「ガスコンロ操作部におけるピクトグラムと文字表記のわかりやすさに関する研究」の版間の差分

提供: JSSD5th2023
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==今後の展望==
 
==今後の展望==
 現在のグラフィック案は制作途中である。現行のデザインでは操作部のグラフィックに直接影が落ち、視認性が低下する問題があるが、提案するデザインでは改善するのか実証するために実際の環境下での照度計を用いたコントラストを確認する必要がある。文字表記、ピクトグラム表記だけでなく、レイアウトも包括的に検討し、ボタンの凹凸によるわかりやすさの確認、音声データの制作、色の再検討を行い、グラフィックの提案を進めていく予定である。
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 現在のグラフィック案は制作途中である。現行のデザインでは操作部のグラフィックに直接影が落ち、視認性が低下する問題があるが、提案するデザインでは改善されているのか実証するために実際の環境下での照度計を用いたコントラストを確認する必要がある。文字表記、ピクトグラム表記だけでなく、レイアウトも包括的に検討し、ボタンの凹凸によるわかりやすさの確認、音声データの制作、色の再検討を行い、グラフィックの提案を進めていく予定である。
  
  

2023年10月13日 (金) 19:06時点における版

- 主に弱視を有する人を対象にグラフィックに着目して -



松原芽生 / 九州大学大学院 芸術工学府
Mei Matsubara / Graduate school of Design, Kyushu University
工藤真生 / 九州大学大学院芸術工学研究院
Mao Kudo / Faculty of Design, Kyushu University
山田勇雄 / リンナイ株式会社開発デザイン本部
Isao Yamada / Development and Design Division, Rinnai Corporation
伊原久裕 / 九州大学大学院芸術工学研究院
Hisayasu Ihara / Faculty of Design, Kyushu University


Keywords: Graphic Design, Low vision, pictogram 


Abstract
The gas stove control section has become more complex in terms of graphics. In addition, the "visibility" of low vision is not properly understood, and there is room for improvement in graphic design focusing on the comprehension of letters and pictograms. We surveyed people without and with low vision using the gas stove. Then, we examined how to present information in an easy-to-understand manner by graphic design.


背景と目的

 ガスコンロ操作部は、技術の推進による多機能化、それに伴う情報提示方法としてピクトグラムと文字の混合表記などが見られ、複雑なグラフィック表現が問題となっている。我が国においては、2007年に超高齢化社会に突入し、加齢に伴う顕著な失病の総称として「弱視」が挙げられる。日本には推定164万人の視覚障害者が存在し、その内145万人程度が弱視を有している[1]。しかし、弱視の多種多様な見え方及び困難さに対応したガスコンロ操作部のデザインに例を見ない。そのため、文字やピクトグラムなどのガスコンロ操作部を構成するグラフィックの理解度に着目し、改善する余地があると考える。
 以上より本研究では弱視を有する人の特性、多様で複雑な「見え」を明らかにし、その上でガスコンロ操作部のグラフィックにおけるわかりやすい情報の提示方法を検討することを目的とした。


研究の方法

図1. 本研究の調査対象のガスコンロ
表1. 調査参加者について
図2. グラフィック検証のイメージ図

 本研究では(Ⅰ)ピクトグラムと文字の表記における理解度を測る行動調査、(Ⅱ)調査参加者の障害特性やガスコンロの使用感想、要望についての聞き取り調査を行なった。対象のガスコンロはA社のBガスコンロ (図1)である。

参加者:弱視を有さない者20名(F=13, M=7)、弱視を有する者30名(F=17, M=13)の合計50名である。内訳は表1の通りである。
調査方法:調査の流れは以下の通りである。
(Ⅰ)ピクトグラムと文字の表記における理解度を測る行動調査
文字表記、またはピクトグラム表記のガスコンロ操作部を用いて、弱視を有さない者と有する者を対象に、10項目の調理行動を行い、各行動に対する秒数を計測した(図2)。
(Ⅱ)調査参加者への聞き取り調査
調査開始前に調査参加者の障害特性について聞き取りを行い、調理行動の中での気になる点を記録し、調査休憩時間と調査終了後に使用感想や要望について聞き取りを行なった。
解析方法:
(Ⅰ)-1. 文字表記とピクトグラム表記間における調理行動にかかった時間に対するt検定
調理行動にかかった時間について、文字表記とピクトグラム表記の間でt検定を行い、有意な差があるかどうか調べた。
(Ⅰ)-2. 弱視の有無における調理行動にかかった時間に対するt検定
弱視を有さない調査参加者と弱視を有する調査参加者の間の弱視の有無による理解度の違いを測るための群間比較を行なった。
(Ⅱ)聞き取り調査に対するアフターコーディング
調査後に得られたガスコンロに関する使用感想や要望についてアフターコーディングを行い、回答した調査参加者の障害特性と紐づけて分析した。





結果

表2. 弱視を有する調査参加者の障害特性について
図3. カンガルーポケット

(Ⅰ)ピクトグラムと文字の表記における理解度を測る行動調査で見られた有意差
文字表記とピクトグラム表記の場合で調理行動にかかった時間についてt検定を行なった結果、ガスコンロ操作部に関する項目で弱視を有さない調査参加者においては3箇所、弱視を有する調査参加者においては1箇所に有意差が見られた。弱視の有無における群間比較ではガスコンロ操作部に関する項目で、文字表記では14箇所、ピクトグラム表記では12箇所に有意差が見られたがサンプル数に1.5倍以上の差があるため解析が難しく、文字、ピクトグラムいずれかの表記に関わらず、弱視者には使いにくいという結果になった。
(Ⅱ)調査参加者への聞き取り調査で得られた障害特性とコンロの表記に関する要望
聞き取り調査から得られた弱視を有する調査参加者の障害特性を表2に掲載する。グラフィックに関する要望では、文字のサイズが小さい、ガスコンロの操作部パネルが収納されているカンガルーポケット(図3)内の情報が多い、黒地に白文字にしてほしいなどの回答が得られた(表3, 4)。以上の聞き取り調査からの要望と調査参加者の障害特性を参照し、様々な「見え」に対応するガスコンロ操作部のデザイン提案を行う(図4)。視野が狭い、ピントが合わない、レースカーテンを通したような見え方に対応するため、グラフィックに関して操作部の情報を簡潔にし、文字や線を大きく、太くした。点火/消火ボタンの影と重なる部分は情報を載せないようにし(図5)、現行のグラフィックと異なる黒地に白色でボタンを表記した案も制作した。操作部を簡潔にするにあたり、詳細な操作は音声が指示することを想定している。また、グラフィックに使用するピクトグラムの提案も行う。大きさは13×13(mm)とし、標準案内用図記号の最小寸法の8(mm)角より大きくし[6]、視認性を確保した。現行のピクトグラムは線で描かれていたが、シルエットを表す面で構成した。面で構成することにより、ボタン全体に対するピクトグラムが占める塗りの割合が増し、視野が狭い、ピントが合わないなどの視覚的な障害特性を持つ人の視認性、識別性が高められると考える。ボタン全体に対するピクトグラムが占める塗りの割合は、Photoshopにて全体と塗りの部分のピクセル数を割り出し、割合を算出した(図6)。









今後の展望

 現在のグラフィック案は制作途中である。現行のデザインでは操作部のグラフィックに直接影が落ち、視認性が低下する問題があるが、提案するデザインでは改善されているのか実証するために実際の環境下での照度計を用いたコントラストを確認する必要がある。文字表記、ピクトグラム表記だけでなく、レイアウトも包括的に検討し、ボタンの凹凸によるわかりやすさの確認、音声データの制作、色の再検討を行い、グラフィックの提案を進めていく予定である。



参考文献・参考サイト

  • [1]日本眼科医会『日本における視覚障害の社会的コスト』https://www.gankaikai.or.jp/info/kenkyu/2006-2008kenkyu.pdf, p. 1. (参照2023-10-10)
  • [2]社会福祉法人日本視覚障害者団体連合『読み書きが困難な弱視者の支援の在り方に関する調査研究事業ー報告書ー』http://nichimou.org/wp-content/uploads/2017/03/yomikaki.pdf, pp. 2-3. (参照2023-09-30)
  • [3]国土交通省『旅客施設における弱視者等に配慮した施設・設備に関する調査検討報告書2 弱視者の特性と現状』https://www.mlit.go.jp/barrierfree/public-transport-bf/research/low_vision/chapter2.pdf, pp.1-14. (参照2023-10-10)
  • [4]徳川直人(2016), 色覚差別と語りづらさの社会学, 生活書院, pp. 62-70.
  • [5]Ellen, L. & Andrea, L. (2018), The Senses: Design Beyond Vision, PRINCETON ARCHITECTURAL PRESS, pp. 188-200.
  • [6]交通エコロジー・モビリティ財団, https://www.ecomo.or.jp/barrierfree/pictogram/data/zukigo_naiyo.pdf, p. 2. (参照 2023-9-30)
  • [7]小林聖•濱田隆麻郎•藤澤正一郎•三谷誠二•吉田敏昭•末円統•北川博巳•柳原崇男(2009), 弱視者の色覚特性に関する研究, pp. 1-2.
  • [8]Martin, K., Michael, G. & Michael, K. (2007), The World of Signs, avedition GmbH, pp. 77-83.
  • [9]井上賢治•間瀬樹省•桑波田謙(2011), ロービジョン者に配慮したクリニックのサイン計画一ユニバーサルデザインの考え方一, pp. 5-13.
  • [10] 渡邉正人•佐島毅•柿澤敏文(2009), 視標のコントラストが視力に及ぼす効果一弱視シミュレーション下における見え方の特性の視点から一, pp. 88-90.
  • [11]舟川政美(2000), 色コントラストと可読性に関する実験研究, pp. 804-807.