グラフィックデザインにおけるミニマリズムの表現手法に関する研究

提供: JSSD5th2020
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焦玉嘉 / 九州大学 大学院芸術工学府 
JIAO Yujia / Graduate School of Design, Kyushu University
伊原久裕 / 九州大学大学院芸術工学研究院 
IHARA Hisayasu / Faculty of Design, KYUSHU University

Keywords: Minimalism, oster design 


Abstract
Minimalism works in daily life can be widely seen, and its form features are very efficient in conveying information. Starting from the historical background of the minimalism, this paper analyzes and studies the minimalism poster works of three designers with strong personal style, sums up the common features of their expressive techniques, and analyzes their personalities and differences, so as to provides a good reference and thinking for their own research. And on the basis of the summary research, the minimalist design and creation of the poster is carried out with new expression techniques.



背景

 「ミニマリズム」とは,完成度を追求するために装飾などを必要最低限まで省略する表現スタイルのことである。建築、美術はもとより音楽などジャンルを問わず見られるスタイルであるが、グラフィックデザインの分野においては,比較的近年になってミニマリズムが見直され、活用されている。さらにテクノロジーの進歩にともなって、古典的な考え方を引き継ぎつつも,新たな技術環境を活かした探求の可能性が生まれている。


目的

 本研究は,ミニマリズムという表現手法の可能性に着目し,グラフィックデザインにおけるミニマリズムの考え方が現在どのように変容しているのかを考察し,現代グラフィックデザインにおけるミニマリズムの表現手法を作品制作によって探求する。


研究方法

 理論面での研究を行い、その結果を反省しつつ、実験的な作品制作を試みる。理論研究として、まず、近現代のグラフィックデザインを対象としたミニマリズムの展開について文献を調査した。

 芸術におけるミニマリズムの源泉は、1920年代のロシア構成主義の芸術家カジミール・セヴェリーノヴィチ・マレーヴィチ(Kazimir Malevich,1879ー1935)の作品「黒の正方形」(Black Square,1915)などの構成主義の作品や、デ·ステイルの抽象芸術に見られ、1960年代に登場した、アメリカ合衆国のミニマルアートにおいてひとつのイズムとして先鋭化する。デザインや建築の分野では,特にドイツ出身の建築家、ミース·ファン·デル·ローエ(Ludwig Mies van der Rohe,1886 – 1969)の思想と作品に顕著に見られ、彼のデザイン理念「less is more」はミニマリズムのよく知られたスローガンとなった。その意味するところは、完成度を追求するために装飾的趣向を凝らすのではなく,それらを必要最低限まで省略する表現スタイルである。

 次に、ミニマリズムを用いたグラフィックデザインの代表的なポスター作品を選定して分析した。選定の基準を1960年代以降の国の異なるデザイナーとし、ポーランド出身のレックス・ドレウィンスキー(Lex Drewinski,1951-)、オーストリア出身のヘルムート・シュミット(Helmut Schmid ,1942-2019)、そして原研哉(1958-)を選んだ。

 Lex Drewinskiのデザインでは、最小限の要素と色を使って強力な社会的および政治的メッセージを伝えている。ミニマリズムの特徴を抽出するために、Lex Drewinskiのポスター作品を画像中心のものと、文字中心のものの2つに分類し、特徴を探った。書体はすべてサンセリフであり、画像については象徴的な意味を持つ具象と単純化された色面の抽象的イラストやピクトグラムが用いられている。技法として図と地のダブルイメージがしばしば用いられている。配色については、象徴的習慣的な意味を持つ、黒、白、グレーがよく使われていて、赤などの純色も使われている。

 シュミットのポスター作品を分類し分析した。タイポグラフィの専門家であるシュミットの場合は、文字のみの作品がほとんどであり、書体はすべてサンセリフ、ほとんどがユニバースである。同一の書体の文字が、その高さ、大きさ、太さ、間隔に変化が付けられ、一定の秩序にしたがって反復して配置されており、レイアウトにリズムが感じられる。また、書の散らし書きを思わせるポスターでは、文字のサイズは非常に小さく、繊細である。

 最後に日本文化に深く根ざした仕事が多い原研哉のポスター作品を集め、分析した。書体についてははサンセリフ或いはローマン体、特にギャラモンがよく用いられている。画像を用いたデザインでは、三次元的な影やテクスチャをつけた具象或いは抽象的なフォルムがよく使われ、象徴的な意味を示唆している。写真が用いられる場合では、横幅の広いレイアウトが特徴である。

 以上のデザイナーのポスター作品の分析を通して、装飾的な部分をできるだけ削ぎ落としつつも、同時に鮮明な個人のスタイルが保持されているがわかり、考察を通して、私の作品のデザインの構想に良いアイディアを与えてくれた。

作品制作

 ミニマルな表現によるポスター作品を制作することが、制作の目標である。まず題材について検討した。多くの人が知っている題材が、ミニマルな表現に適していると考え、グローバルで、イメージしやすく、伝わりやすい欧州の「童話」をモチーフとして決定した。童話の選定については、「あなたが知っている童話」をテーマとしてアンケートを実施し、1位から20位までの20点の童話を作ることとした。


実験

図1.シンデレラ
図2.人魚姫

  ミニマリズムを伝えるのに適した新たな表現手法を検討した。童話の象徴的題材を、最小限の要素で表現するために、紙の加工とそれに照明を当てることで得られる効果を用いる方法を見いだした。すなわち、まずスケッチを行い、その輪郭線に沿ってカッターナイフで一部切断、さらに切った紙に折り目を付け、紙の後ろから色光を照射し、印影の効果を撮影する。撮影したイメージをphotoshopで編集し、印刷することとした。この方法によって習作として、「シンデレラ」と「人魚姫」を制作してみた。効果については可能性を見いだしたが、紙の加工に手作りの跡が残り、ミニマリズムに要求されるクオリティを担保することが課題となった。この課題については、レーザーカッターを用いて制作する方法で解決する予定である。そして、材質と厚さの異なる紙の選定や、光源色と位置などの照明の工夫を進め、さまざまな効果を今後実験する。

まとめ

 本研究は、グラフィックデザインにおけるミニマリズムの可能性を探求するために、ミニマリズムを用いたポスター作品を比較分析し、方法の共通性とオリジナリティの共存の可能性を確認した。次にミニマリズム表現の方法として切り紙の技法に着目した。レザーカッターを用いた新たな表現の可能性を探究することが今後の課題である。


参考文献・参考サイト

  • 構成的ポスターの研究―バウハウスからスイス派の巨匠へ(2001)多摩美術大学ポスター共同研究会
  • Gestaltung ist Haltung / Design Is Attitude (2006)helmut schmid
  • デザインのデザイン(2003)原研哉
  • The Cinematic World Reimagined Through Graphic Design(2019)Matteo Civaschi
  • https://www.facebook.com/LexDrewinski/




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