学生のメンタルヘルスを目的とした​日記アプリケーションの開発​

提供: JSSD5th2022
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名嘉はな / 九州産業大学 芸術学部 
Hana Naka / Kyushu Sangyo University 
前納聖菜 / 九州産業大学 理工学部 
Seina Maeno / Kyushu Sangyo University 

Keywords: application design, mental health 


Abstract

The spread of the new coronavirus infection has had a considerable impact on the life of university students. Due to the self-restraint period, the number of students who are sick has increased. At universities, the Student Counseling Office deals with these concerns, but it is reported that less than 5% of students actually use the Student Counseling Office. Support is an issue. For this reason, in this research, we designed a diary application that is easy for students to use, with the aim of disseminating the existence of the student counseling room and its accurate information, and lowering the threshold for consulting at the student counseling room. We are developing an application that is useful for self-reflection through a diary.

研究分担

本研究では研究の企画・立案、およびアプリケーションのプログラミングを九州産業大学 理工学部 前納聖菜が、デザインを九州産業大学 芸術学部 名嘉はなが担当した。

背景と目的

 新型コロナウィルス感染症感染拡大により学生生活にストレスや不安を感じている学生数の増加が報告されており[1]、「大学生活や将来について悩みやストレスを感じているか」の質問に対して、「とても感じている」と回答した者は、全体で236名(16.9%)、「少し感じている」は760名(54.3%)であったとされている。自粛期間が増えたことで気を病む学生は少なくなく、大学においては、こうした悩みに対して学生相談室が対応している。しかしながら、学生相談室を実際に利用する学生は全体の5%未満との報告もあり、悩みを抱えながら相談に来ない学生に対する支援が課題となっている[2]。このようなことから、本研究では、学生相談室の存在とその正確な情報の周知を行うことや、学生相談室で相談することの敷居を下げることを目的とし、日記を通して自己の振り返りに役立つアプリケーションの開発を行っている。

研究の方法

設計と実装

 本アプリケーションでは、利用者に対して、生活習慣や抱えている悩みについての質問を投げかけ、その回答をボタン操作で選択させることによって、自動的に日記の原型となる文章を作成し、記録する機能を主幹とした。利用者に投げかける質問は、生活習慣に関することと、日々の活動に関することの2種類に大別し、生活習慣について、睡眠と食事の質問を毎日必ず行うことにした(図1、図2)。大学生のメンタルヘルスと生活習慣について調べられた報告において、無気力などの陰性感情と食事・睡眠習慣との関連が指摘されており[3]、規則正しい生活を送れているかは、学生の心身の健康状態を把握する上で重要な項目となる。こうしたことから、食事と睡眠に関する質問については必ず記録できるようにし、その他の項目についてはランダムで質問を投げかけて、回答したくない質問についてはスキップ出来るように設計した。日々の活動に関する質問については、項目の名前とその項目について感じている感情についてをボタン操作で選択させることにした(図3)。投げかける質問は、大学生がよく行うと考えられる活動である、勉強、SNS、部活、サークル、アルバイト、友達、家族、自分、恋愛についてと、体の調子、心の調子、についてとし、それぞれの項目に対して、今感じている感情を選ばせる。

 ボタン操作によって選択した項目と感情については、その内容を記録しておき、日記作成画面に進むと選んだ内容が文章になって表示されるようにした(図4)。日記アプリケージョンでは、ユーザー継続できなくなってしまう場合が多くなると考えられるため、日記を継続して書いてもらいやすくするために、項目をタップしていくだけで選択した内容について、自動的に文章が書かれ、日記の原型が出来上がるようなしようとしている。この記録画面で日記の編集を行うことができるが、利用者は日記を編集しても良いし、項目をタップして出来上がった文章をそのまま記録しても良い。また、日記を書いた後に、今の気分を5段階の天気のイラストから選んでその日の気分を記録し、日記を書いた日の気分を後から把握しやすいように記録する。(図5)


 睡眠と食事の記録については、過去2週間分のデータを棒グラフで表示し、生活習慣を一目で把握しやすくしやすいようにした。日記を書けた日はカレンダーにペンギンの足跡マークがつくようにし、足跡マークが続くとペンギンが歩いているように見えることで、ユーザーの継続意識を高めることを図った(図6)。足跡マークがある日付を選択すると、その日書いた日記を表示するようにしている(図7)。また、質問に答えた際の項目や感情が多いものを可視化して、選んだ回数が多い項目を8個表示する機能を実装した。過去2週間分の日記を書く際に選んだ項目が多いものが大きく表示され、その人が抱えている悩みの核を把握しやすいようにしている(図8)。図6の食事・睡眠グラフと図8の項目の可視化を行う画面については、カウンセリングの際の話しのきっかけとしやすいように、1画面で過去2週間分の記録を把握できるようにしており、相談室等で相談する際にこの画面を見せることで自身の状態を説明しやすくなるものと考えて設計した。


図9


 アプリケーションのレイアウトについては、他のアプリケーションを参考にわかりやすく簡単に操作ができるレイアウトを検討した。ユーザーがすぐに見たい画面に飛べるよう、画面下部に四つのボタンを作り、簡単に操作ができるよう、質問ボタン等は全て画面下に配置し、よく使う操作については画面の下部で全て行えるようにした。日記画面は上部にカレンダーを表示し、日記の継続度がすぐにわかるようにし、その下に睡眠と食事のグラフを表示しユーザーの2週間の状態を把握できるようになっている。睡眠と食事のグラフは、曇った表情のアイコンが1番高い位置にあり、笑顔のアイコンが低い位置にある。また、黄色〜深緑にアイコンの色を設定し色の印象で体調の変化がわかるようにした。

 本アプリケーションでは、ユーザーにポジティブで明るい印象を与えることができるオレンジ色をメインカラーとして黄色やベージュ等の暖色を使ってデザインをした。また、メインキャラクターであるペンギンの色を目立たせるためにもペンギンの青色の補色であるオレンジを使った。自然には人を癒す効果があるため、背景は自然をイメージして作った。

 アプリケーション全体の画面遷移を図9に示す。




本アプリケーションの使用方法

 本アプリケーションは、学生が何かしらの心身の不調を感じたとき日記を付けることを基本とし、日記の内容に応じて学生相談室の連絡先を提示して相談に行くように促す。 実際に学生相談室に相談に行った際には、カウンセラーは、まず学生の睡眠と食事の状態を把握し、画面を見ながら学生の相談に乗ることが出来る。学生自身も自身の直近2週間の生活習慣や、気になっている出来事や感情について振り返ることが可能である。



考察

本アプリケーションと他メンタルヘルスを目的としたアプリケーションの相違点

 本アプリケーションは学生のメンタルヘルスを目的としている。現在、大学生向けに特化した日記アプリケーションは少なく、他のメンタルヘルスを目的としたアプリケーションでは、精神疾患の診断をするものが多いが、本アプリケーションのように相談室での相談の敷居を下げることを目的としたものは見られない。また、日記によるメンタルヘルスを目的としたアプリケーションでは日記を自発的に書かなくてはならなかったり、細かく自身の状態を記録するものが多く、生活が不規則になりやすい学生には継続が難しいことが予想される。このようなことから、本アプリケーションでは、学生が自身の状態を振り返るとともに気軽に日記が完成されるように設計を行った。メインキャラクターであるペンギンが話しかけてきてそれに答えると日記が出来上がるという仕組みとしており、ペンギンが話す言葉は難しい言葉を使用せず柔らかい言葉使いになるように工夫した。

まとめ

 本研究では、学生のメンタルヘルスを目的とした日記アプリケーションの開発を行った。日々の生活習慣や活動について投げかけられる質問に対して、ボタンを押して選択していくだけで日記の原型を作り上げるしようとすることで、大学生が継続的に利用しやすくするように工夫し、記録した内容をもとに自身の生活習慣や日々感じている感情を振り返りやすくした。また、生活習慣や悩みの核となる感情についてを一目で把握できる画面を作成し、それをもとに学生相談室などで相談する際のきっかけを作ることが出来るようにした。本アプリケーションについては、基本的な機能面の開発についてはおおよそ完了し、今後は質問の内容やデザイン面の改善、追加機能の検討が課題である。

今後の課題

 ペンギンが投げかける質問内容については、専門家の意見を取り入れた質問を作成していくことも必要と考えている。開発したアプリケーションを実際に学生に使ってもらい、デザイン面や機能面の評価をしてもらい、それをもとにブラッシュアップを行っていく予定である。また、メインキャラクターをペンギンだけではなく他の動物に変更できるようにする、ユーザーの状態に応じてペンギンが声かけをしたり、答えたくない質問をブロックする機能を追加するなど、ユーザーの心の状態に合わせた利用を行えるアプリケーションとしていきたい。

脚注

  1. 藤丸郁代 , 田中耕 , 植松勝子 , 藤川小夜子 , 宮田延子:コロナ禍における大学生の生活実態調査 学年間の比較検討, 中部学院大学・中部学院大学短期大学部研究紀要 , No. 23, pp. 113-120(2022).
  2. 藤丸郁代, 田中耕, 植松勝子, 藤川小夜子, 宮田延子:コロナ禍における大学生の生活実態調査 学年間の比較検討, 中部学院大学・中部学院大学短期大学部研究紀要, No. 23, pp.113-120(2022).
  3. 片山友子, 水野由子, 稲田紘:大学生の生活習慣とメンタルヘルスの関連性, 総合健診, No.41, Vol.2, pp283-293(2014).