自動車のエクステリアデザインの変遷に関する造形研究

提供: JSSD5th2020
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ー 日産自動車におけるスポーツカーを対象に ー


惣島沙由梨 / 九州大学 芸術工学府 デザインストラテジー専攻
SOUSHIMA sayuri / Department of Design Strategy, Graduate School of Design, Kyushu University
杉本美貴 / 九州大学大学院 芸術工学研究院
SUGIMOTO Yoshitaka / Faculty of Design, Kyushu University

Keywords: Product Design, Car Design, Styling


Abstract
Currently, it is said that cars are undergoing a period of change once every 100 years, and we often see the word "CASE". It is expected that electric vehicles and self-driving cars will become mainstream in the future. Therefore, a new way of thinking is required for the exterior design of sports cars to quickly incorporate advanced technology and enjoy driving. Therefore, in this research, we focus on the transition of sports car modeling and consider the factors that influence the modeling



目的と背景

 現在、クルマは100年に1度の変革期を迎えていると言われ、「CASE」という単語をよく目にする。「CASE」とはC : Connected(コネクテッド )、A : Autonomous(自動運転)、S : Shared & Services(シェアリング&サービス)、E : Electric(電気自動車)のことである。このように、将来は電気自動車や自動運転車が主流になることが想定される。よって、先進技術をいち早く取り入れ、運転を楽しむためのスポーツカーのエクステリアデザインにも新たな考え方が必要とされる。先進性や機能性の表現が大きいスポーツカーの造形は、時代によって素材や製造技術、空力やライフスタイルなど重視される要素が移り変わり進化している。そこで次の時代のスポーツカーのエクステリアデザインの要件を明らかにすることで、次世代に向けた新たなスポーツカーの提案ができると考える。

 先行研究ではセダンのモデルチェンジの歴史やプロポーションの重要性、大まかなボディ形状の変遷、部位ごとの造形のあり方についての論文があった。また、人と造形の関係性について、好むクルマの種類から個人の特性を分析するものがあった。さらにクルマのデザイン開発の面では1つの車種に関しての開発の流れについてのものが多くあった。一方でスポーツカーの造形に注目した造形研究はなく、ライフスタイルや社会などとスポーツカーの造形の関連性を明らかにした研究もない。

 そこで、本研究ではスポーツカーの造形の変遷に注目し、造形に影響を与える要素を考察する。本研究では、スポーツカーのエクステリアデザイン要件を明らかにしていくこと、そして次世代スポーツカーのエクステリアデザインの提案をすることを目的とする。


スポーツカーの定義

図1.日産フェアレディZ(Z34)
図2.日産GT-R(R35)

 本研究におけるスポーツカーの定義はメーカーの分類と日本産業規格(JIS)を参考に以下の条件を満たすものとする。


1.スポーツ・スペシャリティと分類されているもの 
2.クーペタイプ[1]


 また今回は調査対象とするメーカーを日産自動車株式会社(以下「日産」という。)とする。日産は日本で最初のスポーツカーを発売して以来、多くのスポーツカー製造し続け、現在もフェアレディZ(図1)とGT-R(図2)を販売している。


研究の流れ

図3.研究の流れ

 研究の流れは以下のとおりである。 まず調査1.スポーツカーの歴史的変遷、2.スポーツカーの造形の変遷を行う。次に調査1、2の結果や考察を元にスポーツカーのエクステリアデザインの要件を明らかにする。そして明らかになった要件を利用し、次世代スポーツカーのエクステリアデザイン提案を行う。その後はデザインの検証、ブラッシュアップを通して次世代スポーツカーのエクステリアデザインの最終提案へとつなげる。(図3)


調査の方法

  • 調査1.スポーツカーの歴史的変遷
仮説を時代や社会的背景、人の生活がクルマの造形に関係するとし、日産のスポーツカーを年代に沿って並べた表を作成し、時代ごとの造形の特徴やその原因を探る。同じ車種は同じ列に時系列順に並べ、モデルチェンジや名称の変化のタイミングも記す。また、造形に影響を与える要素の分析は、経済、法律、技術、流行、モータースポーツ、ユーザー、海外、メディアの8つの視点から行う。項目ごとに自動車を取り巻く事象を分類し、スポーツカーの造形に影響を与えた要素が何であるかを明らかにする。これらは文献や自動車メーカーのホームページを参考に調査する。


  • 調査2.スポーツカーの造形の変遷
調査1、先行研究、カタログや文献を参考に、数値化や形態分析から具体的な要件を見つけることを目的とする。その際、自動車デザインの文献を参考に、全体造形と部分造形に注目して行う。全体造形ではプロポーションやオーバーハングの比率、ベルトライン、プランカーブなど車体全体にわたるものを分析する。一方、部分造形ではヘッドライトやグリルハイライトやホイールアーチなど車体を構成する一部のもの、その全体に対する比率などを歴史的変遷も含めて形態分析を行う。


まとめ

 今後は調査をもとに、結果を明らかにして考察を深める。また、その結果と考察から次世代のスポーツカーのエクステリアデザイン要件を明らかにする。次に要件をもとにエクステリアのデザインを提案し、デザインに関して聞き取り調査やアンケート調査を行い、デザインの検証を行う。その後、ブラッシュアップを通して最終提案へと繋げていく。

 エクステリアデザインの提案を行う際には、スケッチによるアイデア展開やレンダリングスケッチ、スケールモデル制作、3Dモデリングなどから適切な方法を選び用いる。


脚注

  1. 日本産業規格
    JIS 1104 クーペ
    次の条件を満たす乗用[自動]車
    車体:箱型で、普通後部座席容積が小さい
    屋根:固定され堅ろう。一部が解放してもよい。
    座席:少なくとも1列で、合計2席以上。
    扉:側面に2枚、後面が開いてもよい。
    窓:側面に2枚以上。


参考文献・参考サイト

  • 林孝一・御園秀一・渡邉誠(2013)「日本のセダンの全高の変遷と影響因子の関係―日本のセダンのプロポーションの変遷に関する造形研究(その1)」日本デザイン学会.
  • 林孝一・御園秀一・渡邉誠(2013)「日本のセダンの全高の変遷と影響因子の関係―日本のセダンのプロポーションの変遷に関する造形研究(その2)」日本デザイン学会.
  • 猪股健太郎・藤井豪・橋本翔・片平建史・長田典子・浅野隆・荷片邦夫(2020)「自動車外観デザインに対する印象と選考の関係性に基づく個人の類型化」,『日本感性工学会論文誌』19(2),pp.223-233,日本感性工学会.
  • 森典彦(1997)「製品デザインの魅力と注目した部位の関係」.
  • 釜地光夫(1995)「創成期におけるフォード2ドアセダンのモデルチェンジの考察―乗用車のモデルチェンジに関する研究(その1)」.
  • 釜地光夫(1995)「創成期におけるフォード2ドアセダンのモデルチェンジの考察―乗用車のモデルチェンジに関する研究(その2)」.
  • 関徹夫(1994)「自動車デザインの価値構造―デザイン価値組立ての考え方を見 直す提言」『デザイン学研究』40(5),pp27-32,日本デザイン学会.
  • 自動車史料保存委員会編(2020)『日本の乗用車図鑑1907-1974』三樹書房.
  • 自動車史料保存委員会編(2020)『日本の乗用車図鑑1975-1985』三樹書房.
  • 自動車史料保存委員会編(2020)『日本の乗用車図鑑1975-1985』三樹書房.
  • 大貫直次郎・志村昌彦(2011)『クルマでわかる日本の現代史』光文社.
  • 中村史郎(2011)『ニホンのクルマのカタチの話』毎日新聞社.
  • 福野礼一郎(2007)『クルマンガ』双葉社.
  • 齋藤孟、山中旭(2002)『自動車の基本計画とデザイン』山海堂
  • 東大輔(2015) 『自動車空力デザイン』三樹書房.
  • 『AXIS 8月号増刊』2020年7月16日号, 株式会社アクシス.
  • 『日産創立80周年アニバーサリーブック「80 YEARS OF MOVING PEOPLE」』2014年, 日産自動車株式会社.
  • 日産自動車. 「日産自動車ホームページ」.http://www.nissan.co.jp , (2020年10月3日 閲覧)


【画像引用元】




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