科学と楽しさの関係性に関する研究

提供: JSSD5th2022
2022年10月18日 (火) 01:13時点における孫冉 (トーク | 投稿記録)による版 (背景と目的)
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―福岡市科学館におけるコンテンツを中心に―


孫冉 / 九州大学 統合新領域学府
SUN RAN / Kyushu University 

Keywords: Science Center, Enjoy Science 

Abstract
"Enjoy science" is widely used in the websites and the magazines of science centers in Japan. However, there is no common ground their meanings or their purposes. Therefore, this study aims to find out that how the phrase "Enjoy science" are used by science centers in Japan,especially in fukuoka city science museum, by researching its quarterly magazines.

背景と目的

近年、日本においてサイエンスコミュニケーション(SC)の重要性が認識されるようになってきた。科学館は、SCの一つの拠点として、各地域のニーズに応じ、展示に限らず体験、ワークショップ、その他イベントなどの機能を備え、市民に科学に関する豊富な体験を提供しており、科学技術の「共創」の推進も期待されている。しかし、近年、科学館は、資金不足と展示物の老朽化、更に来館者の減少という課題にも直面している。科学館は、いかに来館者を増やすか、さらに来館者を満足させ、繰り返して来てもらえるかを模索している。そのなかで、各科学館の公式サイトでは、「楽しさ」「楽しめる」「楽しむ」「楽しい」のような言葉が頻繁に使われている。 そこで、本研究は、各科学館とそのコンテンツの調査に基づき、福岡市科学館の位置づけを把握した上で、福岡市科学館を事例として「科学の楽しさ」とは何かを考察することを目的とする。福岡市科学館が、来館者に対し、どのように「科学の楽しさ」を感じさせようとしているのか、すなわち、いかに「科学に関するコンテンツに対する来館者の満足」を実現しようとしているのかを、館が発行する季刊誌から読み解くこととする。

研究の方法

  • ①文献調査から、SCと科学館の定義、機能、発祥と発展を明らかにし、それらの関係性を明らかにする。
  • ②科学館と楽しさの関係を明らかにし、科学における「楽しさ」の要素および特徴を抽出する。
  • ③福岡市科学館を事例としてケーススタディを行う。福岡市科学館の位置付けと特色を把握した上で、12冊の季刊誌を対象とし、展示コンテンツをデータベース化する。
  • ④②で抽出された「楽しさ」の要素を基に、「A探求:好奇心を満足できそう」「B理解:知識を得られそう」「C知的創造性:創意工夫のない思考様式を避けられそう」「D熟達:達成や改善に関するやりがいのある基準をクリアできそう」「E課題創造性:芸術的表現や創造性を含むような活動を携わられそう」「Fどっちでも当てはまらない」という六つの視点を踏まえながら、「Ⅰ操作体験型:来館者が自分で操作することが中心となるもの」「Ⅱ体験型:体を使いながら,体験するもの」「Ⅲ動作陳列型:動く展示品を見ることが中心となるもの」「Ⅳ映像型:映像を見ることが中心となるもの」「Ⅴ静止陳列型:静止した展示品を見るだけのもの」「Ⅵグラフィックス型:説明図や文章が中心のもの」「Ⅶステージイベント型ステージイベント型:館側のスタッフや講演者は、来館者に向け実験やスピーチを行うもの」という七つのコンテンツの種類で、データベース化されたコンテンツとそのコンテクストを分析する。
  • ⑤分析された結果を基に、「科学の楽しさ」とは何か、更に、「科学の楽しさ」を実現するために、館側はそのコンテンツと季刊誌のコンテクストがどのように創り上げているのかを究明する。科学館のコンテンツに対し、方針及びガイドラインを提示する。

結果

  • 日本科学館の全体像と福岡市科学館の位置づけ

福岡市科学館の位置づけとして、コンテンツの新しさ、面積の利用率、来館者人数が上位5位に入り、多くの科学館と比べると、来館者にとって魅力がある科学館である。

  • データベースが分析された結果

「楽しさ」に関する要素について 全体の150個の項目から、まず、「AB」は56個を占めている。また、「ABC」は36個、「ABCDE」は18個、「AB」を含める項目はおよそ125個だ。「探求」「理解」を同時に来館者に体験させたいコンテンツは一番多く、更に、「探求」「理解」を基礎として、コンテンツにほかの要素に入れる傾向がある。順位頻度として、「知的創造性」は一位、「知的創造性」「熟達」「課題創造性」は2位となる。

コンテンツの種類について 前3位として、「操作体験型」は39個あり、「グラフィックス型」は32個あり、「体験型」は30個あるため、季刊誌の全体から見ると、「操作体験型」と「体験型」のコンテンツを主に紹介し、「グラフィックス型」で知識を伝えている。そして、少ない順として、「静止陳列型」は6個、「動作陳列型」は8個ある。「陳列型」のコンテンツは、科学館に中で数は少なく、更に来館者にアピールとして紹介されていない傾向がある。

「楽しさ」とコンテンツの関係について 「ABCDEⅠ」が一番多く見られ、「ABⅣ」と「ABⅥ」は第2位と第3位となる。既存の装置を操作させ、また材料を提供し、ものづくりを体験させることから、「楽しさ」を感じさせたい傾向がある。更に、季刊誌という形式に制限され、「グラフィヅクス型」でコンテンツや知識、また「映像型」の内容を紹介する傾向が見られる。

結論と考察

 「科学の楽しさ」を実現するために、季刊誌は来館者にグラフィックスで知識と情報を提供する媒体という役割を果たしている。その中で、基本的に、ほぼすべてのコンテンツは、「探求」「理解」で「科学の楽しさ」を伝えようとする。また、「操作体験型」のコンテンツで、「探求」「理解」を踏まえながら、「知的創造性」「熟達」「課題創造性」を来館者に体感させる傾向が見られる。このようなコンテンツは、すべての要素が含まれ、全体の20パーセントを占めているため、館側にとって、一番力を入れ、来館者に印象と影響を与えたいコンテンツと推測する。

今後の予定

 これからは、以上の結論を踏まえ、各コンテンツのテーマをデータベースに入れ、更にテーマと「楽しさ」との関係性を検討したい。更に、科学館の位置づけの結果により、上位と下位の科学館を各一つ選ぶ。その二つの科学館の公式サイトにより、そのコンテンツを抽出し、比較研究として、結論を検討したうえで、コンテンツにおける「楽しさ」に対し、方針を提示する。

参考文献・参考サイト

  • 矢嶋 昌英,浅川 康吉(2011)地域在住高齢者における「楽しさ」の因子構造について,理学療法科学 26 (1), 95-99
  • 白鳥信義,人見久城(1992)科学館における展示物の形態と来館者の停留時間について,日本科学教育学会年会論文集16(0),267-268
  • 福岡市科学館(2018)『福岡市科学館 年報 (平成29 年度版)』
  • 5階フロア https://www.fukuokacity-kagakukan.jp/floorguide/5f.html(2022年10月05日 閲覧)