災害痕跡地図上のマーカーデザインに関する研究

提供: JSSD5th2023
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西口 顕一 / 大分県立芸術文化短期大学
Kenichi Nishiguchi / Oita Prefectural College of Arts and Culture
関口 洋美 / 東海大学
Hiromi Sekiguchi / Tokai University
村田 泰輔 / 奈良文化財研究所
Taisuke Murata/ Nara National Research Institute for Cultural Properties


Keywords: Visual Design,Web Design,Universal design,Accessible Design,Design For All,Inclusive Design,hazard map design


Abstract
We designed marker points to be displayed on a map based on geological excavations (disaster trace map) developed by the Nara National Research Institute for Cultural Properties. In the production process, we tried to improve the identification and visibility of the marker points based on a preliminary study on their legibility. Whether this design development can contribute to geological and disaster prevention research is a subject for further study.


背景と目的

図1.災害痕跡地図における旧マーカーデザイン

 「災害痕跡地図」とは、平成26年度(2014年度)より奈良文化財研究所が開発を進めてきたデータベースに基づく地図である。本データベースは、発掘調査現場で見つかった災害の渡跡などを含め、近代的な観測データが整う以前の地震や火山活動に伴う情報を収集・調査・分析・活用して、災害発生の予測や減災研究への基盤整備を目的に始動したものである。本データベースは、地質研究や防災研究だけでなく、一般市民への情報提供も目指している。  
 本研究における筆者の役割は、「災害疫跡地図の見やすさや使いやすさの調査」の結果を基に、視認性に配慮した新マーカーポイントをデザインすることである。これまでは、WEB 制作会社の感覚と意図によってマーカー(以後「旧マーカー」)の色や形が決められ、地図上に示されてきたが、前述の調査によって災害痕跡におけるマーカーのカラーイメージや視認性に関する課題が浮き彫りとなった。また、マーカー自体が各痕跡をイメージできる造形であることや、縮小した際の識別性にも考慮する必要がある。従って、本研究の目的は災害痕跡地図に示す上で、「見やすさ」「見つけやすさ」に配慮した視認性が高いマーカーをデザインすることである。

研究の方法

図2.災害種別避難誘導標識システムに用いる図記号等
図3.マーカー試作1
図4.マーカー試作2
図5.マーカー試作2のブラッシュアップ

 災害痕跡地図における旧マーカーデザインは、「調査地点(痕跡なし)」「地震」「水害」「火山・噴火」の4種の災害痕跡地点を表現する上で要素の多いイラストレーションで表現されており、災害のイメージが伝わりづらいものとなっている。【図1】  
 新マーカーを制作する上での課題として、①小型化されても災害痕跡の種類が伝わるデザイン、②各災害のイメージに合った配色で区別がつくデザイン、③背景地図に紛れないデザイン、以上の3つを掲げ、それらに配慮して新マーカーの試作を行い、災害痕跡地図に配置し検証を重ねる。その後、視認性に関する再調査を行う。

結果

「①小型化されても災害痕跡の種類が伝わるデザイン」について

〈試作1〉 「災害種別避難誘導標識システムに用いる図記号等」【図2】を参考に、災害をイメージさせる図記号と共通性を持たせることで、一般市民にも馴染みがある造形になることに配慮し制作した。そこで旧マーカーデザインから造形的要素を減らし簡略化したものの、結果として縮小した場合の視認性が改善されたとは言い難く、更なる簡略化の必要性が生じた。【図3】


〈試作2〉 造形においての視認性を高める為、地震においては「揺れ・地割れ」、水害においては「波・氾濫」、火山については「山」、調査地点(痕跡なし)については「平地」とモチーフを絞り、線の違いのみに簡略化することで、縮小時の不明瞭さの軽減を図った。また、災害の種類を線のみで表現するため、造形の干渉を減らすことを目的として円形のアウトラインを採用した。成果として〈試作1〉より白地とラインの関係が明瞭となり、縮小した際の視認性も上がった。【図4】



「②各災害のイメージに合った配色で区別がつくデザイン」について

 各災害痕跡のマーカーにおける色の印象については、事前調査が行われているため、まずはそれらに準じて配色を行い、更に4つの災害マーカーが区別できるように配慮しながら色設定を行なった。  

「③背景地図に紛れないデザイン」について

 現在WEB上で閲覧できる地図及びマーカーの代表的な事例を考察し、視認性と機能性を保持しているマーカー傾向を調査した。その結果、3つの特徴が見受けられた。ひとつは、背景色とマーカーのトーンを変えコントラストを強めることで引き立たせていること。二つ、マーカーから地図にシャドウを落とすことで立体的に見せていること。最後に、マーカーの縁の色を強調することで、背景と区別されている工夫が挙げられる。それらを踏まえ、〈試作2〉のブラッシュアップを行なった。【図5】


 白地にラインを入れていたマーカーについて、白地のままでは同様に白を用いている背景地図に紛れてしまうため、白地部分にも各マーカーの色味を網掛けで入れることにより、マーカーの存在をより強調した。

考察

図6.災害痕跡マップ(熊本事例)_標準地図_色凡例
図7.災害痕跡マップ(熊本事例)_淡色地図_色凡例
図8.災害痕跡重複箇所を含むマーカーの提案

旧マーカーと新マーカーの比較について

 災害痕跡地図4シート(新潟淡色地図/新潟標準地図/熊本淡色地図/熊本標準地図)に4種のマーカーを配置し【図6・7】、「見やすさ」と「みつけやすさ」の観点から再調査を実施した結果、全ての地図において新マーカーの評価は概ね向上した。しかし、調査対象者の年代や、複雑な地形の地図上では評価に差があり、新たな課題も残った。 また、災害痕跡が複数重なる箇所が存在するため、「マーカーが重なっている場合の表示の希望」についても同時に調査したところ、「災害の重なっているパターンによってマーカーを変えてほしい(53.0%)」との意見が最も多かった。これは様々な地形においての共通課題であるため、更にブラッシュアップを進めた。

災害痕跡重複パターンの追加

 結果、災害が重なっている地点に関しては複数の組み合わせが生じ、また表示が小さいため、それぞれの痕跡マーカーが判別しにくくなる可能性が高いことが分かった。よって、重複する災害痕跡地を意味するマーカー(二重丸)を新たに提案した。また、配色としてマンセルの色相の基本5色相「R(赤)・Y(黄)・G(緑)・B(青)・P(紫)」の中から紫を選択した。【図8】

まとめ

 旧マーカーと新マーカーの比較においては、「見やすさ」「みつけやすさ」の観点から改善が見られたが、背景地図の情報量との関係性や災害痕跡重複地点の表示においてのマーカーデザインの調整が必要であり、実際に修正を進めている。 現在、災害痕跡重複地点のマーカーを含めた災害痕跡地図の視認性に関する調査を行なっており、それを踏まえて来年度公開へ向けた最終的なデザイン調整を行う予定である。地質研究や防災研究に加え、一般市民における防災対策に役立つツールとなることを期待したい。




参考文献・参考サイト

  • 関口 洋美, 村田 泰輔(2020)「災害痕跡地図上のマーカーに関する調査」
  • 一般社団法人日本標識工業会「防災標識ガイドブック」内閣府防災情報 https://www.bousai.go.jp/kyoiku/zukigo/pdf/symbol_02.pdf (2023年10月12日 閲覧)