未来の動物園のあり方に関する研究

提供: JSSD5th2020
Jump to navigation Jump to search


田中日菜子 / 九州大学 芸術工学府 デザインストラテジー専攻 
Hinako TANAKA / Department of Design Strategy, Graduate School of Design, Kyushu University
杉本美貴 / 九州大学大学院 芸術工学研究院
SUGIMOTO Yoshitaka / Faculty of Design, Kyushu University


Keywords: Social Design, Future Design, Zoo, Animals 


Abstract
In this study, I investigate the change of the zoo before continuing up to the present day and the historic fact in the back and the current situation of the investigation about the change of the thought of people and a Japanese zoo at the present and the zoo user and examine the way of the future zoo based on them. And I design display or the service with it and suggest it.


目的と背景

 日本動物園水族館協会によると、動物園とは「種の保存」「調査/研究」「レクリエーション」「教育/環境教育」という4つの役割を持つ施設である。我が国は、世界でトップクラスの動物園保有国であり、日本動物園水族館協会に加盟するだけで90の動物園があり、多くの人々に親しまれている。一方で近年、施設の老朽化や動物福祉、入園料収入の少なさなど課題が山積している。動物園を未来に残すには、これらの課題に向き合い、新しい動物園のあり方を再考することが求められる。動物園の存在意義について現状の問題点を指摘したり、再考の必要性を訴えたり、今後の可能性を示唆したりする研究はあるものの、未来の動物園のあり方を再考した上で具体的にそれを示した研究事例はない。そこで本研究では、動物園に関する調査を踏まえて未来の動物園のあり方を考察する。そして、それに伴う展示やサービスなどをデザイン提案する。

研究の方法

 まず、動物園の現状についての調査と、現在に至るまでの動物園の変遷とその裏にある歴史的事実と人々の思想の変化についての文献調査を行なった。次に、現在の動物園の運営者および動物園利用者を対象としたアンケート調査を行なった。そして、それらをもとに未来の動物園のあり方を考察した。



結果

  • ① 動物園、およびその変遷
動物園は大陸間の移動が活発になった大航海時代を背景に誕生した。そして学問との連携や人々の環境保全意識の発達に伴い欧米で世界に先駆けて新たな動物園/動物園観が形成されてきた。近年では、ストーリー性の高さやサスティナブルな施設の追求が進み施設が大規模化する傾向にある。一方日本では、昭和初期に形作られた娯楽的な動物園観が今も根強く残っている。敷地面積は欧米に比べると狭く、その狭さを克服するための工夫がなされている。また、動物園の大きな役割の一つとして「種の保存」が挙げられるが、動物園で繁殖が進んでも、動物園動物を野生に返すという措置はほとんど取られておらず、野生下で絶滅が危惧されている種であっても余剰動物として他の動物園で譲渡されたり、貰い手が見つからないなどといった課題があることがわかった。
図1.動物園の変遷-1
図2.動物園の変遷-2
図3.動物園の変遷-3




  • ② 動物園運営者、および利用者のアンケート
動物園を運営者によると、敷地面積の狭さや施設整備、動物福祉に対する配慮や専門スタッフの不足などが現状の課題であり、動物園の変革の必要性を感じながらも資金や市民の同意の面でのハードルが高いということがわかった。
動物園利用者に対するアンケート調査では、全体の61%の人が動物園が好きであること、動物園に行く頻度は数年に一回以下が42%であること、「動物の生き生きとした姿」「生の動物」「動物福祉への配慮」を重視すること、などがわかった。


考察

 現在、動物園の役割とされる「種の保存」「調査/研究」「レクリエーション」「教育/環境教育」の4つのうち、まず「種の保存」と「調査/研究」については、動物園動物における種の保存や調査、研究が野生動物にほとんど還元されていないことから、これらは野生動物においてこそ行うべきと考える。また、「レクリエーション」と「教育/環境教育」については、VR技術、および五感感覚の再現技術の発展により動物や動物との触れ合いを再現することが可能であり、また、これまでの動物園では不可能だった娯楽や学びを展開できると考えた。 それらをふまえて今研究における未来の動物園のコンセプトを「適正収束と2方向展開」とした。まず、現在の動物園動物については、それらが自然滅するように最後まで適切に管理する。その上で、「種の保存」と「調査/研究」についてその役割は「国立の保護施設」が担っていくこととする。これは、国内固有種の繁殖、および生息地への返還、生息地の環境保全を行う施設である。そして、「レクリエーション」と「教育/環境教育」についてその役割は「動物体感施設」が担っていくこととする。これは、これまで動物園に蓄積された標本や知識を用い、VR技術や五感再現技術等、最先端の技術を駆使して生きた動物やそれら動物とのふれあいを再現し、これまでの動物園では成し得なかった動物体験を可能にする施設である。現在の動物園を適正に収束させ、新たに2つの動物施設を設けるというのがこの「適正収束と2方向展開」である。

図4.適正収束と2方向展開まとめ


まとめ

 動物園を取り巻く現状や変遷の調査から、未来の動物園のあり方を考察した。今後は調査についてさらに精査していくとともに、「適正収束と2方向展開」のコンセプトのもと具体的に展示方法や施設やサービスのあり方についてデザインする。



参考文献・参考サイト

  • 石田戢(2010) 日本の動物園 東京大学出版会
  • 若生謙二(2010) 動物園革命 岩波書店
  • 村田浩一・成島悦雄・原久美子(2014) 動物園学入門 朝倉出版



プレゼンテーション動画