三角形道路警戒標識のデザインに関する研究

提供: JSSD5th2019
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- 中国の現行案をデザインする -


欧陽一成 / 九州大学大学院芸術工学府
OUYANG Yicheng / Graduate School of Design, KYUSHU University
伊原久裕 / 九州大学大学院芸術工学研究院
IHARA Hisayasu / Faculty of Design, KYUSHU University

Keywords: Road sign, Triangle


Abstract
The triangular road sign has always been seen as a symbol of warning. However, triangular sign is limited compared to a diamond one what is more suitable for show the graphic symbol. Among the countries that use triangular road warning signs, the problem of the original triangular road warning sign used by China is particularly prominent. This paper will incorporate regional differences, observation habits, and triangle layout studies into the reference elements of warning sign design on top of the existing warning sign design methodology. And the reference policy of the graphic layout within the triangle is proposed.


1.目的と背景

図 1各システム道路警戒標識

 道路標識は、道路交通を安全かつ円滑に確保するため、運転者に対して走行中の道路における規制・警戒・案内情報の3種類に分類される情報を提供する目的で設置されている。この分類の意味を伝えるのは、標識の外形と色彩であるが、特に警戒については、国によって異なる外形と色彩が用いられている。世界の道路警戒標識には、大きく分けて2つのタイプがあり、ヨーロッパを中心として、アフリカや、旧植民地国に広く使われているウィーン系と、アメリカを中心としたMUTCD(Manual on Uniform Traffic Control Devices)系の2つである。
 中国では、ウィーン系に従いつつ、独自の警戒標識がデザインされている。すなわち三角形のフレームに、黒色と黄色によるコントラストの強い色が採用されている。しかし、三角形という形は、シンボルを描く面積が少なく、黒色の図記号と黒色の枠との区別が難いように見受けられた。特に夜の暗い環境の中では、そうした問題が強いと推定された。
 そこで、本研究では、中国道路警戒標識を対象として、三角形のフレームという条件において、最適なデザイン方法を探り、より視認性の高い警戒標識の条件を提示することを研究の目的とした。

2.研究の方法

 研究の方法として、まず、ウィーン系及びMUTCD系の道路警戒標識の事例を収集し、グラフィックデザインの観点から、中国と比較することによって、中国の道路警戒標識におけるデザインの問題点を明らかにした。次に、中国の警戒標識を対象として、各標識が告げる情報がどれだけ正確に認知できるのかを把握するために理解度調査を行った。最後に以上を踏まえて、三角形のフレームの標識についての有効なデザイン方法を探った。

2.1 中国と世界各国の警戒標識の比較

 世界の警戒標識から、ウィーン系を17カ国・地域、MUTCD系から8カ国・地域、合計25国・地域の警戒標識を選定し、それぞれのグラフィックデザインを比較した。各国・地域における同一の警告意味を持つ標識の表現形式、図記号の使い方、デザインの手法を比較した結果、車両の進行方向や、自然環境の違いによって、デザインの手法がまちまちであり、ウィーン系の標識には、警戒効果を優先する傾向が、MUTCD系では、警戒内容を優先する傾向がそれぞれ確認できた。
 中国の警戒標識では、同じ図記号を複数の標識にしばしば用いており、意味が曖昧となる可能性があることが分かった。また、他の国との比較から、中国では、表現形式に大きな違いを持つ独自のデザインであることが分かった。

2.2 現行の中国警戒標識の理解度調査

 中国独自のデザインの標識の理解度を検討するために、他国のデザインの表現形式と異なった22点の標識を選びアンケート調査を行った。他の国と比較するため、他の国の標識の中から4点を加え、さらにユーザーの識別方向の慣れが標識のデザインに影響を与えているどうかを検討するため、2点の標識を加え、合計28点の標識を調査の対象とした。
 国籍と免許の取得状態によって、被験者を6つのグループ(免許を持った中国人、教習中の中国人、免許のない中国人、免許を持った日本人、教習中の日本人、免許のない日本人)に分けて、データを集計と分析した。分析の結果を示す。各グループ毎の正答率の差は小さく、免許を持つ被験者の正答率(44.7%)は、免許なしの被験者の正答率(45.6%)よりわずかに低かった。
 評価の基準は、国際標準ISO 9186-1:2014に従った。すなわち、パブリックの標識の理解度は66%以上、パブリックの安全用標識の理解度は86%以上、あるいは誤解率は5%以下となっている。実施した理解度調査の結果の中では、国際標準の66%の理解度に満たした標識は6つのみであった。この結果を基に、理解度に達していない標識を対象に、他の国のデザインを参考にしつつ、デザイン案を検討することとした。
 なお、シンボルの方向性に関する調査では、被験者の識別方向の77.2%のが左から右への方向性であったため、上り坂、下り坂のように方向性がある標識に対しては、左から右への方向で統一することが有効と推定された。

2.3 三角形標識作図空間分析

図 2レーアウト分析

 標識の三角形は、デザインしにくい窮屈な空間である。菱形のデザインが採用される所以である。しかし、菱形の中心作図のルールは三角形に適さず、三角形の空間を最大限に利用できる一般的な考え方を探求することが本研究の重要な課題となった。
 まず1つの等辺三角形を15個×15個, 計225個の等辺三角形によって細分化し、この格子の構造を用いたフォーマットを検討した。
 標識図記号の形状から、縦横の差が大きい記号、縦横の差が小さい記号、三角形記号、特殊な形の記号4つのタイプに分類し、特殊な形以外の記号については、長方形、正方形、三角形に抽象化し、基準となる格子構造のレイアウトを検討し、最大域と最適域を明らかにした。その結果に基づき、各形の図記号のレイアウトの中心範囲、また、三角形格子構造の中のデザインの最適な範囲を明確した。

図 3各タイプの図記号のレーアウト中心範囲
図 4三角形内作図の最適域

 さらに図6に示すように三角形のフレームの最適域の検討から、外形の枠線の幅を狭め、角を補強するデザイン案を検討している。

図 5行列注意現行案(中国)
図 6行列注意改善案

3.まとめ

 本研究では、中国の道路警戒標識例を対象として、他の国の標識のグラフィックデザインとの比較と認知度のアンケートによって、デザインの問題点を明らかにした。さらに、三角形の限定されたスペースにおける図記号の最適な作り方を検討した。これらを通して、デザイン案を検討した。今後の課題として、改善案の理解度調査、原案と比較評価、また視認性の実験が残されている。

参考文献

  • Convention on ROAD SIGNS and SIGNALS DONE at VIENNA on 8 November 1968,pp.7-15.
  • ISO 9186-1:2014 Graphical symbols — Test methods — Part 1: Method for testing comprehensibility
  • 高速道路総合技術研究所『設計要領第五項 交通管理施設 標識篇』2016年8月版