地方都市における訪日中国人観光客に向けたお土産菓子のデザイン研究

提供: JSSD5th2019
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礒部嵩人 /九州大学大学院芸術工学府デザインストラテジー専攻
Shuto ISOBE / Graduate School of Design, Kyushu University
杉本美貴 / 九州大学
Yoshitaka SUGIMOTO / Kyushu University

Keywords: Product Design, Souvenir 


Abstract
In Japan, the importance of the tourism industry is increasing as the number of tourists increases.In the Japanese tourism industry, where further development is desired in the future, we will continue to attract tourists and revitalize local tourist destinations that are not currently attracting foreign tourists by utilizing souvenirs With the goal.This study considers souvenirs for Chinese tourists visiting Japan.


研究の背景

近年の日本の観光産業について

図1.

 近年、少子高齢化に伴う労働人口の減少によりこれまで日本の経済を支えてきた製造業を中心とする第二次産業は新興国の攻勢にさらされ縮小すると推測されており、観光・サービス業を中心とする第三次産業の成長が期待されている。その中でも観光業は特に成長が著しく、今後日本の経済を支える基盤となることが期待されている産業である。訪日外国人観光客数は2013年に1000万人を突破して以降右肩上がりに増加を続け、2018年には3000万人に到達した。しかし、一部の観光地に外国人観光客が集中し経済効果をもたらしている一方で、地理的条件などで外国人観光客誘致の波に乗れていない地方自治体の観光地は地域経済を活性化させることはできていない。

訪日外国人観光客及び中国人観光客の消費動向

図2.

 2018年の訪日外国人観光客の旅行消費額総額は3兆7476円で、近年の訪日外国人観光客数の増加に伴い、2012年から右肩上がりに増加を続けている。その内、中国人旅行者の旅行消費額は1兆4754億円でそのうち買物代は7832億円となっており、ひとり当たりの買い物代は122,895円である。訪日外国人の平均ひとり当たりの買い物代が59,323円であることから、中国人旅行者の買物代は突出した値であることがわかる。中国人観光客の買い物額の総額は2014から2015年頃の家電量販店やドラッグストアでの「爆買い」と呼ばれた大量購入のブームの頃と比較するとやや下がってきているものの、他の国と比較すると圧倒的に高い購買力をもっており、今後の観光産業を考える上でも訪日中国人観光客の消費行動を促進していくことは重要であるといえる。また、近年の傾向として、特に中国人観光客に関して、日本の菓子に関する注目度が高まっており、消費支出に対するお菓子の割合も年々増加している。これは、日本のお菓子の製品的な魅力や食の安全性だけでなく、他の国では味わえない日本特有の文化としての菓子が評価されていると考えられる。

目的

 今後更に発展していくことが望まれる日本の観光産業の中で、持続的に観光客を呼び込み、現在うまく訪日外国人観光客の消費を取り込めていない地方の観光地をお土産菓子を生かして活性化するためのデザイン要件を決定していくことを本研究の目的とする。また、家族・親族にモノを配る文化のある中国語圏観光客に焦点を当て、さらにお土産菓子を購入してもらうためのデザイン要件を、実際の観光地での調査と検証をすることで抽出していく。

お土産について

日本と海外の贈答文化

 日本のお土産には、他の国にはない日本人特有の価値観が含まれている。そもそもお土産とは、国外、特に欧米ではあまり見られない文化であり、欧米にも意味の近い「souvenir」という単語はあるが、「souvenir」は本来自分への記念という意味が含まれており、他人のために買うお土産とは異なる。またgiftも贈り物やプレゼントの意味を持つが、より特別さや高級感が加わり、お土産というニュアンスとは少し異なると思われる。さらに、日本では親しい人以外にも、職場の人などに義理でお土産を買うことがあるが、欧米にはその感覚はなく、頼まれたときに買うことが多い。中国では、家族・親族の結びつきが強く、旅行先で購入した品をプレゼントする文化はあるが、親しい人以外にも配る日本の土産物文化とはいくつか異なる点がある。海外では、スーベニア研究がいくつか蓄積されているが、スーベニアという語は日本におけるお土産とは必ずしも完全に一致するものではなく、特に日本の観光土産が、旅行から帰った時に他人に送ることが前提とされていることが多い点では大きく異なっている。

日本のお土産菓子の現況

 現在日本の観光地で売られている土産菓子は、そのほとんどが観光地のお土産屋や駅空港などの交通機関で売られているが、そのような場所の多くで土産菓子に関する情報を外国人観光客ではなく、日本人観光客や出張客に対して発信している。また、日本の土産菓子の中には、その土地で生産されたものではないものがパッケージだけデザインされあたかもその土地で生産されたものであるかのように販売され、地域の経済に寄与していないものが数多くあるという課題もある。(折笠,2016)

調査

文献調査

 現在のお土産と訪日外国人観光客の消費行動について既往研究と文献の調査を行なったところ、観光学やマーケティングの側面からお土産について研究を行なった事例がいくつかあった。海外では、スーベニア研究として、観光人類学や観光社会学の中で観光地での消費行動の研究がされてきた。日本国内においても、観光みやげに関する理論的、歴史的な検討が行われている。これらの研究では、観光みやげの真正性、観光者の買物行動と小売業者の対応、観光による手工芸品の商品化、観光開発の生産地への影響など、多岐にわたるトピックが取り上げられ、観光みやげを対象とした考察が、観光研究にかかわる多様な領域からアプローチされていることを示している。(鈴木, 2014) 先にも述べたようにこれまで、観光産業におけるお土産物の研究は、特に歴史学でお土産の文化や成り立ちを議論されたり、経済・社会学の分野でマーケティング手法を研究されてきたが、消費者目線でのお土産の形状、パッケージのデザインに関する具体的な要件に言及しているものはほとんど見当たらなかった。

ユーザー調査

 中国人留学生、日本人学生に行なったデプスインタビュー、ヒアリング調査では、土産菓子における日本のお土産文化と中国での贈答文化における差異が過去の文献で述べられているほどはないという示唆を得た。これまでの文献では、日本人が華美な装飾を好まず慎ましいお土産を贈る傾向がある一方で、中国人観光客は豪華な装飾が施されたお土産を好む傾向があるということが述べられていたが、今回調査では、華美なものを好む傾向は見られなかった。今回の調査では若い世代の中国人は年齢層の高い世代とは違った価値観を持っている可能性が分かり、中国の贈答文化にも日本と同様に大きな世代間ギャップがあることが考えられる。


考察・今後の方針

 今回の調査では若い世代の中国人は年齢層の高い世代とは全く異なった価値観を持っている可能性があり、中国の贈答文化において大きな世代間ギャップがあることが分かった。今後研究対象とする若い世代の中国人に対してお土産のデザイン要件を設定していくうえで、この世代間ギャップを明らかにし、また違ったアプローチする必要性があると考えられる。


参考文献・参考サイト

  • 観光みやげにおける生産地と販売地の乖離に関する基礎的研究(2014)鈴木涼太郎
  • 観光学のなかの土産物研究(2006)鍛冶博之
  • 土産物評価における地域原産の効果(2016)折笠俊輔
  • インバウンド観光における観光土産の購買行動 ー観光地域による差異ー(2016)辻本法子
  • インバウンド訪日外国人動向(2018)JTB総合研究所
  • 訪日外国人消費動向調査(2018)観光庁
  • 春節期における訪日中国人観光客の消費行動調査(2015)博報堂インバウンドマーケティングラボ