に盛り上がるという聖地巡礼のプロセスを示した。聖地巡礼を行うファンたちが、アニメやゲームなどの作品の中に出てきたシーンと同じ場所に行き、写真を撮り、イベントに参加することは聖地巡礼の一般的な形であるが、最近、聖地巡礼の幅は広がっている。また、玉井建也(2011)は作品の舞台となる地域の歴史を調査し、鎌倉など歴史があり既に知名度の高い観光資源がある観光地では聖地巡礼が目立たず、結果として地域活性化には活用できないと分析した。つまり、アニメ聖地巡礼は、観光地として有名ではない地域が舞台となるほうが高い効果が得られると考えられる。
  アニメ作品のジャンルや作品から派生した聖地巡礼活動の状況も多種多様である。したがって特定の作品を取り上げて分析する手法では、全体的な聖地巡礼活動の特徴と傾向を知ることは難しい。よって、本研究ではできる限り多くのアニメ作品とその聖地巡礼活動の情報を集め、聖地巡礼の全体的な傾向を分析し、アニメ作品と聖地との関連性を明らかにすることを目的とする。

研究の方法

アニメ聖地巡礼全体の状況を知るため、作品と聖地巡礼のデータを収集した。具体的には、「聖地巡礼マップ」(https://seichimap.jp/ ) に掲載された「行きたいリスト」から、人気順で聖地を選抜し、同じアニメ作品にまつわる聖地をまとめ、計50のアニメ作品の聖地巡礼データを収集し、データベースを作成した。アニメ作品の基本情報はwikipediaから収集した。聖地巡礼活動の基本情報は「聖地巡礼マップ」以外に、googleとtwitterから検索・収集した。聖地巡礼のプロセスに従い、データベースのデータを「アニメ作品を見る」「聖地巡礼に行く」「現地のイベントに参加する」という3段階に分け、傾向を考察する。

データベースの分析

 まずデータベースにある50点の聖地巡礼の関連作品の特徴を概観する。テーマについては恋愛・恋愛アドベンチャーゲーム(20作品)と学園(14作品)が多く、原作については小説・ライトノベルからテレビアニメに改編した作品が15作品と最も多い。また、特定の性別の視聴者を対象にしていない作品が、38作品と一番多い。データベースにある作品は、ほとんどがアニメ化されてから1ヶ月以内に聖地巡礼活動が始まっている。
 アニメの舞台となった地域が聖地になるのには、作者の出身地である場合とアニメの製作側が取材した地域の場合がある。舞台となった町については、ひとつの町を中心に、周辺のいくつかの町も舞台となる場合が多く、聖地スポットとなる場所は神社、寺院、橋、カフェなど日常的な場が大多数を占める。そのほか聖地巡礼マップの配布については、調べた範囲では公式聖地巡礼マップが15で、非公式聖地巡礼マップが10あった。
 聖地巡礼活動がさらに活発になるとイベントへの参加の段階に進む。聖地で開催されるイベントには、アニメの舞台となった地域やアニメ製作者、アニメのファンやその他の団体が主催するものがある。集客のための聖地巡礼の情報を発信する手段には、町のホームページや観光特設サイト、市長や地域イベント主催者側からの広報がある。

データベースに基づく考察

 原作がアニメ化された後に聖地巡礼が始まるケースがほとんであることから、アニメ化は聖地巡礼活動に大きな影響を与えることが分かる。
 中島梓(1991)によると、現実世界に自分の居場所を見出すことができないオタクは、日常を扱った作品の聖地巡礼活動を行いやすく、キャラクターの日常生活に参加することで現実世界に居場所を作ることが聖地巡礼活動を行う理由だと推測している。そのため、聖地スポットが日常生活に近い町並みで、日本人が日常生活で特別な意義や思いを持つ神社、カフェなどの場所になることが多いと考えられる。
 神田孝治(2012)によると、聖地巡礼には一過性という問題がある。それを克服し、リピーターを増やすためにイベントが開催される。イベントによって、聖地巡礼の楽しさが増し、古い伝統行事に新たな要素を加え、アニメファンと地域住民の地域に対する愛着を含め、聖地巡礼の持続性を保てると考えられる。一例を挙げるとアニメ『らき☆すた』の聖地・埼玉県久喜市の秋祭り「土師祭」がある。「らき☆すた」の神輿が登場し全国から集まったファンによって担がれ、10年経った今でも続いている。

まとめ

 現在行われている聖地巡礼は、日常生活を扱ったアニメ作品に関するものが多い。聖地巡礼の中心は日常的な町並みであり、アニメファンが自発的に巡礼をするだけでなく、地域側からも積極的にマップを作り、イベントを開催することで巡礼者を誘致している。アニメファンのアニメキャラクターの日常生活に参加する意欲を高め、地域の町の日常に参加しやすい環境を作ることが、アニメ作品と聖地の継続的な関係性の構築に有効だと考えらえる。



参考文献・参考サイト

編集製作本部 国内情報部 第五編集部、2008、『もえるるぶ COOLJAPAN オタクニッポンガイド』 JTBパブリッシング
岡本健、2010、『コンテンツツーリズムにおける若者の観光情報行動に関する研究』~開拓的アニメ聖地巡礼者による情報発信行動に着目して~
玉井健也、2010、『地域イメージの歴史的変遷とアニメ聖地巡礼ーー鎌倉を事例として』
中島梓、1991、『コミュニケーション不全症候群』
神田孝治、2012、『白川郷へのアニメ聖地巡礼と現地の反応―場所イメージおよび観光客をめぐる文化政治―』
『アニメ「らき☆すた」放送から11年 「聖地」鷲宮がファンに愛され続けるワケ』、https://danro.asahi.com/article/11681945