水道水の飲用に関するデザイン研究

提供: JSSD5th2023
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古川博之 / 九州大学 芸術工学府 芸術工学専攻 ストラテジックデザインコース
Hiroyuki Furukawa / Kyushu University


Keywords: Social Design, Water, Water Purifier


Abstract
To enable users to choose what they drink consciously, this study aims to extract requirements for drinking tap water from the point of view of user values, by surveying and comparing the current choice of drinking water like tap water and bottled water, and user values about it. In order to discuss the way of drinking tap water, literature review on the issues of drinking tap water, survey of precedent cases of drinking use of tap water in outside, and a questionnaire survey on users' choice of drinking water were conducted.



背景

 現代の生活において、飲料水としてミネラルウォーターが定着している。一方で、日本は水道水の水準が世界的に見ても非常に高いにもかかわらず、ユーザーはカルキ臭や健康面での不安などにより、水道水の飲用利用に慎重になっているのが現状である。水道水やペットボトル水などの選択肢がある中で、どのような水が飲用に適しているか、飲料水をデザインの観点から考察する。

目的

 本研究では、ソーシャルデザインの視点から、飲料水における水道水やペットボトル水などの利用方法の選択について、その現状とユーザーの価値観を調査し課題を抽出する。課題をもとにユーザー価値の視点から水道水の飲用利用に必要な要件を抽出することを目的とする。

研究方法

 まず水道水利用の課題について文献調査を行い、水道水の利用における課題を整理する。整理された課題から指標を抽出し、フィールド調査としてアンケート調査を行う。アンケート調査では、飲料水を選択する際にユーザーが考慮する課題を調査する。その後、ユーザー価値の視点から水道水の飲用利用に必要な要件を導出する。

文献調査

既往研究調査

 金山らの飲料としての水の選好に関する先行研究[1]など、飲料水に関する様々な課題の調査から、ユーザー目線から見た飲料水の選択に関わる要素として、「味」「ニオイ」「栄養素」「温度」「持ち運び」「アクセス」「値段」「手軽さ」「成分の安全性」「経路」「地域」「環境」の12要素が抽出された。一方で、ペットボトルの使用量やCO₂の削減といった環境問題やインフラ的側面、水源の環境や地産地消、防災などといった社会的な課題も存在した。

先行事例調査

 外出時や公共空間での水道水の飲用利用事例を抽出し、7カテゴリーの19製品に分類した。そして、安河内らの感性の3つの条件(「安全からくる安心」「適応性・利便性」「心地・感動」)[2]を元に評価し、外出時の水道水の飲用利用において重要となる指標を以下の通りに抽出した。

①安全からくる安心
・情報の信ぴょう性
・安全性
・ろ過能力
・保管能力
・メンテナンス(適応性・利便性にも当てはまる)

②適応性・利便性
・コスト
・所要時間
・情報の量
・情報収集のしやすさ
・持ち運び
・操作の手軽さ
・水源の柔軟性
・容量の多様さ
・水の選択肢(心地・感動にも当てはまる)
・水温への対応(心地・感動にも当てはまる)

③心地・感動
・美味しさ
・デザイン性
・SDGs
・地産地消

 そして、これらを元にペットボトル水と各プロダクト・サービスについての比較考察を行った(表1)。


フィールド調査

アンケート調査

<概要>
 飲料水を選択する際にユーザーが考慮する課題を調査する。
 10~20代の未婚で一人暮らしの人を対象に、在宅/外出時にそれぞれペットボトル水と水道水のどちらを選択するか、またその際の選択理由や敬遠理由をGoogleフォームで調査を行った。

<結果>
 25名の回答を得た。飲料水の選択に際し以下の項目が整理された。

  • 自宅か外出先かで飲料水の選択は異なる(自宅は水道水、外出時はペットボトル水)。
  • 在宅/外出時の飲料水の選択理由・敬遠理由において主に「味」「経路や成分の安全性」「値段」「手軽さ」の割合が高かった。よってユーザーは飲料水の選択に際し「味」「経路や成分の安全性」「値段」「手軽さ」の4つを基本の指標としている。
  • 外出時はこれらの指標に加えて「持ち運びのしやすさ」も加わる。

インタビュー調査

 浄水器メーカーである株式会社タカギの原氏に、一般家庭向け以外の公共空間などへ浄水器を提供する取り組みの有無について伺った。その結果、公共空間における給水機の設置事例などはあるものの、現状では浄水器メーカーとしての外出時へのアプローチは少なく、ペットボトルに代替できるものはないことが専門家の一意見として検証できた。

考察

 外出時や公共空間での先行事例より得られた19の指標の内、安心からくる安全の「安全性」、適応性・利便性の「コスト」「操作の手軽さ」、心地・感動の「美味しさ」は、フィールド調査で得られたユーザーの飲料水の選択における基本の指標である「経路や成分の安全性」、「値段」、「手軽さ」、「味」とそれぞれ対応していることが確認できた。また、外出時や公共空間での先行事例より得られた指標の「持ち運び」に関しても、フィールド調査で得られた外出時におけるユーザーの飲料水の選択の指標である「持ち運びのしやすさ」と対応していることが確認できた。よって「安全性」、「コスト」、「操作の手軽さ」、「美味しさ」、「持ち運び」は飲料水の選択において重要な要件であると考えられる。

 また現状の先行事例では5要件の全てを満たすことはできていないことを確認し、外出時の水道水の飲用利用のためにはこの5要件をまず満たすべきであると考えた。

結論

 本研究では、文献調査からユーザーの飲料水の選択に関わる12要素を抽出し、アンケート調査から「経路や成分の安全性」、「値段」、「手軽さ」、「味」、「持ち運びのしやすさ」を抽出した。また先行事例調査では、外出時・公共空間における水道水の飲用利用の先行事例である7カテゴリーの19製品を感性の3条件で評価し、外出時の水道水の飲用利用において重要な指標として19要素を抽出した。そして2つの指標において一致した「安全性」、「コスト」、「操作の手軽さ」、「美味しさ」、「持ち運び」の5つを外出時の飲料水の選択において重要な要件として導出した。

 また現状の先行事例では5要件の全てを満たすことはできていないことを確認し、外出時の水道水の飲用利用のためにはこの5要件をまず満たすべきであると考えられる。

参考文献・参考サイト

  1. 金山翼・藤倉まなみ、飲料としての水の選好の現状と要因―桜美林大学生対象調査―、2018年、https://obirin.repo.nii.ac.jp/record/2007/files/AA12471076_9_31-45.pdf、最終閲覧日:2023年10月11日
  2. 安河内朗、戦略的研究拠点育成 中間評価(再)「ユーザーを基盤とした技術・感性融合機構(九州大学)」、2009年、P.5-6