字幕における縦書きと横書きの差異について

提供: JSSD5th2022
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石森菜々 / 九州産業大学 芸術学部
Nana Ishimori / Kyushu Sangyo University 

Keywords: vertical subtitles, horizontal subtitles, Eye Tracker 


Abstract
The covid-19 epidemic has increased the chances of watching movies on smartphones. A question arose as to whether there is a difference between vertical and horizontal subtitles when watching movies on smartphones. The line of sight when viewing the video was measured using an eye tracker. Horizontal subtitles get attention for shorter time and were seen more times than vertical subtitles.


背景と目的

 Criteoによる市場調査によると、新型コロナウイルスが流行する前後で動画配信サービスの視聴時間に過去最大の変化が見られており、流行後の方が有料・無料コンテンツ共に長時間視聴されていることがわかる。スマートフォンには、時間や場所に捉われることなく好きなものを視聴することができるという利点がある。動画配信サービスの映画は字幕の表示をオンオフすることができるのだが、字幕は外国語映画だけでなく、例えば静かな場所でイヤホンを使わずに視聴したいときや、家でドライヤーのように音の出る家電等を使用しながら視聴したいときなどにも役立つ。YouTubeにもフルテロップといってすべての発言にテロップをつけるものもよく見られる。これらの字幕はほとんどが横書きであるが、ミュージックビデオや昔の劇場版映画には縦書きのものもある。縦書き字幕と横書き字幕では、読み手にとって違いはあるのだろうか。本研究ではスマートフォンで映像を視聴する際、字幕の縦書きと横書きで差異が生まれるのかについて検討する。


研究の方法

実験参加者

 20〜22歳の男女13名を対象に実験を行なった。その内2名のアイトラッカーの軌跡はがくつきがひどく計測できなかったため、11名分のデータを解析している。

実験環境

 実験環境として、パソコン、視線を計測するためのTobii Eye Tracker5、パソコンの画面を撮影するためのスマートフォンを用意した。実験に使用した映像は、「PAPERS, PLEASE – The Short Film」から抜粋し、縦書き・横書きそれぞれの字幕をつけたものを準備した。この映像をパソコンで開いた際に、6.1インチのスマートフォンと同じ大きさで表示されるようにした。実験用の映像を制作する際にAdobe Premiere Pro、実験後のデータ計測の際にはAdobe After Effectsのソフトを使用した。

実験風景
バブル画面


手続き

 実験参加者をランダムに2つの群に分け、片方を横書き字幕の動画を視聴する横書き群、もう片方を縦書き字幕の動画を視聴する縦書き群とした。

 横書き群、縦書き群共に実験参加者には、机に置いたパソコンの正面且つ画面から50cm程度の場所に座ってもらい、画面の中央にカーソルを表示させ、そこに視線を送るように指示した。アイトラッカーのバブルがカーソルと合うように画面の角度や距離を調整した。このアイトラッカーのバブルはヒートマップ等にも設定できるが、表示時間が長く、動画が見えづらくなってしまうため、今回はバブルに設定することにした。実験参加者の右側に画面の様子を撮影するためのスマートフォンを設置し、実験参加者にもその旨を説明した。了承を得た上で、録画のスタートボタンを押し、映像を再生し、実験を開始した。

 実際に視聴してもらった映像の時間は1分45秒の長さであったが、その中から26秒分を抽出し、計測・分析した。




結果

Tateyokojimakugraph.jpg
Tateyokojimakukaisuu.jpg


 字幕を見ていた時間を1人ずつ計測し、横書き群と縦書き群における平均値をそれぞれ算出したものをFigure1に示した。横書き群の平均値は8.85秒、縦書き群の平均値は12.80秒であった。その違いについて対応のないt検定を行なったところ、その差は有意であった(t(10)=2.79, p < .05)。つまり、字幕を見ていた時間は横書き群の方が縦書き群よりも有意に短かった。

 字幕に視線を向けた回数を1人ずつ計測し、横書き群、縦書き群それぞれの平均値を求めたものをFigure2に示した。対応のないt検定を行なったところ、その差は有意であった(t(10)=3.02, p < .05)。つまり、字幕に視線を移した回数は横書き群の方が縦書き群よりも有意に多かった。




考察

 本実験は簡易的なものではあったものの、縦書きと横書きの字幕では横書きの方が字幕に注目している時間が短いという結果が認められた。縦書きと横書きで読む速さに違いはないという先行研究があることから、横書き字幕の方が視野を広く持つことができ、アイトラッカーのバブルがはっきりと字幕の上にあるとき以外にも、文字を読むことができている可能性がある。

 実験終了後に参加者から、自分の感覚では画面全体を見ているつもりだったが、視線が一点として表示されるのが不思議だったという感想もあった。今回はアイトラッカーの軌跡表示設定においてバブルのサイズを最小に設定していたことも関係しているのではないかと考えられる。確かに、視角の中心がどこなのかを表示しているのであって、本実験では視野の範囲まではわからない。ぼんやり全体を広く見ているのか、一点に集中して見ているのかは判断しきれないが、横書き群の方が字幕に注目している時間が短いという結果に加えて、横書き群の方が字幕に視線を移した回数が多かったという結果からも、次のように考察した。縦書き群の視線を移す回数が少ないというのは字幕に集中して文字を追っている状態であり、逆に横書き群の視線を移す回数が多いのは映像と字幕を行ったり来たりしながら視聴しているということではないだろうか。なお、文字から視線を外している時は、縦書き群・横書き群共に、ほとんどが登場人物の顔を見ていた。つまり、横書き字幕の方が映像の内容とテロップの両方を認識することができるのではないかと考える。

 ただし、ミュージックビデオなど何度も視聴してもらうことを目的に制作され、文章に集中して視聴したり映像に集中して視聴したり、といった見方をしてもらいたい場合は縦書き字幕の方が適しているのかもしれない。

 また、実験参加者からの感想には、慣れるまで最初の方はどうしてもバブルを追ってしまったというものもあった。この点に関しては、本実験の抽出データの計測する範囲を映像の後半から選ぶことで対応している。


まとめ

  横書き群の方が縦書き群よりも字幕を見ていた時間が短く、字幕に視線を移した回数が多かった。本実験の結果からは、スマートフォンで映画を視聴する際の字幕は、縦書きよりも横書きの方が適していると考えられる。


参考文献・参考サイト

  • 外国にルーツを持つ児童の横書き・縦書きテキストにおける読み能力の違いーー読み能力検査および視機能評価を通してーー (2019) 楠啓太・小澤亘・金森裕治 立命館人間科学研究 No.40
  • タテ書きはことばの景色を作るータテヨコふたつの日本語はなぜ必要か? (2013) 熊谷高幸 新曜社
  • 手話と字幕の同時呈示に対する見やすさについての検討 (2006) 宮本一郎・竹内晃一・長嶋祐二 電子情報通信学会 vol.106