科学と楽しさの関係性に関する研究

提供: JSSD5th2022
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―福岡市科学館におけるコンテンツを中心に―


孫冉 / 九州大学 統合新領域学府
SUN RAN / Kyushu University 

Keywords: Science Center, Enjoy Science 


Abstract
"Enjoy science" is widely used in the websites and the magazines of science centers in Japan. However, there is no common ground their meanings or their purposes. Therefore, this study aims to find out that how the phrase "Enjoy science" are used by science centers in Japan,especially in fukuoka city science museum, by researching its quarterly magazines.


背景と目的

近年、日本においてサイエンスコミュニケーション(SC)の重要性が認識されるようになってきた。科学館は、SCの一つの拠点として、各地域のニーズに応じ、展示に限らず体験、ワークショップ、その他イベントなどの機能を備え、市民に科学に関する豊富な体験を提供しており、科学技術の「共創」の推進も期待されている。しかし、近年、科学館は、資金不足と展示物の老朽化、更に来館者の減少という課題にも直面している。科学館は、いかに来館者を増やすか、さらに来館者を満足させ、繰り返して来てもらえるかを模索している。そのなかで、各科学館の公式サイトでは、「楽しさ」「楽しめる」「楽しむ」「楽しい」のような言葉が頻繁に使われている。 そこで、本研究は、各科学館とそのコンテンツの調査に基づき、福岡市科学館の位置づけを把握した上で、福岡市科学館を事例として「科学の楽しさ」とは何かを考察することを目的とする。福岡市科学館が、来館者に対し、どのように「科学の楽しさ」を感じさせようとしているのか、すなわち、いかに「科学に関するコンテンツに対する来館者の満足」を実現しようとしているのかを、館が発行する季刊誌から読み解くこととする。

研究の方法

①文献調査から、SCと科学館の定義、機能、発祥と発展を明らかにし、それらの関係性を明らかにする。
②科学館と楽しさの関係を明らかにし、科学における「楽しさ」の要素および特徴を抽出する。
③福岡市科学館を事例としてケーススタディを行う。福岡市科学館の位置付けと特色を把握した上で、福岡市科学館が開館した2017年春から2022年春までに発行された12冊の季刊誌を対象とし、展示コンテンツを整理する。
④12冊の季刊誌を対象とし、展示コンテンツを整理する
⑤「楽しさ」の要素によりコンテンツの構成を分析する
⑥コンテンツの形態によりコンテンツの構成を分析する
⑦ 「科学の楽しさ」とは何かを考察する

結果

  • 日本科学館の全体像と福岡市科学館の位置づけ

全国の88箇所の科学館について、設立年、規模、来館者数などを網羅的に調査し、整理して一覧できるようにし、福岡市科学館がどの位置付けにあるのかを明らかにした。その結果、福岡市科学館は、コンテンツの新しさ、面積の利用率、来館者人数が上位5位に入り、他の科学館と比べると、来館者にとって魅力がある科学館と言える。

  • 分類方法:「楽しさ」の要素とコンテンツの形態

「楽しさ」の要素
A探求:好奇心を満足できそう
B理解:知識を得られそう
C知的創造性:創意工夫のない思考様式を避けられそう
D熟達:達成や改善に関するやりがいのある基準をクリアできそう
E課題創造性:芸術的表現や創造性を含むような活動を携わられそう
Fどっちでも当てはまらない
コンテンツの形態
Ⅰ操作体験型:来館者が自分で操作することが中心となるもの
Ⅱ体験型:体を使いながら,体験するもの
Ⅲ動作陳列型:動く展示品を見ることが中心となるもの
Ⅳ映像型:映像を見ることが中心となるもの
Ⅴ静止陳列型:静止した展示品を見るだけのもの
Ⅵグラフィックス型:説明図や文章が中心のもの
Ⅶステージイベント型:館側のスタッフや講演者は、来館者に向け実験やスピーチを行うもの

  • 整理されたコンテンツの内容による気づき

「楽しさ」に関する要素について 全150の項目から、まず、「AB」(探求と理解)は56を占めている。また、「ABC」(探求と理解と知的創造性)は36、「ABCDE」(探求と理解と知的創造性と熟達と課題創造性)は18、「AB」を含める項目はおよそ125となった。初めて読む人には理解できないので、わかるような説明を加えてください。コンテンツのなかでは、「探求」「理解」を同時に体験させるコンテンツが最も多く、つぎに「探求」「理解」を基礎として、コンテンツにほかの要素を加える傾向がある。「知的創造性」は1位、「知的創造性」「熟達」「課題創造性」は2位となっている。

コンテンツの形態について 上位3つについて述べると、「操作体験型」は39あり1位、「グラフィックス型」は32あって2位、「体験型」は30で3位となっている。季刊誌では、主に「操作体験型」と「体験型」と「グラフィックス型」のコンテンツが紹介され、それらから得られる知識を伝えている。また、季刊誌でもっとも少ないのは「静止陳列型」で6件、「動作陳列型」は8件である。「静止陳列型」のコンテンツは、科学館においては数が少なく、また来館者にアピールするコンテンツとして紹介されていない傾向がある。

「楽しさ」とコンテンツの関係について 「ABCDEⅠ」(操作体験型のコンテンツとして、探求と理解と知的創造性と熟達と課題創造性という要素を持っている)が一番多く見られ、「ABⅣ」(映像型のコンテンツとして、探求と理解という要素を持っている)と「ABⅥ」(グラフィックス型のコンテンツとして、探求と理解という要素を持っている)は第2位と第3位となる。既存の装置を操作させ、また材料を提供し、ものづくりを体験させることで、「楽しさ」を感じさせようとする傾向が見られる。更に、季刊誌という形式の制約から、「グラフィクス型」でコンテンツや知識、また「映像型」で内容を紹介する傾向が見られた。

結論と考察

 「科学の楽しさ」を実現するために、基本的に、ほぼすべてのコンテンツは、「探求」「理解」に分類され、「科学の楽しさ」を伝えようとしている。また、「操作体験型」のコンテンツでは、「探求」「理解」をベースに、「知的創造性」「熟達」「課題創造性」を体感させようとする傾向が見られる。このようなコンテンツには、「楽しさ」に関するすべての要素が含まれ、すなわち、「探求」「理解」「知的創造性」「熟達」「課題創造性」であり、全体の20パーセントを占めていることから、館側が最も力を入れているコンテンツと言える。

今後の予定

以上の結論を踏まえ、各コンテンツのテーマをデータベースに加え、更にテーマと「楽しさ」との関係性を分析する。また、科学館のデータベースを参照し、上位と下位の科学館を各一つ選び、その二つの科学館の公式サイトから、館が提供しているコンテンツを抽出して比較、分析し、その結果を踏まえて、コンテンツにおける「楽しさ」を考察し、楽しさをつくりだすために必要な要件を導出する。

参考文献・参考サイト

  • 矢嶋 昌英,浅川 康吉(2011)地域在住高齢者における「楽しさ」の因子構造について,理学療法科学 26 (1), 95-99
  • 白鳥信義,人見久城(1992)科学館における展示物の形態と来館者の停留時間について,日本科学教育学会年会論文集16(0),267-268
  • 福岡市科学館(2018)『福岡市科学館 年報 (平成29 年度版)』
  • 5階フロア https://www.fukuokacity-kagakukan.jp/floorguide/5f.html(2022年10月05日 閲覧)