歴史文化街区における屋外看板の色彩規則に関する研究
ー中国・広州市永慶坊のお土産通りを例としてー
- 顔蕾軒 / 九州大学大学院 統合新領域学府 ユーザー感性学専攻
- YAN LEIXUAN / Graduate School of Integrated Frontier Sciences,Kyushu University
Keywords: Historical District, Souvenir Street,Outdoor Signboard, Color Regulations
- Abstract
- Yongqing Block has been rebuilt since 2016 by government authorization to restore the appearance of the souvenir street. As it is in the early stage of revitalization of the historical district, the color regulations and management related to outdoor signboards in the street are still inadequate and many violations occur. This study will learn ways to improve the existing color regulations for outdoor signboards, using the good example of Japan as a model. Adjustment of outdoor signboards of stores that do not match the historical district.
目次
背景と目的
近年、中国では観光業の発展に伴い、一部で住宅用途が主であった歴史的市街地の歴史的建築物(旧住宅)をコンバージョンしたカフェ・飲食店・お土産店・雑貨店などの商業店舗が増え活況を示す。看板は店舗の情報を的確に、そしてスピーディーに伝達し、その地域のイメージアップや活 性化を計る一つの手法として着目された。
しかし、広州市永慶坊のお土産店通りの看板設置者にとって、経済性あるいは個性化が優先されることも多く、商業転用に伴う建築物の改修や看板設置により外観の変容をとげることがある。石川(2013)は[1]、商店主らはそれを経験的に知っており、商売に活かしているが、遠方からも良く見えるよう目立つ色彩な看板を出すなど方法を用いており、現地で観察調査結果からそれは景観上負の行為にも繋がっていることを示す。その上、永慶坊の現状が観られた、ある看板の色は目立つ、お土産店通りの雰囲気と一致しないため、規則を違反する問題がある。屋外看板が景観に与える影響に関する研究には、繁華街に掲示された看板の色彩が都市景観を評価した小柳らの研究[2]、屋外看板の色彩調査及びシミュレーション画像を用いた色彩調和度とカラーイメージの分析により、屋外看板の色彩は都市景観に大きな影響を与えることが明らかとなった。本稿では、調査結果から、民間看板の色彩が多いため、ほぼの地点でその除去による都市景観の色彩調和性の上昇及びイメージの変化・改善がみられた。このことは、看板の規則誘導が色彩計画において特に重要であることを示す。
本研究は以上を踏まえて、歴史的文化街区景観保全のための統一されたカラーシステムの重要性を明らかにし、お店の看板の色はどういた表現を行うことが相応しいか検討する。永慶坊のお土産店通りの景観環境を保全し、看板色デザインの指標を導くことを目標としている。この指標を応用することで、将来広州市のお土産店通り看板の色改善やデザインにに活用できると考えられる。
研究の方法
①文献調査から、既存看板類型の定義を分析し、中日の歴史文化街区に関する文献の調査や屋外看板の色彩規則を調査する。
②永慶坊へフィールドワークを実施し、店舗の管理者へヒアリング調査する。調査結果を踏まえて、屋外看板における色彩規則に対して店舗の管理者の認知度に関する現状を把握し、色彩規則違反の原因を導く。日本の歴史文化街区へ現地調査を行う。現存看板の写真を撮る、看板において地域の特徴と周辺環境との調和性の状況を確認する。
③分析された結果を基に、歴史文化街区に於ける中国広州市永慶坊の屋外看板の色彩規則を提案する。永慶坊の景観を向上させるため現存色彩提案を調整し、参考事例として、看板事例を調整デザイン案とする。
④調整前後の看板色彩の効果を測定するために、オンラインで改修前後の効果について地域の方々と観光者へアンケートを実施する。更に、専門家へインタビューを行う。
文献調査
看板類型の整理
屋外看板の種類を理解するために、中国と日本の屋外看板における規則を調べた。特に京の景観ガイドライン(広告物編)[3]を参照した。規則を受ける屋外看板の類型を整理する。
屋外広告物
①建築物等定着型屋外広告物
建築物や工作物に定着させて表示する屋外広告物
<種類> 屋上屋外広告物・突出型屋外広告物(袖看板)・壁面平付け型屋外広告物・ひさし看板 等
②独立型屋外広告物
土地に定着させて表示する屋外広告物及び広告スタンドなど移動できる屋外広告物
<種類> 一本支柱型屋外広告物・多本支柱型屋外広告物・広告塔・アーチ型屋外広告物・のぼり・広告スタンド 等
中日屋外看板色彩規則分析
中日色彩規則の内容と許可範囲を分析すれば、両方異なるところが得られると考えれる。
文献調査結果
以下、京都の規則を規則A、永慶坊の規則[4]を規則Bと略記する。
規則Aでは、屋外広告物規制区域の種別に応じて、色彩の規則対象色及び禁止色を示し、特定の色を表示面に使用できる面積割合等の基準を定めている。
規則Bでは、建物の色に基づく同系色・類似色・対照的な色を定義している。建築物壁の色彩を基準とし、看板の色も建物の色と同類、類似、対照的な色である必要があると規定されている。しかし、色彩の明度・彩度に関するに規則内容を定めないことをわかった。また、屋外広告物歴史的な地区の種別に看板の素材やフォットに関する文字説明があるが、文字の配色と面積割合のに規則Bが設定されていないことである。
したがって、規則Bに従い、看板の色彩の部分が基準に反するかどうかは、まず周囲の建物の色を導き出し、それが建築物の色彩の類似色・対照的な色どうかを確認する必要がある。ただし、規則Bでは色彩の明度や彩度を明示的に要求していないため、建物の外観の色彩の明度や彩度が判断基準になるかは定かではなかった。
現地調査
調査概要
広州市永慶坊のお土産店通りでは、商業転用に伴う建築物の改修に加え、店舗看板設置に際して各店舗の経済性あるいは店舗の個性化が優先されることも多いため、景観上では、マイナスなイメージを創出することにもつながっている。永慶坊へ現地調査から、街路の幅は4.074メートルと狭いのことを分かった。広州市永慶坊のお土産通りの面積は80,000m²である。本研究は、永慶坊の規則による、店舗看板における屋上屋外広告物型とを禁止されるため、袖看板と壁面平付け型看板・置き看板を調査対象とし、現地調査を行っている。
永慶坊の現状と、国の定める看板色彩に関する規則と、永慶坊における看板色彩の現状の間にある相違点を把握することを目的とする。2021年9月・10月・12月に永慶坊のお土産通りへ三回目現地調査を実施した。
中国の広州市永慶坊へフィールドワーク01
- 第1回目調査:
永慶坊の空間特性と店舗類型が明らかにするために第一回目の調査を行う。フィールド調査の結果による平面図(図2)を作り、屋外看板設置実態調査を実施する。また、この永慶坊お土産通り内の建築物の色彩特徴を把握するため、側色を実施する。
日時:2021年9月18日 曇り
時間帯:17:30〜18:30
方法:メモ記録、写真と動画撮影
1)建築物の側色
図3〜7と表3に、永慶坊の側色に用いた写真と色彩素の側色結果を示す。
表.4永慶坊のお土産通りの景観の色相分布
色相 | 数値 |
---|---|
YR | 9(31%) |
Y | 5(17%) |
PB | 5(17%) |
N | 4(14%) |
R | 2(6%) |
GY | 2(6%) |
B | 1(4.5%) |
P | 1(4.5%) |
計 | 29(100%) |
- 第2回目調査:
永慶坊の屋外看板に焦点を当て、その形態・業務内容別屋外看板設置数を個別に記録した。
日時:2021年10月5日 晴れ
時間帯:14:00〜20:00
方法:メモを記録、写真と動画撮影
2)形態・業務内容別屋外看板設置数
表5.形態別屋外広告物設置数
形態 | 設置数 |
---|---|
壁面付け看板 | 37(44%) |
袖看板 | 26(30%) |
置き看板 | 22(26%) |
計 | 85(100%) |
- 第3回目調査:
第1・2回目の調査の結果から、屋外看板の種類と設置数を整理し、第3回目はカメラを使って写真を撮ったおり、その色相分布を分析する。
日時:2021年12月1日 曇り
時間帯:16:30〜19:30
方法:カメラで写真を撮る、カラーガイドで側色
3)屋外看板の色相分布(表6)
調査結果01
永慶坊のお土産通りにおける調査で確認された看板の総数は85個であった。形態別看板数は壁面付け看板型の順に多い結果となった。
表6の色彩測定結果によると、現段階では全37店舗中、10店舗が規定違反となる。つまり、27%の店舗の看板は永慶坊の景観に不調和な色彩を使っていることになる。そして、この規則を違反したの看板の主な種類は袖看板と壁掛け看板である。
中国の広州市永慶坊の店舗管理者へヒアリング調査02
対象:店舗管理者・スタッフ
日時:2022年7月2日 曇り・雨を降る
時間帯:13:00〜17:30
方法:対面でインタビューする
質問内容:
- 新しくお店がされる前に広州市屋外看板の規則説明会があるかどうか。
- 店舗管理者はこの屋外看板規則を理解しているのかどうか。
- 特に色彩規則を理解したことがあるか。
- 看板のデザインはどのような理由で決めているのか。
調査結果02
ヒアリング調査によると、新しいお店がされる前に屋外看板規則上の説明会を開催していない、37店舗の13%の店舗が規則を認識し、全体の8%店舗管理者が屋外看板色彩規則を理解している。このように、規則を知っている店舗管理者は少ないのである。さらに、看板製作の理由を探っていくと、多くの店舗がデザイン会社を起用して看板を製作していることがわかった。違反した看板事例には袖看板と壁掛け看板が多いため、それを中心に調査する。
日本の京都三年坂へフィールドワーク03
京都の三年坂を参考対象地として選定し、京都で現地調査を行う。
期間:10/3-10/5
時間帯:10:30〜12:30/13:30〜16:50
対象地:三年坂・清水坂・先斗町・花見小路通り
気候:晴れ・曇り
方法:レーザー距離計・カメラ・メジャー・カラーガイド
調査結果03
屋外看板色彩規則上の制限と現場の状況を合わせると、永慶坊のお土産通りの規則違反は10店舗で27%を占める(表6)。京都では違反する店はほぼなく、祇園町周辺のコンビニエンスストアでも、街並みの統一感を出すために店舗壁面平付け型屋外看板の色彩を調整しているところがある。
考察
中国広州市と日本京都市の色彩規則を比較すると、基本的な要件としては、いずれも周辺の建物との色の統一を求めるものであることがわかる。異なるところは、京都は歴史遺産型第1と第2種類地域に対して地域の特別な要件を設定し、色彩の明度や彩度の使用ゾーンを設定しており、広州の色彩規則よりも詳細であることである。現地調査によって、永慶坊の景観色彩は最も使用頻度の高い色相はYR、次いでY、PB、Nが多い。またY、YR、R、Pの暖色で58.5%を占めている。永慶坊の周辺環境と建物の色彩は暖色を中心としながら多様な色相にわたっていることがわかった。ただし、その規則違反の看板は、寒色系を使うものもあり、高明度な赤色を使うものも存在した。しかし、現存広州市屋外看板の規則中に色彩の明度に関する制限内容を定めていないことである。小柳(1993)が論文で述べているように、規則は看板のデザインの誘導に非常に重要であるため、規則を洗練する必要性も次の課題であることがわかった。
また、永慶坊で店舗管理者は規則を知っている人が非常に少ないこともヒアリングから明らかであり、規則の周知方法の検討が必要であると考えられる。
しかし、街並みの景観を管理し、店舗管理者に規則を守らせることができるのは行政だけであるため、看板色デザインの指標を導くことが困難だど考えた。永慶坊の景観を良くするために、京都の景観を参考に永慶坊の景観を守る大切さを人々に伝える必要があると考えた。
今後の展望
以上のことを踏まえて、景観を守る大切さを伝えるために、文献調査のデータと現地調査から永慶坊の周辺に存在する歴史的な建築物の色彩を抽出し、このお土産通り似合うの色彩系統を導く違反した店舗看板に応用していくことにする。その後、ビフォー案と調整するのアフター案でアンケートを作成し、来場者や地域住民の方に配布する。歴史的な雰囲気をより味わえるのはどの選択肢か、などの質問が挙げられる。そして、その選択理由のデータを整理し、「アフター」提案が、歴史文化街区の魅力を反映できる効果を得られるかどうかを検証できると考えられる。あるいはアンケート回答者から修正意見があれば、再度「アフター」案を調整することも可能である。
脚注
参考文献・参考サイト
- 京の景観ガイドライン広告物編 (2015) pp.2-4~2- 24
- 庄怡, 山本早里 (2017) 歴史的街並みにおいて許容される屋外広告物の形と配色 日本色彩学会誌 41(3+): 64-67.
- 市野達也 (2013) 重要伝統的建造物群保存地区のデザインコードに関する研究: 高岡市山町筋の歴史的風景と現代的風景 法政大学大学院紀要 デザイン工学研究科編 (2): 1-6.
- 産寧坂伝統的建造物群保存地区保存計画 https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/page/0000281761.html (2022年10月2日 閲覧)