宇宙における食文化に寄与するデザインの考察
- 北島壮智 / 九州大学 統合新領域学府 ユーザー感性学専攻
- Taketoshi Kitajima / Department of Kansei Science, Graduate School of Integrated Frontier Sciences, Kyushu University
Keywords: Product Design, Life Design, Humanities, Food, Space, Culture
- Abstract
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目次
背景と目的
今年本格的に始動する米国の有人月面着陸計画[1]。をはじめ、各国の宇宙事業が本格化していけば人類が宇宙に滞在する機会も増えていくだろう。しかしながら、現状、宇宙空間で居住するには物理的な制約が数多く存在し、特に食に関しては安全性を維持するための厳しい条件をクリアした宇宙食を開発する必要がある。宇宙日本食もそれらの条件を乗り越え、日本人宇宙飛行士の精神・心理に大きく貢献しているが、宇宙という特殊環境下で食事をする際の制約は依然として多い。
ただ、人間の食事を満足させる方法は必ずしも科学技術のアプローチだけではない。文化的な眼差しも重要である。食べることは文化でもある[2]と人類学者の石毛が述べるように、先端をゆく宇宙での食事に関しても文化の視点を置き去りにして語ることはできないだろう。これから先、人類が宇宙に定住し、そこで新たな社会性を築き上げる可能性を考えれば、宇宙で文化としての食の豊かさを考える必要性は大いにある。
本研究では宇宙における食の現状を分析・整理し、食文化の観点からそれらを評価する。
先行研究
関連する分野としては、宇宙食開発と食文化に関するものがある。
宇宙食に関する研究の例を挙げると、日本食品科学工学会誌から発行されている宇宙日本食の研究開発[3]、片山らの宇宙飛行士の健康維持増進や循環型食料生産を基本とした食糧貯蔵が期待できる宇宙食の提案[4]などがある。一方、食文化については当該分野の第一人者である石毛が「文化」というものは人間の集団の中で後天的に習得しなければならない行動であり、食文化は日常茶飯事から出発するものだと述べており[5]、江原は『全集日本の食文化』(全12巻 雄山閣出版)をもとに、これまで行われてきた食文化研究の対象とその特徴について示している。(表1参照)[6]
しかし、現状として宇宙食の研究開発は科学技術や栄養学を中心にしているものがほとんどであり、食文化の研究分野は宇宙での食事に踏み入っていない。本研究ではこれら2つの分野を総合的に考察し、宇宙での食文化を扱うところに独自性を見出す。
研究の方法
本研究の流れは以下のとおりである。
- (A)宇宙における食事の変遷・現状・展望
- (B)食文化の体系化
- (C)食文化の観点から見た宇宙における食の評価
調査
(A)宇宙における食事の変遷・現状・展望
変遷
立花ら[7]やリチャード[8]の文献によれば、60年代初頭、初期の宇宙飛行では米ソ共にチューブ式の食事が採用された。料理というには味気ないもので不評も多かったそうである。その後、米国ではフリーズドライやキューブ、60年代中期のジェミニ計画ではゼラチン加工食品、68年以降のアポロ計画ではレトルト食品が登場し、スプーンでの食事も可能になった。また、宇宙船内でお湯が使えるようになったのは米国もソ連も70年前後である。80年代以降の技術的革新は少なかったが、宇宙食の質とレパートリーは更に充実していった。
現状
国際宇宙ステーションで食事をする際、地上と異なる点として、微小重力下かつ閉鎖環境であることなどが挙げられる[9]。置いたはずのスプーンがどこかに浮遊して無くなったり[10]、体の向きが上下バラバラの状態でテーブルを囲んだりと[11]、宇宙ならではのユニークな状況も発生する。
また、宇宙食について、船内の安全性を確保するために以下の条件を満たしている必要がある[12]。
- 容器や包装が燃えにくいこと。仮に燃えた場合でも、人体に有害なガスが発生しないこと。
- 常温で長期保存が可能であること。
- 宇宙飛行士の食中毒などを予防するための衛生性を確保すること。
- 液体を含む食品は飛び散らないよう、食品を封入するパッケージに付属したスパウトやストローを使用すること。
- そのまま食べる食品については飛び散らないよう粘度を高め、ゾル状食品とすること。
- 微粉を出さないこと。
- 特異な臭気を発さないこと。
本調査では宇宙日本食を一例にとって、宇宙食の特徴と上記の条件の関係性を整理した。
展望
宇宙食開発の将来の展望として、植物生育による宇宙船内での材料提供(※)、食品冷蔵庫の導入によるメニューの多様化(※)、ミドリムシを使った機能性宇宙食(※)やフードプリント技術の開発(※)等が挙げられる。
(B)食文化の体系化
辻原は食の文化とは世界の諸民族がそれぞれの体験や知恵に基づいて発達させてきた調理法あるいは食卓作法だと述べている[13]。そこで、本調査では人類史を辿ることで、大まかではあるが食文化の形成過程を読み解いていった。その結果、定住する土地と人類の移動が食文化に大きく関わっているのではないかという考察に至った。
(C)食文化の観点から見た宇宙における食の評価
土地と移動が人類の食文化形成に重要な要素だとしたとき、土地とは言い換えれば食材の分布や農耕の可否といった自然的諸条件であり、移動とはシルクロードによる食材の伝播や大航海時代に代表されるような異文化同士の接触と言える。これを宇宙での食事に置き換えると、あらゆる制約や条件に束縛された宇宙船の船内は言わば土地と同じ性質を持つ環境であり、宇宙日本食とは日本という土地で成熟した日本食が国際宇宙ステーションという異文化との接触を果たした結果誕生したものだと言える。
結論
食の歴史を辿ると、人類は限られた環境の中で如何にすれば生活がより豊かになるのか、他民族との巡り合いも交えながら知恵や技術を生み出してきた。それは紛れもない文化であり、宇宙における食事の中にもそうした知恵や技術は多く存在している。例えば、日清スペースカップヌードルは宇宙日本食の中でも地上で食べられているものと比べて大きな変貌を遂げているが、変化が大きい分、それは日本と宇宙の狭間に新たな知恵や技術(=文化)が生み出されたと言えよう。そこで確認される特殊な食卓作法には前向きなものから後ろ向きなものまで様々あるが、人間の要求や性格を慎重に読み解いていくことが、今後のより豊かな宇宙での食事発展に繋がると考えられる。
今後の展望
まとめ
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脚注
- ↑ 『NASA公式サイト』https://www.nasa.gov/specials/artemis/ (参照2022-10-20)
- ↑ 石毛直道「食事の文明論」『中公文庫』2016
- ↑ 稲熊隆博, 太田英明「宇宙日本食の開発をめぐって(ドリーム・チームの活動)」『日本食品科学工学会誌』Vol.56 No.1 1-5, 2009
- ↑ 片山直美, 吉村 剛, 馬場啓一, 橋本博文, 山下雅道「栄養バランスのとれた宇宙食の重要性と貯蔵方法に関する研究」『第26回宇宙利用シンポジウム』2010
- ↑ 石毛直道「食の文化シンポジウム’80 人間・たべもの・文化」『平凡社』1980
- ↑ 江原絢子「食文化の研究方法について(その1)」『日本調理科学会誌』Vol.31 No.2, 2008
- ↑ 立花正一, 中沢孝, 渋川喜和夫「宇宙環境のストレスと宇宙食」『日本食品科学工学会誌』Vol.55 No.12 583-588, 2008
- ↑ リチャード・フォス「空と宇宙の食事の歴史物語」『Rowman & Littlefield Publishers』2015
- ↑ 松本暁子「宇宙食の現状と“宇宙日本食”開発の展望」『日本栄養・食糧学会誌』Vol.57 No.2 583-588, 2004
- ↑ 野口聡一, 大江麻理子「野口さん、宇宙ってどんなにおいですか?」『朝日新聞出版』2012
- ↑ 古川聡, 林公子, 毎日新聞科学環境部「宇宙へ『出張』してきます-古川聡のISS勤務167日」『毎日新聞社』2012
- ↑ 宇宙航空研究開発機構「宇宙で食べる」『Humans in Space』https://humans-in-space.jaxa.jp/life/food-in-space/ (参照2022-06-29)
- ↑ 辻原廉夫「世界地図から食の歴史を読む方法」『河出書房新社』2002
参考文献・参考サイト
- 『NASA公式サイト』https://www.nasa.gov/specials/artemis/ (参照2022-10-20)
- ◯◯◯◯◯(19xx) ◯◯◯◯ ◯◯図書
- ◯◯◯◯◯(1955) ◯◯◯◯ ◯◯書院
- ◯◯◯◯◯ https://www.example.com (◯年◯月◯日 閲覧)