シェアリングサービスの利用に関する研究
- 小原拓也 / 九州大学 大学院芸術工学府
- OHARA Takuya / Graduate School of Design, Kyushu University
- 田村良一 / 九州大学 大学院芸術工学研究院
- TAMURA Ryoichi / Faculty of Design, Kyushu University
Keywords: Sharing Service, Service Platform
- Abstract
- The market for sharing services has been expanding in recent years. The Japanese government has high hopes for the growth of this movement. At the same time, however, sharing services are less prevalent in Japan than in other countries, and many people are still concerned about the use of sharing services. First, we examine the "input items" and "necessary operations" in the registration process, which are the first barriers to using sharing services. Secondly, the items raised are classified. Third, we classify the services based on the category of items and discuss the characteristics of each group.
目次
背景と目的
近年シェアリングサービス市場が拡大している。この動きによる周辺ビジネスの成長など、日本政府の期待も大きい[1]。 一方で、日本ではシェアリングサービスが諸外国に比べて普及しておらず、シェアリングサービスの利用に関して懸念を抱く人も未だに多い[2] シェアリングサービス自体の定義も文献により様々である。また、シェアリングサービスの業種による分類は存在するものの、利用者の利用意向と密接に関わると予想される登録手続き体の内容に沿った類型化や利用上の懸念事項に関する研究は、管見の限りみられない。
そこで本研究では、シェアリングサービスを利用する際に最初の障壁となる登録手続きについて、必要とされる登録内容に基づき、特徴を明らかにすること目的とする。
なお、本研究におけるシェアリングサービスとは、参考文献[3]をもとに「資産、リソース、時間、スキルをこれまで不可能だった規模で共有できるようにしたもので、従来型サービスを除いたもの」とすることとした。
研究の方法
1.既存のシェアリングサービスの分類方法について整理するため、既存の研究や文献の調査を行った。
2.一般社団法人シェアリングエコノミー協会に加盟しているシェア会員が提供するサービスの中から、前述した本研究でのシェアリングサービスの定義に一致するものを選出した。
3.選出したシェアリングサービスに実際に会員登録を行い、登録に必要な入力項目と必要操作を抽出した。
4.抽出した登録に必要な入力項目と必要操作について、数量化理論III類を用いて潜在変数を導き、シェア対象によってどのような差異が見られるかを明らかにした。
5.登録に必要な入力項目と必要操作を「ユーザーの決定の自由度」、「入力方法」、「個人情報」という3つの観点から分類し、各シェア対象のサービスの会員登録にどのような特徴があるか考察した。
文献調査の結果
シェアリングサービスは、シェアの対象となるものによって分類されることが多い分かった。その代表的な例として、総務省の「モノ」「空間」「スキル」「移動」「お金」といったシェア対象によるシェアリングサービスの分類を表1に示す。
調査対象の選定
該当するシェアリングサービスとして79種類の事例を収集することができた。そのなかで、調査不可能であった13種類のサービス、事前の会員登録が必要ない4種類のサービスを除くこととした。調査対象とした62種類のサービス一覧を表2に示す。
結果
入力項目・必要操作の抽出
抽出された入力項目・必要操作は「ユーザー名」「氏名」「パスワード」など、任意のものも含めて44項目であった。抽出された入力項目・必要操作を表3に示す。
62サービス全体では、項目数が1~16の幅があり、5項目であるサービスが最も多く、4項目、6項目であるサービスが次いで多い結果となった。シェア対象別にみていくと、シェア対象「スペース」では、7項目のサービスが最も多く、3~16項目の幅があった。シェア対象「スキル」では、4項目のサービスが最も多く、1~16項目の幅があった。シェア対象「モノ」では、5項目のサービスが最も多く、9項目以上のサービスが存在しなかった。シェア対象「移動」では、13項目以下のサービスが存在せず、14項目、16項目のサービスのみが存在した。これらをまとめたグラフを図に示す。
入力項目・必要操作のばらつき
相関係数の差が意向小さくなる成分3までを用いて散布図を作成した。
成分1-2の散布図を見ると、シェア対象「スペース」のサービスは第1、第2、第4象限に渡って分布し、シェア対象「スキル」のサービスは第1、第4象限に分布し、シェア対象「モノ」のサービスは第1象限のみに分布し、シェア対象「移動」のサービスは第1象限のみに分布した。
同様に成分1-3の散布図を作成すると、シェア対象「スペース」のサービスは第1、第3、第4象限に渡って分布し、シェア対象「スキル」のサービスは第1、第4象限に分布し、シェア対象「モノ」のサービスは第1、第4象限に分布し、シェア対象「移動」のサービスは第1、第4象限に分布した。成分1-2と成分1-3の散布図を図2、3に示す。
入力項目・必要操作の分類
登録手続きの入力項目・必要操作を次の3つの観点で分類した。
まず、登録手続きの入力項目・必要操作をユーザーの入力の自由度に応じて、抽出した入力項目をユーザーが自由には決められない「ユーザーの既定情報」、ユーザーが自由に決められる「ユーザーの決定情報」、「その他の情報」の3つに分けて分類した。すると、 ユーザーの既定情報は「会社名」「担当者名」「電話番号」など20項目、ユーザーの決定情報は「自己PR」「希望報酬」「依頼内容」など16項目、その他の項目は「SMS認証」「メールアドレス認証」「クーポン登録」など6項目に分類することができた。
次に、入力方法はユーザーが既存の選択肢を選ぶ「プルダウン」、「チェック」と直接テキストや数字を入力する「テキスト入力」、「その他の操作」の4つに分けて分類した。
最後に、登録手続きの入力項目・必要操作を個人情報保護法に基づき、「個人情報」に当たるものと「その他の情報」の2つに分類した。分類の結果、個人情報は「氏名」や「生年月日」などの19項目、その他の情報は「ユーザー名」や「希望報酬」などの25項目であった。以上の3つの観点から分類した項目をどの程度含んでいるかの集計結果の一部を表4に、シェア対象ごとにどの程度割合含んでいるかまとめたものを表5に示す。
考察
シェア対象「スペース」では、入力項目・必要操作の数は、同じシェア対象であっても様々であった。ユーザーの既定情報が占める割合がユーザーの決定情報の占める割合より多く、内容を考える負担のある項目が多いことが考えられた。入力方法はテキスト入力の割合がシェア対象の中で最も多く、比較的負担の大きい項目が多いことが考えられた。個人情報の割合はシェア対象の中で最も多く、ユーザーによっては不安を感じる項目が多いことが考えられた。
シェア対象「スキル」では、入力項目・必要操作の数は、同じシェア対象であっても様々であった。ユーザーの既定情報が占める割合がユーザーの決定情報の占める割合より多く、内容を考える負担のある項目が多いことが考えられた。入力方法はテキスト入力の割合がシェア対象の中で最も多く、比較的負担の大きい項目が多いことが考えられた。個人情報の割合はシェア対象の中で最も多く、ユーザーによっては不安を感じる項目が多いことが考えられた。
シェア対象「モノ」では、入力項目・必要操作の数は比較的少ないものが多いことが分かった。入力ユーザーの既定情報よりもユーザーの決定情報の方が少ないが、その他の情報の割合が最も高く、情報入力以外の操作の負担が大きいことが考えられた。入力方法は、入力方法はチェックによるものの割合がシェア対象の中で最大であり、比較的負担の少ない項目が多いことが考えられた。個人情報の割合は少なく、ユーザーによっては不安を感じる項目が少ないことが考えられた。
シェア対象「移動」では、入力項目・必要操作の数は多いことが分かった。ユーザーの決定情報の割合が大きく、登録時に何を入力するかを考える負担が大きいことが考えられた。入力方法はプルダウンによるものの割合がシェア対象の中で最大であり比較的入力の負担の少ない項目が多いと考えられた。個人情報の割合がシェア対象の中で最少でありユーザーによっては不安を感じる項目が少ないと考えられた。
まとめ
「入力項目・必要操作のばらつき」、「入力項目・必要操作の数」、「入力項目・必要操作をユーザーの入力の自由度」、「入力方法」、「求められる情報が個人情報であるかとうか」といった観点から見た、各シェア対象の会員登録の特徴を発見することができた。
脚注
- ↑ 総務省 ウェブページ, https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/h27/html/nc242110.html (最終閲覧2020年7月5日)
- ↑ PWC japan, 国内シェアリングエコノミーに関する意識調査 2019
- ↑ 内閣官房シェアリングエコノミー促進室https://cio.go.jp/share-eco-center/ (最終閲覧2020年7月5日)など9つの文献
参考文献
・野田哲夫, 王皓: シェアリングエコノミーと既存市場との競合と融合―シェアリングエコノミーによる経済効果推計のための考察―, 経済科学論集 46, 1-24, 2020
・野田哲夫, 田中哲也, 王皓, 泉洋一, 角南英郎, 野澤功平: 地方におけるシェアリングエコノミー政策の展開と課題, 経済科学論集 45, 1–29, 2019
・芝香: シェアビジネスの利用動機に SNS の信頼性が及ぼす影響 ――SNS の信頼性に関する実証研究――經營學論集 88(0), F10-1-F10-11, 2018
・水野誠, 大西浩志, 澁谷覚, 山本晶, デジタルメディア環境下のC 2 C インタラクション―研究動向の概観と展望, マーケティング・サイエンス 26(1), 7, 2019