宇宙港のまちづくりデザインに関する研究

提供: JSSD5th2022
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ー 大分空港を事例として


寺崎薫 / 九州大学大学院 芸術工学府デザインストラテジー専攻 
TERAZAKI Kaoru / Kyushu University

Keywords: Vision Design, City Planning Design,Spaceport 


Abstract
Plans have been revealed to utilize Oita Airport as Asia's first horizontal spaceport. Since Japan is an ideal location for a horizontal spaceport, there is a possibility that spaceport community development and new industries will be developed in other regions in the future. The purpose of this study is to clarify the conditions and requirements for community development utilizing a horizontal spaceport.


背景と目的

 今まで宇宙産業は政府主体で行われてきたが、2010年代以降米国を中心に宇宙産業を民間に大きく任せる方向に舵を切り始めた。現在世界の宇宙産業規模は約40兆円であるが、宇宙民営化の影響により2040年には約3倍の120兆円規模に成長すると予想されている。

 そのような中、2020年4月にヴァージン・オービットがANAホールディングスや大分県と提携したことが公表され、大分空港がアジア初の水平型宇宙港として活用される計画が明らかになった。大分県は、打ち上げ開始から5年間で約102億円の経済波及効果を見込んでいる。

 水平型宇宙港とは、種子島宇宙センターのようにロケットを垂直に発射する垂直型宇宙港とは異なり、ロケットを搭載した航空機が滑走路を飛び立ち、その後高度約10㎞の海上でロケットを航空機から切り離して打上げを行うものを指す。水平型宇宙港は、大規模な射場が不要なことや、航空機を初速として利用できるためロケットを小型化でき低コスト化を図れるなどのメリットがある。日本は水平型宇宙港に適した立地であるため、今後他の地域でも宇宙港のまちづくりや新たな産業づくりが行われる可能性がある。

 そこで本研究では、水平型宇宙港を活かしたまちづくりの条件や要件を明らかにすることを目的とする。

研究の方法

図1.研究の方法

 研究の方法は以下の通りである。(図1)

⑴大分県の宇宙港のまちづくりの現状を調査

大分県の宇宙港のまちづくりに関わる行政・民間・市民の現状を調査し、課題や条件を明らかにする。

⑵垂直型宇宙港の事例と水平型宇宙港との比較

垂直型宇宙港との比較を行うことで、類似点や水平型宇宙港ならではの課題や条件を明らかにする。

⑶まちづくりの事例と水平型宇宙港のまちづくりとの比較

まちづくりの事例との比較を行うことで、類似点や水平型宇宙港ならではの課題や条件を明らかにする。

⑴〜⑶の調査によって、大分空港を事例とした水平型宇宙港を活かしたまちづくりの条件や要件を明らかにする。明らかにした条件や要件から事例となるデザイン提案を行い、検証・修正を行う。

大分県の宇宙港のまちづくりの現状

行政

図2.県庁でのインタビュー調査

 大分県庁の先端技術挑戦課宇宙開発振興班で、宇宙港の業務を行なっている担当者にインタビュー調査を行った。(図2)現在の主な取り組みは、打ち上げを実現するための調整と、宇宙港のプロモーション活動だという。調整に関しては、日本において前例がないため法令の整備を行なっていることや、打ち上げに携わる民間のポートに注力しているということが分かった。【県庁としては、宇宙港自体の実現や運営に注力するため、宇宙港を活かしたまちづくりは国東市や民間に取り組んでほしいと考えている】ことが分かった。

 続いて、国東市役所政策企画課で宇宙港に関する業務を一部行なっている担当者にお話を伺った。現在の主な取り組みは、市民に宇宙港が身近になるような活動だという。宇宙港のまちづくりに関する現在の課題を伺うと、【宇宙港自体は大分県が提携したもので国東市の立場が難しいこと】や、【前例がない中で交通網も発展していない国東市でどのようなまちづくりのビジョンを描いていけばいいか分からないこと】 が課題であると分かった。  

民間

 大分県の宇宙ビジネスに携わる株式会社minsoraの代表である高山氏にインタビュー調査を行った。高山氏は、前職では宇宙分野のプロジェクトに携わってきたという。Minsoraでは前職で培った宇宙分野との繋がりや知見を活かし、地方から宇宙ビジネスを始めるサポートを行っている。現在の課題を伺ったところ、【宇宙港が県民に浸透しておらずチャンスであると気づいてもらえていないこと】 が課題であるとわかった。

 続いて、一般社団法人おおいたスペースフューチャーセンター(OSFC)で2022年5月27日に開催されたOSFCのセミナーに参加し、現状調査を行なった。OSFCを運営しているのは大分県の宇宙ビジネスに携わる株式会社minsoraであり、OSFCの専務理事とminsoraの代表は、どちらも高山氏が担っていることが分かった。現状として、【会員や参加者は大分県の民間企業やテレビ局、行政が会員の多くを占めること】や、【宇宙分野との繋がりがある一部の人がキーパーソンとなり宇宙港に関する様々な取り組みを行なっていること】 が分かった。

市民

 大分県在住の方36名を対象に、2022年10月14日〜22日にかけて水平型宇宙港に関するアンケート調査を行った。その結果、大分空港が水平型宇宙港として活用される計画を知っていた人は全体の94%であった。一方で、水平型宇宙港の理解度については、やや理解している・とても理解していると答えたのは全体の18%、宇宙港と自身との関わりについて、やや身近に感じている・とても身近に感じていると答えたのは全体の24%であった。【大分県内の認知度は高いが、理解度が低く宇宙港との関わりを感じている人が少ない】ことがわかった。

 さらに、大分県以外に在住の方にアンケートを行うと、大分空港が水平型宇宙港として活用される計画を知っていた人は全体の7%となり、【大分県内の認知度と大きな差がある】ことがわかった。

垂直型宇宙港の事例と水平型宇宙港との比較

表1.垂直型宇宙港の事例と水平型宇宙港との比較

 垂直型宇宙港である種子島宇宙センターや内之浦宇宙空間観測所の事例をもとに、水平型宇宙港となる大分空港の比較を行った。(表1)  

 比較を行った結果、「選定理由」「宇宙港ができることによる景観の変化」「打ち上げ回数」「打ち上げ時の様子・見学場所」の項目から、【水平型宇宙港は垂直型宇宙港より他産業と関わりやすい】【水平型宇宙港は宇宙港ができることによる景観の変化が少ない】【水平型宇宙港の打ち上げは垂直型宇宙港よりも近くで見学できるが、ロケットの切り離し自体は打ち上げ場所から遠い場所で行われる】【打ち上げ予定回数が近い垂直型宇宙港では、打ち上げ時に多くの人が集まるものの、普段の観光客が少ないため宿泊場所などの受け入れ先が足りていない課題がある】ことがわかった。

まとめ

調査を通して、現在明らかになっている大分空港を事例とした水平型宇宙港のまちづくりの課題と条件は以下の通りである。

<大分県の宇宙港のまちづくりの課題>

・空港が位置する市町村の宇宙港を活かしたまちづくりのビジョンがない

・大分県内で宇宙港の認知度は高いが、宇宙港について理解している人・関わりを感じている人が少ない

<水平型宇宙港のまちづくりの条件>

・打ち上げ準備期間:景観の変化が少ない

・打ち上げ時:ロケットの切り離しは空港から離れた場所で行われる

・打ち上げ開始後:打ち上げは年に数回で打ち上げは行われない日の方が多い

今後の展望

研究の方法の⑴と⑵の調査を通して、水平型宇宙港のまちづくりの課題や条件が明らかになった。今後は、⑵の市民へのアンケート調査や民間企業へのインタビュー調査を引き続き行い、⑶まちづくりの事例と水平型宇宙港を活かしたまちづくりを比較する の調査を進め、さらに課題や条件を精査していく。調査で明らかになった課題や条件から、水平型宇宙港を活かしたまちづくりの要件を明らかにする。明らかにした要件から事例となるデザイン提案を行い、明らかにした条件や要件の検証・修正を行う。

参考文献・参考サイト