音と形に基づく発想によるネーミング及びロゴデザインの研究

提供: JSSD5th2019
2019年11月8日 (金) 20:29時点における西村佳子 (トーク | 投稿記録)による版 (結果)
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西村佳子 / 九州大学大学院芸術工学府芸術工学専攻
Nishimura Keiko/ Kyushu University 
Keywords: Naming, Logo Design, Visual Design 


Abstract
Concept creation is the most important in the logo production process, but for consumers, the logo is an important touch point that directly contact with the product, so the work process from concept to logo is also important. This study focuses on the interrelationship between naming and logo creation and attempts to propose an idea support tool that can perform effective naming and logo design based on the two points of sound and shape.



目的と背景

ある商品が開発される時、一般的には、まず商品コンセプトが決定され、次にネーミングを検討し、最後にロゴがデザインされる。こうしたデザインプロセスにおいては、コンセプト作りが最も重要とされるが、生活者の立場からは、ロゴがその商品との直接的な接触を媒介する重要なタッチポイントであるために、コンセプトからロゴへと至る作業プロセスも蔑ろにはできない。 このプロセスで重要なのは、ネーミングとロゴの関係であるが、これまで理論的な視点からの検討が十分なされてきたとは言い難い。実際、ネーミングの考案とロゴの作成の関係は厳密な分担作業によるものでは必ずしもなく、デザイン作業中であってもコンセプトに立ち返り何度もネーミングとデザイン表現を考え直す事や、また戦略的なビジュアル表現にするために、逆に文字の形から遡ってネーミングの着想することもあり、相互的な作業である。 そこで、本研究は、ネーミングとロゴ作成の相互関係に着目し、その関係を体系的に見直すことで、効果的なネーミングとロゴデザインを遂行できる発想支援ツールの提案を試みる。支援ツールとして想定しているのは、ロゴの要素を「意味」「音」「形」の3点に集約し、そのうち「音」と「形」の2つを起点にアイデアの入り口を見つけたり、幅を広げるたりするうえで助けとなるツールである。 ただし、本研究では、実証性を担保するために、現場における発想法としての適用可能性を考慮しつつも、具体的な枠組みとしてデザイン教育への応用に限定する。実際に、ロゴとネーミングの創出作業を観察するために、学生を対象に実験として課題を課し、その結果を踏まえて支援ツールの検討を行う。 また、対象となるロゴも、食品に限定することにした。これは、食品は食べる時に実際に鳴る音や食感といった音を感じやすく擬声語、擬態語を使った表現がしやすいとの判断からである。

ロゴにおける三要素とロゴデザインへの反映

ロゴは「意味」「音」「形」の3つの要素から捉えられる。このうち「意味」はコンセプトに密接し最も重要な要素である。商品情報や商品イメージといったコンセプトが決められた後このコンセプトに基づいてネーミングからロゴのデザイン作業に入るため、ロゴの3要素のうちの「音」と「形」は「意味」に根付いた発想から得られるものであると考えられる。そこで、本研究ではコンセプトが決定した後の段階に着目し、コンセプトからネーミングとデザイン表現に至る過程を対象に,「音」と「形」の2つの要素に焦点を当てることとする。 まず、「音」と「形」それぞれの観点から現状のロゴについて調査を行った。その結果、それぞれに力点を置いたロゴデザインが確認できた。以下、それについて略述する。


音からのネーミング発想例

図1.グリコ POCKY, PRITZ, Caplico

グリコのお菓子のネーミングには、POCKY, PRITZ, CaplicoなどP音が使われている。これらはネーミングに含まれるP音が食べるときのポリっという音を思い起こさせ、名前を印象付けるというネーミング戦略がある。[1]


音がロゴデザインに影響した例

図2.LAWSON ザクシュー, 日清食品 カップヌードル

LAWSONの自社スイーツであるザクシューのネーミングとそのロゴデザインは、食べた時のザクザクという食感を表したものになっている。日清食品のカップヌードルのロゴは、ヌードルを英語で発音する際にドをほとんど発音しないことからカタカナのドを小さく表記したものになっている。


図3.ジャパンフリトレー ドリトス

モノの形を重視したロゴデザイン例

ジャパンフリトレーのドリトスのロゴは、商品の外形である三角形を文字の一部に使い、さらに三角形で文字の周りを囲んでいる。






図4.明治 ザバス

文字の形を重視したネーミング及びロゴデザイン例

明治のザバスのロゴは頭文字のSを反転させ、左右対称のデザインになっている。これは、左右対称のデザインと3文字の濁音を含む音が印象に残るという戦略からネーミング及びロゴデザインが決まったものである。[2]




実験

 制作されたロゴを観察すると、力点の違いが確認できたが、そうした発想の幅を確保することが、ロゴ制作にとって重要であると言える。そこで、発想の幅を広げたり、発想の入り口となるきっかけを与えるうえで、音と形それぞれの観点を個別に与え、またその順序を入れ替えたりすることがどのように効果的なのか、検証することにした。 実験参加者は、芸術工学部3年生39名(男性17名女性22名、20代)である。39名を4人のグループ(1グループのみ3人)に分けて課題1〜3の計3回実施した。課題1のみ35名(男性14名女性21名、20代)で1グループ少ない。 課題は食品に限定し、課題1にプリン、課題2にせんべい、課題3に炭酸飲料を選んだ。課題1と2は発想の最初の条件については、半分のグループは音から、残りのグループは形からと指定し、課題3は条件の指定はせず自由に考えてもらった。課題設定は以下の通りである。


課題1.プリン:濃厚でなめらかな舌ざわりが特徴。1個298円。
課題2.せんべい:飽きのこないあっさり塩味で子供から大人まで楽しめる軽い食感が特徴。1パック188円(個包装2枚×10袋入り)。
課題3.炭酸飲料:商品設定、発想方法ともに自由。


図5.3要素の分類

それぞれのグループが発想のよりどころとした要素を「意味」「音」「形」の項目ごとにまとめた。これらの要素を、さらに「意味」を「商品情報」と「商品イメージ」の2項目に、「音」を「商品特性音」と「言葉のイメージ音」の2項目、「形」を「モノの形態」と「文字の形態」の2項目に分類した。

結果

各課題の分析結果を以下に示す。図では、ネーミング発想段階とロゴのデザイン段階においてそれぞれ参加者が重視したと想定される項目に○を付けている。各課題全てのグループが商品イメージに基づいてネーミング発想からロゴのデザインを行っているためイメージの欄には全て○を付けている。また、デザイン段階では全てのグループが文字の形態を重視していたため、デザイン段階の文字の形態の欄は全て○を付けた。

課題1

図6.課題1作品
図7.課題1ネーミング段階
図8.課題1デザイン段階

音から発想の条件のA〜Eは、全てのグループがプリンのなめらかな様子を擬態語で表したり食感を擬音語で表したりしてネーミングを考えていた。そのうち響きの良さを考えて造語を作っていたのはAとCである。さらにA,D,Eがネーミングの音イメージをロゴデザインに反映させていた。文字の形態についてはAが上品さとバランスから漢字を、Dが柔らかさからアルファベットを選択している。一方で形から発想という条件のF〜Iのうち、モノの形態から発想したのがI、文字の形態から発想したのがF、両形態から発想したのがHであった。Iはプリンの揺れる姿を連想させるもの、Fは高級感を感じるアルファベットをもつ英単語を意味と照らし合わせながら決定したもの、Hは丸いプリンという設定で丸い形をもつアルファベットを組み合わせ、高級感を感じる響きの単語を作ったものだ。Gについてはネーミング段階では両形態に関係せず意味を重視した造語であるが、デザイン段階でモノの形態を取り入れている。どちらの条件であってもデザイン段階にモノの形態を取り入れることは多いが、ネーミングの音イメージを反映させるのは音から発想の条件を設定したグループのみであった。



課題2

図9.課題2作品
図10.課題2ネーミング段階
図11.課題2デザイン段階

課題2では課題1で音から発想の条件だったグループは形から、形から発想の条件だったグループは音から発想というように条件を交換した。音から発想という条件のF〜Jは、課題1と同じく全てのグループがせんべいの割れる様子や食感を擬声語で表してネーミングを考えていた。そのうちFとHは響きの良さを考えたものにしていた。さらにF,H,I,Jがネーミングの音イメージをロゴデザインに反映させていた。文字の形態についてはHが文字のバランスを考えた上のネーミングとなっている。一方で形から発想という条件のA〜Eのうち、モノの形態から発想したのがD、モノと文字の両形態から発想したのがBであった。Dはせんべいの丸い形と焼き目以外の白い生地から連想したもの、Bはせんべいの割れた形に見立てたカタカナを組み合わせ響きの良い単語を作ったものである。AとCは原材料から連想したネーミングで、Aは意味と照らし合わせながら響きの良い単語を作っている。課題1と同様にネーミングの音イメージを反映させるのは音から発想の条件を設定したグループのみであった。どちらの条件から発想されたネーミングであっても、せんべいは丸い形であるという印象が強いからか、丸い形をロゴデザインに表したものが多かった。



課題3

図12.課題3作品
図13.課題3ネーミング段階
図14.課題3デザイン段階

課題3は条件を設定せずに自由に作ってもらったため、作品は課題1,2を経験して各人が取り組みやすい方法でネーミングからロゴのデザイン作業を行った結果となる。条件を設定した時よりも少ないが、A,D,F,G,Hがネーミング発想段階で音と形についての項目を考えていた。意味と合わせて炭酸の弾ける音から連想した単語でネーミングを作ったのがGで、ロゴデザインにも音イメージを反映させている。響きの良さを考えたネーミングはA,F,G,Hであり、これらのうちFはカタカナを使い、音を印象づけるロゴデザインになっている。モノの形態から連想したネーミングを決めたものはDである。Hは炭酸の泡から連想した丸いアルファベットを組み合わせ響きの良い単語にしたものである。ロゴのデザイン段階においてはCとE以外の全てのグループがモノの形態をデザインに反映させた結果となった。そのほかネーミングに原材料を使ったのはA,B,Eでそれぞれの原材料がロゴデザインにも表れている。


出来上がった作品に考える順番の指定により見られた違いは、ロゴのデザイン段階においてほぼ全てのグループが形を重視するが、音から発想のグループのみがデザインに音を反映させていることだ。また、音から発想、形から発想と条件を指定した場合はネーミングが意味を持たない独自の言葉になることがあるが、条件を指定せず自由に考えてもらった場合の独自の言葉は既存語の造語に留まり、意味を持たないものはほぼ無かった。この結果から、ネーミングからロゴデザイン作成までの発想に音と形の視点を加えることで新たなアイデアを出せる可能性があると考えた。 そして、発想する際に音と形についての条件を設定することに関して参加者からは「アイデアを広げるために条件を絞って考えるのは有効だ」という意見や「対象次第で考えやすさが異なる」という意見を得られた。

結論と展望

本研究では、デザイン教育の場面において、音と形の視点を明確に設定し、その順番を変えることで、ロゴとネーミング発想の間を往還できる方法の有効性を探った。その結果、支援ツールとしての有効性を確認することができた。 しかし、カード形式のようなツールとして具体化するために、さらに詳細な検証が必要である。デザインを学ぶ学生(デザイン能力自覚レベル初心者〜中級)数名に被験者を限定し、発想のプロセスのより詳細な分析を今後の課題としておきたい。

脚注

  1. 飯田朝子,『ネーミングがモノを言う』,中央大学出版部, 2012.10.10, p.26-27
  2. ザバス-【ザバスロゴについて】(2012年10月26日の記事)より(最終閲覧日:2019年11月7日) https://www.facebook.com/meiji.savas/

画像引用元サイト

・江崎グリコ公式ホームページ https://www.glico.com/jp/ (最終閲覧日:2019年11月6日) ・ローソン研究所『ザクザクの新感覚が楽しい「ザクシュー」。』 https://www.lawson.co.jp/lab/uchicafe/art/1387581_4787.html (最終閲覧日:2019年11月6日) ・日清食品グループ公式ホームページ「カップヌードル」 https://www.nissin.com/jp/products/brands/cupnoodle/ (最終閲覧日:2019年11月7日) ・ジャパンフリトレー株式会社公式ホームページ「ドリトス」 http://www.fritolay.co.jp/ourbrands/doritos/ (最終閲覧日:2019年11月6日) ・株式会社明治公式ホームページ『プロテインブランド「ザバス」』 https://www.meiji.co.jp/sports/savas/ (最終閲覧日:2019年11月6日)