朝倉市杷木の築100年の古民家における改修と生活を両立するデザイン
-施工現場の空間利用とその工夫-
- 平見 康弘 / 近畿大学大学院産業理工学研究科
- Yasuhiro Hirami / Kindai University Graduate School of Humanity-Oriented Science and Engineering
- 金子哲大 / 近畿大学産業理工学部
- Tetsuo Kaneko / Kindai University Faculty of Humanity-Oriented Science and Engineering
Keywords: Architectural Design, Architectural renovation
- Abstract
- This study shows an invention point for the old folk house repair while I maintain the life of the resident. And I clarify a utilization method and design technique of the space created through a process repairing and suggest repair and life as a compatible design.
背景と目的
現在の建物の寿命はせいぜい30〜50年程度であろう。経済的に力のある都市部の建物は、状況に応じてその寿命を全うする前に改修や建て替えをして更新していくことができる。しかし、財政的に苦しく人口が流出していく地方では、建物の定期的な更新は困難である。こうした地方では生活を維持しながら既存の建物の用途や形を変えていく必要があるだろう。
そこで、福岡県朝倉市杷木にある築100年の古民家は、地域復興のためのボランティア活動の拠点となっているが、老朽化によりその使用が困難になりつつある。本研究は、対象の古民家を実際に改修し、その改修のプロセスを「改修と生活を両立するためのデザイン」として提案するものである。
古民家改修概要
【立地と対象家屋の状況】 敷地背後は一級河川である筑後川が流れており古くから木材イカダの波止場として利用されていた。朝倉市は2017 年の九州北部豪雨により被災しており、現在も継続してボラティア活動が続けられている。また、現在定住している住民は4名。各自が独立し職をもち、ボランティア運営をおこないながら古民家で共同生活を送っている。
【改修計画】 改修後は、 ボランテイア活動の拠点として、 また世代間交流をテーマとしたオープンスペースとして利用する。施工は住み手の生活を維持しながら行う居ながら工事とし、現在古民家に居住している4名を主体に地域内外のボランティアを含め施工を実施する。
【調査】 建物は木造2階建、 築100 年程度の古民家であり、2017 年より空き家であった。 古民家は築100 年の歴史の中で旅館従業員の下宿→ 八百屋→ 弁当屋→ 焼き鳥屋→ 不動産屋→住宅と用途を変えている。また、56 年前に住宅部分が増築されており、建物の用途が変わるたびその形を変えていったと思われる.。正確な図面や記録もなく、 実測や改修に伴いわかったことと、 この古民家を知る人の話を元に推測し作図した。古民家は、「図1」の破線の右側と左側で建物の構造が別れている。竣工当時は、破線の右側を旅館の別館、および旅館従業員用の休憩室として利用されていた。この頃は住宅としての機能はなく、社会の変化や家族構成の変化を受け徐々に破線の左側の部分ができあがった。古民家は約100年の間に部分部分のマイナーチェンジを繰り返し、竣工当時の面影を残しつつ現在の形に至っている。
実際の改修
実際の改修は、住人らが主体となり施工を行うため住宅の生活機能を維持する必要があった。そこで部分的な小規模の施工を繰り返し行い、長い時間の中で建物全体を作り変える計画とした。また、施工途中であってもボランティアの活動拠点・地域のオープンスペースとして利用を開始し、施工している段階の空間の活用方法を模索した。こうした設定で施工を続けた結果、空間が作り変わる瞬間を多くの人が共有することで、施工現場でありながらもその空間が新たな生活空間として機能することがわかってきた。そこで、建物の空間が自らが手を加え変化する過程に着目し改修と生活を両立するデザインを考えていくことにした。以下に掲載する写真は、施工過程と空間の利用状況を示すものである。
改修と生活を両立するデザイン
小規模な改修を続ける中で、改修と生活を両立するデザインの手法が浮かび上がってきた。まずは、面を重ね合わせるデザインがあげられる。面の重ね合わせとは、既存の床や壁、天井に対して直接新たな床や壁、天井を貼り付ける事で空間を変化させる手法である。重ね合わせは、廃材を殆ど出さずに施工することができ、比較的容易であるため古民家内では至る所で重ね合わせのデザインが見られる。また、重ね合わせのデザインを複数回行うことにより、思いもよらない空間が偶発的に生まれることがあるとわかった。次に、重ね合わせに対して、引き剥がすデザインをあげる。引き剥がしのデザインは古民家内で重ね合わせのデザインにより、層状になった部分を調査し意図的に面の引き剥がしを行うことをさす。今回の改修では、築100年の古民家が時代の変化に合わせて改修が行われてきた歴史を踏まえ、異なる年代の歴史を混在するように引き剥がしを行った。 最後に、改修を長期間にわたり行うことにより、施工現場そのものが生活に取り込まれる場面が見られるようになった。本研究では重ね合わせ・引き剥がしのデザインを含め、施工が生活に取り込まれるまでのプロセスを改修と生活を両立するデザインとして捉える。
考察とまとめ
重ね合わせや引き剥がしのデザインを行う事は、その場その場で手元にある材料を使い、たまたま見えてきた歴史の層をデザインとして採用する事が多い。こうした一連の操作は混在する時間軸を一種のブリコラージュ的な手法でデザインしていると言えるだろう。生活機能を維持しながら施工を行うためには、改修計画そのものを生活の一部として取り込む工夫が必要になると思われる。一般的に施工現場は「仮」のものとして扱われる事がほとんどであるが、この一時的な期間のみ存在する仮の空間が中長期的に存在することにより、常設の生活空間として認識されるのではないかと考えられる。本研究では、ブリコラージュ的な空間操作が施工期間の長期化を可能にしたと捉え、施工現場を生活空間に取り込む大きな要因であると考える。改修は現在も進行中であるので、来年度の竣工を目指し作業に励んでいきたい。
脚注
参考文献・参考サイト
- 図学研究 第54巻4号、第162号、2019年、令和元年12月