「宇宙港のまちづくりデザインに関する研究」の版間の差分
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2022年10月26日 (水) 13:13時点における版
ー 大分空港を事例として
- 寺崎薫 / 九州大学大学院 芸術工学府デザインストラテジー専攻
- TERAZAKI Kaoru / Kyushu University
Keywords: Vision Design, City Planning Design,Spaceport
- Abstract
- Plans have been revealed to utilize Oita Airport as Asia's first horizontal spaceport. Since Japan is an ideal location for a horizontal spaceport, there is a possibility that spaceport community development and new industries will be developed in other regions in the future. The purpose of this study is to clarify the conditions and requirements for community development utilizing a horizontal spaceport.
目次
背景と目的
今まで宇宙産業は政府主体で行われてきたが、2010年代以降米国を中心に宇宙産業を民間に大きく任せる方向に舵を切り始めた。現在世界の宇宙産業規模は約40兆円であるが、宇宙民営化の影響により2040年には約3倍の120兆円規模に成長すると予想されている。
そのような中、2020年4月にヴァージン・オービットがANAホールディングスや大分県と提携したことが公表され、大分空港がアジア初の水平型宇宙港として活用される計画が明らかになった。大分空港が水平型宇宙港として選定された理由は、①東及び南北いずれかにひらけていて海が近いこと②空港に3000mの滑走路があること③周辺地域の産業基盤・観光資源の存在 である。大分県は、打ち上げ開始から5年間で約102億円の経済波及効果を見込んでいる。
水平型宇宙港とは、種子島宇宙センターのようにロケットを垂直に発射する垂直型宇宙港とは異なり、ロケットを搭載した航空機が滑走路を飛び立ち、その後高度約10㎞の海上でロケットを航空機から切り離して打上げを行うものを指す。水平型宇宙港は、大規模な射場が不要なことや、航空機を初速として利用できるためロケットを小型化でき低コスト化を図れるなどのメリットがある。日本は水平型宇宙港に適した立地であるため、今後他の地域でも宇宙港のまちづくりや新たな産業づくりが行われる可能性がある。
そこで本研究では、水平型宇宙港を活かしたまちづくりの条件や要件を明らかにすることを目的とする。
研究の方法
⑴大分県の宇宙港のまちづくりの現状を調査
大分県の宇宙港のまちづくりに関わる行政・民間・市民の現状を調査し、課題や条件を明らかにする。
⑵垂直型宇宙港の事例と水平型宇宙港との比較
垂直型宇宙港との比較を行うことで、類似点や水平型宇宙港ならではの課題や条件を明らかにする。
⑶まちづくりの事例と水平型宇宙港のまちづくりとの比較
まちづくりの事例との比較を行うことで、類似点や水平型宇宙港ならではの課題や条件を明らかにする。
⑴〜⑶の調査によって、大分空港を事例とした水平型宇宙港を活かしたまちづくりの条件や要件を明らかにする。明らかにした条件や要件から事例となるデザイン提案を行い、検証・修正を行う。
大分県の宇宙港のまちづくりの現状
行政
大分県庁の先端技術挑戦課宇宙開発振興班で、宇宙港の業務を行なっている担当者にインタビュー調査を行った。現在の主な取り組みは、打ち上げを実現するための調整と、宇宙港のプロモーション活動だという。調整に関しては、日本において前例がないため法令の整備を行なっていることや、打ち上げに携わる民間の動きをどうサポートしていくかに注力しているということが分かった。県庁としては、宇宙港自体の実現や運営に注力するため、宇宙港を活かしたまちづくりは国東市や民間に取り組んでほしいということであった。
続いて、国東市役所政策企画課で宇宙港に関する業務を一部行なっている担当者にお話を伺った。現在の主な取り組みは、市民に宇宙港が身近になるような活動だという。宇宙港のまちづくりに関する現在の課題を伺うと、①宇宙港自体は大分県が提携したもので国東市の立場が難しいこと②前例がない中で交通網も発展していない国東市でどのようなまちづくりのビジョンを描いていけばいいか分からないこと が課題であると分かった。
民間
大分県の宇宙ビジネスに携わる株式会社minsoraの代表である高山氏にインタビュー調査を行った。高山氏は、前職では宇宙分野のプロジェクトに携わってきたという。Minsoraでは前職で培った宇宙分野との繋がりや知見を活かし、地方から宇宙ビジネスを始めるサポートを行っている。現在の課題を伺ったところ、①事業として成り立たせるのが難しいこと②宇宙港が県民に浸透しておらずチャンスであると気づいてもらえていないこと が課題であるとわかった。
続いて、一般社団法人おおいたスペースフューチャーセンター(OSFC)で2022年5月27日に開催されたOSFCのセミナーに参加し、現状調査を行なった。セミナー前後では、名刺交換が頻繁に行われており、宇宙ビジネスに関心のある企業人同士の交流の場となっていた。セミナーは、学生ピッチ/大分宇宙港にまつわる講話/ワークショップ といった内容であった。OSFCは、このように宇宙ビジネスに関するセミナーの開催やアイデア創出のコンペの開催などを行なっている。OSFCは会員制(個人会員の年会費は5万円)であり、大分県の民間企業やテレビ局、行政が会員の多くを占める。OSFCを運営しているのは大分県の宇宙ビジネスに携わる株式会社minsoraであり、OSFCの専務理事とminsoraの代表は、どちらも高山氏が担っていることが分かった。現状として、①会員や参加者は宇宙ビジネスに関心のある企業人が多いこと②宇宙分野との繋がりがある一部の人がキーパーソンとなり宇宙港に関する様々な取り組みを行なっていること が分かった。
市民
大分県在住の方を対象に水平型宇宙港に関するアンケート調査を行った。
その結果、大分空港が水平型宇宙港として活用される計画を知っていた人は全体の94%であった。一方で、水平型宇宙港の理解度については、やや理解している・とても理解していると答えたのは全体の18%、宇宙港と自身との関わりについて、やや身近に感じている・とても身近に感じていると答えたのは全体の24%であった。
垂直型宇宙港の事例と水平型宇宙港との比較
垂直型宇宙港である種子島宇宙センターや内之浦宇宙空間観測所の事例をもとに、水平型宇宙港となる大分空港の比較を行った。
まず、立地条件では大分空港の選定理由が①東及び南北いずれかにひらけていて海が近いこと②空港に3000mの滑走路がある③周辺地域の産業基盤・観光資源の存在 に対し、垂直型宇宙港である種子島宇宙センターや内之浦宇宙空間観測所の選定理由は①東及び南北いずれかにひらけていて海が近いこと②低緯度地域③市街地から離れ他産業と干渉しないこと であった。水平型宇宙港は比較的他産業と関わりやすいことがわかる。
宇宙港の建設については、種子島宇宙センターや内之浦宇宙空間観測所が新たに射場を建設したのに対し、水平型宇宙港は既存の空港を活用するため大掛かりな設備が不要である。水平型宇宙港は既存の空港の見た目からの変化が少ないことがわかる。
打ち上げについては、垂直型宇宙港は打ち上げ時の周囲への影響が大きいのに対し、水平型宇宙港は飛行機を初速として利用するため周囲への影響が少ない。打ち上げ回数については、2016年から2020年の5年間で種子島宇宙センターが18回、内之浦宇宙空間観測所が7回に対し、大分宇宙港では5年間で18回の打ち上げを予定している。打ち上げ予定回数が近い種子島宇宙センターでは、打ち上げ時に多くの人が集まるものの、打ち上げがない時は観光客が少ないため宿泊場所などの受け入れ先が足りていない現状がある。
考察
調査を通して、水平型宇宙港を活かしたまちづくりに必要な条件や要件を以下のように考察している。
①宇宙港が位置する市町村での宇宙港を活かしたまちづくりをサポートする組織や体制
国東市役所での調査から、宇宙港の実現自体には関与していないという立場でまちづくりを行なっていく難しさや、前例が少ない中交通面などの制約がある町でどのようにまちづくりを進めればいいかがわからないといった課題があることがわかった。宇宙港が位置する市町村のみではまちづくりを進めるのは困難であるため、サポートする組織や体制が必要であると考えた。
②水平型宇宙港について市民が理解できるように伝える役割や広く開かれた機会
市民へのアンケート調査から、宇宙港の認知度は高いものの、水平型宇宙港がどのようなものでどのような関わりがあるかの理解度は低いことがわかった。水平型宇宙港が市民に根付くことで、宇宙港のまちづくりに地元の産業や観光資源をより活かすことにつながり、将来的に多くの市民が水平型宇宙港の恩恵を受けることにもつながると考えた。
③打ち上げ時の見学者に対して提供する体験の検討
水平型宇宙港は、初速として飛行機を利用することでロケットの小型化や既存の空港を活用できるなどのメリットがある。しかし、一方で、打ち上げ時は飛行機の離陸の様子と似ており、ロケットの切り離しは上空10kmの海上で行われるため、見学者の体験をどのようにデザインするか工夫が必要となると考えた。
④打ち上げがない時も市民や観光客を巻き込む方法の検討
垂直型宇宙港と同様に、打ち上げは年数回であり打ち上げが行われない日がほとんどである。種子島宇宙センターの事例からも、打ち上げがない時も市民や観光客を巻き込む方法を検討するのが重要であると考えた。
今後の展望
研究の方法の①と②の調査を通して、水平型宇宙港のまちづくりの条件や要件が明らかになりつつある。今後は、③まちづくりの事例と水平型宇宙港を活かしたまちづくりを比較する の調査を進め、さらに条件や要件を精査していく。最後に、調査で明らかになった条件や要件から、水平型宇宙港を活かしたまちづくりのアイデアを考え、明らかにした条件や要件の検証を行う。
参考文献・参考サイト
- 宇宙ビジネスと現在と未来「宇宙を利用する」発想で事業開発を,月刊事業構想,12月号
- 片山俊大(2021),超速でわかる!宇宙ビジネス,すばる舎
- SPACEPORT JAPAN ホームページ,スペースポートシティ構想,https://www.spaceport-japan.org/concept (参照2022-07-10)
- 大分、アジア初の「宇宙港」決め手は温泉と町工場,日本経済新聞2021-03-19,日経ビジネス電子版, https://www.nikkei.com/article/DGXZQOFK175PD0X10C21A3000000/ (参照2022-07-11)