消費者の脱プラスチックに関する意識の研究

提供: JSSD5th2019
Jump to navigation Jump to search


内村謙也 / 九州大学大学院芸術工学府
Kenya UCHIMURA / Graduate School of Design, Kyushu University

Keywords: Plastic-free, Environment-conscious Behavior, Consumer Behavior, Consumer Consciousness


Abstract
The depletion of petroleum resources by continuing to make plastic products and marine pollution from plastic waste have become major problems. In order to solve these environmental problems, it is necessary to encourage consumers to purchase plastic-free products. As a first step in the approach to search for the method, I grasp the structure of consumer consciousness in environment-conscious behavior and the formation of environmental consciousness.



背景

 近年、SDGsなどが火付け役となって、プラスチック問題への関心が世界的に高まっており、特に企業によってはCSRの観点から積極的にプラスチック問題に対する取り組みが行われている。その中でもコーヒーチェーン店などの使い捨てプラ廃止やスーパーのレジ袋有料化などの身近なところから消費者にも脱プラスチックの風潮は認知されつつある。
 本研究ではプラスチック製品の使用撤廃だけでなく、リサイクル再利用化、有効な利用法の見直しなどプラスチック問題の解決改善につながる取り組み全般を指して「脱プラスチック」と定義し、研究を進めていく。
 企業レベルで行われる脱プラスチックに対して消費者レベルでの脱プラスチックは主に購買行動を通して行われる。そのため、プラスチック問題に対する消費者レベルでの取り組みを加速させるためには、消費者に脱プラスチック効果を持つ商品の購買を促す必要がある。

目的

 本研究では、消費者に脱プラスチック製品の購買を促す方法を探るアプローチのはじめとして消費者のプラスチック問題に対する認知から脱プラスチック購買行動につながるまでの意識構造を明らかにすることを目的とする。

研究の方法

 プラスチック問題の概要と対策状況を把握し、環境配慮行動やエコ商品の購買行動に影響を与える要因について知るために既往研究の調査を行う。また、実際に市場に出て消費者に選ばれている脱プラスチック商品はどのようなものがあるかを知るために文献やインターネットから事例を収集する。収集した脱プラスチック商品を例に、消費者に対してプラスチック問題とその商品の購買選択についてのヒアリング調査を行い、プラスチック問題の認知・意識形成から脱プラスチック商品の購買に至るまでの意識の中において文献調査で得た要因がどのように働き合っているのか、具体的にどんな意識が生じているのかを構造化して整理する。そして、ヒアリング結果を分析することで、消費者の脱プラスチック購買行動を促す方針について提言する。

文献調査

プラスチック問題の概要

 プラスチック問題を大きく二つに分けると石油資源循環と海洋ごみ関連の問題に分けられ、その解決改善のためには、プラスチックそのものをただ排除してしまうだけではなく、その他の再生可能資源やバイオマスプラスチックへの置き換えに加えて、その素材としての利便性・有効性を認めた上で環境負荷の低い利用の模索や廃棄回収・リサイクルシステムの改善などの複合的な取り組みが必要であることが分かった。

環境配慮行動・エコ購買行動に影響を与える要因について

Model.PNG

 環境配慮行動全般に影響を与える要因を説明しうる一般的モデルとして広瀬[1994][1]が作成した「環境配慮行動と規定因との要因関連モデル」(図1)がある。この中では、行動をとるまでの意思決定プロセスは環境に優しい目標意図=環境意識の形成までと環境配慮行動意図の形成までの二段階としており、それぞれの意図の意思決定において主に考慮される要因として環境問題についての認知に関わる3つ、環境配慮行動の評価に関わる3つが挙げられている。
 また、國﨑[2018][2]は研究内でエコ購買態度の規定要因として、先行研究で実証されている「有効性評価」「社会的規範」「ベネフィット」「情報・メディア」に加えて新たに「デザイン性」「企業・製品情報」「独自性」を策定し、その影響力を実証している。
 これらの既往研究から把握した環境配慮行動、エコ購買態度に影響を与える要因及び研究内で用いられた尺度を参考にし、後のヒアリング調査を行い、消費者の脱プラスチック購買行動に関わる具体的な意識構造を明らかにする。



脱プラスチック商品事例

 脱プラスチック効果を持つ商品の事例調査を行った。事例を見ていくと脱プラスチック効果の内容から、「使い捨てプラスチック製品を削減する商品」「商品そのものを新素材・再生可能資源・バイオマスプラ等へ素材を置き換えた商品」「容器・包装に用いられるプラスチックを削減または別素材に変更した商品」に分類可能だと考えられる。
 ここで収集した事例の中から、特に消費者に購入されているものを例に用いてヒアリング調査を行う。

ヒアリング調査

 消費者にとってほぼ毎日行う可能性のあるレジ袋を使用するかどうかの選択と、その削減のための代替商品であるエコバッグの購買意思決定についてヒアリングを行った。二名のヒアリング内容をまとめたものを以下の図に示す。
Target1v.PNG Target2v.PNG





考察と今後の方針

 今回のヒアリング対象は二名ともエコバッグを購入しないという意思決定に至ったが、その過程における意識に違いがみられた。自らの行動が問題解決に対して有効だと思うかを意味する対処有効性認知とプラスチック問題意識(エコ意識)の想起タイミングに着目すると、よりレジ袋を断る傾向が強かった調査対象1の意識において、対処有効性にポジティブな意識持つことと、行動選択前にエコ意識を想起しているという特徴がみられた。先行研究では対処有効性がポジティブであることが積極的な環境配慮行動をとる要因の一つだと実証されており、その積極性が行動選択前のエコ意識の想起に現れたのではないかと考えられる。
 今回はマイバッグを購入しない意思決定を行う場合の意識構造のみが得られたが、購入意思に至る場合の意識構造も調査することで、その差異の分析からさらにマイバッグの購買促進を行う方針を導き、「使い捨てプラスチック製品を削減する商品」だけでなくその他カテゴリの脱プラスチック商品についても調査を行う必要がある。

脚注

  1. 広瀬幸雄, 1994, 「環境配慮的行動の規定因について」, 社会心理学研究 10巻1号, pp.44-55.
  2. 國﨑歩, 2018, 「日本と台湾における消費者のエコ商品の購買態度への影響に関する研究」

参考文献・参考サイト

  • 環境省(2019) 「プラスチックを取り巻く国内外の状況<参考資料集>」
  • UNEP(2018) 「SINGLE-USE PLASTIC」
  • 環境省(2016) 「マテリアルリサイクルによる天然資源消費量と環境負荷の削減に向けて」