音と形に基づく発想によるネーミング及びロゴデザインの研究

提供: JSSD5th2019
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食品を対象としたネーミング及びロゴ制作の実験と分析


西村佳子 / 九州大学大学院芸術工学府
NISHIMURA Keiko/ Graduate School of Design, Kyushu University 
藤紀里子 / 九州大学大学院芸術工学研究院
TOH Kiriko/ Faculty of Design, Kyushu University 
伊原久裕 / 九州大学大学院芸術工学研究院
IHARA Hisayasu/ Faculty of Design, Kyushu University 

Keywords: Naming, Logo Design, Visual Design 


Abstract
Generally, it tends to be thought that concept making is the most important in the products’ marketing, but for consumers, the logo is an important touch point that directly contact with the product. Therefore the work process of naming and logo creating is also important. This study focuses on the interrelationship between naming and logo creation, and attempts to propose an idea-supporting tool that can create more effective name and logo design, based on two points of sound and shape.



目的と背景

ある商品が開発される時、一般的には、まず商品コンセプトが決定され、次にネーミングを検討し、最後にロゴがデザインされる。こうしたデザインプロセスにおいては、コンセプト作りが最も重要とされるが、生活者の立場からは、ロゴがその商品と直接的に接触する重要なタッチポイントであるために、ネーミングやロゴ開発も蔑ろにはできない。 ここで重要なのは、ネーミングとロゴの関係であるが、これまで理論的な視点からの検討が十分なされてきたとは言い難い。実際、ネーミングの考案とロゴの作成の関係は必ずしも厳密な分担作業によるものではなく、デザイン作業中であっても戦略的なビジュアル表現にするために、逆に文字の形から遡ってネーミングの着想することもあり、相互的な作業である。 そこで、本研究は、ネーミングとロゴ制作の相互関係に着目し、その関係を体系的に見直すことで、効果的なネーミングとロゴデザインを遂行できる発想支援ツールの提案を試みる。支援ツールとして想定しているのは、ネーミングおよびロゴの要素を「意味」「音」「形」の3点に集約し、そのうち「音」と「形」の2つを起点にアイデアの入り口を見つけたり、幅を広げるたりするうえで助けとなるものである。 ただし、本研究では、実証性を担保するために、現場における発想法としての適用可能性を考慮しつつも、具体的な枠組みとしてデザイン教育への応用に限定する。実際に、ネーミングとロゴの創出作業を観察するために、学生を対象に実験として課題を課し、その結果を踏まえて支援ツールの検討を行う。 また、対象となる商品も、食品に限定することにした。これは、食品は食べる時に実際に鳴る音や食感といった音を感じやすく擬声語、擬態語を使った表現がしやすいとの判断からである。

ネーミングとロゴにおける三要素とその適用方法

ネーミング及びロゴは「意味」「音」「形」の3つの要素から捉えられる。このうち「意味」は商品コンセプトに相当し最も重要な要素である。「音」と「形」は、その「意味」に根付いた発想から得られるものであると考えられる。そこで、本研究ではコンセプトが決定した後のネーミングとロゴデザインの段階に着目し、基本となる「意味」に付与される要素としての「音」と「形」に焦点を当てることとする。

まず、「音」と「形」の観点から現状の食品ネーミング及びロゴについて調査を行った。その結果、それぞれの観点で制作されたもの及びそのように推測できるものがあった。以下、それについて略述する。


音からのネーミング発想例

図1.グリコ POCKY, PRITZ, Caplico

グリコのお菓子のネーミングには、POCKY, PRITZ, CaplicoなどP音が使われている。これらはネーミングに含まれるP音が食べるときのポリっという音を思い起こさせ、名前を印象付けるというネーミング戦略がある。[1]


音がロゴデザインに影響した例

図2.LAWSON ザクシュー, 日清食品 カップヌードル

LAWSONの自社スイーツであるザクシューのネーミングとそのロゴデザインは、食べた時のザクザクという食感を表したものになっている。日清食品のカップヌードルのロゴは、ヌードルを英語で発音する際にドをほとんど発音しないことからカタカナのドを小さく表記したものになっている。


図3.ジャパンフリトレー ドリトス

モノの形に着目したロゴデザイン例

ジャパンフリトレーのドリトスのロゴは、商品の外形である三角形を文字の一部に使い、さらに三角形で文字の周りを囲んでいる。






図4.明治 ザバス

文字の形を用いたネーミング及びロゴデザイン例

明治のザバスのロゴは頭文字のSを反転させ、左右対称のデザインになっている。これは、左右対称のデザインと3文字の濁音を含む音が印象に残るという戦略からネーミング及びロゴデザインが決まったものである。[2]




実験

実在の食品ネーミングおよびロゴの観察により、「音」「形」という観点に基づいた制作事例が確認できた。そうした観点で発想の幅を広げる手法はネーミングおよびロゴ制作にとって有効であると考えられる。そこで、本実験では、音と形それぞれの観点を個別に与えどのような効果があるのか、2つの観点を得た後に自由な発想の中でどのように取り入れることができているのかを確認するため、3つの課題に取り組んでもらった。 実験参加者は、芸術工学部3年生39名(男性17名女性22名、20代)である。39名を4人のグループ(1グループのみ3人)に分けて課題1〜3の計3回実施した。課題1のみ35名(男性14名女性21名、20代)で1グループ少ない。 課題は食品に限定し、課題1にプリン、課題2にせんべい、課題3に炭酸飲料を選んだ。課題1と2は発想の最初の条件については、半分のグループは音から、残りのグループは形からと指定し、課題3は条件の指定はせず自由に考えてもらった。課題の設定と条件は以下の通りである。


課題1.プリン:濃厚でなめらかな舌ざわりが特徴。1個298円。発想の最初の条件をグループA〜Eは音から、グループF〜Iは形からと指定
課題2.せんべい:飽きのこないあっさり塩味で子供から大人まで楽しめる軽い食感が特徴。1パック188円(個包装2枚×10袋入り)。発想の最初の条件をグループF〜Jは音から、グループA〜Eは形からと指定(課題1と条件を入れ替え)
課題3.炭酸飲料:商品設定、発想方法ともに自由。

結果と考察

図5.3要素の分類

各課題の最終作品、途中段階におけるラフスケッチおよび観察、終了時のインタビューに基づき、それぞれのグループが発想のよりどころとしていた要素を抽出し「意味」「音」「形」の項目ごとにまとめた。さらに、「意味」に含まれる要素を「商品情報」と「商品イメージ」の2項目に、「音」に含まれる要素を「商品特性音」と「言葉のイメージ音」の2項目、「形」に含まれる要素を「モノの形態」と「文字の形態」の2項目に分類した(図5)。次に、ネーミングの発想とロゴデザインの発想に分け、参加者グループが着目したと推測される項目に○を付した表を作成した(表1.1〜3.2)。

課題1

課題2

課題3



表1.1〜3.2より、各課題において全てのグループに共通しているのは、ネーミング及びロゴデザインの双方が商品イメージに基づきロゴデザインが文字の形態をより所としている点にある。これは,商品イメージと何らかのかたちで関わらない発想はないし、文字を素材とするロゴデザインはその形態に着目せざるをえないことから、当然の結果だろう。 他方で、課題1と2の最終作品には発想の条件に基づいた差異が見られる。すなわち、ロゴのデザインではほぼ全てのグループが形に着目したが、音の反映を試みたのは音から発想したグループのみだった。課題3の作品には条件指定は無かったが、音と形双方に着目して発想したグループがあり、中でもF〜Hには両者を取り入れようとする意識が確認できた。また、各課題の作品を見比べると、課題1と2ではネーミングが意味を持たない独自の言葉になることがあったが、課題3では既存語の造語に留まり意味を持たないものはほぼ無かった。この結果から、ネーミングとロゴデザインの発想にあたり、音と形からという条件設定が発想の幅を広げるうえで、有効と想定される。実際、これらの条件設定に関しては、参加者から「アイデアを広げるために条件を絞って考えるのは有効だ」という意見が得られた。他方で、「対象次第で考えやすさが異なる」という意見もあり、これは音を容易に想像できる商品はネーミングやロゴデザインの発想に音を取り入れ、形の印象が強い商品はそのままの形がロゴデザインに反映されていることからも分かる。条件を与える順番に関する差異に関しては、課題3において音と形を取り入れる意識が高かったF〜Hが形、音の順番で条件設定された課題を実施したグループであることからその順番によって何らかの影響が生じる可能性もあると考えられるが、さらなる検証が必要だ。

結論と展望

本研究では、デザイン教育の場面において、音と形の視点を明確に設定し、ロゴとネーミング発想の間を往還できる方法の可能性を探った。その結果、支援ツールを開発することの有効性を確認することができた。 しかし、カード形式のようなツールとして具体化するために、さらに詳細な検証が必要である。デザインを学ぶ学生(デザイン能力自覚レベル初心者〜中級)数名に個別に実験を実施することで、発想のプロセスのより詳細な分析を行うことを今後の課題としておきたい。

脚注

  1. 飯田朝子,『ネーミングがモノを言う』,中央大学出版部, 2012.10.10, p.26-27
  2. ザバス-【ザバスロゴについて】(2012年10月26日の記事)より(最終閲覧日:2019年11月7日) https://www.facebook.com/meiji.savas/

画像引用元サイト

・江崎グリコ公式ホームページ https://www.glico.com/jp/ (最終閲覧日:2019年11月6日) ・ローソン研究所「ザクザクの新感覚が楽しい『ザクシュー』。」 https://www.lawson.co.jp/lab/uchicafe/art/1387581_4787.html (最終閲覧日:2019年11月6日) ・日清食品グループ公式ホームページ「カップヌードル」 https://www.nissin.com/jp/products/brands/cupnoodle/ (最終閲覧日:2019年11月7日) ・ジャパンフリトレー株式会社公式ホームページ「ドリトス」 http://www.fritolay.co.jp/ourbrands/doritos/ (最終閲覧日:2019年11月6日) ・株式会社明治公式ホームページ「プロテインブランド『ザバス』」 https://www.meiji.co.jp/sports/savas/ (最終閲覧日:2019年11月6日)