DIY需要の促進を目的としたビジネスモデルの構築

提供: JSSD5th2023
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南崇人 / 九州産業大学 芸術学部 
Takato Minami / Kyusyu Sangyo University 
青木幹太 / 九州産業大学 芸術学部 
Kanta Aoki / Kyusyu Sangyo University 

Keywords: DIY, Service Design 


Abstract
Due to the impact of the coronavirus pandemic, the need for "lifestyle-oriented" products has expanded, and demand for DIY products is increasing. However, the working environment and lack of know-how for DIY consumers are issues, and we clarified the current situation and issues through collecting related information and conducting interviews.The purpose of this research is to connect DIY consumers with organizations and human resources specializing in processing and assembly, and to build a business model that will solve problems and promote the expansion of DIY demand.



研究の背景と目的

 コロナ特需を追い風にDIY 需要が拡大している。ホームセンター業界ではDIY用品の売り上げが2020年に大幅に増加している。21年からは減少に転じたものの、高水準を維持しており、DIY需要が定着したことが窺える。DIYを始めた人を対象に行った調査 1)によると、約6割の人が生活に「快適さ」や「充実感」を求めて始めたと回答している。同調査の大変だったことの回答として、「ノウハウ不足」や「場所・道具が足りない」「力仕事に自信がなく、完璧に仕上がらない」などがあった。

 本研究では木質材料を中心とした DIY需要者(以下、需要者)と、 その加工や組立などを専門とする組織や人を繋ぐことで、DIY需要の拡大を促すビジネスモデルの構築を目的としている。

研究方法

 消費行動の変化やDIY市場の現状について、インターネットや関連書籍などから、関連情報の収集とインタビュー調査を行った。

(1).関連情報の収集


 コロナ禍を経て変化した消費行動や、DIY市場の動向に関する情報を、インターネットや専門書籍等より収集した。


(2).インタビュー調査

 2023年4月から7月までの期間、需要者1名と木工職人(以下、職人)2名を対象に、双方が置かれている現状や抱えている課題について、インタビュー調査を行った。

研究結果

関連情報の収集結果

(1).消費行動


 「日本の消費者はどう変わったか:生活者1万人アンケートではわかる最新の消費動向」2) によれば、消費者全般の行動について以下のことが指摘されている。

  • ①コロナ禍を経て、テレワークを実施する企業が増加し、生活を優先する流れが加速した。
  • ②余剰時間が増えたことで、自身の能力や生活を充実させる為に時間を使う傾向が見られた。
  • ③インターネットの利用時間の増加が見られた。

  • ④LINEやTwitterなどのコミュニケーションツールや、ネットショッピング(ネットスーパーを除く)などを利用する人の増加傾向が見られた。

 以上のように消費行動はインターネットを活用し、商品やサービスの情報収集を行うことで、「購入するもの」を取捨選択する傾向が指摘されている。特にコロナ禍以降の景気の先行きの不透明感や、余剰時間の増加により、その傾向が強まったとされている。積極的にお金を使いたい項目では、食品に次いで家電や家具・インテリアが増加し、商品を選ぶ基準も「安さ」より「ライフスタイルに合うか」が重視されている。

(2).DIY市場

 DIY市場は「ライフスタイル重視」の傾向によって、関心が高まっていると言われている。需要者を対象にした調査ではDIYを始めた理由として、「好みのものを作りたい」や「工作好きで始めた」といった回答が約6割を占め、一方でDIYをしない理由では、「ノウハウ・技術力不足」や「面倒に感じる」という回答が約7割であった。始めてみて大変だったことの回答では、「仕上がりの精度不足」や「機材・作業環境が整っていない」などが挙げられ、株式会社ウーマンスタイルが行った「DIYに関するアンケート」3)でも同様の傾向が見られた。

インタビュー調査結果

図-1.インタビュー調査結果

 需要者と職人へのインタビュー調査結果は、図 -1の通りである。このデータを「DIYを取り巻く環境要因」と、「DIYに内包する技術要因」に分けて整理した。

(1)DIY需要者

 インタビューした需要者は、自身の家の広さや雰囲気に合った物 を作る目的でDIYに取り組んでいた。


●環境要因

  • ホームセンターの材料では満足できない。
  • 自宅に作業空間がない。
  • 自宅に道具や機材がない為、加工精度が充分ではない。

●技術要因

  • 3面図では立体をイメージ出来ない為、立体図で構想している。
  • ノウハウ不足は関連書籍を活用したり、経験者に意見を求めている。
  • 木材の特性や、家具の構造に関する知識を得たい。

 インタビューした需要者は、近隣の工房でDIY作業をしているが、 工房が閉店すると作業空間がなくなるといった不安を感じていた。

(2)木工職人


●環境要因

  • 職人と需要者が接する機会が少ない。
  • 需要者側が希望する価格と、職人が提示する見積もり金額に乖離があり、契約に至らないことがある。

●技術要因

  • 職人が自社のホームページを上手に活用できていない。
  • 需要者の殆どが3面図で立体をイメージできない為、職人は立体図やスケッチを用いて説明している。
  • 需要者との打ち合わせツールとして、LINEやメール等を使用している。
・職人が需要者に LINE・メールで説明をする場合、文章と立体図を送信するが、文章での説明だけでは需要者の理解度に不安がある。

 職人が独自に開発したDIYキット(以下、キット)を、需要者に推奨することで、業務の効率化を図っているケースがあった。職人が開催しているDIY教室では、キットの利用率が約60%~70%であり、キットを使用することで見積もりや、図面を作成する工程を省き、職人と需要者の双方で見通しを持ちやすいというメリットがある。
DIY教室の需要者の割合は、団塊の世代や小学生を家族に持つ男性が大半で、経済的に余裕のない若年層の利用は少ない。またDIYを志向する需要者は、金額を気にしない傾向があった。

考察

 コロナ禍以降、「ライフスタイル重視」や「購入するものを取捨選択する」傾向があり、その要因として余剰時間の増加や景気の先行きの不透明感が指摘されている。この流れは、働き方改革が注目されていることや、コロナ禍の影響等による景気の低迷などから、今後も継続すると考えられる。

 
DIY未経験者に限らず、需要者でも「ノウハウ・技術力不足」がハードルとなっている。DIYを「好みのものを作りたい」といった動機から始めた場合、それぞれの製作物は形状に違いがあり、それに応じた加工が求められるが、インターネットや書籍の情報だけでは、対応が難しい。一般的な住宅では、機材や道具を保管する場所に加えて、作業空間を確保することが出来ないなど、製作物の精度不足の原因となっている。

 インタビューを行った需要者は自宅周辺に木工工房があり、木工経験者からノウハウを得ることや、工房を使って作業を行うことが可能であった。こうした木工経験者との繋がりや、作業をできる空間が、DIYに有効であることが分かった。しかしながら、全国各地に充分な作業空間が存在しているとは言えない。1)

 今回インタビューを行った職人は、自社サイトを充分に活用できていないことから、需要者との接点が持てずにいると思われる。要因として自社サイトの更新が滞っていることから、需要者が依頼する前に不安を覚えたり、同業種のサイトが乱立していることも、需要者が職人を探しにくい原因となっている。需要者が3面図では立体を想像できないことから、職人は立体図やスケッチで説明するが、LINEやメールではイメージの共有が、充分にできないようである。職人と知識の差のある需要者では、専門用語や図面等による伝達は、 難易度が高いと思われる。対策として、画面共有が可能で、リアルタイムで打ち合わせが可能なzoomやGoogle Meetなどのツールの使用が有効と考えられる。

 以上のことから、需要者の抱える現状や問題、その原因について考察を行ったが、現状の問題の解決策としては、需要者を木工経験者やDIY作業ができる場所と繋ぐことが、ノウハウの伝達や加工・組立作業に有効であると考えられ、DIY 需要の拡大を促進させるビジネスモデルには、この様な繋がりをもたらす仕組みの整備が求められる。

今後の方針

 
本研究ではDIY需要者と知識を有する人材とを繋ぐビジネスモデルの構築を目的とし、DIY市場や消費行動の変化に加え、需要者と職人に対して調査を行ってきた。今後は結果を踏まえて具体的なビジネスモデルを構築し、有効性を検証する実験を予定している。

参考文献・参考サイト