中心市街地活性化を目的とした歩行者空間活用の意義に関する研究

提供: JSSD5th2022
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中川 頌 / 九州大学 芸術工学府 デザインストラテジー専攻
Nakagawa Sho / Kyushu-u University 

Keywords: Public Design, Pedestrian Paradise 


Abstract
This paper focuses on activity of people on pedestrianized street in Japan. First, it sorts out the history, changes, and past studies of pedestrian streets. Additionally, it finds out the difference between the current state of pedestrian paradise and the realization of a lively pedestrian space by field survey. Moreover, from the viewpoint of space and time, it analyzes existing examples of pedestrian-only roads. As results, the paper explores the points for the successful realization of a comfortable and lively pedestrian space.


背景と目的

近年、「歩いて暮らせるまちづくり」や「社会実験」をはじめ、欧米都市の動向を受けた脱車社会を目指す都市再生の動きがみられ、賑わいの創出や歩行者の快適性と安全性に対する人々の関心が高まっている。このような社会的背景の中で、各地に存在する中心市街地の歩行者専用道路化がどのような状況にあるのか、どのような方向に進もうとしているのかを把握することは、今後の日本の都市のあり方を模索する上で重要になると考えられる。そこで、本研究では、自家用車の乗り入れを規制し、歩行者空間化する街路、トランジットモールや歩行者専用道路化を研究対象とし、中心市街地の一部道路を歩行者の占有空間として一時的もしくは専用道路として整備する意義、メリット・デメリットをはっきりとさせ、賑わいのある歩行者空間の実現に関する一知見を得ることを目的とする。


研究の方法

歩行者専用道路に関するweb調査、既往研究の調査、フィールド調査、事例分析を実施し、快適で賑わいのある歩行者空間の実現の成功条件と、どういった場所での歩行者専用道路化が効果的なのかを明らかにする。

事前調査

①歩行者専用道路の歴史について

日本では、1960年代から急速なモータリゼーションが進む中、通行機能を重視した道路整備が行われ、歩行空間・生活空間としての道路の安全性や快適性が失われていった。こうした状況の中、都心部の交通問題および大気汚染等の環境問題の改善を目的として、歩行者天国が始まった。1969年に旭川市の平和通りで日本初の歩行者天国が実施されると、翌1970年には都内の銀座・新宿・池袋・浅草でも歩行者天国が開始され、全国各地へと取り組みが広がっていった。

②全国での歩行者天国の変遷について

交通規制交通安全施設関係統計によると、1995年から2009年までの全国の歩行者天国の区間数、歩行者天国の距離の延長の変遷は図1のようになっており、ともに減少していることが分かる。
図1.歩行者天国の変遷

③既往研究について

歩行者の道路利用に関する既往研究をみると、都市・建築・土木分野に関する計画学、交通工学、環境工学、情報学を中心に多岐に渡り、以下の9種類に整理できた。[1]
1) 歩行特性(経路選択、滞留・流動)の定量化に関する論考。
2) 歩行者支援の情報通信技術、サイン計画に関する論考。
3) 歩行者の注視特性、道路の構成要素と景観に関する論考。
4) 道路利用の安全性及び利用者評価に関する論考。
5) 道路利用の合意計画手法及び制度内容に関する論考。
6) 既存の道路網における道路利用の変遷に関する論考。
7) 国外の歩行者主体の道路利用及びその他空間に関する論考。
8) 歩行者主体の道路計画及び利用実態に関する論考。
9) 都市部での歩行者天国の実施に関する論考。
道路の利活用に関しては、形態や空間に注目したもの、利活用実現に至る合意形成や法整備等の取組過程を整理するものが多く、人々のアクティビティに注目した研究は少ない。これらを受けて本研究の視点は、歩行者専用道路における「人の活動」を中心に据えていくこととする。

調査 01 東京の歩行者天国

図2.公共空間におけるアクティビティ

①公共空間における活動について

ヤン・ゲールは著書「建物のあいだのアクティビティ」で屋外での活動を三つの活動に分類している。
すべての条件下で行われる活動としてまず挙げているのが「必要活動」である。必要活動とは、通勤通学や、日用品のお買い物、郵便配達や荷物の運搬等、少なからず義務的な要素を含むものであり、必要にかられた活動を指す。この場合、人々にはその行為をしないという選択肢がないため、それを行う空間の形態や質の影響はほとんど受けない。
一方、「任意活動」と呼ばれる活動は空間の形態や質の影響を大きく受ける活動である。任意活動は、利用者自身にその行為を行いたいという意志があり、時間や場所の制約がない場合にのみ行われる活動である。公園での散歩や屋外での飲食、レクリエーションのプログラムに参加するといった行為がこれに当たる。
最後の「社会活動」は、これら二つの活動が発展した合成的な活動であると定義されている。社会活動が他の二つの活動と大きく異なるのは、そこに自分以外の他者の存在があって初めて成り立つという点である。個々の必要活動や任意活動の中で自然発生的に生まれる挨拶や会話、各種のコミュニティ活動や人をただ眺める人間観察といった行為が社会活動と呼ばれる。さらに社会活動は「地域生活活動」「地域文化活動」「表現活動」の 3 つに区分することができる。アクティビティのタイプとその内容・具体例は図2[2]のように整理できる。
そして、都市の屋外空間において任意活動や社会活動をより多く生み出すことが重要であると、ヤン・ゲールは指摘している。

②フィールド調査

歩行者天国の現状と、賑わいのある歩行者空間の実現の間にある差を把握することを目的とする。本調査では、距離が500m以上、歩行者空間化する車道が2車線以上である大規模な歩行者天国を対象としてフィールド調査を実施した。その中でも、他県に比べて多様な人が集まる東京都内で実施されている歩行者天国である、新宿・銀座・三軒茶屋・秋葉原の4つ歩行者天国を対象とした。季節は、歩行者の日常生活との関わりと過ごしやすい自然な気温を考慮して、長期休暇のない秋の10月の歩行者天国を観察する。日時は、4つの歩行者天国全ての開催時間が共通している日曜日とした。
(1)新宿:新宿駅東口のクロス新宿ビジョンから新宿二丁目交差点までの距離約700m、幅員約22m、車線4車線が主軸の歩行者天国である(図3)。13本の周辺道路と新宿3丁目の一部も歩行者天国に含まれる(図4)(図5)。明治通りは車両が通るため、新宿3丁目の交差点で歩行者空間は一時途切れる(図6)。 沿道店舗と車道の間には、両側幅員約6mの歩道が通っている。[3]歩道と車道の間には、街灯、ボラード、植林などがならぶ。新宿モア4番街は、2011年の都市再生特別措置法の一部改正による道路占用許可の特例制度を利用し、翌年の2012年11月からオープンカフェが営業を開始した(図7)。[4] 道路上での物品販売・パフォーマンス等の禁止を伝える看板が設置されていた(図8)。
(2)銀座:銀座通り口交差点から銀座8丁目交差点までの距離約1100m、幅員約27m、車線5車線が歩行者空間化する歩行者天国である(図9)。晴海通りは車両が通るため、銀座4丁目の交差点で歩行者空間は一時途切れる(図10)。沿道店舗と車道の間には、両側幅員約6mの歩道が通っている。歩道と車道の間には、街灯、植林などがならぶ。銀座歩行者天国中は、車道の中央にパラソルと椅子が置かれる。椅子は利用者が自由に動かして座ることができる(図11)。パラソルは、机ありのパラソルと机なしのパラソルの2種類が置かれる(図12)(図13)。沿道の店舗がパラソルを出すこともある(図14)。道路上での物品販売・公演・人寄せ行為の禁止を伝える看板が設置されていた(図15)。
(3)秋葉原:外神田5丁目交差点から万世橋交差点までの距離約570m、幅員約36m、車線6車線が歩行者空間化する歩行者天国である(図16)。ビックカメラ AKIBA前の約1400㎡の交差点も歩行者空間となるため、途切れることがない歩行者空間である(図17)。沿道店舗と車道の間には、両側幅員約7mの歩道が通っている。歩道と車道の間には、街灯、植林、ガードレールなどがならぶ。歩行者空間の両端では、警察と警察車両が交通規制と警備を行なっており、安全を確認していた(図18)。道路上での物品販売・パフォーマンス・自転車走行の禁止を伝える看板と秋葉原協定を伝える看板が設置されていた(図19)(図20)。
(4)三軒茶屋:茶沢通りの世田谷通りの入口から下北沢方向へまでの距離約650m、幅員約11m、車線2車線が歩行者空間化する歩行者天国である(図21)。歩行者空間は途切れることはない。沿道店舗と車道の間には、両側幅員約5mの歩道が通っている。歩道と車道の間には、街灯、植林、ボラード、電柱などがならび、車道脇には自転車走行場所を示すサインが舗装されている(図22)。コーヒーショップObscura Laboratoryの前には簡易的なテーブル(図23)、たこ焼元祖どないや三軒茶屋店の前にはビールケースをひっくり返したテーブルと椅子(図24)、本格タイ料理バルプアン三軒茶屋本店の前には弁当を売るためのテーブルとのぼり旗(図25)、世田谷区太子堂5丁目16−7の店の前にはテーブルと椅子(図26)、アフラック三軒茶屋店前には人形と机(図27)が置かれていた。三軒茶屋は、自転車走行は禁止しておらず自転車歩行者専用道路である(図28)(図29)。
観察の方法
対象の歩行者天国にて、道路の中央線を歩きながら散歩時の目線で、歩行者空間の端から端まで、iphone横取り・ノーカットで撮影を行った。その後、動画に映っている人々の行動観察を行い整理した。
日時:2022年10月2日 日曜日 ☀️ 最高気温29.6度 最低気温18.9度
方法:動画撮影、行動観察
場所 時間
新宿 13:00~13:45
銀座 14:15~14:45
秋葉原 15:30~16:00
日時:2022年10月9日 日曜日 ☁️➡︎☔️ 最高気温21.1度 最低気温14.3度
方法:動画撮影、行動観察
場所 時間
新宿 13:00~13:30
銀座 14:00~14:30
秋葉原 16:00~16:30
雨により中止
日時:2022年10月16日 日曜日 ☁️ 最高気温25.5度 最低気温16.1度
方法:動画撮影、行動観察
場所 時間
新宿 13:00~13:30
銀座 14:00~14:30
秋葉原 14:30~15:00
三軒茶屋 15:30~16:00

調査結果 01

任意活動については、ランニング、犬の散歩、人の写真撮影、ファザードの写真撮影、休憩・会話・読書が観察できた。
社会活動のうち地域生活活動については、子供たちのかけっこ・白線から落ちないようにする遊び、テレビの取材、団体での犬の散歩、飲食団欒などが観察できた。
社会活動のうち地域文化活動については、観測できなかった。
社会活動のうち表現活動については、楽器演奏などのパフォーマンスをする人が見られた。
 
歩行者天国のフィールド調査における任意活動と社会活動のうち、座っている状態での活動と、立っている状態での活動、また、個人での活動と、他者との関わりの中で生まれる活動に分けられた。そこで、任意活動と社会活動を、縦軸に活動中の人の状態、静的(座位活動)⇔動的(立位活動)を設定し、横軸に活動で関わる人の量を設定して整理した(図30)。活動で関わる人の数が最も少ない活動は個人活動である。図の作成は、国土交通省-2.4 ストリートにおけるアクティビティ[5]を参考にした。
図30.歩行者天国での任意活動と社会活動




また、銀座の歩行者天国の区間ごとのアクティビティを比較した。区間は交差点で区切った。(図31)

パラソルと椅子が置かれた銀座4丁目、5丁目、6丁目では、パラソルと椅子が置かれていない区間に比べて、複数人での会話や飲食、スマホを見ながらの休憩、読書、睡眠など多くの活動が観測できた。パラソルと椅子が置かれた日と置かれなかった日があった銀座5丁目(図31の水色)に注目してみると、パラソルが置かれなかった10月9日は、上記の活動が少なくなることがわかった。
図31.銀座歩行者天国でのアクティビティ比較



調査 02 日本の中心市街地における歩行者天国

既存の歩行者専用道路化の事例を分析することで、快適で賑わいのある歩行者空間の実現成功のためのポイントを探る。
①調査方法

自家用車の乗り入れを規制し、歩行者空間化する街路、トランジットモールや歩行者専用道路について、webと関連する既往研究を調査した。

②調査項目

地図・都市名・街路の名前・距離・車道幅員・歩道幅員・開催期間・日時・廃止理由の項目を設定した。街路の幅員・距離について記載がない場合は、google streetを用いて測定する。

③整理

そして表を作成して一覧化し、その特徴を整理した(図32)。
東京都9事例、北海道、仙台、宇都宮、神奈川、名古屋、大阪、神戸、広島、福岡から1事例の歩行者専用道路化の調査結果を表2に示す。そこから以下の特徴を整理した。
・歩行者天国を時間の観点で整理すると、恒久的なもの、日時指定によるもの、廃止されたものに分けられること。
・1998年に廃止された歩行者天国は、原宿、上野、御徒町があげられ、1980年代末からは歩行者天国発のバンドブームに伴って、多数のバンドが路上演奏をするようになり、彼らの出す騒音や見物人の出すゴミに対しての地元から苦情が、歩行者天国廃止に至る原因の1つとなったこと。
・国土交通省が、にぎわいのある道路空間創出のための道路の指定制度として創設した、道路法の一部を改正する法律(令和2年5月27日公布、11月25日施行)である歩行者利便増進道路制度(通称:ほこみち制度)[6]と道路占用に関するコロナ特例[7]を活用した歩行者空間が、多くあること。
・歩行者空間は、目的地に向かって歩く人のための空間(紫)、沿道建物を覗きながらそぞろ歩きをする人のための空間(オレンジ)、通行人や風景を眺めながら休む人のための空間(緑)に分けられること。(図33)[8]
・街歩きが楽しいと感じるのは、溜まり空間と歩く空間がリズムよく出てくるときであること。[9]
図32.歩行者天国
図33.歩行者空間



考察

調査結果01から、地域活動を高める活動である地域文化活動が、観測できていないことがわかる。これは、人との関わりを生む活動である、物品販売・公演・人寄せ行為・パフォーマンス等を警察署が禁止していることが大きな原因であると考える。都市の屋外空間において社会活動をより多く生み出すためには、社会活動をしたいと思った住民が、禁止により仕方なく活動ができていないのか、そもそも活動する意思がないのか、それとも場所に対する許可の取り方を知らないのかを調査する必要がある。
また、社会活動のうち身体を動かした体験が少ないことがわかる。これは、歩行者空間を直線として捉えるいう固定概念が原因であると考察する。車線という境界線を曖昧にして交差点を広場として捉え活用することで、より多くのアクティビティを誘発出来ると考えられる。

脚注

  1. 道尾淳子, 伊藤恭行, & 久野紀光. (2008). 歩行者専用道路の導入実施実態に関する研究-重要伝統的建造物群保存地区を事例として. 日本建築学会計画系論文集, 73(630), 1759-1766.
  2. 出典:ストリートデザイン・マネジメント(出口敦・三浦詩乃・中野卓 編著)に国土交通省が一部加筆
  3. 新宿区 道路台帳平面[1]
  4. 新宿モア4番街 (道路を活用したオープンカフェ)[2]
  5. 国土交通省-2.4 ストリートにおけるアクティビティ[3]
  6. 国土交通省-ほこみち制度[4]
  7. 国土交通省-新型コロナウイルス感染症に対応するための沿道飲食店等の路上利用に伴う道路占用について[5]
  8. 国土技術政策総合研究所 研究資料[6]
  9. ニューヨーク「オープンストリート革命」から学ぶべきこととは? NY在住の都市建築家 重松健×Magnet.Inc 佐藤勇介 対談[7]

参考文献・参考サイト

  • ヤン・ゲール(2011) 建物のあいだのアクティビティ 鹿島出版会
  • プロジェクトフォーパブリックスペース (2005) オープンスペースを魅力的にする―親しまれる公共空間のためのハンドブック 学芸出版社
  • 園田 聡 (2019) プレイスメイキング: アクティビティ・ファーストの都市デザイン 学芸出版社