鉄道車両における外観グラフィックが与える印象の研究

提供: JSSD5th2023
2023年10月6日 (金) 09:09時点における川崎大雅 (トーク | 投稿記録)による版
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注)

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川崎大雅 / 九州大学 芸術工学府芸術工学専攻ストラテジックデザインコース ← 氏名 / 所属(筆頭者)
Kawasaki Taiga / Kyushu University ← 氏名 / 所属 の英語表記(筆頭者)
迫坪知広 / 九州大学大学院芸術工学研究院 ← 氏名 / 所属(共同研究者)
Sakotsubo Tomohiro / Kyushu University ← 氏名 / 所属 の英語表記(共同研究者)

Keywords: Industrial Design ← キーワード(斜体)


Abstract
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背景

私は、ホームに来る列車を見るとわくわくする。また博多駅などでは国内外からの観光客が鉄道車両の先頭部分に行って記念写真を撮る光景を目にすることができる。このような体験や事例から、鉄道車両のエクステリアデザインには、心を揺さぶる要素があると考えている。

鉄道車両外装デザインとは

鉄道車両外装デザインは、「案内サイン」「車両特性の表現」「営業運転地域の表現(地域性)」「事業者ブランド」「時代性の反映」といった視点からデザインに取り組みながら、鉄道車両の利用を促す人々に好まれるデザインがなされている。 多くの場合、最終的なデザインは、デザイナーの感性に委ねられており、デザイン視点を理解したからといって、人々に好まれるデザインが誰でもできるという状況にはない。

心を揺さぶる要素とは

駅ホーム上では、鉄道の先頭車両を見たり、一緒に写真を撮る観光客や親子連れをみることがある。 そして、多くの場合、好奇心に満ちた生き生きとした表情を見て取れる。 そこには、「旅の記念(記録)」以上の、或る「感動」が人々の中にあると考えることができる。 鉄道車両外装デザインのどのような要素が、或る「感動」をあたえているのかを分析した研究は少ない。

目的

本研究では、鉄道車両外装デザイン要素が、人々に「感動」をあたえているという前提に立ち、どのような要素が、どのような「感動」を与えているのかを明らかにすることを目的とする。


研究の観点

図1.◯◯◯◯

エモーショナルデザインについて

本研究では、ドナルド・A・ノーマン(認知心理学者)が提唱した、「日常生活の製品において、役立つこと、使いやすいこと以外に、人が情動を感じることが重要である」という考えに基づき、エモーショナルデザインの観点から研究を進める。

感性工学について

本研究では、エモーショナルデザインを「感性工学」の手法で研究する。 感性工学とは、「人が製品やサービスに接したときの感情を数値化して的確に把握し、魅力的な設計を行うための学問および手法のこと。」 既存の車両をサンプルとして感性評価を行うことで、鉄道デザインに対する評価構造を科学的に解き、潜在的な要素を明らかにする。




予備調査1

JR九州の鉄道車両を対象に

感性評価を行うための「評価ワード」を抽出することを目的に、JR九州の鉄道車両をサンプルとし、ヒアリング調査を実施した。 ここでは、鉄道車両デザインの全般(造形、グラフィック等)を対象に調査した。 約100組もの評価ワードが集まった。 鉄道車両外装デザイン要素は、多種多様なため、研究対象の絞り込みが必要であると判断した。

研究対象

本研究の対象は鉄道車両の外観デザインのうち、グラフィック要素を対象とした。 本研究におけるグラフィック要素とは、塗装や灯具(ライト)、前面のガラスで表現できる色や形、質感、シルエット(車両そのものの形状以外の要素)を指すものとする。 また、鉄道車両のうち通勤型の車両を対象とする。造形の要素が少なく、形状が直方体に近いため、グラフィック部分に着目した調査がしやすいと考えたためである。 

予備調査2

国内の最新型の通勤型鉄道車両を対象に

地域性やデザイナーの違いなどによるデザインの偏りを減らすため、日本国内のJR6社と大手民鉄16社の最新型の通勤型車両を選定した。 ※大手民鉄とは、国土交通省の資料「鉄軌道事業者一覧」に記載されている鉄道事業者。 ※最新型の通勤型車両の情報は、各社のHPでニュースリリースされている最も新しいものを参照。(2023年10月5日時点)

調査1:感性評価に必要な評価ワードの抽出

方法

感性評価に必要な評価ワードの抽出を行うため、ラダリング手法を使い評価ワードとなるイメージワードと直表現ワードを収集した。 被験者は、22-24歳の大学生5名とした。 22種類のサンプル車両のカードから5種類ずつ好きなサンプル・好きでないサンプルを選んでもらいその理由を掘り下げていくという手法をとった。

結果

ラダリングで集められた評価ワード(約300個)を共同研究者2名で近似の評価ワードを集約・分類し、直表現ワード(認知部位)を12アイテム、イメージワードを19組を選定した。

調査2:感性評価(SD法を用いたアンケート)

本研究で明らかにする、「人々に『感動』をあたえている鉄道車両外装デザインの要素」における「感動」とは、個々人の経験に左右されるものである。年齢を重ねるにつれて、涙もろくなるのはその代表的な事例である。他方、小さな子供が鉄道を見た際に喜ぶ様をみると、限られた経験でも、「感動」を与えられることを否定できない。 つまり、鉄道の利用経験の有無により、「感動」する鉄道車両外装デザインの要素が異なることが考えられる。

回答者属性

上記のことから、本調査では、第一に鉄道を利用できる環境と考えられる、鉄道利用率が全国平均より高い8都府県の20代の男女に被験者を限定し 、第二に鉄道利用の有無で分けて調査結果を分析できるよう、鉄道利用頻度で事前に1000人に対しスクリーニング調査を行った。 同時に、グラフィック要素において、色情報は大きな意味があると考え、色覚異常のある人も被験者から除外した。 スクリーニング調査の回答者のうち、鉄道利用頻度が「週4-5日以上利用する」「全く利用しない」と回答した者各50人に対し感性評価を行った。 なお、一定の属性の回答者を広く収集するためインターネット調査サービス「Freeasy」を利用した。

調査票の設計

回答負担の軽減の為サンプル車両を調査1より厳選して調査を行った。 先述のラダリングにおいて「好ましい・好ましくない」として選ばれた回数が多かった上位の8車両を何らかのエモーショナルな要素を含んでいる可能性が高いと考えサンプルとして選定した。 選定した8車両に対し、それぞれの車両に関する経験に関して6段階、19組のイメージワードに対するグラフィックデザインの印象の評価に関して7段階(SD法)の評価の回答を得た。

Excelを使ったデータ分析

回答結果を集計し、各イメージワードの評価値の平均値を集計し鉄道利用の経験の属性を分けてSDプロフィールを作成した。 SDプロフィールによると、鉄道を利用している人は、ほぼ全ての印象に関して強く評価していたことが分かった。 このことは、普段鉄道を利用している人は、車両の実物のイメージを想像しやすいからではないかということが予想された。 また鉄道の利用の有無を問わず特定の強い印象を与える車両サンプルがあることから、該当のサンプル車両はかなり影響度の高いグラフィック要素を持っていることが示唆された。 続いて、全体の傾向を分析するため各イメージワードの評価の平均値に対して主成分分析を行った。 主成分分析において、主成分得点の散布図を作成し、評価ワードの配置関係から各軸に名称を付けた。さらに、同じ主成分の軸で8つの車両サンプルがどの位置に該当するかの散布図を作成した。 この結果からは、鉄道をよく利用する人に好まれるグラフィックデザインの特徴は、「少なくともカラフルではない」ということが示唆された。 一方で、鉄道を利用しない人に好まれるグラフィックデザインの特徴は、主成分分析だけではわからないことが分かった。

この後、評価ワードとグラフィックデザインの潜在的な関係性を探るため因子分析を行う予定であったが、イメージワードの組に対して車両サンプル数が足りず、因子分析ができないことが分かり、一時中断した。


実物大のモデルに対する感性評価の準備

鉄道車両は動くものであり比較的大きい研究対象であり、スマートフォンやパソコンの画面上で見る小さな画像の印象と実際の車両を見た時の印象が異なる可能性がある。 本研究は実際の車両を見たときの印象について考察することが望ましいと考えた。 実際の車両を見た場合と近い条件で印象を研究するため、VRヘッドセットを使い被験者に実物大の立体サンプルを評価してもらう形にシフトした。 VRヘッドセットはOculusQuest2を使い、またビュワーとなるアプリを現在Unityで作成している。

VRアプリを用いる利点

実際に実物大の立体モデルを見る場合と同じ状況を手軽に再現できる。 イメージ写真のように平面的ではなく立体的に見ることができ、大型の対象ならではのスケール感を反映できる。 ヘッドセットのトラッキング機能により、アプリ内に作成した環境を歩き回ることができる。 コントローラーを使って歩き回ることもでき、大きな車両の周りを歩き回らずとも車両のグラフィックを確認でき、被験者の身体的負担を減らすことができる。 プログラムを組むことで車両モデルを動かすことができ、動いた場合の印象も含めて評価できる。


VRアプリの作成

一般の人が鉄道車両を見る際の状況の再現

 鉄道は公共交通機関であり一般の利用者がしっかりと車両全体のデザインを確認する状況はそれほど起こらないと考えられる。 そこで、VRアプリ内では一般の人が自然な形で車両全体のデザインを確認できる状況を再現する。  具体的には、直線の複線の線路を挟むような2本のホームがある駅の環境を作成する。さらに、片方のホームに被験者が立ち、被験者の立っているホームとは反対側の線路に車両がゆっくりと走って向かってくるといった状況を再現する。駅は、グレーのコンクリートに点字ブロックがあるホームのみで構成されたシンプルな構造とし、駅周辺の環境は空と地面のみとして車両の評価におけるノイズを削減する。  また車両は、被験者が立っている位置から先頭部分が良く見える位置に走り停車するような動きをプログラムする。カメラの画角は、実際にホーム上で人が立って見る高さとする。

車両のグラフィックの再現

調査1,2でサンプルとした車両を参考にグラフィックデザインのパターンを10種類作成したものを一つの車体のベースモデルに反映させ、異なる色や形状を比較し印象の有無やそのレベルを測定する。 車両のベースモデルは、日本の通勤型車両に多い車体長さ20000mmでドア数が3つ、狭軌の拡幅車体のものを3DCADのrhinocerosで作成した。 先頭形状は断面を切ったものにフィレットを加えたシンプルな形状とした。 グラフィックデザインはベースモデルの側面図や正面図を下敷きにIllustratorで作成し、Unityのデカール機能でベースモデルに投影した。


今後の調査

感性評価の実践

VRアプリを利用し3Dモデルに対しての感性評価を20代の大学生・大学院生30名程度を対象に実践する。 予備調査2で選別した19組のイメージワードに対するグラフィックデザインの印象の評価に関して7段階(SD法)の評価の回答を得る。 また、鉄道利用に関する経験の属性について合わせて調査する。 被験者の負担を最小限にするため、SD法の評価の回答をアプリ内でできるように現在アプリ制作を進めている。

回答結果を集計し、各イメージワードの評価値の平均値を集計しSDプロフィールを作成する。 続いて、各イメージワードの評価の平均値に対して主成分分析を行い、20代の大学生に好まれるグラフィックデザインの特徴を把握する。 また、因子分析を行い評価ワードとグラフィックデザインの潜在的な関係性を探る さらに、数量化理論I類の手法で被験者が具体的に車両のどの部分を見て好みを判断しているのかを分析する。 これらの分析により、潜在的な印象の要素について考察、推定する。

また、予備調査2で実施した平面的なイメージサンプルを使った感性評価と結果を比較し、実際の車両のイメージに近づいたことで評価がどのように変化したかを比較する。


考察結果の検証;意図通りの印象の再現

考察した要素を活用し、調査とは逆に特定の印象をグラフィックデザインとして表現した場合に意図通りの評価が再現できるかを検証する。


脚注


参考文献・参考サイト

  • ◯◯◯◯◯(20XX) ◯◯◯◯ ◯◯学会誌 Vol.◯◯
  • ◯◯◯◯◯(19xx) ◯◯◯◯ ◯◯図書
  • ◯◯◯◯◯(1955) ◯◯◯◯ ◯◯書院