「音と形に基づく発想によるネーミング及びロゴデザインの研究」の版間の差分

提供: JSSD5th2019
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(ネーミングおよびロゴにおける三要素とその反映方法)
(実験)
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==実験==
 
==実験==
 制作されたロゴを観察すると、力点の違いが確認できたが、そうした発想の幅を確保することが、ロゴ制作にとって重要であると言える。そこで、発想の幅を広げたり、発想の入り口となるきっかけを与えるうえで、音と形それぞれの観点を個別に与え、またその順序を入れ替えたりすることがどのように効果的なのか、検証することにした。
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実存の食品ネーミングおよびロゴの観察により、「音」「形」という観点に基づいた制作事例が確認できた。そうした観点で発想の幅を広げる手法はネーミングおよびロゴ制作にとって有効であると言える。そこで、本実験では、音と形それぞれの観点を個別に与えどのような効果があるのか、2つの観点を得た後に自由な発想の中でどのように取り入れることができているのかを確認するため、3つの課題に取り組んでもらった。
 
実験参加者は、芸術工学部3年生39名(男性17名女性22名、20代)である。39名を4人のグループ(1グループのみ3人)に分けて課題1〜3の計3回実施した。課題1のみ35名(男性14名女性21名、20代)で1グループ少ない。
 
実験参加者は、芸術工学部3年生39名(男性17名女性22名、20代)である。39名を4人のグループ(1グループのみ3人)に分けて課題1〜3の計3回実施した。課題1のみ35名(男性14名女性21名、20代)で1グループ少ない。
 
課題は食品に限定し、課題1にプリン、課題2にせんべい、課題3に炭酸飲料を選んだ。課題1と2は発想の最初の条件については、半分のグループは音から、残りのグループは形からと指定し、課題3は条件の指定はせず自由に考えてもらった。課題の設定と条件は以下の通りである。
 
課題は食品に限定し、課題1にプリン、課題2にせんべい、課題3に炭酸飲料を選んだ。課題1と2は発想の最初の条件については、半分のグループは音から、残りのグループは形からと指定し、課題3は条件の指定はせず自由に考えてもらった。課題の設定と条件は以下の通りである。

2019年11月11日 (月) 18:16時点における版

食品を対象としたネーミング及びロゴ制作の実験と分析


西村佳子 / 九州大学大学院芸術工学府芸術工学専攻
Nishimura Keiko/ Kyushu University 
藤紀里子 / 九州大学大学院芸術工学研究院
Toh Kiriko/ Kyushu University 
伊原久裕 / 九州大学大学院芸術工学研究院
Ihara Hisayasu/ Kyushu University 
Keywords: Naming, Logo Design, Visual Design 


Abstract
Generally, it tends to be thought that concept making is the most important in the products’ marketing, but for consumers, the logo is an important touch point that directly contact with the product, that is, the work process naming and logo creating is also important. This study focuses on the interrelationship between naming and logo creation, and attempts to propose an idea-supporting tool that can create more effective name and logo design, based on two points of sound and shape.



目的と背景

ある商品が開発される時、一般的には、まず商品コンセプトが決定され、次にネーミングを検討し、最後にロゴがデザインされる。こうしたデザインプロセスにおいては、コンセプト作りが最も重要とされるが、生活者の立場からは、ロゴがその商品と直接的に接触する重要なタッチポイントであるために、ネーミングやロゴ開発も蔑ろにはできない。 ここで重要なのは、ネーミングとロゴの関係であるが、これまで理論的な視点からの検討が十分なされてきたとは言い難い。実際、ネーミングの考案とロゴの作成の関係は必ずしも厳密な分担作業によるものではなく、デザイン作業中であっても戦略的なビジュアル表現にするために、逆に文字の形から遡ってネーミングの着想することもあり、相互的な作業である。 そこで、本研究は、ネーミングとロゴ制作の相互関係に着目し、その関係を体系的に見直すことで、効果的なネーミングとロゴデザインを遂行できる発想支援ツールの提案を試みる。支援ツールとして想定しているのは、ネーミングおよびロゴの要素を「意味」「音」「形」の3点に集約し、そのうち「音」と「形」の2つを起点にアイデアの入り口を見つけたり、幅を広げるたりするうえで助けとなるものである。 ただし、本研究では、実証性を担保するために、現場における発想法としての適用可能性を考慮しつつも、具体的な枠組みとしてデザイン教育への応用に限定する。実際に、ネーミングとロゴの創出作業を観察するために、学生を対象に実験として課題を課し、その結果を踏まえて支援ツールの検討を行う。 また、対象となる商品も、食品に限定することにした。これは、食品は食べる時に実際に鳴る音や食感といった音を感じやすく擬声語、擬態語を使った表現がしやすいとの判断からである。

ネーミングおよびロゴにおける三要素とその反映方法

ネーミングおよびロゴは「意味」「音」「形」の3つの要素から捉えられる。このうち「意味」は商品コンセプトに相当し最も重要な要素である。「音」と「形」は、その「意味」に根付いた発想から得られるものであると考えられる。そこで、本研究ではコンセプトが決定した後のネーミングとロゴデザインの段階に着目し,基本となる「意味」に付与される要素としての「音」と「形」に焦点を当てることとする。

まず、「音」と「形」の観点から現状の食品ネーミングおよびロゴについて調査を行った。その結果、それぞれの観点で制作されたもの及びそのように推測できるものがあった。以下、それについて略述する。


音からのネーミング発想例

図1.グリコ POCKY, PRITZ, Caplico

グリコのお菓子のネーミングには、POCKY, PRITZ, CaplicoなどP音が使われている。これらはネーミングに含まれるP音が食べるときのポリっという音を思い起こさせ、名前を印象付けるというネーミング戦略がある。[1]


音がロゴデザインに影響した例

図2.LAWSON ザクシュー, 日清食品 カップヌードル

LAWSONの自社スイーツであるザクシューのネーミングとそのロゴデザインは、食べた時のザクザクという食感を表したものになっている。日清食品のカップヌードルのロゴは、ヌードルを英語で発音する際にドをほとんど発音しないことからカタカナのドを小さく表記したものになっている。


図3.ジャパンフリトレー ドリトス

モノの形を着目したロゴデザイン例

ジャパンフリトレーのドリトスのロゴは、商品の外形である三角形を文字の一部に使い、さらに三角形で文字の周りを囲んでいる。






図4.明治 ザバス

文字の形を用いたネーミング及びロゴデザイン例

明治のザバスのロゴは頭文字のSを反転させ、左右対称のデザインになっている。これは、左右対称のデザインと3文字の濁音を含む音が印象に残るという戦略からネーミング及びロゴデザインが決まったものである。[2]




実験

実存の食品ネーミングおよびロゴの観察により、「音」「形」という観点に基づいた制作事例が確認できた。そうした観点で発想の幅を広げる手法はネーミングおよびロゴ制作にとって有効であると言える。そこで、本実験では、音と形それぞれの観点を個別に与えどのような効果があるのか、2つの観点を得た後に自由な発想の中でどのように取り入れることができているのかを確認するため、3つの課題に取り組んでもらった。 実験参加者は、芸術工学部3年生39名(男性17名女性22名、20代)である。39名を4人のグループ(1グループのみ3人)に分けて課題1〜3の計3回実施した。課題1のみ35名(男性14名女性21名、20代)で1グループ少ない。 課題は食品に限定し、課題1にプリン、課題2にせんべい、課題3に炭酸飲料を選んだ。課題1と2は発想の最初の条件については、半分のグループは音から、残りのグループは形からと指定し、課題3は条件の指定はせず自由に考えてもらった。課題の設定と条件は以下の通りである。


課題1.プリン:濃厚でなめらかな舌ざわりが特徴。1個298円。発想の最初の条件をグループA〜Eは音から、グループF〜Iは形からと指定
課題2.せんべい:飽きのこないあっさり塩味で子供から大人まで楽しめる軽い食感が特徴。1パック188円(個包装2枚×10袋入り)。発想の最初の条件をグループF〜Jは音から、グループA〜Eは形からと指定(課題1と条件を入れ替え)
課題3.炭酸飲料:商品設定、発想方法ともに自由。


図5.3要素の分類

それぞれのグループが発想のよりどころとした要素を「意味」「音」「形」の項目ごとにまとめた。これらの要素を、さらに「意味」を「商品情報」と「商品イメージ」の2項目に、「音」を「商品特性音」と「言葉のイメージ音」の2項目、「形」を「モノの形態」と「文字の形態」の2項目に分類した。

結果

各課題の分析結果を以下に示す。図では、ネーミング発想段階とロゴのデザイン段階においてそれぞれ参加者が重視したと想定される項目に○を付けている。各課題全てのグループが、商品イメージに基づいて一連の作業を行い、デザイン段階では文字の形態を重視していたため、それぞれの欄は全て○を付けた。

課題1

課題2

課題3



課題1と2の作品から見ると,発想の条件の違いに基づいた差異は、ロゴのデザイン段階においてほぼ全てのグループが形を重視したが、音から発想のグループのみが最終のデザインに音を反映させていた点である。課題3の作品には条件指定無しにも関わらず発想に音と形を重視したグループがあり、中でもFとHには両者をバランスよく組み合わせようとする意識が確認できた。また、各課題の作品を見比べると、課題1と2ではネーミングが意味を持たない独自の言葉になることがあったが、課題3では既存語の造語に留まり意味を持たないものはほぼ無かった。この結果から、ネーミングからロゴデザイン作成までの発想に音と形の視点を加えることで新たなアイデアを出せる可能性があると考えた。音と形の条件の設定に関して参加者からは「アイデアを広げるために条件を絞って考えるのは有効だ」という意見を得られた。「対象次第で考えやすさが異なる」という意見もあり、これは音を容易に想像できる商品は発想に音を重視され、形の印象が強い商品はそのままの形がロゴデザインに反映されていることからも分かる。

結論と展望

本研究では、デザイン教育の場面において、音と形の視点を明確に設定し、その順番を変えることで、ロゴとネーミング発想の間を往還できる方法の有効性を探った。その結果、支援ツールとしての有効性を確認することができた。 しかし、カード形式のようなツールとして具体化するために、さらに詳細な検証が必要である。デザインを学ぶ学生(デザイン能力自覚レベル初心者〜中級)数名に被験者を限定し、発想のプロセスのより詳細な分析を今後の課題としておきたい。

脚注

  1. 飯田朝子,『ネーミングがモノを言う』,中央大学出版部, 2012.10.10, p.26-27
  2. ザバス-【ザバスロゴについて】(2012年10月26日の記事)より(最終閲覧日:2019年11月7日) https://www.facebook.com/meiji.savas/

画像引用元サイト

・江崎グリコ公式ホームページ https://www.glico.com/jp/ (最終閲覧日:2019年11月6日) ・ローソン研究所『ザクザクの新感覚が楽しい「ザクシュー」。』 https://www.lawson.co.jp/lab/uchicafe/art/1387581_4787.html (最終閲覧日:2019年11月6日) ・日清食品グループ公式ホームページ「カップヌードル」 https://www.nissin.com/jp/products/brands/cupnoodle/ (最終閲覧日:2019年11月7日) ・ジャパンフリトレー株式会社公式ホームページ「ドリトス」 http://www.fritolay.co.jp/ourbrands/doritos/ (最終閲覧日:2019年11月6日) ・株式会社明治公式ホームページ『プロテインブランド「ザバス」』 https://www.meiji.co.jp/sports/savas/ (最終閲覧日:2019年11月6日)