LogoMark.png

AI_vs_God のバックアップソース(No.4)

#author("2023-02-22T15:13:22+09:00;2023-02-10T19:50:22+09:00","default:inoue.ko","inoue.ko")
*AI は神になるのか?
~


はじめに議論の前提を確認します。私は人間という存在を「本能が壊れた生き物」であり、本能に替わるものとして「言語によって構造化された擬似現実([[共同幻想]])」を共有することで、自然界に適応している・・と考えています((本能のタガが外れていることは簡単に説明できます。人間は未来という見えないものを想像し、悲観し、自殺することがあります。他の生物では自殺はあり得ません。))。

神々の物語(フィクション)は、世界各地で同時多発的に進化した言語ととにあるもので、人間が、異なる言語(文化)で分断されている以上、その世界認識の違いや価値観の違いがもたらす揉め事を 0 にすることはできません。

//鯨を食べることが良いか悪いか・・という議論は、環境問題ではなく、単に文化の違いによるものです。文化人類学の登場以前、人間は一歩引いて自らの文化を相対化して見ることが苦手でした。強い集団(マジョリティー)が、弱い集団(マイノリティー)を植民地化する(言葉を奪い、価値観を強制し、奴隷化する)ようなことに対して、マジョリティー側の中から疑義を申し立てる人も少なかったのです。しかし文化人類学、構造主義の思想が広まると同時に、文化には優劣はなく、お互いの文化・価値観を認めるべきである、多様性を維持すべきである・・という発想は一般的なものになりました。

//グローバル化が推進される中で「世界全体で価値観を共有しよう」という言説は、一見問題がないようにも見えますが、個々の集団が異なる言語を使っている以上(異なる文化を持つ以上)、100%の価値観共有は無理な話です。言語というものは壊れた本能に替わって擬似的に世界を認識するためのフィルターのようなもので、世界をどう切り分けるかは恣意的なものです。正確な翻訳というのは、はじめからできない運命にあって、結果、異なる共同幻想を持つ者同士が 100%わかりあうことはできません(ミクロなレベルでは、家族や友人間でも同じです)。

重要なことは、一つの言語、一つの共同幻想で世界を統一することではなく、異なる言語、異なる共同幻想、異なる価値観の存在を、お互いに認めあうということ。「わかりあえるはずだ」という前提に立つのではなく、「わかりあえない」ことを前提に、言葉を交わしながら共有部分を広げるとともに、お互いの価値観の違いを認め合うしかありません。世界中のみんなが、自らを相対化し、多様性を認めるというメタレベルの思考ができるようになることが、重要であると考えています。
~

***神は人類最初の発明
神々の物語というフィクションをみんなが共有するという__[[「認知革命」>Google:認知革命]]__以後、人類は「神の言葉」によって世界を捉え、物事を判断していました(現代における「科学」は最も信者の多い「宗教」とも言えます)。

神の存在を措定して、神の教えに従って社会を統治することは、法を整備するよりもシンプルかつ効率的。自分たちが神の監視下にあると感じる社会では、人々のモラルは自発的に維持されます。
 悪いことすると罰があたりますよ。天国に行けませんよ。

例えば、身の回りのいたるところに神様がいて(八百万の神)、悪いことをすれば罰があたる・・という感覚を多くの人が共有していることが、日本人のモラルの根底にあるのではないでしょうか((日本人は宗教意識が低いと言われますが、それは世界中に広まった一神教のような宗教観とは異なるという意味で、超越的な存在を意識していない・・ということではありません。日本人の信仰心が非常に原始的なものなのでそのように見えるだけです。その証拠に(神道には)「経典」がない、具体的な「像」が存在しない、神社には本殿が存在しないケースがある(ご神体は山や滝などの自然)、などの特徴があります。つまり日本人の信仰心は、文明以前からの原始的なものなのです。))。

しかし異なる神を崇拝する集団間が対峙した場合、「こちらの神」が「あちらの悪魔」とみなされる場合があります。歴史を見れば明らかなとおり、宗教と戦争とは無関係ではなく、神と悪魔は同時に誕生します((「宗教の対立が戦争の原因である」と言われることがよくありますが、戦争は非常に複雑な社会現象で、宗教だけに原因を求めるのは控えるべきでしょう。日本人の多くは「宗教」という言葉にアレルギーがあるようで、それを怪しいものと感じている方も多いようですが、超越的な存在を措定し、それを信仰することによって集団の秩序を維持するという発想は、人類に共通の普遍的なアイデアと言えます))。
~

***神のようにふるまう AI
現代社会では、サイエンス、テクノロジーという名のグローバルな「原理」が、私たちの思考を洗脳しています。

私たちは、大量のデータ(根拠)にもとづく、収益の最大化や、効率アップを目指して、AI の判断を仰ぐようになっています。

AI の提案にもとづく経営判断、AIの提案にもとづく採用人事、AIの提案にもとづく医療行為、AIの提案にもとづく教育(学習)・・、より具体的には「AIの提案にもとづいて犯罪が起こりそうな場所をパトロールする」などの仕組みが、すでに運用されています。

あらゆる商品の宣伝文句として「AI搭載」がまかりとおる状況は、すでに人類が「自分で考えるよりAIに任せた方がいい」という思考停止状態になっていることを示しています。

例えそれが科学によって裏打ちされたテクノロジーであっても、「それを無条件に信用する」社会は、「宗教」に支えられた社会と同じ問題を孕むことになります。異なる「神」を崇拝する者同志が争うのと同様、異なるシステムに依存する者同士は争うことになります。つまり AI を「神」として無条件に受け入れる社会には、同時に「悪魔」の AI が誕生します((我々の思考は二項対立が基本で、「神 / 悪魔」の概念は「生 / 死」と同様に、同時に生成されます))。

//もしAIが「地球環境の持続可能性を最大化する」課題に取り組んだら、様々な問題の根源に「人類の行い」があることを見出し、「人類を滅亡させよ」という解を得る可能性もあります。

//データの与え方が不適切であれば、AI はとんでもない見当違いの答えを出すことが予想されます。AIは「意味」というものを理解して判断しているのではなく、与えられたデータから統計的な処理を行なっているに過ぎないからです。

居眠りする人間よりも AI 自動運転の方が事故は少ない。AI よりも「ヤバイ人間」の方がよほどタチが悪い・・だから AI を人間のコントロー下には置かず、AI を神として位置付ける方が安全だ・・という議論もありますが、私は「神と悪魔は同時に誕生する」と考えるので、AI の起動・停止だけは、人間のコントロール下に置くべきであるという立場をとります。

AI が自分自身をアップデートしはじめる(シンギュラリティーの一種)前に、AI が暴走する前に、生じうる様々な問題を想像して、それに備える必要があるでしょう(生命倫理の問題と同様、利害が衝突することは容易に想像できるので、実際にはかなり困難なことだと思われますが・・・)。


//-AI 自身の判断で勝手に起動するプログラムを作ってはいけない
//-地球環境を汚染してはいけない(生態系にインパクトを与えてはいけない)
//-人を殺してはいけない((これは「オーナーの身を守る」ことが最優先されるプログラムにおいては、''採用されないルール''となります。))
//~

//#youtube(y3RIHnK0_NE)
//~

//このテクノロジーを無批判に受け入れることには危険を感じます。
AI をどのような存在として、この社会に組み入れるか・・技術の進歩の方が早過ぎて、社会的な合意形成ができていない状況を重く受け止めて、みんなが知見を深める場を設けていくことが必要です。
~
~
**APPENDIX
***関連ページ
-[[ArtificialIntelligence]]
-[[AIの歴史>ArtificialIntelligence/History]]
-[[AI 関連キーワード>ArtificialIntelligence/Keywords]]
-[[AI と 人間>AI_vs_HumanIntelligence]]
-[[AIは神になるのか>AI_vs_God]]

-[[共同幻想]]
-[[情報環境]]
-[[情報災害]]
~

***参考文献
-日本経済新聞社編, AI 2045, 日経プレミア , 2018
-日経コンピュータ, AI開発最前線, 日経BP, 2018
-日経ビッグデータ編 , Google に学ぶディープラーニング , 日経BP , 2017

-甘利俊一, 脳・心・人工知能, 講談社, 2016
-新井紀子, AI vs 教科書が読めない子どもたち , 東洋経済 ,2018
-井上智洋, 人工知能と経済の未来 , 文芸春秋 , 2016
-宇沢弘文, 人間の経済, 新潮新書, 2017 
-太田満久他 , TensorFlow 開発入門 , 翔泳社 , 2018
-小林雅一, AIが人間を殺す日, 集英社, 2017
-掌田津耶乃 , データ分析ツール Jupyter 入門 , 秀和システム , 2018
-鈴木貴博 , 仕事消滅 , 講談社 , 2017, p.76
-[[瀬名 秀明 他 ,「神」に迫るサイエンス , 角川文庫 , 2000>Amazon:瀬名秀明「神」に迫るサイエンス]]
-田中潤 松本健太郎, 誤解だらけの人工知能 , 光文社 , 2018
-西垣通, AI原論 - 神の支配と人間の自由-, 講談社選書, 2018
-マーティン・フォード(松本剛史訳), ロボットの脅威, 日経出版, 2018 
-松尾 豊, 人工知能は人間を超えるか, KADOKAWA, 2015
-松原 仁, AIに心は宿るのか, 集英社, 2018
-松本 徹三, AIが神になる日, SB Creative, 2017
-丸山俊一, AI以後, NHK出版新書, 2019
-矢野和男, データの見えざる手, 草思社, 2014
-[[ユヴァル・ノア・ハラリ, サピエンス全史, 河出書房新社 , 2016>Amazon:サピエンス全史 ユヴァル・ノア・ハラリ]]
-吉川隼人 , 機械学習と深層学習 , リックテレコム , 2017

-Dan Brown, ORIGIN, 2018, 角川書店((ORIGINは小説ですが、AIの現在(すでに実現されていること)と未来(それを目指して研究されていること)について、綿密な取材にもとづいて書かれたもので、未来を哲学したい人におすすめの一冊))

-[[デザイン関連学会シンポジウム2018の記録|芸術工学会>https://sdafst.or.jp/PDF/Symposium2018_AIxDesign.pdf]](PDF 約15MB)
~
~
~
~